吉住DVD「咲かないリンドウ」インタビュー|分岐点の第5回単独公演全ネタ解説 (2/2)

2個のアイデアをくっつけて1個のネタに

──5ネタ目が「忘れる女」。

私は心のキャパがそんなに広くないタイプで、「なんでこれはこうなってしまったんだろう」とウワーって突き詰めて考えるんですけど、結局どうにもならないことがあるじゃないですか。そうなったときに「よし! もういいや、忘れよう」と思って。「この間まであれについてすごくこだわったのに、もうまったく触れてこないな」と相手の方が思っているだろうな、と思うことがあったんです。怖すぎるじゃないですか。

「忘れる女」

「忘れる女」

──記憶を失ったかのようにも思える。

だから、戒めのネタです(笑)。今回、自分のヤバいところが超出ているかもしれない。そこを清算したいというか、「みんなが笑っているってことは超ヤバい女なんだから、そうならないように」と。

──DVDには未収録ですが、この単独ライブのアフタートークでは「このネタは私自身ではないです」とも言っていました。やっぱり吉住さんご自身のことは少し入っていますよね。

でも、誇張しています。笑えるように大げさにしています。もうちょっとミニマムな人間です。そこまで振り切ってヤバい奴ではない。ヤバい奴にはならないように努力はしています。そうは言ったんですけど、改めて考えるとちょっと自分というものが出ているなとは思います。

吉住

吉住

──吉住さんの単独ならではの色だと思います。そして最後のネタが「部屋という場所」ですね。

この単独に「咲かないリンドウ」というタイトルを付けた段階では、特に何も意味を考えてなくて、響きだけしか考えてなかったんです。どうやって「咲かないリンドウ」に持ってくかな、とゴールだけ決まって走り出したネタなんです。ネタを考えてるうちに、ある単語が面白いなって。なんとなくの感覚なんですけど「そこに金脈があるんじゃないか」というのを思っていて。で、考えていたら2つ設定を思いついちゃって。でも、同じ単独にそれにまつわる設定のネタが2個、というのは意味がわからない。だから「これはもうくっつけちゃおう」と思って、くっつけちゃったネタです。

「部屋という場所」

「部屋という場所」

──2個のネタを1個に合体させたんですね。

作るのが大変でした。このネタはラスネタ。単独自体を1つの作品とする試みも同時並行で行っていたので、いろいろ考えることが多くて。基本的には、ひとネタにつき長くても6時間ぐらいあれば、短ければ2時間くらいあればできるんですけど、このネタは書いても書いても終わりがなかったです。「こっちからは筋が通ってないから正さないと」みたいな。単独の開催も迫ってるのに、3日間書き続けても書き終わらなくて「こんなに書いても書き終わらないことってあるんだ~」と思いました。終わりがないのかもしれないこのネタには絶望しましたが、なんとか落ち着くところに落ち着いたかなと。

吉住
吉住

──その思いが伝わってくる大作です。

ありがたいことに脚本の仕事をさせていただくこともあって、長尺のネタを書く体力や筋力がついたね、というのを(構成・演出を担当する)作家の岡田(幸生)さんに言っていただきました。自分が「THE W」後にいろんな仕事をさせていただいて経験したことをちゃんと生かして形にできたネタかなと思います。

──そして全部のネタがつながったと。幕間VTRは今回、日記帳という形式で統一されていますね。

そうですね。自分の中で“挑戦の単独”ではあったかなと思います。

──最近、芸人さんの単独ライブの「幕間問題」が勃発している気がするのですが。

勃発していますよね。「東京03幕間、最高潮問題」(笑)。最高到達点を叩き出し続けている東京03という存在がいるかぎり、若手は結局二番煎じに甘んじるしかない。裏を返すと、単独ライブの先頭を走り続けている偉大な先輩のおかげで、若手も新たな武器を作らなければならない。切り開いていただいた道を追っていける部分もありますし、棲み分けなければならないところもある。今後も幕間のことを考えなきゃいけないです。

吉住
吉住

ポップなネタはできないみたい

──単独を終えた直後、吉住さんはご自身のTwitterに「分岐点になりそうな単独」と書いていました。

今回の単独は全部つながっているというのが1つ大きくわかりやすいパッケージになったかなと。あとは「嫌なものが観られるよ」と(笑)。ただカラッと笑って「あー楽しかった」と言って、帰りになんかちょっと食べて、スッキリした気持ちで寝られる単独が私は好きなんですけど、私自身ではそういうものは提供できない。笑ったし、ちょっと怖い思いも嫌な思いもして、ごはんを食べるときも明るく話せる感じじゃない。「あのネタは、ね……」と言いよどむネタがある。でも1年後や2年後にずっと引っかかるなって。そういう単独になればとは思います。カラッとした気持ちでは帰さないぞ、何か持って帰ってもらおう、という気概でやっています。

──そんな吉住さんの“売り”はなんだと思われますか?

