コミックナタリー Power Push - 仮面ライダー

石ノ森ライダーのすべてを豪華BOXに凝縮 島本和彦が猛プッシュするその魅力とは

本郷猛が死ぬ回を描きたくてマンガ家になった

──島本さんがご自身で「仮面ライダー」シリーズのマンガを描くときには、そうした石ノ森先生の絵柄を意識されましたか。

意識するというか、勝手に似てしまって困ったことはありますね。「仮面ライダーBlack」のときなんですが、描いても描いても主人公が本郷猛にしかならなくて(笑)。

──(笑)。好きすぎるがゆえの呪縛、でしょうか。

そうそう。しゃべることとか行動とか、すべてが本郷そのままなんですよ。私が描いていた頃は、小学館ではテレビ版のライダーは描いちゃダメっていう大人の事情があってですね。まったく違うものにしなきゃと思って、とある役者さんをモデルに「この人が演じたら……」と想像を膨らませて描きました。

──あ、そのお話って数年前にラジオ番組でされてましたよね。確かモデルにされたのは……舘ひろしさん?

そうですそうです!(笑)そうしてなんとか凌いだんですよ。 やはり本郷猛というキャラクターは素晴らしくてですね、「世界を守るヒーローとはこうでなくては」と最初に刷り込まれちゃったんです。

──ビジュアルに留まらず、人物像そのものが。

はい。言葉遣いであるとか、怒るポイントとかが、すべて正しいなと思うんです。2号の一文字隼人というキャラクターは、そこに笑いというか明るさが加えられていて、さらにヒーローとしての完成形に近づいている。彼も彼で素晴らしいんですけど。

──やはり仮面ライダーの中でも1号・2号は、島本さんにとって特別な存在なんですね。

本郷猛が撃たれるシーン。

原点みたいなものですよね。横山光輝先生の「鉄人28号」とか手塚治虫先生の「マグマ大使」とか、小学生の頃からとにかくヒーローマンガが大好きでそういう単行本ばっかり買ってましたけど、石ノ森版ライダーは特別な作品で。何を描きたくてマンガ家になったか、って話をスタッフとしたことがあったんですけど、私は「仮面ライダー」の本郷猛が死ぬ回を描きたいと。それが描ければ、願いは果たされたも同然だと話しましたね。

──そのシーンをマンガの完成形として、ずっと目標に持たれていたんですか。

マンガ家になった当時はそういう思いを強く持っていました。「仮面ライダー」の原型となる石ノ森先生の「スカルマン」で作画をやらせてもらったんですが、そのときにまったく同じシーンを描きましたから。

──石ノ森先生へのリスペクトを込めて。

そうですね。最近は日本のヒーローも変わってきていて、時代の流れなのかなんでもOKになってしまってる気がするんですけど、そんな中でも失ってはいけないものが、この石ノ森版ライダーにはあると思うんです。

ライダーファンは、税金だと思って買え!!

──そういえば今回の刊行に際してのコメントで、島本さんは「石ノ森ヒーローは上質な大人のポエム! 武士道と同じ、日本人に不可欠な魂の在り方だ!」と書かれてましたね。「武士道」という言葉には、そうした「失ってはいけないもの」という思いを込めたんでしょうか。

第2話「空とぶ吸血魔人」より

はい。1号役の藤岡弘、さんの役者としての言動とかも全部含めて、本郷猛からはさまざまないい影響を受けたと私は思ってます。V3役の宮内洋さんが「ヒーロー番組は教育番組である」と仰ってましたけど、読んでいるうちにある程度「これはOKだけどこれはダメ」っていう判断基準が無意識のうちに刷り込まれる作品なのではないかなと。セリフや言葉の表現ではなく、読後感の中にそれが存在するんですね。大人が押しつける価値観とは違う、微妙な境界線上にある「ここは安易に流されるのではなく、ちゃんと深く考えて行動してほしい」という概念を子供たちにきちんと考えさせる媒体になりうるのではないかと思うんです。

