お笑いナタリー PowerPush - 鳥居みゆき

“尖ってた時代”からの盟友・きーぽんが聞く Draft King「贈る言葉」PVに込めた思い

前日に「なんか撮りたいなー!」ってすっごい思ってた

きーぽん じゃあPVの話聞かせてくれる? 初監督なんだよね。

鳥居 うん。

きーぽん 構成から編集から何から、全部みゆきちゃんが撮ってる感じ?

鳥居 うん、編集もやったよ。歌は歌ってないけどね。

きーぽん

きーぽん 歌だけはDraft Kingに任せて(笑)。監督することが決まったときに、みゆきちゃん「やったー」「うれしい」っていう気持ちを真っ先に私に伝えてくれたじゃない。オファーが来たときどんな気持ちだったか改めて教えてくれる?

鳥居 前日に「なんか撮りたいなー!」ってすっごい思ってたの。私そういうことすごいあるんだ。「明日この靴履きたいなー」って思ってて本当に履くこととかない?

きーぽん いやそれは自分次第でしょ(笑)。

鳥居 あれ、違う? なんて言うのかなー。

きーぽん でも言ってることはわかるよ。撮りたいなって思ってたタイミングで本当にその仕事が来たんだね。監督をやってみて、どんなことで苦労した?

鳥居 私もお母さん役でちょっと出演してるんだけど、化粧ノリとかかな。前日はパックもしましたもんね。

きーぽん いやいや、そういうことじゃなくて(笑)。みゆきちゃんの作品って、やっぱりダークな部分が強くて、昔は救いようがないままで終わることもあったけど、ここ最近って救いがある終わり方も多いじゃない。そういうふうにシフトしていったのってみゆきちゃんが人間として変わってきたからなのかな。

鳥居 違うよ。私が変わったんじゃなくて、日本が変わったのよ。今の日本が欲しいのって「ちょっとの希望」なんだよね。

きーぽん たしかに。このPVにも「ちょっとの希望」があるね。みゆきちゃんのテイスト全開でいっちゃうとダークすぎちゃうところが、このPVはすごく心温まるハートウォーミングな作品で、私すっごいびっくりしたの。

鳥居 なんでだと思う?

きーぽん 鳥居みゆきが成長したから?

鳥居 ううん。鉄拳さんのPVを観たから。

きーぽん あははははは(笑)。

「鳥居から血を取ったら何が残るんだ!」

きーぽん 「依存からの脱却」っていうテーマだけど、私はお母さんの大きな愛からの卒業っていう意味もあるし、死んでしまったお母さんへの「贈る言葉」でもあるのかなってこのPVを観て思ったの。「私のことは心配しなくていいから成仏してね。私も次に繋げていくから」っていう。違う?

鳥居 違う。

きーぽん 違うんだ!(笑)

鳥居 あははは。けっこう熱く語ってたけど「違うなー」って思いながら聞いてた(笑)。でもいろんな解釈があっていいと思う。私たちの世代は海援隊の「贈る言葉」、ドンピシャじゃん。武田鉄矢さんのイメージもある。だからもともとある「贈る言葉」のイメージを汚さずに、「贈る言葉」を知らない世代にも届けばいいなって思って作ったの。私のエゴだけじゃダメだなって思って、けっこう繊細には作ったつもり。でも「贈る言葉」って学校の卒業の歌になってるけどさ、別に学校の卒業関係ないよね。女にフラれた歌じゃん。

きーぽん そう捉えてる? 「あなた」が女と考えたらまあそうだね(笑)。オリジナルのイメージを壊さずに、かつ鳥居みゆきのテイストも存分に盛り込まれていると思うんだけど。特にリストカットで血がバーって出るシーン、あれよくOKだったね。

左から鳥居みゆき、きーぽん。

鳥居 違うんだよ!「自由にやってください」って言われてて、事前に確認した上で血のり使って撮影したわけ。そしたらあとになって「血の部分カットしてください」って言われてさ!

