コミックナタリー Power Push - 「日曜日の沈黙」

「ジャイキリ」の綱本将也が手がける競馬×SFのスペースオペラ

ヤングチャンピオン(秋田書店)にて本格競馬マンガ「スピーディワンダー」を連載中の綱本将也と山根章裕。この2人が競馬エンタテインメントサイトUmabiにて、新たな競馬もの「日曜日の沈黙」を短期連載としてスタートさせた。同作は競馬を介してパラレルに繋がった異世界を、冴えない3人の男が救うスペースオペラだ。

コミックナタリーでは私生活でも競馬をこよなく愛するという、原作担当の綱本将也にインタビューを実施。競馬とSFという一見相容れないようにもみえるテーマで「日曜日の沈黙」を執筆するに至ったきっかけや、「スピーディワンダー」に込めた競馬愛などについて語ってもらった。

取材・文 / ツクイヨシヒサ 撮影 / 小坂茂雄

24時間テレビの「愛は地球を救う」がヒントに!

──「日曜日の沈黙」ですが、「競馬を介して異世界とパラレルに繋がる」という型破りな設定は、いったいどこから生まれたのでしょうか?

綱本将也

このお話をいただいたとき、まず「スピーディワンダー」の序盤がお試しのように読めることが決まっていたので、 そのスピンオフでもやればいいのかなと考えていたんですけど……。

──普通に想像したら、「スピーディワンダー」に登場する競馬記者の田口や、馬主の福王など、いわゆるサブキャラにスポットを当てた外伝が思いつきそうです。

実際に記者が出てくるような話も一度、提案はしてみたんですよ。でも、リクエストをよく聞いたら「エンターテイメント性が高くて、既視感のない新作」という、なかなかつかみどころのないハードルの高い条件をいただきまして。

──つまり、競馬や競馬マンガにあまり詳しくない人でも気軽に楽しめる作品にしてほしいと?

そうです、そうです。これは僕が勝手に受けた印象かもしれないですけど、何かもっととんでもない作品を書いてほしいのかなと。でまあ、僕なりに誰も見たことがないような競馬マンガってどういうものなのかと、いろいろと考えまして。通常なら、競馬マンガの主人公になるのは、走っている馬か、乗っている騎手か、馬を育てている人か……要するに「スピーディワンダー」によく登場するキャラクターのどれかです。しかし本来、競馬を成り立たせているのは、馬券を買ってくれる人たちでしょう?

──ファンがいなければ、賞金や運営費なども出せませんからね。

「日曜日の沈黙」第1話より、昼間からbarに集い盛り上がる競馬ファンたち。

ええ。だから競馬にとって大切な馬券を買う人が主人公になるような作品を書こうと思ったんです。もちろんマンガにしづらいネタではあるんですけど、マンガにしづらいということは、もしマンガにできたら既視感のないものになるということですから。

──確かに。

で、その頃ちょうど24時間テレビが放映されてる時期だったんですね。CMで「愛は地球を救う」って流れているのを観て、ふと「競馬で地球を救えたらいいのになあ」と。それが「日曜日の沈黙」を書いたきっかけですね。

──まさかの24時間テレビがヒントに。

内容はまったく違いますけどね(笑)。本人たちがどう思っているかは別にして、馬券を買う人が間接的に地球を救っていたら面白いなっていう。とは言え、普通に馬券を買うだけではなかなか地球を救えないので、あるかどうかもわからないパラレルワールドの話まで発想を飛ばしてしまえば、読む側にも許してもらえるかなと。

SF部分については「ドラえもん」的な感覚で押し通した

──主人公たちが集まるバーのWi-Fiが、パラレルワールドに繋がっているというアイデアはどこから?

あれは自分がよく行くバーでWi-Fiの機械を見たときに思いつきました。ほら「ドラえもん」でも、机の引き出しとタイムマシンが繋がっているじゃないですか。映画「のび太の宇宙開拓史」でも、畳の下と宇宙の彼方が繋がったり。ああいう感覚ですね。

──身近なアイテムが異次元の扉になっているという。

「日曜日の沈黙」より、異世界に出現する馬を彷彿とさせる謎の生命体。

僕はSFに関してはド素人なので、そのド素人が気張って何かよさそうな凝った設定を考えるよりも、「ドラえもん」的な感覚でシンプルに押し通すほうがいいかなと思いました。馬のような謎の生命体が襲ってくるとか、レースの予想が当たれば攻撃できるなど、あとの設定は割とすんなり決まっていきましたね。

──作画は「スピーディワンダー」と同じ山根章裕先生ですが、「日曜日の沈黙」のシナリオを見せたときの反応はいかがでしたか?

あいだに担当編集が入っているので直接反応を見たわけではないんですけど、たぶん面白がってくれたと思いますよ。山根くんとは長く一緒にやっていて、お互いの呼吸もわかっているので、こういうことをやったらノリノリで描いてくれるんじゃないかっていう気持ちは、最初から持っていました。

──全4回というボリュームも、初めから決まっていたのですか?

決まっていました。そのボリュームで考えて、1話目や2話目ができたという感じ。自分の中では長い読み切りだと思っています。なので、4話目まで読まないと全体がスッキリとしない作りになっていますし、自分でも書きたかった4話目なので、とにかく最後まで読んでほしいですね。

「日曜日の沈黙」
原作:綱本将也 漫画:山根章裕「日曜日の沈黙」

場末のbarで昼間っから飲んだくれて競馬に勤しむ3人組。実は彼らの当たり馬券は、時空を超えて、馬のような謎の生物に襲われているもうひとつの地球を救っていた。当の3人はそんなこととはつゆ知らず、今日も無茶な馬券の買い方を……?

Umabi
Umabi

JRAが運営する競馬ビギナーでも楽しめるエンタテインメントサイト。競馬初心者に向けたハウツーや、競馬場の紹介に加え、綱本将也原作による山根章裕「日曜日の沈黙」など競馬を題材にしたWeb限定のオリジナルマンガやドラマなども配信。サイトのテーマソング「#RUN」は小室哲哉、tofubeats、神田沙也加によるユニット・ TK feat. TKが手がける。

原作:綱本将也 漫画:山根章裕「スピーディワンダー」14巻 / 発売中 / 576円 / 秋田書店
原作:綱本将也 漫画:山根章裕「スピーディワンダー(14)」

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綱本将也(ツナモトマサヤ)

1973年生まれ。東京都出身。2002年に吉原基貴作画の「U-31」で、モーニング(講談社)にて原作者としてデビュー。原作・原案を担当するツジトモ「GIANT KILLING」は2010年にTVアニメ化も果たした。このほかヤングチャンピオン(秋田書店)にて、山根章裕とタッグを組み「スピーディワンダー」を連載中。