最初の演出は探り探りだった
──前回の「真っ二つ」から演出家としてさらば青春の光の単独ライブに携わっている家城啓之さんをお迎えしました。せっかくの機会なので、さらばのお二人から家城さんへ聞きたいことはありませんか?
東ブクロ 2年ほどのお付き合いになりますけど、実はずっと思っていたことがあって。カリカ(家城が組んでいたコンビ)さんのコントと僕らのコントの雰囲気って全然違うじゃないですか。自分とタイプが異なるコンビの演出を担当することに違和感はないですか?
家城啓之 いや、違和感とかやりにくさはないよ。俺らの単独は途中から1本ものになっていって、お芝居に近い感じだったんだけど、それはもう全然別ものだと思っているから。ただ、外部の演出を入れるのは森田くんにとって前回が初めてで、俺もどこまで踏み込んでいいのか探り探りの部分もあったかな。
──家城さんの舞台を観劇した森田さんからオファーがあったんですよね。どんな依頼だったんですか?
家城 今までの自分たちにはない、しゃれた雰囲気を出してほしいっていう希望でしたね。でもまずタイトルが「真っ二つ」っていうのが気になって。昔、よくないタイトルを付けて本当によくないことが起きたっていうのが2回くらいあったんです。だから名前やタイトルの意味ってすごく大事だと思っているんですけど、「真っ二つ」で検索したら悪い画像しか出てこなかった(笑)。そこで、さらばの2人、そしてさらばとお客さんが“真っ二つ”にならないように演出の中でお守りを作ろうと思ったんです。幕間はコントとコントをつなぐブリッジでもあるし、“くっつける”演出ができないか考えて、エキストラを用意してセリフも言わせようとしたんですけど、そのときの森田くんの拒否反応たるや!
森田 あはははは(笑)。
家城 「演出任せます」とは言っていたものの、「人出すんかい!」っていう反応がすごかった(笑)。
森田 「単独ライブ」とか言ってそのコンビ以外の人が出ているのを見ると、単独じゃないやん!って思っちゃうんですよ。
家城 そのこだわりもわかる。
東ブクロ 僕も正直、「あれ? 人出すんや」っていう感覚はありました。
家城 それを俺はビリビリに感じてて。本当はセリフありでやりたかったんだけど、「人は出てもいいけどさらば以外の声はお客さんに聞かせたくない」っていう圧力が……(笑)。それで折衷案として文字でセリフを映し出したんだけど、逆に気取った感じになりすぎた。今までのさらばファンからすると急激にテイストが変ったから、お客さんからの拒否反応も感じたんだよね。
東ブクロ びっくりしたんでしょうね。今までそういうのを全然やってこなかったから。
家城 そう。で、地方公演ではセリフがあってもいいと皆さんから許可をいただいて(笑)。
東ブクロ 僕らのご機嫌伺いながら(笑)。
家城 だけど1回やって傾向がわかったから、「大三元」はやりやすかった。こういうことをやればお客さんの期待を裏切らず、ネタも殺さずにできるなっていうラインがつかめましたね。
東ブクロに期待するタレント性
──「大三元」は全員が満足いくものになった。
森田 そうですね。「大三元」だってむっちゃおしゃれだったんですけど、嫌な感じはまったくしなかったです。整合性があるというか。唯一気になったのは、幕間に流したブクロのゴルフ映像ですかね。
東ブクロ あれだけは評判が悪いです(笑)。
家城 あれは、俺の中で“越権行為”に近いんだけど……。さらばがタレントとしても活躍していくには、「ブクロさんってこういう人だよ」って伝えるべきだと思っていて。
──「こういう人」というのは?
