かが屋、ハナコ、吉住といった芸人のみならず、窪塚愛流、堀未央奈、田中美久、ウンパルンパ、中島結音、向井怜衣といった役者やクリエイターも参加しているコントコンテンツ「本日も絶体絶命。」が累計再生数3億回を突破。平日の毎朝7時に新作コントを更新するスタイルで「お笑い系のコンテンツをアップするのは夜帯がベター」という常識を覆した。
今回の特集では、「本日も絶体絶命。」がなぜここまでヒットしたのか探るべく、制作陣と出演者の座談会をセッティング。企画段階から携わるKDDIの黄田脩民氏と望月祐司氏、株式会社QREATIONの米永圭佑氏、そして出演者代表として、かが屋と“高校生のカリスマ”ゆのんこと中島結音が参加した。
取材・文 / 塚越嵩大撮影 / 小坂茂雄
最初は「やめたほうがいいですよ」と言った
──「本日も絶体絶命。」の企画が立ち上がり、実現するまでの経緯を教えてください。
望月祐司 私が所属しているのが、多くのお客様にスマートフォンを利用してもらうための企画を考える部署で、新たに面白いことができないか練っている中で米永さんに出会ったんです。
かが屋・加賀 すごい導入(笑)。米永さんがとんでもないカリスマみたいな。
米永圭佑 いきなりハードルが上がりましたね(笑)。僕のやっているQREATIONという会社がコンテンツ制作やSNSのブランディングをやっているんですよ。もともと日本テレビの「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」や「ACMA:GAME アクマゲーム」といったドラマのソーシャルマーケティングをKDDIさんと共同でやっていて、それがうまくいったので「新規で別プロジェクトをやりましょう」と新たに機会をいただきました。
──企画自体のアイデアは米永さんが出したんですか?
米永 「有吉の壁」(日本テレビ系)などの総合演出をやっている橋本和明、クリエイターの伊吹(伊吹とよへ)がQREATIONの取締役を務めていて、その2人と一緒に考えました。橋本さんは総合演出、伊吹さんは監督を担当しています。みんな共通して「新しいコントをデジタルから生んでいきたい」という思いがあって、その方向性は最初から決まっていました。今、テレビで大がかりなセットを組んでコントをする機会が少なくなっているじゃないですか。それの代わりとなる場を模索して、今回の形になりました。
──黄田さんはどのような役割で関わっているのでしょうか?
黄田脩民 私が所属しているのがKDDIのエンタメ系の部署で、動画配信サ-ビスのTELASA周りのことなどをいろいろやっているので、その延長線で「本日も絶体絶命。」にも携わらせてもらっています。ゆくゆくはTELASAと絡めた企画もできたらいいなと思っています。芸人さんからすると「縦型のコントをやる」という話を聞いたときはいかがでしたか?
加賀 けっこう前から橋本さんが「縦型のコントをやりたい」と言っているのは聞いていて、僕は「やめたほうがいいですよ」と言ったんです(笑)。その頃の橋本さんがすごく多忙なのに、まだ新たなことをやりたがっているので「休んだほうがいいですよ」って。
かが屋・賀屋 すごく忙しそうな時期だったから心配だったんだよね(笑)。
加賀 でも蓋を開けたら、こんなにいいコンテンツになったので、あそこで止めてなくて本当によかったと思っています(笑)。結音ちゃんとも初めて会って、「こんなスターがいるんだ!」とビックリしました。
中島結音 いやいや、こちらのセリフですわ!
加賀 「ですわ」?(笑)
結音 芸人さんのような、今まで関わる機会がなかった人たちとたくさん関われる場なので、こういうチャンスをいただけたのがすごくうれしかったです。私の周りでも反響はすごくて、「加賀さんとペア組めるのヤバくない?」「賀屋さんマジヤバい」とか言われます(笑)。あとはママが平成ギャル世代でもあるので、その層にも刺さってました。なんならおばあちゃんの友達にも「出てたね」って言われます。
加賀 おばあちゃん何歳?
結音 73歳……あれ、68歳かな?
加賀 全然違うじゃん!
業界の常識を覆す毎朝7時配信
──KDDIサイドからの「本日も絶体絶命。」の狙いや意図、こだわりのようなものがあったら教えてください。
望月 毎朝7時に動画をアップしてるんですが、これは平日に毎朝観てもらいたいという意図があります。電車に乗るとみんな暗い顔をしてるので、それをもっと楽しくしたいという思いですね。朝の通勤や通学の暇なとき、ニュースを読むじゃないですか。それと同じ感覚でコントを見て笑っていただきたい。
賀屋 最高ですね。
結音 素晴らしいですわ!
