プロダクション人力舎のお笑い養成学校、スクールJCAが35期生(2026年5月入学)を募集している。この機会に、JCAで講師を務めているラバーガール飛永と、その教え子でもある32期生のめおしぼたん、きりが座談会に集結した。現役の芸人でありながら、後輩の中から「売れっ子を出したい」と指導に励む飛永、JCAのオープンキャンパスで入学希望者の兄貴分的役割を果たすめおしぼたん、そして名門のモスクワ音楽院でピアノの飛び級進学をした異色の経歴で話題を集める、きり。JCAの稽古場にて、彼らにJCA時代の思い出や、飛永から学んだ大切なことなどを語ってもらった。
取材・文 / 成田邦洋撮影 / 小林恵里
スクールJCAとは?
数多くのお笑い芸人を擁するプロダクション人力舎が1992年に開校した、関東初のお笑い芸人養成学校。人力舎のノウハウをもとに、基礎からライブまでの実践型カリキュラムを用意している。
講師陣はお笑い界を知り尽くすタレントや放送作家などのプロばかり。場数を踏むためのライブも幾度となく経験でき、その実力次第では人力舎に所属してプロの芸人としてデビューすることが可能だ。
現在スクールJCAは35期生(2026年5月開校)を募集中。オフィシャルサイトで詳細を確認して、芸人生活への第一歩を踏み出そう。
JCAでは「ここはいいよ」をめっちゃ言ってくれる
──飛永さんは一昨年もJCA特集で話をお伺いしました(参照:今や講師の飛永と高校時代からすごすぎる大水。ラバーガールが語る「スクールJCA」)。その際は月1ぐらいのペースで講師をされていましたが、現在は?
ラバーガール飛永翼 今も変わらず月1でネタ見せの授業をしています。
──この2年間で飛永さんやJCAにどんな変化がありましたか?
飛永 講師をやらせてもらって3年目くらいになるんですけど、「もっといい言い方ができたんじゃないか」とか、反省が年々増している気がして。「もしかしたら、まだ1年目の子に10年目の子に言うことを言っているのかな」とか。「もっと自由でいいのか?」「のびのびさせたほうがいいのか?」と悩むことが増えた気がします。
──教育者としての悩みが増えた。
飛永 そうです。成果がわかりづらいことをやっているので。それプラス、「僕も講師をやっています」というのは芸人としてのキャラクターの一つでもあるから、それを考えたときに、もっと「厳しい先生でした」と言われることを言ったほうがいいのかな、とか、逆に「優しい先生」「楽しい授業」と生徒から言われたほうがいいのかな、と考えて、今めっちゃムズいです(笑)。
──めおしぼたんさんときりさんは飛永さんの授業を受けられていましたか?
めおしぼたん神崎竜生 我々めおしぼたんときりは同期で、毎回のように飛永さんのネタ見せ授業を取っていました。
飛永 僕はめおしぼたんがけっこう好きなんですよ。明らかにバカバカしいことやっている面白さがある。ただ、毎回ライブでウケてるかっていうとあまりウケてない(笑)。
めおしぼたん立石宙 飛永さんが毎回ネタ見せで言ってくださる言葉だけを胸に卒業できました。僕らには、それ以外の拠り所がなかったです(笑)。
飛永 いい感じに言っていたよね。
神崎 そうですね!
立石 僕が覚えているのは「迷ったらガラッと変えなさい」というお話です。僕がネタ見せのあとに相談しに行くと、「前日でもネタがダメと思ったら、そのときに思いついたことが一番面白いんだよ」と言ってくださったのが一番心に残っています。
飛永 めおしぼたんは緻密なタイプじゃないから、ちょっとだけ変えればいいという感じでもないんだよね。
立石 JCAでは、ただ単に「ウケてる、ウケてない」じゃなくて「ここはいいよ」というのを言ってくれる講師の方がめっちゃ多いです。だから仮に人力舎に入れなくても、ほかで面白いことを続けられるんやろうな、という希望はありました。
神崎 JCAの卒業ライブでラバーガールさんにMCをしていただいて、その中でお二人が名前を出した芸人は人力舎に所属すると思っていました。
飛永 そんな権限はないけど(笑)。
神崎 僕らが卒業ライブで「お花見番長」というネタを披露したときに、ラバーガールさんがずっと「お花見番長」の話をしていたので、「じゃあ、もう所属だ」と思いました(笑)。
飛永 あそこで触れたのは、ちょっと情が入っていたかもしれない(笑)。
お笑いのことを知っているのを隠してほしい
──きりさんも飛永さんとの関わりはあったんですよね。
きり そうですね。私もほぼ毎回ネタ見せをさせていただいて、ピンで行くと決めたのは飛永さんがきっかけです。最初に組んでいたコンビを解散して、そこからピンかコンビか迷っていた時期に1回ライブにピンで出たんですけど、あんまりウケなかったんですよ。でも、初めて飛永さんの授業を受けたときに「めちゃくちゃ面白い」と褒めてくださって。「10歳のときから見ていた飛永さんが言うなら、面白いんだ、私!」と調子に乗れて(笑)。そこからピンで行くと決めました。
飛永 正直、きりさんは最初に見たときから「大丈夫だな」という感じで。見たことないネタをやっていましたから。ウケるテクニックって、あとでなんとでもなりますし。
──飛永さんにとってはウケるかウケないか、というよりも「見たことないネタ」だから大丈夫だと。
飛永 そうですね。発想や生い立ちは学べるものじゃないから、それがにじみ出てるかどうかだと思うんです。きりさんのネタは見たことがなかったし、度胸もすごかった。だから「まあ、大丈夫じゃない?」と言ったと思うんです。
きり そうです。「ウケなくてもいいよ」と言われてビックリしました(笑)。
──こちらの2組以外に、飛永さんは最近の生徒さんの中で面白かったネタはありますか?