家城 俺はブクロさんを「石田純一と仲がいい」みたいな雰囲気で売り出したいと思っているの。
森田 どういうことなんすか(笑)。
家城 2人のコントは面白いし、好きな人にはちゃんと届いていて、お笑い界でのポジションも確立していると思うんだよ。でもタレント性だって十分あるから、「ストイックにネタやります!」ってコンビじゃなくて、お互いキャラクターを生かして活躍してほしい。森田くんはゲス、下世話好きみたいなイメージがあって、じゃあブクロさんは?ってなったときに、俺は叙々苑のゴルフ大会とかに顔を出せるような存在になったらいいんじゃないかなって思ってる。
森田 あはははは!(笑) 当たり前のような顔してね。
家城 そうそう。ポテンシャルはあるはずなんだよ。
東ブクロ そのキャラづけを単独の中でやってくれたわけですね。
家城 うん。だからマネージャーさんに対して失礼な越権行為だったなとは思ってるよ。東ブクロっていうタレントのプロモーションは俺の仕事じゃないから。
森田 プロモーションだったとして、お客さんに刺さった、刺さってないで言えば……半々やな。
一同 あはははは!(笑)
東ブクロ まあでも、ネタより何よりまず「あの映像、何?」って聞かれはしましたけどね。興味は持ってもらえているのかもしれません。
家城 ブクロさんにはホストの雰囲気もあってほしいんだよ。「森田さんカッコいい」って言ってくる女性は少ないわけでしょ?
森田 インタビューの場でようそんなはっきり言ってくれますね!(笑)
家城 ブクロさんのファンが一定数ついてくることは、今後単独のキャパを大きくする意味でも大事だと思うな。
森田 ワーキャーってこと?
東ブクロ (神妙な顔で)そこを僕が担わなあかんってことですよね。
森田 おいおい、なんか自覚持ち出したよ!?
家城 これはビジネスとしてだから。ブクロさんが本心でそうしたいかではくて。
森田 ケープの本数がどんどん増えるだけですよ。
家城 増やしていこう! それこそケープがスポンサーにつくくらい。カリカがそういうタレント性とかを一切見ないでやってきたっていう後悔もあるからさ。マネージャーさんの仕事ではあるんだけど、単独の来場者がさらばに一番近いお客さんなわけで、その人たちの見方が変わることが大事だと思うし、俺が単独内でやれるのはそういうことだから。
メディア露出が増えても変わらないストイックさ
──家城さんは今回の単独ライブではどのネタが好きでしたか?
家城 全部秀逸で好きですけど、否応なしに笑っちゃうのは「パンのむらた」。ブクロさんのサイコが全開だから。「スカウト」も好きで、どっちのネタも森田くんの人間的な性格の悪さが出てるんですよね。
森田 そうですか?
家城 森田くんって世の中に対して最悪な見方してるなーと思うんだよ。
森田 いやいや、あるあるを言ってるだけですから。
家城 そういう、森田くんの作り手としての視点の面白さではその2本が好きかな。オープニングコントから川谷絵音くんの音楽への流れもすごくいいよね。
──単独ライブを2年にわたってご覧になって、さらばの進化は感じますか?
家城 まず「真っ二つ」に入ったときに思ったのは、とにかくストイックだなっていうこと。公演が始まってからも、次の公演の直前まで、そして終わったあと、2人の作家さんを交えてずっとネタを詰めていて。でも「大三元」までの1年でかなりメディアの露出も増えて忙しくなって、今回はどうなるかなって思っていたら変わらずだった。もうちょっと調子に乗ってもおかしくないと思うんですけど、その変わっていないところのすさまじさは感じましたね。
森田 単独ってむっちゃ怖いんですよ。特に僕らを観にくる出待ち0のお客さんなんて、純度100%のネタにしか興味ないですから(笑)。そんな人たちの前でやるってめちゃくちゃ怖いので、それはもう詰めに詰めますよ。
家城 でもすごくいい客層だよね。若い女の子もいれば、落語を観に行くような40代くらいの男の人もいれば、友達同士もいればカップル、ご夫婦で来ている人もいて。槇原敬之さんのライブを観に行ったときの客層に近かった。
森田・東ブクロ あはははは!(笑)
森田 僕らもうマッキーの領域ですか?
