吉住の最新DVD「吉住第5回単独公演『咲かないリンドウ』」が11月16日に発売される。
「女芸人No.1決定戦 THE W 2020」で優勝し、「R-1グランプリ」でも2年連続で決勝に進出するなど活躍を続ける吉住。単独公演は2018年より開催しており、DVDには2022年7月の第5回単独公演「咲かないリンドウ」が収録されている。
この特集では吉住にインタビューを実施。DVD収録の全ネタを解説してもらうと共に、賞レースとの向き合い方、ライブの「幕間」への考え方などについても話を聞いた。
取材・文 / 成田邦洋撮影 / 小林恵里
やりたいことを思いっきりやっている単独
──吉住さんは単独ライブを2018年から5回開催されてきました。どのようなモチベーションで継続してきましたか?
「全国を回れるようになりたい」という目標があります。コントが好きなので、コントを続けていきたい、コントで食べていけるようになりたい。ということは、単独をがんばらなければいけない。そんな感じで向き合わせていただいています。自分の芸人としての主軸かなと思っています。
──ここまでやってきて手応えは?
今回の単独が、ありがたいことに「今までで一番面白かった」と言ってもらえることが多かったので、ちゃんとコント師として成長できているのかなと。一歩一歩ではありますけど。皆さんの声が、がんばっていこうというモチベーションになります。
──単独を続けるのと並行して「THE W」優勝や「R-1グランプリ」決勝進出など、賞レースでも結果を出し続けてきました。単独と賞レースの兼ね合いについて教えていただければ。
前回までは「R-1」でできるネタをちゃんと作ろうという感じではあったんですけど、今回は「単独自体を1つの作品として作ってみる」という試みを初めてしてみました。幕間をネタ映像ではなく日記でつないでいく試みも初めてだったので、考えなきゃいけないことが多くて、「賞レースっぽいネタを作ろう」みたいなところまで意識が回っていかなかったです。でも、やりたいことを思いっきりやっている単独にはなっているかなと思います。前回「正義感暴れ」というネタができたときには「これはR-1に持っていけるぞ」と思ったんですけど。
──2021年の第4回単独で披露された「正義感暴れ」は2022年の「R-1」決勝でも披露されていましたね。
「それが今回はなかなかできないな」と、ちょっと焦りもありました。ただ、私はあんまり占いを信じないんですけど、超信頼している2つ先輩のおとぎばなし吉田さんが占いができるんです。よっちゃんと呼んでいるんですけど、よっちゃんに占ってもらったときに「今回の単独は、絶対にお客様が満足してくれる単独になるけど、R-1のネタはできない」と断言されたんです。
──そんなところまで占えるんですか?
タロット占いで「R-1のネタできるかな?」って聞いたら、よっちゃんが暗い表情になって言いづらそうにしていたから「できない?」って聞いたら、ちっちゃな声で「できない……」と(笑)。その占いもあって覚悟はしていたんです。
──結果的には「R-1」のネタを作るより、全部のネタをつなげるほうに比重を置いたということですね。
そうですね。
──ライブのエンドロールの中に「メンタルケア」という肩書きの方たちが並んでいて、吉田さんの名前も入っていたかと思うのですが。
第1回単独から入っています。第3回ぐらいまでは、私がギリギリまでネタができてないので、単独の3日前とかによっちゃんを呼び出していました。切羽詰まった状態で自分の発想にはない単語を浴びたいと思って、よっちゃんが持っているメモ帳の中から単語を1時間くらいずっと投げ続けてもらったり、エピソードトークをしてもらったりしました。先輩にさせることじゃないんですけど(笑)。本当に付き合ってくれて、支えてもらっています。
ヤバいネタだけど、これは私じゃない
──ここからはDVDに収録されている全ネタについて、中身を言える範囲で解説していただければと思います。まずは1ネタ目の「10年後の約束」から。
「10年後、この場所でまた会おう」という場面から始まって「10年間、男の人を待っていた女の人がどういう心境になるかな」というのを私なりに落とし込んで作りました。ただ、ギャンブルの話も入っているので、私の身近にいる先輩・岡野(陽一)さんの得意分野というか。アンケートに「岡野さんを意識したネタなんですか?」「この登場人物は岡野さんですか?」という意見があって「ふざけんな」とは思いました(笑)。「岡野さんを思いながら作るネタなんてないぞ」と。
