子供の頃からひょうきんだったシソンヌの現在地 | DVD「シソンヌライブ[dix]」発売記念インタビュー

シソンヌの最新DVD「シソンヌライブ[dix]」が3月23日に発売された。

2013年12月にスタートし、昨年2021年開催の「dix」で10回目を数えたシソンヌの単独公演「シソンヌライブ」。もともと評価の高かったシソンヌのコントはそれまでの単独ライブのイメージを覆すような洗練された演出の中でより輝きを増し、同シリーズ公演にはお笑いというジャンルを越えて演劇や映画、音楽を愛する多くのカルチャーファンも足を運ぶ。

「シソンヌライブ」の出発点は、「本多劇場での1週間公演」という目標とシティボーイズへの憧れ。この特集ではシソンヌの2人にインタビューを実施し、そのルーツを紐解きながら、コンビの現在地をどう捉えているか聞いた。また、最終ページには「シソンヌライブ」を共に作り上げるスタッフ13名のアンケートを掲載。演者と裏方の相思相愛な関係を覗き見てほしい。

取材・文 / 狩野有理撮影 / 草場雄介

単独ライブだけで満たされた1カ月

──「シソンヌライブ」10回目というこの節目に際して、まず率直にどんなことを思いますか?

じろう 回数通りだなっていう感覚ですかね(笑)。「ここまで来たか」っていう感じはそんなにないです。

長谷川忍 うん。20回ぐらいやったらそういう気持ちも出てくるかもしれませんけど。

──お二人にとってはまだまだ途中といった感じなんですね。「dix」では目標にしていた1週間公演を大きく上回る約1カ月30公演を本多劇場で達成したわけですが、それについてはどうでしょう?

じろう 赤坂RED/THEATERで1カ月やったこともありましたけど(2018年「sept」)、今回の1カ月は特別な感じがしました。2020年にやった「neuf」はコロナ禍の開催で収容人数の制限があって、お客さんの笑いの量に満足できない部分があったんです。「dix」でも客席80%ほどに減らしていたと思いますが、もっと大勢の前でやりたいという気持ちが高まっていた中で、30公演、毎回反応がよくて、それまでとは違った達成感がありましたね。だから公演期間中、パチンコもそんなに行っていないんです。

2021年「シソンヌライブ[dix]」より、「居酒屋ございあす」。

2021年「シソンヌライブ[dix]」より、「居酒屋ございあす」。

2021年「シソンヌライブ[dix]」より、「株主総会」。

2021年「シソンヌライブ[dix]」より、「株主総会」。

──ん? パチンコ?

じろう 赤坂のときはもうほぼ毎日、(エスパス)日拓(劇場近くにあるパチンコ店)に行ってから劇場に入っていたんですけど、「dix」のときはあまり行かなかったんですよ。もっとカレイド(下北沢にあるパチンコ店)に行くかなーと思っていたんですけど。

長谷川 そこでわかるんだな、じろうの満足度は。

じろう そうかもしれない。本多は家から近いし、バイクの駐輪場もあるから、ストレスなく単独に向き合えた。単独だけで満たされていたということだと思います。

シソンヌ

シソンヌ

サブカルアンテナビンビン野郎との遭遇

──「シソンヌライブ」立ち上げ以前の話になりますが、調べたところシソンヌの初単独ライブは2011年9月の開催でした。2006年の結成から5年後に初単独というのはなんとなく遅い気がするのですが。

じろう それはずっとコンプレックスだったんです。「なんで僕らだけ単独やらせてもらえないんだろう」って。

長谷川 一番単独向きなコンビだと思っていたんですけどね。単独で売れていくタイプのつもりでしたし。今でこそ「有吉の壁」(日本テレビ系)のように爆発的なキャラで突っ込む、みたいなこともやっていますけど、昔は普通のネタライブでも尺が短くて自分たちのよさを出せずに終わっていたので。

──なぜやれなかったんですか?

長谷川 単純に、社員さんや作家さんにハマってなかったんです(笑)。

じろう 先輩たちが僕らのネタを評価してくれているっていう自信はあったから、「なんであいつらができて僕らはダメなんだ」と歯がゆい思いをしていました。

シソンヌ

シソンヌ

──そんな時代があったんですね。結成したときから単独ライブを軸に、という活動スタイルを目指していたんですか?

長谷川 いや、お互いなんとなくやりたいイメージは持っていたと思いますけど、「こういうコンビになろうぜ」とは細かく話していないんじゃないかな。俺はよしもとっぽくないこの雰囲気を打ち出したほうがより目立てるだろうな、とは考えていました。

──その雰囲気もそうですし、お二人は共通点が多いですよね。背が高くてメガネで、26歳という比較的遅めにNSCに入っているのに同い年ですし。コンビ結成のいきさつは?

長谷川 メガネは当時かけたりかけていなかったりでしたけどね(笑)。NSCのとき、じろうが1人でお笑いっぽくない、変なネタをやっていたんですよ。俺は言葉にできないようなネタを書ける人とコンビを組みたくて、じろうのネタを見たときに「こいつ全然ウケてないし伝わってないけど、なんかいいなあ」と思って声をかけました。ネタ見せなのに1人だけ音も使っていて、それが「変なことやってるぞ、このおじさん」みたいな視線を同期から浴びていましたね(笑)。俺は好きな世界観でしたけど。

──もともと笑いの好みが似ていたんですね。具体的にどういうお笑いに影響を受けてきましたか?

