楽園 Le Paradis [ル パラディ] | ターゲット層は“人間”…驚異の包容力を持つ恋愛アンソロが創刊8周年 執筆作家18人が晒した、ありのままの自分と楽園

「君曜日」完結&「メジロバナの咲く」スタート記念
中村明日美子メールインタビュー

変わらない鉄道愛と、ガールズラブへの新境地

2008年から約10年にわたり描き続けてきた「鉄道少女漫画」シリーズを、今夏完結させた中村明日美子。彼女の新連載が早くも楽園 Le Paradis [ル パラディ]第25号でスタートし、しかも新作が中村初となる長編ガールズラブだと明かされると、ネットを中心に大きく話題を集めた。(参照:中村明日美子初の長編ガールズラブが開幕、寄宿学校描く「メジロバナの咲く」)コミックナタリーでは中村にメールインタビューを実施し、シリーズを終えた気持ちと、「新境地」だという新作への意気込みを語ってもらった。

中村明日美子の描き下ろしイラストが到着

中村明日美子の描き下ろしイラスト。
「鉄道少女漫画」

Q. 2011年に単行本化された「鉄道少女漫画」。そのスピンオフ作品「君曜日」が今年7月に刊行された3巻でフィナーレを迎えました。長く書き続けてきたシリーズを終えた率直な感想を教えてください。

A. つらつら描いてきたのでそんなに長くやっている自覚はありませんでしたが、みんなキャラクターもちょこっとずつ成長して、ゆるゆるしつつも終わりも終わりらしくなってよかったかなと思います。

「君曜日 ─鉄道少女漫画2─」より。

Q. 「鉄道少女漫画」シリーズの最初の読み切りが掲載されたのが2008年。この約10年間を振り返ってみて、中村さんの“鉄道愛”に変化はありましたか?

A. 私の一番好きな小田急の5000形が引退してしまったのは本当に悲しかったです。というくらい鉄道愛は変わらず持ち続けております。それと、この連載でSLを描いてからSL愛が芽生えました。

Q. 沿線に住んでいた縁があり、「小田急線のロマンスカーが好き」という思いをきっかけに始まった「鉄道少女漫画」。鉄道×少女マンガをテーマにした短編が詰まった本書の中で、一番のお気に入りの話を、その理由と一緒にお聞かせください。

A. どれも思い入れはあるので難しいですね。自分が小田急に乗っているうちにふと気づいたことなんかが、それこそ10年20年ずっと心に埋まっていたものが実を結んだ作品ばかりなので。『彼の住むイリューダ』とか、やたらかっこいい駅名が気になるなーと思っていたものだし、『立体交差の駅』も小田急の厚木駅に差し掛かるとつい下を走る相模線厚木駅をじっと見てしまう…というところから思いついたものだし。そういう意味では、ずいぶん熟成されたネタを昇華させたなあと思います。

「君曜日 ─鉄道少女漫画2─」より。

Q. 「鉄道少女漫画」の1編「木曜日のサバラン」が連載化された「君曜日」。「木曜日のサバラン」の主人公・アコちゃんと小平くんの物語の続きを描きたいと思ったきっかけを教えてください。

A. アコさんは普段とても普通女の子をしているのだけど、この子は何かどこか違うなと気づく子はいないかなと思って、ぐいぐいくる空気の読めない男の子に気づかせてみました。

Q. 「君曜日」最終巻のあとがきで「分かりやすい男の子と分かりにくい女の子が 鉄道にゆらゆら揺られてちょっとずつちょっとずつ近づいていって やがて手をつなぐ というお話です。手をつなげてよかった」と書かれていました。アコちゃんと小平くんの初々しくかわいい恋は、連載当初から中村さんが思い描いていた結末にたどり着きましたか? もし数年にわたる連載中に、登場人物たちが作者も驚く言動を取ったことや苦労したことがありましたら教えてください。

A. 終わりはもっと軽い笑える感じになるかなと思っていました。もっと巻数も少なく。あと、どういう形にせよ告白シーンなりで、アコさんはもっとクールな感じで小平がぐしゃぐしゃ泣こうかなと思っていたんですが、そういうことにはならなかったです。あと、作者も驚く登場人物といえばみさっちんの暴走的な成長ですね。

Q. 新連載「メジロバナの咲く」が楽園でスタートします。「鉄道少女漫画」に収録された「立体交差の駅」でガールズラブの読み切りを描いた中村さんですが、連載は初だと伺っています。ガールズラブを描こうと思ったきっかけを教えてください。

A. それは編集長からの長年に渡るオファーによるものです。

Q.「メジロバナの咲く」第1話では黒髪の少女ルビーと、一見クールな美少女ステフが描かれました。2人のキャラクターが生まれたきっかけ、ビジュアル面を描く際に気をつけていることやこだわりを教えてください。

A.

「メジロバナの咲く」より、ルビー。

ルビー
名前先行です。ルビーというとやはり凛々しくて元気で気の強いイメージがありますね。荒削りな美しさと無垢な鈍感さと、前髪は少し品良くしようと思って重ためにしました。

「メジロバナの咲く」より、ステフ。

ステフ
最初はルビーの髪の色を白抜きにしようと思っていたのですが、相手役を考えた時にサラサラの長髪のクール系がいいなとふと思いつき、そのあとはスルスルとキャラが出来上がりました。名前もぴったりくるのが思いついてよかった。

Q.「メジロバナの咲く」は第1話だけでも、かなり完成された物語だという印象を受けました。今後どういう展開になっていくのか、もし可能でしたら明かせる範囲で教えてください。

A. とりあえず主人公二人をじっくり追ってみたいと思っています。
正直、オファーを頂いていてもGLはあまり食指が動かなかったのですが(読み切りくらいの長さならともかく長いものとなると)、第1話を描いたらそんな気持ちが吹っ飛びました。この二人ならいろいろどんどん描きたいぞという気持ちです。

「メジロバナの咲く」第1話扉ページ。

Q.「君曜日」「メジロバナの咲く」の読者にメッセージをお願いします。

A. 『君曜日』は私の描くものの中でもちょっと珍しいと言われる作品でしたが、自分としてはきちんと向き合ってきちんとエンドマークをつけることができてよかったと思っています。長い間ありがとうございました。
『メジロバナの咲く』はまた私としては新境地ですが、楽しんで楽しみをお届けしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

次のページ »
竹田昼インタビュー

楽園 Le Paradis [ル パラディ]第25号
発売中 / 白泉社
楽園 Le Paradis [ル パラディ]第25号

中村明日美子、蒼樹うめ、木尾士目、久米田康治、シギサワカヤ、水谷フーカ、かずまこを、鶴田謙二、宇仁田ゆみ、沙村広明、kashmir、位置原光Z、黒咲練導、志摩時緒、迂闊、犬上すくね、あさりよしとお、panpanya、鬼龍駿河、竹田昼、平方イコルスン、黒井緑、武田春人、幾花にいろら豪華執筆陣が揃って描き下ろし!

中村明日美子(ナカムラアスミコ)
中村明日美子
1月5日神奈川県生まれ。2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。