人力舎は、好きなことが明確にある人にすごくいい
──めおしぼたんさんは昨年のJCA特集にも出ていただきました(参照:スクールJCA卒業生4組座談会「夢のような1年間でした」)。そのときからオープンキャンパスに出られているようですが、お二人は何をされているのでしょうか?
立石 スクールJCAに入りたい、といろんな方が遠くから来てくれるんですけど、僕らが「こんな授業があります」みたいな話をするだけなら、書類を配って家で読んでもらうほうが早いと思うんです。超若手芸人として出てくる以上、説明の中でちっちゃいボケを言ったり、授業で習った声の出し方をしてみたり、ほぼお笑いライブみたいにやっています。
飛永 説明というよりは、そこに来た人を笑わせようという感じ?
神崎 そうですね。僕はオープンキャンパスの説明はほかのメンバーに任せて、基本的には寿司の話と、僕が住んでいる野方の話、あと出身の石川県の話しかしてないです(笑)。
立石 1時間くらい時間を過ごしたあと、いい養成所だと感じてくれている気がします。楽しい雰囲気の養成所だよ、と伝えたくてやっています。
──リアルな学校の雰囲気が感じられそうですね。きりさんはお笑いの養成所を探すときに、JCA一択で入られたんですよね。
きり そうですね。私は最初に好きになった芸人がキングオブコメディさんで、芸人になろうとしたときも自然と「まあ人力舎だよな」と。インパルス板倉さんも好きなんですけど。でも、最初に養成所に入る前の面接で「ワタナベに行きなさい」と言われました(笑)。
飛永 「うちじゃなくてほかの事務所に行きなさい」って(笑)。そこが人力舎のいいところかもね。
きり 最終的には、好きな人たちばっかりいるので、人力舎しかないよなと思って入りました。好きなことや、逆にやりたくないことが明確にある人には、人力舎はすごくいいなと思います。私は「こういうことがやりたい」とか、さっき言ったように「ピアノがやりたくない」みたいなことがハッキリとあるので、それを尊重してくれるのが人力舎かなと思います。
──JCAに入る前に、お笑いのネタを人前で披露した経験はあるんでしょうか?
きり ボケたこともないです。お笑いをやっていない状態で、音楽院の隅っこのほうで「こいつらみんなつまんねえな」と思っていました(笑)。
──頭の中ではけっこうネタを考えてたりしましたか?
きり ネタを考えていたというよりは、好きな人たちのネタを観て「なんでこんなに面白い人たちがいるのに、私の周りはこんなくだらないことでしか笑えない人たちばっかりなんだろう」と思ってしまって。そこの乖離もあって、ちょっとしんどくなって辞めたのもあります。
飛永 その学校にはどんな国籍の人たちがいるの?
きり ロシア人から日本人から、本当にいろいろです。だからこそ笑いも原始的にはなっていくというか。わかりやすく「ピアノで楽譜をひっくり返して弾いちゃいました」みたいなことがしんどくなって。キンコメさんとか、もちろんラバーガールさんも見ていたんですけど、「こんなに面白いものがこの世にはたくさんあるのに!」と思って。じゃあ芸人になったほうが楽しそうだなと。
飛永 すごい発想だね。
飛永がきりに「天才」だと言った理由
──きりさんがJCAに入って初めてネタ見せをしたときは、どんな心境でしたか?
きり 最初に組んでいたコンビでは相方の作ったネタをしていたので、ちょっと他人事でした。初めて自分が作ったピンのネタは、右の手のひらにおじさんが住み着いていて、そのおじさんを最終的に叩き潰すというファンタジーなネタで。ウケはしなかったんですけど、終わったあとにみんなが「めっちゃ面白かったよ」みたいに言ってくれて。講師の人も「これはあなたにしかできないことだから続けてもいいと思う」と。ピアノを使わずにこれを受け入れてもらえたのは、かなりデカいぞと思って。そこから踏ん張れた感じがあります。
──褒められるのはすごく大事なんでしょうね。
きり 大事です。変なネタをするたびに、私は飛永さんにかなり救われました。最後のクラス分けにつながる大事なオーディションがあるんですけど、それに向けたネタが、私はそのとき「メトロノーム同期現象」というシュールなネタ1本しかなくて。私は面白いと思ってやっているけど、これは受け入れられなくてもしょうがないよね、という気持ちだったんですが、飛永さんが「これはいいよ」と言ってくれて。その最後の一言で「あ、いいんだ」と。これで下のクラスに落ちたとしても、胸張って面白いことやったって言い切れるぞ、というのが最後の一押しになりました。
飛永 確かに、見たときに「天才だ」とか言ったと思う。
きり 言っていました。
飛永 ただ、それには理由があって。きりさんは自分のネタやるとき、仲間に動画を撮ってもらうんですよ。で、俺の感想を言うときもずっと動画を回してるのね。だから「いいこと言わなきゃな」って(笑)。あんまり否定的なこと言ったら、これは残っちゃうなというプレッシャーがある。
立石 あれは卑怯ですよね!(笑)
飛永 講評まで撮っている人はいないよ。
きり いや、います!