長谷川 ザ・ドリフターズ、とんねるず、ウッチャンナンチャン、通ってきたものはほぼ同じだと思います。

じろう 「ごっつええ感じ」とか、だいぶ遅れて始まった「ボキャブラ天国」とかも真夜中に観ていましたね(出身地の青森ではキー局と放送時間が異なるため)。自分でやりたいと思ったのは大学に入ってからです。シティボーイズを観に行って。

シソンヌ

シソンヌ

──シティボーイズの存在は何がきっかけで知ったんですか?

じろう 高校の同級生にスーパーサブカルアンテナビンビン野郎がいたんですよ。僕は大阪、そいつは京都に進学して、青森から関西に行く同級生なんかいなかったから、週末はいつも一緒に遊んでいました。で、あるとき「シティボーイズの公演が近鉄劇場であるから観に行こう」と言われて、よくわからないままついて行ったのが最初です。そいつがまた、WOWOWで放送されたシティボーイズの映像とかを録り溜めているような奴で。サブカルの入り口は彼に教えてもらいました。

長谷川 俺も浜松から東京に出てきたとき、バイト先にアンテナの高い人がいて。その人が「今こういう笑いも見とかなきゃダメだよ」と教えてくれて、シティボーイズ、大人計画、ナイロン100℃といった舞台を観に行くようになりました。それまではいわゆるバラエティのフリ、ボケ、ツッコミ、みたいな笑いしか知らなかったんですけど、こういう笑いの取り方もあるんだっていうのはそこで覚えましたね。

──サブカル知識を伝授してくれた人物がそれぞれにいたんですね。

じろう そういう人って絶対身近に1人はいません? 全国に配置されてるんじゃないかってくらい。

長谷川 なぜかいるんだよなー(笑)。そいつら自身はお兄ちゃんとかから影響受けてるのかな。

「シソンヌライブ」の作り方①
きたろうさんが「幕間のVTRもう古いよ」って

──「シソンヌライブ」では立ち上げ当初から「シティボーイズライブのようなクオリティで」「本多劇場で1週間公演」というのを目標にしていました。そういう明確なビジョンは以前からお持ちだったのでしょうか。

じろう 僕はシティボーイズみたいなライブをやりたくてこの世界に入っていますけど、こうやってちゃんと言葉にしたのは(制作の)牛山晃一さんですね。「本多劇場で1週間やりたいです」と自分で言ったことはないと思います。牛山さんが「じろうくんが将来こうなりたいなら、きっとこの道筋だよ」というふうに環境を整備してくれました。

2013年「シソンヌライブ[une]初演」より、「立てこもり」。

2013年「シソンヌライブ[une]初演」より、「立てこもり」。

2014年「シソンヌライブ[deux]初演」より、「ラーメン屋」。

2014年「シソンヌライブ[deux]初演」より、「ラーメン屋」。

2015年「シソンヌライブ[trois]」より、「野祭」。

2015年「シソンヌライブ[trois]」より、「野祭」。

──以前の取材でも「牛山さんは軍師みたいな人」とおっしゃっていましたね(参照:シソンヌ×構成作家・今井太郎氏×制作・牛山晃一氏 | 2020年、いつもと違う年 その5)。単独ライブが「シソンヌライブ」という形になって変わったことは?

じろう 単独ライブをトータルパッケージとして成立させようとしていることでしょうか。自分たちだけでやっていたときは観る側のことなんて何も考えていなかったので、とりあえずネタと着替え用のブリッジVTRを作って、それの羅列が単独ライブだと思っていましたけど、牛山さんは観ている人が退屈しないようにコンマ数秒のことまで考えてくれる。「シソンヌライブ」のスタッフさんを集めてくれたのも牛山さんです。

長谷川 よくこんな優しくてプロフェッショナルな人たちを集めてくれましたよ。

DVD全10作と、シソンヌ。

DVD全10作と、シソンヌ。

──今作の「dix」で言うと、次のコントのセットと連動している幕間のプロジェクションマッピングがコントへの集中力を切らさずに観ていられるもので、画期的に思いました。これはスタッフさんからアイデアが出たものですか?

じろう そうですね。ここ最近はきたろうさんが毎回(荒川)良々さんに無理やり連れられて観に来てくれるんですけど、「幕間のVTRもう古いよ」って言うんですよ。「もう退屈だ」って。

──幕間VTRをなくす構成はこのところ芸人さんが悩んでいる部分でもあります。

じろう 確か幕間にVTRを流すのってシティボーイズさんが始めたスタイルでしたよね。

長谷川 自分で始めたのに「退屈」って(笑)。

じろう で、何か違うことができないかなと(作家の)今井太郎にその要求だけを突きつけたんですよ。「幕間のVなくしたいからどうにかしてくれ」と。それで映像さんとも相談してくれて、ああなりました。僕はただ投げただけ。

長谷川 あれ、よかったよね。今後もこうしていきたい。

じろう でも問題は次だよ。今回のはもうできないから。

長谷川 あるでしょ、何かしら。好きでしょ、今井くんも。ああいうの考えるの。