──正直、岡野さんのことが頭をよぎることはよぎります。
すみませんが、岡野さんではないです。そこは否定させていただきます。「岡野さんが作ったネタですか?」とも言われましたけど「違うよ。自分で作ってるよ」というのだけは言いたいです。
──記事にしっかり書いておきます。
次の「わかる女」は共感力の高い女の人のネタです。私は高校に入学してすぐ硬式テニス部に入ったんですけど、「軟式テニス部の人数が足りないから助っ人で来てくれ」と言われて、1週間だけ軟式の練習に参加して、3年の先輩が出場する引退試合の団体戦に出たことがあったんです。そのときに感極まっちゃって。そんなに関係性もできてないし、そんなに仲良くもなってないのに、3年の先輩を差し置いて誰よりも私が号泣していたんですよ(笑)。これだけ聞くとヤバい女なんですけど。「私、こういうところある」と自分自身をいじったネタです。
──「こういう人いるよね」というのではなくて、吉住さん自身の姿なんですね。
でも、よりヤバい面白さだから「これは私じゃないです」というのは伝えたいです。ちょっと自分の昔の思い出が乗っかっているネタです。
気になる存在・キャディーのネタがついに実現
──続く3番目の「キャディーさん」について。
ゴルフのキャディーのネタをずっと書きたかったんです。単語帳やネタ帳に作りたいネタにまつわる単語みたいなものを書いていて、「キャディー」もたぶん全部のノートに書いてるんですけど「作れない作れない」と。今回も作れないのかと絶望して寝ようとしたときに、真っ暗な暗闇の中で「〇〇屋キャディー」という単語が降ってきて「これだ!」と思って書いたネタです。「こんなキャディーさんがいたら嫌だよねー」という。
──嫌どころではないです(笑)。もともとキャディーのどこに惹かれていたんですか?
「支える人」が好きなのかもしれないです。「女審判」とかもそうなんですけど、わかりやすくスポットライトが当たる人じゃなくて、その光が当たる少し外れたところにいるけど確実に支えている人が気になる。ネタを書くにあたってキャディーの方のお仕事などをいろいろ調べたんですけど、ちょっと面白そうで。めっちゃ朝早いから昼過ぎには帰れるとか。「じゃあ昼過ぎからは何やってるんだろう?」とか気になる存在で、そういう人に思いを馳せてしまう。ゴルフをやったことがないのにキャディーさんにいきなりなる人もいるんですよ。ちょっとだけ意味わからないじゃないですか? 「ゴルフに携わっていたいけどプロゴルファーになるのは難しいからキャディーになる」というのは理解できるんですけど。就活のときも、たぶんキャディーは選択肢に入ってこないと思うんですよ。その人もたぶん寝ようと布団に入ったときに「あ、キャディー!」と思ってキャディーの仕事を調べて応募したのかな、とか考えるとすごく興味深いです。めっちゃ話聞きたいです、キャディーさんに。魅力のある職業だなと思います。
──キャディーへの思いを教えていただきありがとうございました。続いて「結婚の挨拶」。
これは内容が二転三転しました。バイトの初日にすごく親切に仕事内容とかを教えてくれる人っているじゃないですか? でも「今日、私はこの時間で上がりだからあとはがんばってね」と声をかけてくれた先輩が、帰る準備をして私服で戻ってきたときにデモのプラカードを持っていたらマジで嫌だなと思ったりとか。あと、前に住んでいた家の近所にすごく素敵なお花屋さんがあって、気になって入ってみたいけどおしゃれすぎて入るのを戸惑っていたんですね。そんなときに初めて店の裏側に回ってみたら、めちゃくちゃ選挙のポスターが貼ってあったんですよ。「キツいなあ。思想が強い人は、なんか嫌だなあ」と思って。そこから「一番思想が強い人が来たら嫌な場面ってなんだろう?」と思って考えたネタが「結婚の挨拶」です。
──振り幅が大きければ大きいほど面白いというか。
最初に養成所で「緊張と緩和が大事」だと聞いたので、基礎から作ったネタです。
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2個のアイデアをくっつけて1個のネタに