さらば青春の光「大三元」|「動員1万人」にリアリティはあるか?演出家・家城啓之と語る単独ライブへのゆるぎない思い

さらば青春の光が今春、東京、愛知、大阪の3会場で4500人以上を動員した単独ライブ「大三元」。この東京最終公演を収めたDVDが9月18日にリリースされた。

動員数だけ見ても2017年の「会心の一撃」、2018年「真っ二つ」と着実にステップアップしているさらば。前回から演出に元カリカの家城啓之を迎え、オープニングのプロジェクションマッピングや、ロケVTRなどの定番に頼らない幕間といったライブ全体のクオリティにもこだわりを持ち始めている。今回の「大三元」は川谷絵音にテーマ曲を依頼し、よりデラックス感のあるライブを完成させた。

本特集には、上り調子であることは間違いないさらば青春の光の“現在地”を確かめるべく、2人へのインタビューと家城啓之を交えた鼎談を掲載する。「目指すは動員1万人」。その景色を見られる日もそう遠くはなさそうだ。

取材・文 / 狩野有理 撮影 / 多田悟

「キングオブコント」卒業でより自由になれた

──前作「真っ二つ」のリリースから今日までの1年を振り返りつつ、今作に収められる単独ライブ「大三元」のお話をお聞きしていきたいと思います。前回のインタビュー(さらば青春の光「真っ二つ」インタビュー)のすぐあとには“ラストイヤー”を宣言していた「キングオブコント2018」がありました。

森田哲矢 すっぱり卒業して、新たな気持ちでこの1年を過ごしましたね。

──4位で終えて、やはり“ラスト”という気持ちは変わらなかった?

さらば青春の光。左から森田哲矢、東ブクロ。

森田 周りにはめっちゃ言われました。「今年も出ろよ」って。でも、「出たとて」なんですよ。「大三元」のネタを「キングオブコント」のために4分とか5分にするって考えたらゲエ吐きそうになりますし。そういう意味では出ないという選択でよかったのかなと思います。

──ファイナル進出最多コンビでもありますし、卒業してしまうのはもったいない気がしますが。

森田 いつか獲れたらいいなとは思います。だから“完全卒業”っていうことではなくて、「これで獲れる!」っていうネタができたときにはもう一度参加するかもしれません。

東ブクロ 「キングオブコント」のためだけにネタを仕上げる作業はもうしないっていうことですね。

──「キングオブコント」に出場しないとなると、その分気持ちが楽になるものですか?

森田 「大三元」に関して言えば、意識しなくてよくなったのでいつもより自由に作れた気はします。今までは「こんな大きいセット(キングオブコントでは)無理やろ」と思ってやめることもありましたけど、今回は全部やりたいようにやらせてもらいました。

東ブクロ あと、「今年はテレビで観られるんや」っていう楽しみもありますね。

──確かに!

東ブクロ 2016年に2回戦落ちしたときもテレビで観たんですけど、そのときは「これをテレビで観なあかんのか……」っていう悔しさがあって。今年は普通に賞レースをテレビで楽しめるのでワクワクしてます。「誰が上がってくんねや?」とか予想しながら。しかもけっこう後輩ばっかりになるでしょうから、新鮮な感覚で楽しめるんじゃないかなと。

──賞レースで言うと、東ブクロさんは趣味のゴルフネタで「R-1ぐらんぷり2019」に挑戦していましたね。

森田 あ、そうやわ! その話があった。ブクロ、1回戦終わりでプラチナムプロダクションのマネージャーから声かけられたんですよ。

東ブクロ そうそう(笑)。1回戦は別にウケもスベりもしてへんくらいの感じだったんですけど、劇場を出たら名刺渡されて「うちの事務所どうですか?」って言われて。

東ブクロ

森田 よっぽど光ってたんでしょうね。引き抜かれそうになったんです(笑)。

東ブクロ 個人事務所をやっているからとお断りしたんですけど、それも知ったうえで「芸人第1号になってくれませんか?」と。ただ僕、普通に2回戦で落ちてますからね……。

森田 行ったらよかったのに。コンビの片方“プラチナム所属”っておもろいじゃないですか。有名女優、有名モデルしかいない事務所で、男性タレントお前と金子賢さんくらいやで。

──(笑)。そもそもどうして「R-1」に出場したんですか?

東ブクロ コンビでYouTubeの生配信をやっていて、その企画として。ネタのアイデアも視聴者から募集しました。

森田 1回戦当日、心配したマネージャーと作家の2人が楽屋にずっと付きっきりだったらしいんですよ。「ブクロ、ゆっくりしゃべれよ」「はっきり、ゆっくりしゃべれば大丈夫やからな!」って励まして。で、恥ずかしかったんでしょうね。ブクロが親に言うみたいに「もうええねん! 向こう行けや!」って(笑)。

東ブクロ 舞台袖までついてくるんですもん。

大食いロケに呼ばれるも、全然食べられない

──そのほかにこの1年での大きなトピックは?

