コミックナタリー PowerPush - 宮下裕樹「東京カラス」

「モンジュ」宮下の新作は都市伝説もの コザキユースケのキャラをリメイク

決めゼリフは「これは慈悲であり、慈愛である」

──宮下さんは2002年の「GX新人賞」で佳作をとってデビューした、生粋のGX育ちですね。

小室 浅野(いにお)くんの次の年ですね。そういう意味で、非常にGXらしい作家さんに育ったなと思います。

──作品を描く上で、それを意識されたことはありますか?

宮下 意識したことがあるとかないとかではなくて、できないですね。……媒体に合わせて絵柄を変えたりできるような、器用なタイプじゃないので。

小室 書店担当の営業マンからは、「非常にGXらしい作家さんの新連載ですから、書店さんに配るメッセージシートを用意してください」と言われています。本人が意識しなくとも、周りからはそういう目で見られているのではないでしょうか。

インタビュー写真

宮下 ありがたいですね。編集部に行くとよくイジられるというか、仲良くしてもらってるんだなぁとは思います。ホーム感というんでしょうか。

小室 ウチの編集部は部室みたいなところがあって、ネームをしにきた作家さんたちと編集者でごはんを食べに行くことも多いんです。宮下くん、デビューしたての新人さんに「握手してください」って言われてたよね?

宮下 GXに持ち込みに来てくれた理由が、「正義警官モンジュ」を読んで気に入ったからだったと聞いたときはうれしかったですね。

──小室さんにとって宮下さんというのはどういう作家さんと捉えていますか。

小室 1回1回のお話の中で、描きたい絵、言いたいセリフが明確な人。そのストレートさが、読んでいて非常に気持ちいいのではないかと思います。

宮下 自分では特に意識してないんですけどね。デビュー当時、いろんな作家さんから「読み切りに入れられる要素はとても少ない。だから、ひとつのことをキチンと描き切りなさい」と言われて、そういう風に作らないと気持ちが悪いというのはあります。

──なるほど。「東京カラス」で言うと、連載初回で言わせたかったセリフは?

宮下 1話目なんでキャラクターを見せることに終始したんですけど、大島田を決めゼリフのあるキャラにしたので、それになるでしょうか。

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小室 「これは慈悲であり、慈愛である」というね。

宮下 妖怪退治をする際にそう言わせることで、この人に宿ってる傲慢さと優しさを出していこうと。

──傲慢さと優しさが同時に宿った決めゼリフですか。「正義警官モンジュ」とタイトルを付けながら絶対的な正義はないと描いた宮下さんらしいですね。

宮下 ありがとうございます。相手が妖怪とはいえ、一方的にやっつけている大島田はやはり傲慢なんです。だけど、今後の展開でこのセリフが色々な意味を持つよう考えています。

気鋭の作家が抱える不安とは?

──では描きたかったコマは?

宮下 決めゼリフ=決めゴマですから、やはりそのシーンは描いていて楽しかったですね。あと、カラス女が登場するシーンをどういう構図にするのかは、相当コザキさんと話し合いました。下描きを見せて、コザキさんが直して……このやりとりを何回も繰り返しています。

──あのシーンはゾワッとしました。単純にキャラデザというのではなく、アングルや見せ方にまでコザキさんが関与しているということですね。

宮下 そうです。僕はコザキさんと違ってデッサンが下手だし、完全に女の子が主人公の作品も初めてだったので、けっこう手を借りましたね。ただ、もともとコメディだった「東京カラス」に僕がベタな人情ドラマを持ち込もうとしていることをどう思っているのか、まだ聞けていなくて……。ちょっと不安ですね。

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小室 大丈夫だよ。コザキくんはコザキくんで「宮下くんは僕にないセンスを持っているので楽しみ」って言ってましたから。2人は、会ってしゃべるとツッコミ合いなのに、離れてるとこんな風にお互い気を遣いあってるという……。仲がいいということでしょうけど。

──しかし、宮下さんがご自分の作品を「ベタだ」とか「デッサンがルーズ」とか思ってらっしゃったとは。真逆の印象を抱いていましたが。

宮下 いつも不安で不安で。でもそう思われていないということは、うまく隠せているということですよね。よしよし(笑)。「東京カラス」に関しては、2話目まではほんとにおもしろく描けたので!!

小室 2話目までは、ってどういう意味!?

宮下 とりあえず2話目まではもう描けたので(笑)。まだ描いてないことは言えないじゃないですか。伏線をどう回収できるかとか、エピソードをちゃんとまとめられるかとか、常に不安で不安で仕方ないんですよ……。

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──そこまで不安にならなくても……女の子キャラはみんな可愛いし、話作りは「正義警官モンジュ」ですでに安定感あるし、大丈夫ですよ!

宮下 そう言っていただけると……。やっぱり、コザキさんのキャラクターデザインがいいんですよ。

小室 花をもたせるねえ(笑)

──それでは最後に、これから「東京カラス」を読む方にひと言お願いします。

宮下 「正義警官モンジュ」のファンの方には、新たな一面をお見せできると思います。連載初回は赤マントで、2回目は神隠し。都市伝説というキャッチーな題材に、ファンタジー要素や僕なりのドラマを盛り込んだ、どこから読んでも楽しい作品にしていきたいと思っています。楽しみにしていてください!

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宮下浩樹「東京カラス」掲載誌「月刊サンデーGX 6月号」/ 2012年5月19日発売 / 550円(税込)/ 小学館 / Amazon.co.jpへ

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掲載ラインナップ

「東京カラス」宮下裕樹+コザキユースケ / 「デストロ246」高橋慶太郎 / 「書生 葛木信二郎の日常」倉田三ノ路 / 「マンけん。」加瀬大輝 / 「恋愛ディストーション」犬上すくね / 「浜田ブリトニーの漫画でわかる萌えビジネス」浜田ブリトニー / 「星の少女たち 聖モエスの方舟・帰還篇」榎本ナリコ / 「イーヴィル・イーター」永福一成+KOJINO / 「コイネコ」真島悦也 / 「REC」花見沢Q太郎 / 「ジャジャ」えのあきら / 「ビストロ・パ・マルの事件簿」近藤史恵+原尾有美子 / 「ゆりてつ~私立百合ヶ咲女子高鉄道部~」松山せいじ

宮下裕樹(みやしたひろき)

プロフィール写真

石川県出身。大学卒業後アシスタント経験を経て月刊サンデーGX(小学館)に原稿を持ち込み、2002年にGX新人賞佳作を受賞。その後、2004年にGX8月号掲載のホラー読み切り「ポラピレドン」にてデビューを飾った。同年12月号より「正義警官モンジュ」を連載開始。同作は全12巻が刊行された。そのほか主な執筆作品に月刊!スピリッツ(小学館)にて連載されていた「強制ヒーロー」、ヤングキングアワーズ(少年画報社)にて連載中の「リュウマのガゴウ」など。 2012年、GX6月号より新連載「東京カラス」をスタート。