加賀 芸人からすると「朝から見ないだろう」という感覚があって、YouTubeの動画も夜に更新するパターンが多いんです。
結音 私もTikTokを投稿するのは夜です。
賀屋 それが常識になってるもんね。朝7時投稿はビックリしたもんなあ。
米永 朝に投稿しようというアイデアはKDDIさん発信で、僕も最初は「朝か!?」と思ったんですけど、実際やってみると「朝から元気もらいました」というコメントが多くて、素晴らしい試みだったと思いました。
結音 私も朝起きて「本日も絶体絶命。」のTikTokを見るのが日課になっています。「おもろ!」って笑って1日が始まります。
米永 KDDIさんから「スマホを通じてエンタメの新しい文化を作るんだ」という意志はすごく感じていて、僕も「朝にコントを見るという文化を作る」くらいの気概でいかないとダメだなと思っていました。あとは「結音さんのような次の世代のスターが活躍できる場を作る」ということも意識しています。SNSの発達によって若い才能が早くから注目される機会は増えたんですけど、「次のステップとして何に挑戦するのか」が見えづらいという側面もある。そういった中で「本日も絶体絶命。」は、芸人や俳優、TikTokクリエイターなどさまざまな出演者の皆さんと、テレビからSNSまで横断した制作チームが融合したメンバーで作っていっているからこそ、次世代のスターや新しいトレンドがどんどん生まれていく場になってほしいと思っています。
結音 深ぁ!
賀屋 そのコメントで浅くなったなあ(笑)。
加賀 「本日も絶体絶命。」で結音ちゃんを初めて知って、「あの子、誰!?」と僕に聞いてくる人もいて、いろんなジャンルがクロスしてるなと実感します。
黄田 お客さんの反応ももちろんうれしいんですけど、業界の中で「熱いらしい」という声も本当にうれしいです。業界の中で存在感を示しているのは励みになります。
“10代のスター”中島結音の存在感
──出演者はどのような形で決まったのでしょうか?
米永 かが屋さん、ハナコさん、吉住さんは橋本さんと現場で長い付き合いがあったので、その縁です。
賀屋 前にドラマに出演させていただいたときの監督が米永さんだったという関係もあります。
米永 僕が日テレ時代に「恋、ランドリー。」という作品で、初めてドラマの監督をさせていただいたときの脚本・出演がかが屋のお二人だったということもあって、またご一緒できることになって、とてもうれしかったです。
加賀 米永さんは“すべてを繋ぎし男”。「ヨネがいなきゃ始まんねえ」とみんな言ってます。
米永 初めて言われましたけど(笑)。
──結音さんにオファーすることになったのはどなたのアイデアですか?
米永 僕と伊吹さんで話し合って声をかけさせていただきました。「本日も絶体絶命。」はTikTokでも配信する中で、10代を中心とする若い世代から圧倒的な支持を集める結音さんに出てもらえないかと。
結音 えぇー、うれしい! ヤバい! 過去一うれしい! (高音で)キィィー!
加賀 踏まれてるときみたいな声が出てるけど!
米永 若い世代にとってのスターと、テレビを主戦場に活躍されている芸人さんの化学反応を作っていきたいという思いがあったので、結音さんはピッタリでした。
結音 いい体験をさせてもらってます。撮影が毎回すごく楽しみだし、あっという間に終わる感覚。結音は台本を覚えられないのに、みんなが「大丈夫だよ、続けて」と言ってくれて本当に優しいんです。
加賀 嘘みたいに、台本を壁に貼り付けて、一生懸命読むんですけど、一言目から違うんですよ。
結音 ギャハハハハ! ちゃんと台本も読んでるはずなんですけど。
加賀 でも、みんなが「結音ちゃんのやりやすいように」という空気感。
結音 マジでそう。みんな温かいんです。
賀屋 (小声で)マジ感謝?
結音 マジ感謝!
加賀 船場吉兆みたいなのやめろよ!
米永 結音さんの愛嬌や気遣いは本当にすごいです。出演者だけじゃなくて、スタッフさんやメイクさんにも声をかけて一緒に台本の読み合わせをやっていて。普通、メイクさんが本読みをすることってないんですよ(笑)。その“巻き込む力”を見て「すごい子だな!」と思ったんですけど、本番は一言目から違う。
結音 ギャハハハハ! みんないい人なんです。超楽しい。
米永 フリが効いてますよね、1人だけ別のコントをやってるみたいな。
賀屋 普通、メイクさんに手伝わせないのよ!
黄田 僕らがいるときは振ってもらっていいですよ。
結音 ギャハハハハ! ぜひお願いします!
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作り手と視聴者のズレはどう埋める?