コミックナタリー Power Push - 「アリスと蔵六」

どんな空想も、彼女が願えば現実に アニメ化記念今井哲也インタビュー"

COMICリュウなら、このマンガも許されるんじゃないかと思った

今井哲也

──今井さんの意識として「アリスと蔵六」は、美少女ものにカテゴライズされているのでしょうか?

そもそも「アリスと蔵六」は、美少女アニメみたいなものをやろうと思って描き始めた作品なんです。どこで連載するっていうのも最初は全然考えず、第1話のネームだけ作って放置していたものがあって。ちょうどアフタヌーン(講談社)で連載していた「ぼくらのよあけ」が終わって、新作を考えなきゃいけない時期だったんですけど。持ち込むなら別のネームを出して、これはひとまず置いといておくか……みたいに寝かしてありました。

──内容的に、アフタヌーン向きじゃないと。

「アリスと蔵六」の連載がスタートした、月刊COMICリュウ2012年12月号。

あまりにも自分の趣味で描いていたし、企画として提案するにはちょっと無茶な内容かなと。とはいえネームはできてるわけだし、どうしようかと思っていたときに、月刊COMICリュウで連載していた亀井薄雪さんが「桃栗三年」という作品の単行本を出しまして。そのサイン会には、僕とかあらゐけいいちさんとか友達がみんな遊びにきていて、そこで猪飼さん(現「アリスと蔵六」の担当編集者)にお会いして。

猪飼 「もしかして今井哲也さんですか?」と、声をかけさせてもらいました。

そうそう。初対面だったんですけど「せっかくだから打ち上げに来ませんか?」って誘われたんです。それで居酒屋についてからも、こう、隣に座られて「今お仕事はなにされてるんですか?」「次、いつ会えます?」って。

──グイグイきますね。キャバクラみたい。

グイグイ(笑)。でもリュウは個人的にも好きで読んでいたし、亜人ヒーローを描いた「KEYMAN」とか、ケンタウロス女子高生が主役の「セントールの悩み」とか、ほかでは見られない挑戦的な作品が掲載されていて、この雑誌なら塩漬けにしていたあのネームもイケるんじゃないかって気持ちが沸々と。いやあ、見事に口説き落とされましたね(笑)。

蔵六とは違う「曲がったこと」を自分で獲得したとき、紗名は大人になる

紗名の設定画。

──美少女ものをやりたいという宣言通り、本作は主人公が小さな女の子。しかも「アリスの夢」という特殊な能力まで持っていて、まずキャラクターのビジュアルや設定が目を引きます。

前作「ぼくらのよあけ」は男子小学生が主人公で、年齢は「アリスと蔵六」の紗名も同じくらいなんですけど。やっぱり、ヒロインがいた方が華やかですね。あと能力バトルとか、ベタなものは描くほうも見るほうも楽しい。

──ヒロインの紗名が新宿・歌舞伎町で騒動を起こし、そこに蔵六が居合わせたことから物語は始まります。

「アリスの夢」で蔵六のことを調べる紗名。初対面のはずの少女が、なぜ自分のプロフィールを知っているのか蔵六は驚く。

紗名は研究所の中で生まれ育ったので、常識的なことをあまり知らないんです。善悪の区別がつかないから、初めは他人の迷惑も考えられない。だから蔵六がどんな人間か知りたいと思ったら、まず能力を使って心を読む。心の中を見られたら人は嫌な気持ちになるとか、そういうことすらわからない存在として初めは描いていました。

──想像したことを何でも実現できる力を持っているのに、何も知らないというのはちょっと不思議ですね。

子供は発想力がすごい、大人は想像力がない、みたいなことを一般的に言われがちなんですけれど。僕は大人になることが不自由とイコールかというと、一概にそうも言えないと思っていて。大人になると経験を積んでいって、自分にできないこととか、人の手を借りないといけないとか、自分の限界がわかってくるじゃないですか。そういうとき子供は、どっからどこまで自分ができるかわからない。となると、もしかしたら子供が自由になんでもやっていいよと言われるより、大人がそう言われたときのほうが、よりデカいことができそうな気がするんです。