東ブクロ しかもマッキー、僕の高校の先輩ですからね。どこか通ずるものがあるんでしょう(笑)。
家城 ちゃんと先輩の背中見て育ってるよ。アンケートやTwitterをチェックしていると、「こらえきれずに途中から笑いが止まらなかった」って書いている人がいて。誰と来ているかわからないけど、「パンのむらた」みたいなエロの要素があるネタにあんまり大口開けて笑えない人もいるわけじゃない。それが「こらえきれなかった」って。
森田 ブクロのサイコ感に、笑わずにはいられなかったんでしょうね。
家城 やっぱりサイコっていうのはベースが洒落てなきゃいけないのよ。ジェントルの奥に見えるサイコじゃないと。汚い感じにしたらダメ。
森田 確かに。僕がやったらただのエロいおっさんになっちゃいますもんね。
家城 だからやっぱりブクロさんにはきれいなスーツで、ハットかぶって、絶えずモノポリーのキャラクターのイメージでいてほしいわけよ。
東ブクロ ネタにも反映できるように僕はそのへんを磨かなあかんってことですね(笑)。
家城 もしかしたら来年はブクロさんがハットかぶってスーツ着て、東京を歩いている映像だけでもいいのかもしれない。
東ブクロ なんのこっちゃわかんないですよ!(笑)
どれだけ忙しかろうが単独は絶対にやりたい
──森田さん、家城さんから来年のお話が出ましたね。
森田 あのー、来年の契約の話ですけど……。
家城 あはははは(笑)。カリカは一番多いときで3000人前後集めたと思うんだけど、やっぱりさらばが1万人動員するところを俺も見たいんですよ。それは、おじさんが自分の叶わなかった夢を若い人に重ねるっていうことよりは、日本でトップクラスの芸人に演出家として呼んでもらえて、自分もちゃんと成長しながら一緒に1万人を達成できたらなっていう気持ちが強い。
森田 ありがたい!
東ブクロ じゃあ、それまではお付き合いしてくれるってことですよね。
家城 よろしくお願いします。
──さらばはいつか本当に1万人動員できるでしょうか?
森田 そもそも、こんなきったない3人で今4500人動員してるってすごくないですか?
家城 おい、俺入れんな!(笑)
森田 いやいや一番汚いじゃないですか(笑)。でもそれがおもろいなと思うんです。こんなきったない奴らが作った単独でこれだけ動員できるって。僕らが「1万人規模目指そう」なんて言う日が来るとは組んだ当初は思ってもいなかった。むしろ単独なんて1000円、なんならタダでも見てくれる人がいるだけでええわって言っていた人間ですから。そこのリアリティは、今現在は全然ないんですけど、「こんな奴らが1万人いったで!」って自分でも驚いてみたいですね。
家城 そこに到達できる数少ないコンビだと思うよ。あと、2人はテレビもガンガン出たいって言うじゃん。実際はテレビと舞台、どっちかに重心を置いたほうが活動しやすいとかあるの?
森田 テレビも出たいですけど、単独ライブだけは絶対に毎年やりたいですね。どんだけ忙しかろうが、単独のために時間は使いたい。
家城 軸なんだね。でももしテレビが忙しくなって、単独の規模も大きくなっていったら、ゴルフをやる時間が……。
東ブクロ そこですよね。ちゃんとええバランスでやらんと心身の状態が保たれないので。
森田 年間125ラウンド行かないと心身保たれへんってなんやねん!
家城 心身のどっちかの“しん”が壊れるでしょうよ、125も行けば。
森田 でも僕らがテレビでバカ売れすることはないはずなので、ずっといいバランスでできるんじゃないですかね。単独ライブって、明確に僕らにお金を使ってくれている人たちの前に立つ唯一の機会じゃないですか。やっぱり身が引き締まるし、それをやめたらあかんなと思います。