モーニング×コミックナタリー PowerPush - 江口夏実「鬼灯の冷徹」
話題の地獄コメディはこうして生まれた 江口夏実が語る5つのエレメント
要素その5 笑い
“地獄あるある”に時事ネタ、そして鬼灯の徹底したドSぶりと、縦横無尽にギャグが展開される同作。「鬼灯」5大要素の締めくくりでは、ギャグマンガであるという大前提に立ち返る。
岡田あーみんさん、大好きなんです
──では、「鬼灯」の根幹を成す「笑い」について伺わせて下さい。このギャグセンスはいったいどこから出てきたのか、と。
一番最初に買ったギャグマンガはたぶん、「こいつら100%伝説」です。岡田あーみんさん、大好きなんです。
──いきなり納得できました(笑)。あーみんのギャグマンガって、ツッコミがすごい強いじゃないですか。代表作の「お父さんは心配症」とかでも、ナイフでざくっと刺して血がピューッと吹き出ちゃうとか。鬼灯が閻魔大王を金棒でフルスイングする感じ、似てますよね。
そうですね。私は青年誌なので、めちゃくちゃやっても大丈夫かなぁと思うんですけど、岡田あーみんさんはあれをりぼん(集英社)でやってたっていうのが、おそろしいです。子供心に「いいのかな?」と思いながら読んでいましたね。あと、柴田亜美さんの「南国少年パプワくん」。変な生き物たちが出てきてめちゃくちゃやるっていうギャグマンガで、やっぱりツッコミが強いんですよ。ツッコミで、相手を殺してる(笑)。でも、そのぐらいでやったほうが、マンガとしては良いのかなと思うんです。金棒持って振り回すなんて子供には絶対できないから、やりきっちゃったほうが、マネする子とか出てこないのかなと。
──なるほど!
岡田あーみんさんとかばっかり読んでたから、こういうツッコミになったのは確かだと思うんです。でも、私のマンガのツッコミが強い一番の理由は、私が会社にいた時に、上層部にやってやりたかったことなんですよ。前にいた会社が、いわゆるブラック企業と言われる会社で……。入社3カ月でいきなり、田舎の支店の店長をやらされたんですけど、パートさんがみんな私より年上の方だったので、結構好き勝手言われたり……。買い物客は男性より女性のほうが怖い。万引きもすごかったですし。安いものだったら盗っても大丈夫って思ってる人が多いんです。安い商品は1個盗まれたら、その損益を回収するためには同じ物を30個売らなきゃいけないんです……。
──「万引きは犯罪だから絶対ダメ」。新たなメッセージです(笑)。確かに「鬼灯」は現代社会の問題、空気感を、ネタとして積極的に取り入れていますよね。そうして鬼灯の強いツッコミには、世の理不尽に対する怒りが宿っている。だからなんでしょうか、鬼灯が金棒を振るうと、スカッとする感覚もあります。
そういう部分もあるかなあと思いつつ、という感じです。テレビでキラキラネームのニュースを見てて「ないだろ!」って思ったり……。普段自分が思ってることをマンガの中に入れてるだけで、あんまり「ギャグ」とは思ってないです。だから話によってギャグが多い回と少ない回があったりもするのも、完全にその時の私の気分です。笑いに関していうと、ラーメンズのコントがすごく好きです。短編形式で、1個1個の話がきちんと完結していて。言葉遊びが面白かったり、コントの中にちょっと変な知識が入ってたり、あとは片桐(仁)さんというキャラクターが強烈だったり(笑)。
──自分の好きなもの、楽しいと思うものは何かを見つめて、素直に影響を受けながらマンガを描く。今日はいろいろなルーツを垣間見ることができた気がします。最後に、これから「鬼灯の冷徹」を手に取ろうとしている読者に向けて、誘い文句をお願いします。
1話完結にこだわっているわけではないんですけど、いつ見てもちょっと違うキャラクターが出てきたり、前と違う景色が載ってるのはいいなあと思っています。でも、いつ、どこから読み始めてもストーリーが一切わからないということはないんじゃないかな、と思います。……そうだ、怖いマンガだと思われるみたいなんですよ。表紙を見て、ちょっと怖い耽美系のお話なのかなあとか。だからか、「まさかギャグマンガだとは思いませんでした」みたいな手紙も結構もらうんですけど(笑)。なので伝えたいこととしては、「怖くないし、お笑いマンガです」。あとは、「地獄の参考書みたいな気持ちで読んでもらえれば」と。気になったらぜひ、読んでもらえればなと思います。
あらすじ
あの世には天国と地獄がある。
地獄は八大地獄と八寒地獄の2つに分かれ、さらに二百七十二の細かい部署に分かれている。
そんな広大な地獄で日々さまざまなトラブルに対処する鬼神がいる。それが閻魔大王第一補佐官・鬼灯である!
冷徹でドSな鬼灯の仕事ぶり、とくとご覧あれ!
江口夏実(えぐちなつみ)
2010年に「非日常的な何気ない話」で第57回ちばてつや賞佳作を受賞。その中の一編「鬼」に登場したキャラクター・鬼灯を主人公にした「地獄の沙汰とあれやこれ」がモーニング2010年32号(講談社)に掲載されデビューを果たす。その後数回の掲載を経て、タイトルを「鬼灯の冷徹」と改め連載をスタート。