文化庁メディア芸術祭 松本大洋インタビュー|大切にしているのは“楽しく描くこと”「竹光侍」「Sunny」に込めた思いとクリエイターへのメッセージ

びっくりさせてくれるような作家さんがまたきっと現れるのかなと、楽しみ

──メディア芸術祭は1997年にスタートして、今年度で21年目。この21年間で電子機器は大きく発展し、インターネットが普及しましたが、松本さんの創作に影響を与えた部分はありますか。

マンガの資料集めや調べ物をするときにとても便利になりました。今も風景や人物などの資料写真は以前と同じように自分で撮影していますが、現代にない物や衣装の画像など、以前は資料を集めるのが大変だったので。

──メディア芸術祭ではマンガ部門のほかにアニメーション部門、エンターテイメント部門、アート部門が設けられていますが、マンガ以外で松本さんが関心を持たれているものはありますか。

劇場アニメーション「マインド・ゲーム」より。© 2004 MIND GAME Project 短編アニメーション「火要鎮」より。© SHORT PEACE COMMITTEE

ゲームは以前から好きですね。普段はRPGをやることが多いですが、2007年にエンターテインメント部門で大賞を獲った(任天堂の)Wii Sportsとかもやったことがあります。受賞作品で言うと、湯浅政明監督の「マインド・ゲーム」(第8回アニメーション部門大賞)と大友克洋さんの「火要鎮」(第16回アニメーション部門大賞)がとても好きでした。

──メディア芸術祭に関連する作品に限らず、松本さんは普段からマンガは読まれますか?

普段はあまり読まないので、詳しくないですが……ここ数年では、宮崎夏次系さんや西村ツチカさんのマンガが好きです。海外の作家さんだとニコラ・ド・クレシーさん、エイドリアン・トミネさんが特に好きです。彼らの作品は日本の読者も読みやすいんじゃないかなと思うので、いろんな人に読んでもらいたいですね。

──松本さんは好きな作品から創作のヒントや影響を受けることはあるのでしょうか。

「Sunny」カット

マンガも映画も、多くの作品からたくさんの影響を受けたと思います。具体的にどんな部分かというのは難しいですが……特に、20代の頃とかは「カッコいいなー」と思ったものは繰り返し観たりしていたので、そういういろんな作品の哲学や演出とかからは、すごい影響を受けたんじゃないかなと思います。もちろん作品だけでなく、毎日の生活の中からも、創作のヒントとかアイデアを得ることが多いと思います。

──メディア芸術祭の受賞作は国内外で広く紹介されますが、日本のマンガやアニメ、映像作品は、近年ますます世界から大きな注目を集めていますね。

日本の作品に興味を持ってもらえるのはうれしいですね。それをきっかけに、日本を「好き」と思ってもらえることもうれしいですし、どんどん注目してもらいたいです。

──メディア芸術祭には、数多くのクリエイターからの作品が集います。松本さんがこれからのマンガ家やクリエイターに期待すること、楽しみに感じていることはどんなことでしょう。

今までにも数多くの素晴らしい作品があったので、轍のないところを探すのは難しいかと思いますが、びっくりさせてくれるような作家さんがまたきっと現れるのかなと、楽しみな気持ちはいつもあります。メディア芸術祭に応募される方も、自分の作ったものを客観的に見ることのできるいい機会だと思うので、がんばってください。

文化庁メディア芸術祭とは

第19回文化庁メディア芸術祭の受賞作品展の様子。

1997年より実施されているメディア芸術の祭典。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門が設けられ、優れた作品は顕彰されるほか、受賞作品展も行われる。プロ、アマチュア、自主制作、商業作品を問わず、世界中から作品を募集しており、第20回は世界88の国と地域から4034点におよぶ作品が寄せられた。

あなたの作品も応募できる!?

4つの部門で作品を募集

メディア芸術祭では4つの部門に該当する作品を募集。プロによる作品や商業作品に留まらず、自主制作の作品も応募できるのだ。

アート部門
インタラクティブアート、メディアインスタレーション、映像作品、映像インスタレーション、グラフィックアート(写真を含む)、ネットアート、メディアパフォーマンスなど。
エンターテインメント
部門
ゲーム(テレビゲーム、オンラインゲームなど)、映像・音響作品(ミュージックビデオ、自主制作・広告映像など)、空間表現(特殊映像効果・演出、パフォーマンスを含む)、ガジェット(プロダクト、ツールを含む)、Web(Webプロモーション、オープンソースプロジェクトを含む)、アプリケーションなど。
アニメーション部門
劇場アニメーション、短編アニメーション、テレビアニメーション、オリジナルビデオアニメーション(OVA)など。
マンガ部門
単行本で発行されたマンガ、雑誌などに掲載されたマンガ(連載中の作品を含む)、コンピュータや携帯情報端末などで閲覧可能なマンガ、同人誌等の自主制作のマンガなど。
受賞すると賞金も!