──なるほど。そこで用意された、もう1人のキャラクターが蔵六。紗名と並ぶと、見るからに子供に対する大人という感じですが。

「おれは曲がったことが大っ嫌いなんだ」とキレる蔵六。

蔵六は「曲がったことは大嫌い」っていう、いかにもな頑固ジジイなんですけど。そんな白黒はっきりした、本当にダメなことって実際はあまりないじゃないですか。もちろん法律で決まっていることとかはあるけれど、蔵六が言う曲がったことって「人に迷惑かけちゃダメ」とか、ふわっとしてるんですよ。それを「曲がったことは嫌い」のワンワードでまとめちゃうって、子供っぽいところもある気がするんですよね。

──じゃあ紗名が子供で、蔵六が絶対的な大人というわけでもないと。

孫の早苗は、蔵六の言っていることがダメだと思ったら反抗するし、あの人もしょうがないところがあるなあって思っている部分もあって。今は蔵六のことを絶対的な大人として見ている紗名が、早苗のような考え方ができるようになっていったら、多分それが大人になるということですよね。蔵六とは違う価値観を紗名自身が獲得し、自分の言葉として「曲がったことは嫌いだ」って言えるようになったら、それはすごくカッコいい。

人に迷惑をかけても素直に謝れず「わざとじゃない」と言い訳をしてしまう紗名。この後、蔵六の怒りが爆発する。

──ちなみに紗名は何か失敗をしたとき「わざとじゃない」とよく言い訳をして、蔵六は「悪気があろうと無かろうとやったことは同じだ」と怒りますよね。描いている今井さんは、どちらの気持ちに感情移入しますか?

……どっちもあるっていうか「わざとじゃないんだ!」みたいなところもありますが、なんかやっちゃったときはちゃんと謝りますよ。主にこう、原稿の締め切りをいつもいつも破って……いや、わざとじゃない!

猪飼 わざとはやめて!

そんな破壊工作みたいなことしません! わざとじゃないし、大人なので遅れそうな時は早めに言います。でも、また何度でも遅れてしまうんですけど。……ごめんなさい。

テレビアニメ「アリスと蔵六」

テレビアニメ「アリスと蔵六」
放送情報
  • TOKYO MX:2017年4月2日(日)22:30~
  • KBS京都:2017年4月2日(日)23:00~
  • サンテレビ:2017年4月2日(日)24:30~
  • BS11:2017年4月4日(火)24:00~
  • AT-X:2017年4月7日(金)22:00~
キャスト
  • 紗名:大和田仁美
  • 樫村蔵六:大塚明夫
  • 樫村早苗:豊崎愛生
  • 雛霧あさひ:藤原夏海
  • 雛霧よなが:鬼頭明里
  • 一条雫:小清水亜美
  • 内藤竜:大塚芳忠
  • 山田のり子:広瀬ゆうき
  • “ミニーC”・タチバナ:能登麻美子
  • 鬼頭浩一:松風雅也
  • クレオ:内田秀
スタッフ
  • 原作:今井哲也(徳間書店「月刊COMICリュウ」連載)
  • 監督:桜美かつし
  • シリーズ構成:高山文彦
  • キャラクターデザイン:岩倉和憲
  • 美術設定:廣瀬義憲
  • 美術監督:柳原拓巳
  • 色彩設計:田辺香奈
  • 撮影監督:大河内喜夫
  • 編集:後藤正浩(REAL-T)
  • 音楽:TO-MAS
  • オープニング主題歌:ORESAMA「ワンダードライブ」
  • エンディング主題歌:toi toy toi(kotringo edition)「Chant」
  • 音響監督:岩浪美和
  • アニメーション制作:J.C.STAFF
今井哲也「アリスと蔵六(1)」 / 発売中 / 徳間書店
今井哲也「アリスと蔵六(1)」
コミック / 669円
Kindle版 / 619円

「研究所」から脱走して、初めて外の世界を知った少女・紗名。彼女は「アリスの夢」と呼ばれる超能力の持ち主。しかし幼くて未熟なため、能力を使いこなすことができていない。途方に暮れていた彼女が出会ったのは、花屋のじいさん・蔵六。超能力も何も関係なく「悪いことは悪い」と説教してくる蔵六との出会いが紗名の運命を、そしてこの世界の運命をも大きく変えていくことになる。
第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作品!

今井哲也(イマイテツヤ)
今井哲也

千葉県船橋市出身。2005年アフタヌーン(講談社)四季賞2005冬大賞を「トラベラー」で受賞してデビュー。代表作に「ハックス!」「ぼくらのよあけ」がある。2012年に月刊COMICリュウ(徳間書店)で「アリスと蔵六」を連載開始。同作で第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。アニメと猫が大好物。