飛永 “富士山カレー”のネタをやっていた……。
神崎 「シキシマ」ですね。
飛永 ネタの説明が一言でできるし、あんまり見たことがないのは大事だなと。「あの設定、面白かったね」と覚えている。ほかのネタもそういう感じだったんですよね。シキシマはよかったです。
立石 飛永さんから名前が出たらうれしいだろうな。
飛永 「ファズ宮」は、変なツッコミなんだよね。そのツッコミを、もうちょっと強調したら行ける気がする。その子は最初と最後で評価が変わりました。
──継続的にネタを見ているからこその説得力ですね。
飛永 2年前からみんなレベルが高いんですよ。いろんな知識があったりとか、学生芸人やってましたとかで、ある程度できちゃってはいる。ただ、もし次にJCAに入ってくるとしたら、あんまりお笑いを勉強せずに入ってきてほしいなという気がします。「知ってるんだろうな」というのが出ていると、あんまり楽しめなくて(笑)。
立石 「僕、めっちゃお笑いできるんですよ! 知ってるんですよ!」とやられるよりも、めっちゃ変なことしてるけど、その中に技術みたいなのがこっそり入ってるほうが、オシャレということですか?
飛永 そういうことです。やっぱり「知ってることをやってるぞ」となると、こっちも厳しめの目になってしまう。もし知っていたとしても、隠して入ってきてほしいです(笑)。
売れる兆候は、きりがダントツ
──講師として「この生徒は売れる」という兆候を感じるときはありますか?
めおしぼたん・きり 知りたいです!
飛永 どうやって売れるかは、僕も詳しくは知らないです(笑)。結局、ほかの人がやっていないことをやらないといけない仕事じゃないですか。それは教えられないし、自分で見つけないと、きっとあとで困るよね。
神崎 この3年間講師をされていて、光るものを感じたことはあるんですか?
飛永 それはもう、きりさんがダントツ。
きり やったー! うれしい!
飛永 経歴も相まってですよ。女の子が1人で出てきて、あえて暗い照明の中で行く、とかは、それだけで目を引くし。講師もみんなお笑いが好きだから、笑いたいし、変なことをやって欲しいし、楽しみたいんですよ。もし、あまりにも変だったら教えたいことはあるし。
立石 飛永さんは講師の中で一番笑ってくれますよね。ほかの講師の方、ネタが終わったあとに「ここは面白かったからいいと思う」と言ってくださるんですけど、飛永さんはその場で笑ってくれる。飛永さんのネタ見せだけ、お笑いライブみたいな感じでウケるんです。「僕らは芸人の方に、ここがウケるんや」というのは特別感がありました。
飛永 変なヤツって面白いじゃないですか。ネタが面白い以外にも、「あんまりルールがわかってないな」とか「何これ?」とか、そういう笑いもある。
立石 ちょっと意地悪ですよ(笑)。
飛永 それも一生懸命やっているからこそです。お笑い芸人を目指している若者が一生懸命笑わせようとしている。すかしてると、ちょっと鼻についちゃう。
神崎 確かに。めおしぼたんなんて一生懸命ですからね。
飛永 そうそう。一生懸命やる心意気が芸人には大事です。
SNSでの発信、する?しない?
──飛永さんには一昨年、JCA特集に関してTikTok動画を撮っていただきました。今の時代にSNSを芸人はこう活用するといい、みたいなアドバイスはありますか?
飛永 SNSの状況は2年前とあんまり変わってなくて。面白いことやバズることが仕事につながるのは変わっていないので、みんなもっとやればいいのにな、というのはありますね。若い人はネットに強いし、新しいものを取り入れられるはずなのに、なぜかスーツを着てセンターマイクに立って漫才をやっている(笑)。伝統的なものをやるのも大事だけど、もっとやってみればいいのに。
──お三方はSNSどう活用されてますか?
立石 YouTubeにネタをあげていますが、あまり活用できていないです。それよりも人力舎に所属して、いろんなお笑いライブに出られるようになったのが、楽しすぎるんですよね。
飛永 なるほど。
立石 ほかの事務所には、TikTokに面白い映像を上げて実際にお金稼いで生活できているような同期もいるんですけど、「あんまり楽しくないかも」と言っているんですよ。
飛永 金は入るけど。
立石 で、たまに出るお笑いライブでは正直そんなにウケてないけど面白い、と言っていて。僕らは結局ライブのほうが、がんばってる感があるし、その合否もわかりやすい。楽しいから人前に立つ、というほうばかりを考えています。
飛永 それも大事だよね。結局、目の前の人を笑わせるのが一番なのかな。
立石 一番うれしいですね。
飛永 そうか。でもライブは夜にあるくらいだろうし、SNSも同時にやればいいのにね(笑)。
立石 その通りです。
きり 私はSNSというかデジタルに弱すぎて、あまり使いこなせている感じがしないです。今度ソロライブコンサートをやるんですけど、どちらかというと今はそれに力を入れています。
飛永 きりさんはピアノ演奏ができるから、YouTubeでお金を稼げるかも、と簡単には言えるんだけど、そこは本人のポリシーとして「違う」という確固たるものがあるんだよね?
きり ピアノはソロライブコンサート以外であまり弾きたくないなと。
飛永 武器はあるけど、お笑いには使いたくないんだ。もったいないなとは思うけどね。自分にしかできないものをやっていってほしいです。
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人力舎は、好きなことが明確にある人にすごくいい