──なるほど。今回の刊行は、石ノ森版ライダーを当時好きだった大人の方はもちろん、その方々のお子さんたちに読んでもらえる機会になるかもしれないですね。では最後にコミックナタリー読者に向けて、この完全版を推薦する熱い一言をいただけますか。

うーん。後から無性に欲しくなっても手に入らず、なぜあのとき買っておかなかったんだ……と悔いる商品が世の中にはある、これはそのひとつだ!! 「仮面ライダー」が好きな皆は、税金だと思って買え!! ……こんな感じでいかがでしょうか(笑)。

仮面ライダー 1971 《カラー完全版》BOX / 予価11550円(税込) / 2011年5月下旬配送予定 / 初版完全限定商品

  • 「仮面ライダー 1971 《カラー完全版》BOX」をAmazon.co.jpでチェック
  • Amazon.co.jp
  • 復刊ドットコム
商品仕様(予定)
  • B5判(雑誌初出時の原寸サイズ)フルカラー(4C・2C・1C)
  • 本文880P(うちカラー約460P)+別冊20P
  • 全2巻(上巻「本郷ライダー編」、下巻「一文字ライダー編」)
  • 連載初出時のページ割りにきわめて忠実な初の編集/全扉絵・予告カット類もコンプリート収録予定/箔押し美麗化粧BOXに収納
  • 封入特典:石ノ森章太郎・画によるオールカラーイラストブック「Masked Rider lllustrated」(B5判、20P)
収録作品(予定)
  • 「仮面ライダー」
    怪奇くも男/空とぶ吸血魔人/よみがえるコブラ男/13人の仮面ライダー/海魔の里/仮面の世界(マスカーワールド)
  • 幼年誌版「仮面ライダー」
    くもおとこのまき/こうもりおとこのまき/へびおとこのまき/うしおとこのまき/デビルエイのまき/かにおとこのまき/モゲラマンのまき/かせきにんじゃディプロカウルスのまき/マンドリラーのまき/みんなのすきな仮面ライダー/エイキングのまき/ナメクジラのまき
  • レコード用漫画「仮面ライダー」
    恐怖のくも男/吸血ゲバコンドル現わる!
石ノ森章太郎(いしのもりしょうたろう)

石ノ森章太郎

1938年1月25日宮城県登米郡生まれ。本名は小野寺章太郎(おのでらしょうたろう)。1954年、漫画少年(学童社)にて「二級天使」でデビュー。1964年に週刊少年キング(少年画報社)にて「サイボーグ009」を連載開始。繰り返しアニメ・映画化され、長期にわたる大ヒット作となる。1971年に週刊ぼくらマガジン(講談社)で 「仮面ライダー」、翌年週刊少年サンデー(小学館)で「人造人間キカイダー」を連載。ともに短期連載だが高い評価を得た。1988年「HOTEL」にて第33回小学館漫画賞を受賞。1986年にはデビュー30周年を記念して、ペンネーム石森章太郎を石ノ森章太郎へと改名した。1998年、東京お茶の水順天堂病院で逝去。生前の業績に対し、勲四等旭日小綬章、日本漫画家協会賞、手塚治虫文化賞および特別賞を授与された。

島本和彦(しまもとかずひこ)

島本和彦

1961年4月26日北海道池田町生まれ。本名は手塚秀彦(てづかひでひこ)。1982年週刊少年サンデー2月増刊号(小学館)にて「必殺の転校生」でデビューし、1983年より少年サンデー本誌にて「炎の転校生」を連載開始。熱血マンガ風の力強い線と熱いセリフが特徴だが実のところギャグマンガ、というギャップと、散りばめられた細かいネタが賞賛を受けた。代表作に「逆境ナイン」、「吼えろペン」など。現在ゲッサン(小学館)にて「アオイホノオ」、月刊ガンダムエース(角川書店)にて「超級!機動武闘伝Gガンダム」を連載中。