コミックナタリー PowerPush - 尾崎南「DEVIL CHILDREN × AS」
リビドー全開!「絶愛」「BRONZE」作者の新境地
「絶愛-1989-」「BRONZE zetsuai since 1989」で知られる尾崎南が、まさかの完全新作「DEVIL CHILDREN × AS(デビルチルドレン アルティメットスペック、通称でびちるAS)」を発表。「エロかわいい女の子が描きたい!」という欲望から生まれたこの作品で、尾崎は主人公の戮(りく)をリビドー全開に描いてみせた。
コミックナタリーは「でびちるAS」1巻発売を記念し、尾崎へのインタビューを敢行。かねてから「『絶愛』『BRONZE』以外は描かない」と発言していた尾崎がなぜ「でびちるAS」を描くことになったのか。同作に込めた尾崎の思いを存分に語ってもらった。
取材・文/坂本恵
マンガのことをすっかり忘れたときに降ってきた
──まず新作「DEVIL CHILDREN × AS」のお話の前に、尾崎先生は2006年から5年間商業活動を休まれていたわけですが、そこから2011年にコーラス(集英社)に掲載された「BRONZE」外伝で復活を遂げられるまでのお話をお伺いできますか。
当時体を大分激しく壊してしまって、そのときはもう生死をさまようくらいの状態だったんです。で、もうマンガは描けないだろうと思って、画材も机も、仕事場のもの全部捨てちゃって。
──そんなに大変な状態だったんですか……!
そうだったんですよ、それがなぜか奇跡的に助かってしまって(笑)。で、もうマンガを描かないと思ってても、やっぱり心のどこかでずっと引きずってはいるんです。それは常にそうで、だからこそ心も体もまいってしまう性質(タチ)なんですが……そんなとき、弱りきった体調を復活させるために習い事を始めまして。そしたら、それまでずっと引きずっていた「描く」ということが、頭の中からパーンと抜けたんですよ。その習い事をやっている間だけ「描く」ということをパッと忘れられる、といういいきっかけになって。それから体力も戻ってきて、精神的にもいい調子にあがり始めたときに、ふっと、天から降ってきたんですよね。
──「降ってきた」というのは物語が、ですか?
そうです。もう、ドカン! と来て。私はいつもそうなんですがイタコのような状態になるんですよ(笑)。で、すぐに担当さんだった人に「『BRONZE』の続きを描きたいんです」っていう連絡して、外伝を描いて、それから本編を描きました。そのとき、初めて「BRONZE」以外のものも描きたいなと思ったんです。それが「でびちる」ですね。
青天の霹靂だったんです
──尾崎先生が「絶愛」「BRONZE」以外の作品を描かれるのは、「絶愛」以前に発表された「憧憬」「彌勒」「忠誠の証」以来になるのでしょうか。
そうですね。
──以前、尾崎先生は別のインタビューで「『絶愛』『BRONZE』以外を描くことは、今は考えていない」とおっしゃっていました。これはどういう心境の変化だったんでしょう。
私ははじめから「『絶愛』『BRONZE』以外は描かない」と言っていたんです。「もし何か別のものを描くとしたら、それは青天の霹靂だと思ってください」とも。なので……、今回は青天の霹靂だったんですね(笑)。いままでとは違う男性向けのものを、というか、エロい女の子の体が描きたいなと思ったんです。私、実は女性向けってほとんど読まなくて、読むなら男性向けなので。
──「絶愛」「BRONZE」を連載されていたマーガレット(集英社)のイメージが強いので、それは意外です。
よく言われます。でも実は読むのは送られてくる女性誌を少しと少年・青年誌を少しくらいで、基本そんなにマンガ読みではないんです。失礼なくらいで申し訳ないんですが……。まあ自ら進んでよく読む男性向けって言っても「成人向けエロ」なんですけど(笑)。
このおっぱいのラインはもうちょっとこう
──「絶愛」「BRONZE」以外の作品を連載されるのは「でびちるAS」が初めてなわけですが、描いてみてどうですか。
戮(りく)を描くのが楽しいです!