東ブクロ 事務所を移転しましたね。五反田から五反田へ。

森田 今まで五反田駅徒歩10分だったのが、今はもう徒歩1分。家賃3倍、広さも3倍になって。

東ブクロ 無駄にソファ5つくらい置いてるんですよ。僕はお笑いの事務所でこんな広さいらんと思うんですけど。

森田 いいんです、広いほうが。会長(事務所で飼っている猫)も快適そうにしています。

──会社も成長しているわけですね。個人だと、森田さんはモルック世界大会に出場したり、音楽フェスに足を運んで出会いを求めてみたり、SNSで頻繁に発信されているので活動的な様子を確認できるのですが、東ブクロさんって何されているのか本当に謎で……。

森田 そうでしょ? つまり何もしてないんですよ、ゴルフ以外。ゴルフインスタはやらしてるんですけど。

東ブクロ 「やらしてる」って(笑)。僕が人様に発信するようなことはないんです。

森田 ゴルフはベストスコア更新してたよな?

東ブクロ 今年もう86ラウンドしてますから(インタビューは8月下旬に実施)。あと3カ月でどこまで行けるかっていう挑戦です。コントよりはるかにゴルフをやっている回数のほうが多い。ロケも行っていないのにここまで日焼けしてるコンビいないですよ。

森田 ゴルフ焼けとモルック焼けです(笑)。

さらば青春の光

──仕事に関して言うと、以前よりも確実にテレビ出演の機会が多くなっていますよね。

森田 自分たち的にはけっこう出してもらったなって感じはします。それこそ「ロンドンハーツ」「アメトーーク!」「水曜日のダウンタウン」とか、メジャー番組でありちゃんとお笑いの番組に呼んでいただけているのはうれしいです。

東ブクロ 大食いのロケも行きましたしね。

森田 「有吉ゼミ」ね! あれは二度と呼ばれないと思います。全然食われへんかったもん(超メガ盛り4色パスタ総重量4.34kgに対し、食べたのは森田1.2kg、東ブクロ1.4kg)。

東ブクロ でもそういうゴールデンの番組にも出られたっていうのは達成感があります。

次なる課題は「おしゃれさ」

──「真っ二つ」も、それを上回る規模で開催した今回の「大三元」もチケット即完だったとお聞きしています。以前話していた“集客”という課題はすでにクリアできているのではないでしょうか。

森田 そうですね。前回よりも先行の応募が多かったですし、徐々に増えてきている手応えはあります。初めてお笑いライブに来たっていう方も多くて、客層がわりとバラバラになってきているかな。

東ブクロ 比較的男性のお客さんが多いコンビだったんですけど、男女の割合も平らになってきた。親子連れもいらっしゃいましたし、老若男女いいバランスで観ていただけるようになりましたね。

──では次のステップとして「大三元」にはどんな目標を持って臨んだのでしょうか。

森田 まあ……おしゃれさでしょうね。

東ブクロ いやいやいや、結果的におしゃれになったっていうだけやろ(笑)。森田なんて、そういうの一番嫌ってたんですよ。「コントはパイプ椅子2つあったらできる」みたいな。

「さらば青春の光 単独LIVE『大三元』」フライヤー

森田 そんな考えはもう捨てました。見てください、このフライヤー。おしゃれでしょ? 麻雀牌をモチーフにしているから猥雑になりそうなもんじゃないですか。それを天才デザインというデザイン事務所のケイモト(シュンスケ)さんが、うまいこと粗さも残しつつおしゃれな感じにしてくれて。そこからこの単独の“勝ち”は見えていましたね。

東ブクロ 4カ月前から? ネタもできてへんのに?(笑)

森田 そしてオルタナティブシアターという素晴らしい劇場を借りて。……いや、ここだけの話、むちゃくちゃ小屋代高かったんですよ! 僕もプロデューサーからあとで聞いて腰抜かしたくらい。

東ブクロ これだけ動員集めて、グッズも売れて、周りの芸人から「めっちゃ儲かってんねやろ」って言われるんですけど、これは本当に伝えたい。マジで儲かってへん!(笑)

森田 でも、めちゃくちゃカマせたとは思います。お笑いライブなんてめったにやらない、海外から来たミュージカルを上演するような劇場なんですよ。昔から知ってくれているファンの方も「こんなところでさらばがやるようになったかー」って感慨深かったんじゃないですか?

──オープニングの、麻雀牌っぽいセットを使ったプロジェクションマッピングもおしゃれでした。

森田 はいはいはい、思うつぼですわ(笑)。

東ブクロ すべて家城(啓之)さんの力ですけどね。

──家城さんは前回の「真っ二つ」から演出家として携わっています。演出面のコンセプトは家城さんと相談して決めているんですか?