部門ごとに賞を選定

各部門には大賞から優秀賞、新人賞が設けられ、それぞれ賞状や副賞が進呈される。また審査委員会の推薦により、メディア芸術分野に貢献のあった人に対して贈呈される功労賞も用意されている。

大賞
賞状、トロフィー
副賞60万円
優秀賞
賞状、トロフィー
副賞30万円
新人賞
賞状、トロフィー
副賞20万円
功労賞
賞状、トロフィー

※このほか優れた作品を審査委員会推薦作品として選定。

前回はこんな作品が選ばれました

第20回の大賞受賞作

2016年に実施された第20回では、世界一のジャズプレーヤーを目指す青年を描いた、石塚真一「BLUE GIANT」がマンガ部門で大賞を受賞。また「シン・ゴジラ」「君の名は。」といった昨年話題になった劇場作品が、エンターテインメント部門、アニメーション部門でそれぞれ大賞に選ばれた。アート部門では192個の直流モーターを用いて、“構造と行動の関係”を探求するRalf BAECKERによるキネティックインスタレーション「Interface I」が選出されている。

第20回文化庁メディア芸術祭アート部門大賞受賞作のRalf BAECKER「Interface I」。© 2016 Ralf Baecker Photo: Bresadola+Freese, Drama Berlin

アート部門

Ralf BAECKER「Interface I」
(メディアインスタレーション)

第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞受賞作の「シン・ゴジラ」。総監督・脚本を庵野秀明が、監督・特技監督を樋口真嗣が務めた。© 2016 TOHO CO.,LTD.

エンターテインメント部門

庵野秀明、樋口真嗣「シン・ゴジラ」
(映像作品)

第20回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞作の「君の名は。」。新海誠が脚本・監督を務めた。© 2016 TOHO CO., LTD. / CoMix Wave Films Inc. / KADOKAWA CORPORATION / East Japan Marketing &
Communications,Inc. / AMUSE INC. / voque ting co.,ltd. / Lawson HMV Entertainment, Inc.

アニメーション部門

新海誠「君の名は。」(劇場アニメーション)

第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞作の「BLUE GIANT」。現在は続編となる「BLUE GIANT SUPREME」がビッグコミック(小学館)にて連載されている。© ISHIZUKA Shinichi / SHOGAKUKAN

マンガ部門

石塚真一「BLUE GIANT」

「Sunny」の原画も登場!

第20回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展

第19回文化庁メディア芸術祭の受賞作品展の様子。

4034作品から選ばれた、150点以上の作品を一堂に紹介。マンガ部門で優秀賞を受賞した松本大洋「Sunny」の原画を始め、マンガやアニメーションの貴重な関連資料などが展示される。また「シン・ゴジラ」「君の名は。」や映像作品の上映会も実施。マンガ部門の受賞作品、審査委員会推薦作品の全巻を閲覧できる「マンガライブラリー」も設置されるほか、シンポジウム、トークイベント、パフォーマンス、ワークショップなどの関連イベントも行われる。

期間
2017年9月16日(土)~28日(木)
会場
東京・NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]、東京オペラシティ アートギャラリー ほか
料金
無料

第19回文化庁メディア芸術祭の受賞作品展の様子。

募集期間:2017年8月1日(火)~10月5日(木)日本時間18:00必着

文化庁メディア芸術祭
文化庁メディア芸術祭

メディア芸術の創造とその発展を目的に実施されるメディア芸術の祭典。アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門が設けられ、プロ、アマチュア問わず世界中から作品の募集を行っている。優れた作品は顕彰されるほか、受賞作品展も実施される。

募集期間
2017年8月1日(火)~10月5日(木)
日本時間18:00必着

第20回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展

期間2017年9月16日(土)~28日(木)

会場東京・NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]、東京オペラシティ アートギャラリー ほか

料金無料

松本大洋、永福一成「竹光侍①」
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江戸のかたぎ長屋に、信濃なまりの浪人・瀬能宗一郎が住みついた。隣人の少年・勘吉は侍が珍しく興味津々。だが観察してみると、この浪人が只者でない迫力を有していることが分かって……?

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星の子学園──様々な事情を持つ子供たちが、親と離れて暮らす場所。陽光が燦々と降り注ぐ園の片隅に放置されたポンコツサニー。其処は彼らの遊び場であり、彼らの教室だった。

松本大洋(マツモトタイヨウ)
松本大洋
1967年東京都出身。1987年に月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞に「STRAIGHT」が入選しデビュー。週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載された「鉄コン筋クリート」は、2006年に劇場アニメ化された。同じくビッグコミックスピリッツで発表された「ピンポン」は2002年に実写映画化、2014年にテレビアニメ化。2006年から2010年にかけてビッグコミックスピリッツにて連載された「竹光侍」は、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を、第15回手塚治虫文化賞でマンガ大賞を受賞する。また2010年に月刊IKKIにてスタートしたのち、雑誌の休刊後は2015年まで月刊!スピリッツ(いずれも小学館)にて発表された「Sunny」は、第61回小学館漫画賞の一般向け部門、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞に選ばれた。