飛永 とはいえ、見たことがないネタにはやっぱり感動するし、「誰か面白い人いる?」と何気ない会話で聞かれたときにも言いやすいですし。「こういうことをやってる人がいるよ」と。きりさんは素晴らしいなと思いました。
細やかな指導がネタに実践的に生かせる
──ネタ見せのほかに、JCAの授業で役に立っていることは?
きり 私はパントマイムの授業です。講師の方もすごくいい方で。授業終わりに「ここのパントマイム、どうしたらいいかわからないので、ちょっと見せてください」とお願いしたら見せてくれて。「こうしたほうが相手がいるように見える」とか「ここの動きはもっと反対に動くことを意識すると引っ張られている感が出るよ」とか「殴られたあとにちょっとほっぺたに手を添えるだけで殴られた感が出るよ」とか。それは小さいことかもしれないですけど、ネタをやるときに意識することですし、教えてもらったのがいまだに使えているので、すごくタメになりました。
──基本的なところを徹底的に教えてくれると。
きり 飛永さんも授業で私にパントマイムを教えてくださいました。
飛永 「壁」とかやった?(笑)
神崎 パントマイムの基礎だ(笑)。
きり 私が相手役に首を絞められそうになったとき、ただ「首絞められてる」と口だけで言っていたのを、「これは絶対に手を添えないとわかんないよ」と。あと「この小道具は使っているのに、これはマイムでやるのはわからないよ」とか。そういうところは、すごく意識して作るようになりました。
飛永 きりさんは、言われたことを「確かに」と受け入れて自分のネタに生かしてくれるから、教えがいがすごくあると思う。講師もみんな楽しいと思います。
きり うれしい。ピアノをやっていたのが生きてるんだと思います。
立石 教わるのがうまいんですかね?
飛永 何かを教えたときに、「いや、わかってるんですけどね」とか言われると、「なんだコイツ」ってなるから(笑)。うまい返しをしてくれる生徒は気持ちいいですね。
──ところでお三方は芸人になってから、憧れの先輩芸人に直接会えたりしましたか?
きり 私、会えちゃいました。まず元キングオブコメディの今野さん。私がたまたまドラマにエキストラで出たときに現場が隣で、マネージャーさんが「時間が空いたときにちょっと会いに行っていいよ」と言ってくれて、1時間くらい楽屋にいさせてもらいました。
立石 えぇー!
きり 緊張しすぎてたいした話もできなかったんですけど。そのとき今野さんに買ってもらったお茶のペットボトルは、まだ大事にとっておいてます(笑)。「激レアさんを連れてきた。」(テレビ朝日)では、芸人になるきっかけになったインパルス板倉さんにもお会いできて、最後に握手をさせてもらって、かなり叶ってしまった。で、一番出たいコンテンツだった(トンツカタン森本の)「タイマン森本」にもこの間行って(笑)。本当に着実に叶っていってます。あとの目標は、賞レース、できれば「R-1グランプリ」優勝。それと単独全国ツアーです。
──めおしぼたんさんは、夢は叶っていますか?
立石 僕は、人力舎に入ったきっかけが、北陽さんが大好きだからなんです。「はねるのトびら」(フジテレビ)とか昔の番組の映像を観ていても、北陽さんは「顔、面白すぎるな」と(笑)。1回、虻川さんに挨拶できたことがあって。もちろん僕のことを虻川さんは知らないはずだし、好きですと伝える時間もなかったので「よろしくお願いします」くらいだったんですけど、虻川さんがわざわざ立ち上がって「よろしくお願いします」と頭を下げて言ってくださって。そこから頭を上げたときの顔が、めっちゃオモロかったんですよ(笑)。「すごいなぁ!」と思って。
飛永 それ、変顔してるってこと?