森田 けっこう家城さんにお任せしている部分が多くて、何も言わずともおしゃれにしてくれます。演出がおしゃれすぎるので、ネタだけでも悪意に満ちたものにしないと逆に鼻につくなっていうことで今回はアクの強いネタが多かったかもしれません。

東ブクロ そもそもおしゃれなネタはやろうと思ってもできないやろ(笑)。

──ネタについて家城さんから意見が出ることはありますか?

森田 ほぼないんですけど、「スカウト」にBGMを入れたのは家城さんのアイデアです。ネタの内容というより、全体の見せ方について意見をいただくことはあります。

東ブクロ 音とか照明のことがあるので、ネタができるのはずいぶん早くなりましたね。4年くらい前までは当日にあと3本できてないってことも平気でありましたから。

森田 今それやったら技術さんにボコボコにされるわ。

──ネタにはそのときの自分のモードや考えていることを投影しているんでしょうか。

森田 メッセージ性は1つもないんですけど、思ったことをネタに昇華している感覚はあります。例えば「パンのむらた」は、代々木上原あたりに僕らには用のない雑貨屋みたいな店ってあるじゃないですか? 「なんや、この富裕層しか買わないちっさいサボテンは?」っていうものが売っている店。それを見たときに、「この店が潰れてピンサロになったらどうなるんやろ?」って思って。

──そこから発想を膨らませていくんですね。

森田 そうです。そして東ブクロに「ピンサロ経営しに来る奴やって」と言えば、あとはサイコ感を勝手に出してくれる。今回もブクロのサイコが光ってましたねー。「サラリーマン川柳」とか「食の匠」とか。

──「金曜の100倍」はこれまであまり見たことがなかった、かわいらしい森田さんの動きが印象的でした。

森田 思いのほか動いちゃいましたね。動けば動くほどウケるので。今回、このネタが最後にできたんですよ。

東ブクロ 1本足りないってなって、中身を決めずに、とりあえずオチだけ決めて動いてみてっていう作り方で。

──特典映像も含めると、DVDには11本ものネタが収録されます。

東ブクロ 特典映像に収められている凱旋公演の「終電逃させ屋」には僕ら以外の人も出てきます。普段はあまりエキストラを使うネタをやらないので新鮮でしたし、何より川谷絵音さんもコントに参加してくれているのはかなり貴重だと思いますね。

森田 絵音さん作曲のテーマ曲もこのDVDだけでしか聞けませんから。「リリースしない」って舞台上で約束したんで(笑)。ゲスの極み乙女。とindigo la Endのファンの方にもぜひ観ていただきたいです。

観に行ったことを自慢したくなるような単独ライブに

──さらば青春の光の単独ライブはコントとコントの幕間にVTRを挟まない構成も斬新です。

森田 ネタ、VTR、ネタ、VTRという流れが単独ライブとしてはタルいなとずっと思っていて。単独の世界観が最後まで続いて、「あっという間だった」と思わせたいっていうのは家城さんも同じ意見だったので、VTR以外で何かできないか考えていたんです。

──ネタがあってVTRがあって……という形が定番化している中、新しい試みだと思いました。

森田哲矢

森田 新たな定番を作った奴が勝ちなんです。でもそれはまだ僕らも見つけられていない。幕間って、要はネタとネタの間を埋めて、お客さんを飽きさせなければいいわけじゃないですか。だから最初、「ガチのライオン置いてるだけで見ていられるよな」って本物のライオンをレンタルしようかと話していたんですけど、さすがにそれはやらなくてよかったです(笑)。

──集客力をつけ、おしゃれさも身につけたとき、さらば青春の光としてはどんなスタイルで活動していきたいですか?

森田 理想は東京03さんですね。純粋にネタがめちゃくちゃ面白いっていうだけじゃなくて、それ以外の、「東京03のライブに来ていることへの価値」って絶対あると思うんです。ステータスというか。僕らもお客さんにそういうふうに思ってもらうにはどうしたらいいんだろうっていうのは常に考えています。そこで前回から家城さんに演出してもらったり、川谷絵音さんにテーマ曲を作っていただいたりしていて。「さらばのライブを観に行った」と自慢したくなるような付加価値をつけることには金を惜しみたくないと思っています。

──「大三元」の凱旋公演では次回公演のお話も出ていました。草月ホールで1週間ほど上演するとか。

森田 そうですね。行く場所も増やそうかっていう話もしていて、次回はもう少し遠くに行きたいなと思っています。

──目指しているステージへ着実に進んでいますね。

森田 そこへ行くには、やっぱりもうひと段階上のおしゃれさが必要なんです。富裕層女子を引きつけるおしゃれさが!

東ブクロ それはもう僕らが僕らである限り無理だと思いますね。この2人のポテンシャルでは限界見えてるんで(笑)。

さらば青春の光

──このインタビューのあとには家城さんをお呼びして鼎談を行います。どんな話をしたいですか?

森田 来年もやってくれるのかっていう、契約の話を(笑)。まず事務的な確認をしたいですね。

東ブクロ あとは、あまり打ち上げでもお話しできなかったので、単純に公演の感想を聞きたいです。