きーぽん まあ自主規制とかあるからね。

鳥居 そう。それはしょうがないなって私も思って。私が怒ったのは、周りのマネージャー陣。血のシーンがカットされるってなったら「そんなのおかしい!」って立ち上がったんだけど……。

きーぽん おお!

鳥居 「鳥居から血を取ったら何が残るんだ!」って言うのよ。それはおかしいだろ!

きーぽん あはははは!

鳥居 「本当に鳥居は血なんで!」みたいな(笑)。私なんだと思われてるんだよ!っていう。私はほかの部分もがんばったからそこくらいカットでいいんだよ、全然。それを「鳥居さんの思いが入れられないくらいなら僕、坊主になります!」とかみんな言い出してさ。「私の思いって血?」と思って。

きーぽん でもそのマネージャーの気合いが功を奏して意見が通ったんでしょ?

鳥居 通った(笑)。

きーぽん あのシーンはみゆきちゃんにとっても大事なシーンじゃないの?

鳥居 まあ、私の投影みたいなものだからね。

すべてが私の分身

鳥居 きーぽん気づいた? PVに出てくるクマのぬいぐるみ、私が今まで「ヒットエンドラン」で使ってたぬいぐるみなんだよ。

きーぽん うそ! 包帯取ったらあんな感じなんだ。気づかなかった。みゆきちゃんの分身じゃん。

鳥居 そう。だから世間から見た私のイメージからの脱却っていう意味もあるの。それが“卒業”だったり“成長”だったり。最初はぬいぐるみもプレゼント包装しようみたいな話も出てたんだけど、「飾りもつけずに」っていう歌詞があるでしょ? だからこれは素朴なほうが絶対美しいなと思ったわけ。まあ嘘だけど。

きーぽん 最初にぬいぐるみを渡すお母さん役をみゆきちゃんがやってるけど、受け取る主人公が実はみゆきちゃんってこと?

鳥居みゆき

鳥居 違う。すべてが私の分身なの。主人公の部屋の小物もほとんど私物だしね。

きーぽん 女の子がいじめられてリストカットして、引きこもっていくっていうストーリーもそう?

鳥居 あれはけっこう私っぽいですね。私もずっと笑えてなかったから。

きーぽん いつから笑えるようになったの?

鳥居 まだ笑えてないよ。

きーぽん まだかーい(笑)。じゃあこのPVはフィクションなんだけどノンフィクションというか、すべての登場人物が鳥居みゆきなんだね。

鳥居 最後クマのぬいぐるみを大人になった主人公が未来の子供に渡すっていうシーンがあるんだけど、あの手、私の手なの。一瞬私の古傷が見えるかも(笑)。

きーぽん ちょいちょーい(笑)。

Draft King ニューシングル「贈る言葉」2015年3月4日発売 / サンミュージック
初回限定盤 [CD+DVD] 1500円 / SMLC-0017 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1000円 / SMLC-0018 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 贈る言葉
  2. 誓いの歌
  3. 贈る言葉(Instrumental)
  4. 誓いの歌(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • 「贈る言葉」Music Video
鳥居みゆき(トリイミユキ)

鳥居みゆき

3月18日生まれ。秋田県出身。

鳥居みゆき「余った傘はありません」幻冬舎のPR誌「星星峡」での連載を経て2012年に単行本化された「余った傘はありません」が文庫化。本作は4月1日に生まれた双子の姉妹・ときえとよしえの一生が、彼女たちに関わってしまった人々ともに描かれている長編連作小説で、文庫版には書き下ろしの「はだかの王様」と歌人・穂村弘による解説も収録された。インタビュー中、本書の話題になった際、「テンポはいいけど決して読みやすくはないよね(笑)」というきーぽんの感想に対し、鳥居は「読みやすくはないと思うよ。でも全部わかっちゃうお腹いっぱいのやつって嫌じゃない?」とコメントしている。

きーぽん

きーぽん

1976年9月18日生まれ。栃木県出身。