──それは「BRONZE」とは違うところですか?
全っ然違いますね。マンガを描いてて楽しいと思うのは同人以外ではなかったことなので。「絶愛」「BRONZE」は本当に辛いし苦しかった。私の両親は、ふたりとも別の相手を作って出て行っちゃったんですよ。小さかった私は、自分は要らない人間なんだって子供ながらに思ったんです。子供にとって、親って神様で、世界のすべてじゃないですか。それに見捨てられた、必要のない人間だと思い込んでしまったんですね。そういう愛情への飢えとか、トラウマが私の中にはずっとあって。「絶愛」「BRONZE」を描くっていうのは、その自分のトラウマを、「口を開けたままの傷口に、腕を突っ込んでぐっちゃぐちゃにかき回す行為」なわけですよ。自分でもよく分からないんですけど、たぶん私は愛を描きたいのかなあ……。愛に飢えていた、もしくは愛に捨てられたので、「愛ってなんだ」みたいな……? でも「絶愛」「BRONZE」を描いているときは「あ、私はこれを描くために生まれてきたんだ」っていう瞬間瞬間があって。だからあんなに長い間描いていられた。「ただ楽しい」というのとはまったく違う、なんて言ったらいいのか言葉では説明しにくいんですが、「至上の何か」みたいな「これ以上ない何か」があったんですよね。なので辛いけど、嫌いで描いていたわけではないんです。こう……宿命みたいなものでしょうかね。大げさですが。だから私が生きている限り、「絶愛」「BRONZE」は終わらないんです。
──「でびちるAS」はそういった辛い部分がない?
「絶愛」「BRONZE」は苦しい、痛い、やめたい、死にたいとか、マイナスエネルギーを爆発させて描いていたけど、「でびちるAS」はいまのところ、プラスのエネルギーで描いてます。もうとにかくエロかわいい戮を描くのが本当に楽しい!「もうりくたんだけ描いていたい!」と、よく原稿の仕上げ中に叫びますね。作業自体は昔と変わらず苦しいですが。
──(笑)。
「このパンツの線がさー」とか「このおっぱいのラインはもうちょっとこう」とか「このおしりのラインがいつまでも気に食わない」とか、何度も何度も直して。出来上がってスタッフに見てもらって、「おおー、いい!」って言ってもらったら「うん、いいよね!よし!」って言って次に行く、みたいな(笑)。「ぎん・うるみ・ありす・戮の百合4Pが描きたい!」みたいな動力で。もちろん戮は総ネコで女の子4人で……いや、それは同人でやります……。
- 尾崎南「DEVIL CHILDREN × AS」1巻 / 2013年2月1日発売 / 651円 / エンターブレイン / B's-LOG COMICS
- 尾崎南「DEVIL CHILDREN × AS」1巻
異端の子供たちが紡ぐ、絆の物語。
孤独だった戮の前に突然現れたのは……神か悪魔か、正体不明の「黒い王子様」。彼に連れられ日本にやってきた戮は、自分と同じような特殊能力を持つ人々と同居することに……!
完全究極能力 -Alltimate Spec-
初めての仲間とともに、戮の戦いが始まる――。
コミックビーズログ キュン!とWEBコミックサイト・エアレイドがコミック誌・B's-LOG COMICとして新登場。尾崎南「DEVIL CHILDREN × AS」は、3月1日発売のVol.2より連載開始。
尾崎南(おざきみなみ)
2月27日生まれ、東京都在住。1988年、別冊ぱふ(雑草社)にて「忠誠の証」で商業誌デビュー。1989年、マーガレット(集英社)にて「3DAYS」を発表した後、「絶愛-1989-」を連載する。1991年、「絶愛-1989-」の続編である「BRONZE zetsuai since 1989」の連載を開始。2006年以降は商業活動を休止するが、コーラス2011年3月号(集英社)に「BRONZE」の外伝を発表したことを皮切りに商業活動を再開。2013年2月、エンターブレインより「DEVIL CHILDREN × AS」を刊行する。