立石 虻川さんにその気がなかったら申し訳ないんですけど、ちょっと口がゆがんでいたんです。変顔をしてくださったのであれば、いつかもう一回ちゃんとお会いできたときに「あれはどういうことやったんですか?」と聞きたいです。
──口がゆがんでいたら、意図的な変顔ですかね。
飛永 違っていたらただの失礼な話だよね(笑)。
目指す矢印の方向を変えずに育ててくれる
──最後にJCAへの入学を迷っている人たちの背中を押すような一言をお願いします。
きり 私はかなり変な経歴で、ロシアから日本に帰ってきて、1年アルバイトして貯めたお金でJCAに入ったんですけど、人力舎には講師にも同期たちにも優しい人が本当に多くて。これは“おべっか”とかじゃなくて。1個アドバイスをするとしたら、授業終わりに走ってバイトに行ったりするのはやめたほうがいいです。16時に授業が終わるんですけど(32期の授業終了時間。33期以降は14時10分に授業が終わり、その後17時まで稽古場が使用できる)、私は16時半の電車に乗らないと間に合わなかったので、走って帰っていたことを今すごく後悔していて。ほかの人たちとコミュニケーションを取ったほうがいいです。
飛永 そういうことか!
きり そこで私は1個、遅れちゃったんです。人力舎に所属して1年目に、みんなとコミュニケーションを取るようになってから、「きりってこういう人だったんだ」と知ってもらえたので、その1歩目が遅れたのは、すごくもったいなかった。養成所のうちからやっておけばよかったと本当に後悔しています。そういうのが苦手な人だったとしても、1年はがんばってみたらいいんじゃないかなと思います。
飛永 僕が養成所に通っていた頃、授業終わりにすぐバイトだったから急がないといけないって言ったら、同期が「スケボー貸してやるよ」と。でも、ちょっと乗ってみたら全然乗れなくて、こぎ出したらぶつかって転んで、結果ちょっと遅刻して。「授業終わりに走ってバイトに行くのはやめたほうがいい」って、そういう種類の話かと思いました(笑)。
神崎 最後にそういう話しないですよ(笑)。僕は石川県から出てきましたし、上京とか入学とかは人生において勇気がいる判断だと思うんです。ただ、地元だと自分が面白いのかどうか、どういう人間かも結局わからないままで、それで諦めちゃうこともあると思うんですよね。養成所では1年間かけて、同期や講師を含めて全員が自分のキャラを作ってくれる。きりの話にも通じますけど、コミュニケーションを取っているとみんなが「神崎竜生ってこういう人だよね」とか「今こう言ったらもっと面白かったんじゃない?」とか、僕のレールをみんなが作ってくれるので、あとはもうそこに乗ったらいい。何もなくても入学しちゃえば、あなたも神崎竜生になれるよと。
飛永 誰でも神崎竜生になれる?
神崎 神崎竜生になれます。あと今、当たり前のようにインタビューを一緒に受けていますけど、飛永さんとしゃべれますから!
──確かにうれしいことですね。
飛永 あえて言うことじゃないけどね。
立石 僕がJCAを選んでよかったなと思ったのは、人力舎に所属するまでの1年間、目指す矢印の方向をずっと変えずに育ててくれたことです。「これを君がやりたいんだったら、こうしたほうがいいよ」というアドバイスを講師の方がしてくれたのが、すごくうれしくて。きりが「やりたいことがある人はJCAに来たほうがいい」と言っていたとおりですし、やりたいことをめっちゃ“太く”してくれる講師の方が多い。周りの生徒もそれぞれが思い描いてる「面白い」と思っているものが多種多様で、それぞれがいい意味で“放っときあってる”。JCAは好きに育ててくれる養成所だと思います。
──最後に飛永さん、お願いします。
飛永 みんなも言っているように、否定せずにのびのびと伸ばしてくれるよさがあるのと、面白い先輩や賞レースで活躍している人、チャンピオンがいっぱいいる。「人力舎の芸人、いいな」とちょっとでも興味を持っている人は絶対に入ったほうがいいです。すぐ先輩と会話できるし、早く伸びると思います。入ってくるのも自由だし、出ていくのも自由。自分のやりたいことができるので、好きな先輩がいたら入ってみてはどうですか?
プロフィール
飛永翼(トビナガツバサ)
1983年2月13日生まれ
出身地:静岡県
スクールJCA10期(2001年デビュー)。同期の大水洋介とともにラバーガールとして活動中。
ラバーガール : JINRIKISHA OFFICIAL WEBSITE プロダクション人力舎オフィシャルウェブサイト
めおしぼたん
立石宙(タテイシヒロト)
1999年11月1日生まれ
出身地:大阪府寝屋川市
神崎竜生(カンザキリュウセイ)
1999年12月14日生まれ
出身地:石川県金沢市
スクールJCA32期(2024年デビュー)
めおしぼたん : JINRIKISHA OFFICIAL WEBSITE プロダクション人力舎オフィシャルウェブサイト
きり
2003年生まれ
出身地:静岡県生まれ、モスクワ育ち
スクールJCA32期(2024年デビュー)