東京03の飯塚さんがいろいろ言ってくださったんですよ。「吉住はストイックなのが似合うから、ストイックを突き詰めていったほうがいい」と。劇団ひとりさんが昔された単独が飯塚さんの中でめちゃくちゃよかった印象があるらしく、「劇団ひとりみたいになってほしいんだよね」って言われていて、「難しいことを言われるなあ(笑)」という印象はあるんですけど、なれるならなりたいです。

──同じピン芸人として。

ただ、女でピン芸人ってムズいなあとは正直思っているんです。女芸人って自分でくくるのも嫌なんですけど、「女のピンを見に行こう」というのは男のコンビを見に行くよりハードルが高いと思うんです。自分が今まで8年、芸人の世界に身を置かせてもらって感じることなんですけど。そんなときに足を運ぼう、お金を払って見に行こうと思ってもらえるためには、「この人の単独は面白いものが観られる」という信頼感や、「あの気持ちをまた味わいたい」と思ってもらえるようなパッケージを作っていかなきゃと思っています。

吉住

吉住

──吉住さんはどのネタも怨念がこもっている気がします。そういった傾向は意識されていますか?

そういうネタは作りたくて作っているわけじゃなくて、それどころか一旦ネタが出揃ったときに作家の岡田さんと(演出補で携わっている)同期の鈴木コウジロウが頭を抱えるんです(笑)。「これはお客さん、しんどいぞ。1時間近く重たい気持ちの波動を浴びせられるわけだから、体力削られるなあ」と。しかも今回は幕間がほぼない状態。幕間で気持ちが軽くなって「また観よう」となるリズムすらお客さんから奪ってしまった。お客さんの体調がとにかく心配でした。それでポップなネタを作らなきゃと。「お客さんの気が抜けるネタを作ろうね」と反省会でも言われましたし、今回ポップ枠で作ったのがキャディーさんのネタなんですけど、見せ方はポップだけど内容は一番ポップじゃない。

──ポップじゃない、というのも吉住さんらしさかもしれないです。

ポップはできないみたいです。ゾフィーの上田さんと、何回もカフェに集まって何時間も話し合ったんですよ。「みんなに楽しい思いをしてもらえるポップなネタを私たちは作りたい」って。でも最終的に「吉住さん、これ無理だよ」という話になりました(笑)。覚悟を決めてやるしかないぞと。上田さんは全部受け止めてくださいます。私より先を走って「吉住さん、ここは違った!」「こっちに金脈はなかった!」と教えてくれます(笑)。

──ゾフィーといえば腹話術のふくちゃんの人形を使ったネタがありますが、ああいったことがポップの足がかりになるのかも?

それについては上田さんも驚いていました。ふくちゃんのネタでやっていることって結局不倫の謝罪会見だし、ポップなものを作ろうとしたわけじゃないのに、かわいい人形を使うだけでポップに見えるんだって。話の中で「ふくちゃん、ふくちゃん」って連呼していました(笑)。

吉住
吉住

面白い顔をしていると自分でも思う

──DVDの音声特典で、先ほどもお話に出た岡田さんと鈴木さんとの副音声が収録されています。ここでしか聞けない話も出てくるかと思いますが、聞きどころは?

みんなで映像を観ながら、私の顔で笑っていました(笑)。自分でも思うんですけど、これは卑下とかではなくて、すごく面白い顔をしているんですよね。武器だなと。あと「こんな演技を私はしていたんだ」という発見もありました。私自身「これは何を参考にしてこの演技をしているんでしょうか?」と2人に聞いて「そんなの知らないよ」って言われました(笑)。

──それは聞かれても困りますね。

単独からちょっと時間が経っていたので、新鮮な気持ちで笑って観られてよかったです。今回の単独は自分がやりたいことはあるけどお客さんに受け取ってもらえるか心配で、“自己満”になっているんじゃないかと思っていたんですが、2人には「関われてよかったよ」とも言ってもらいました。時間も才能も私のために割いてくださっていてありがたいです。ネタがギリギリにできて困らせたり、自分が面白いと思って作ったネタなのに「これのどこが面白いんですか!?」と気持ちをぶつけることもあったので反省しています。もっと穏やかな女になりたいです(笑)。

吉住

吉住

──では最後にお笑いナタリー読者にDVDの見どころをまとめて教えてください!

今までの単独の中で一番いい出来だった、という評判をよく聞きます。今出せるものは出しているので少しでも興味がある方は、食わず嫌いせずに、怖いもの見たさで観ていただきたいなと思います。


本作トレーラーと、ついに実現したネタ「キャディーさん」1ネタ丸ごとを期間限定で公開中。

プロフィール

吉住(ヨシズミ)

1989年11月12日生まれ、福岡県出身。スクールJCAに23期生として入学し、2015年にデビュー。コンビ解散後、ピン芸人となり2016年12月より「新しい波24」(フジテレビ)や「ぐるナイ おもしろ荘」(日本テレビ系)などに出演して注目を集める。2018年7月に初単独ライブ「隣の町のヤギが鳴いた」を開催。2020年12月に「女芸人No.1決定戦 THE W」で優勝した。「R-1グランプリ」では2021年、2022年に決勝進出している。

2022年11月14日更新