ダウンタウンをはじめとしたスターを多数輩出しているよしもとの芸人養成所・NSCが来年度の新入生を募集する。そこでお笑いナタリーでは「M-1グランプリ2018」で爪痕を残したラストイヤー組からジャルジャルとプラス・マイナスによる同期対談の場を用意し、“笑いの学校”NSCでどんなことを得られるのか思い出を交えながら語ってもらった。
史上最年少王者の誕生に沸いた「M-1」の舞台裏で、熱い思いを寄せ合っていたという2組。ジャルジャル福徳は、自身が優勝を逃したことよりもプラス・マイナスが決勝に上がってこなかったことが悔しかったと吐露する。まだ何者でもなかった頃から知る“NSCの同期”はそれほど特別な存在なのだ。
取材・文 / 狩野有理 撮影 / 多田悟
授業中のメールがいつしか漫才に
──NSC大阪校25期(2002年入学)の卒業生は、お二組のほかにも銀シャリ、アキナ秋山さん、クロスバー直撃、もりやすバンバンビガロさん、吉本新喜劇の信濃岳夫さんなど多彩な顔ぶれですよね。昨年2018年はちょうどデビュー15年で「M-1グランプリ」ラストイヤー、節目の年だったと思います。そんな同期のお話はのちほどお聞かせいただくとして、まずはNSCに入学した経緯を聞かせてください。
プラス・マイナス兼光 僕は岩橋と高校の同級生で当時からすごく仲がよくて、大学は別々でしたけどよく遊んでいたんです。その延長で素人でも参加できるお笑いオーディションを月1回、遊び感覚で受けていました。それで大学4年の頃、僕は就職が決まっていたんですけど「NSC行かへんか?」って岩橋が誘ってくれて、悩んで悩んで悩んだ挙げ句、就職を蹴ってNSCを選びました。
ジャルジャル後藤 バーミヤンやんな。
プラス・マイナス岩橋 あとパソコンのアビバね。
──どちらも有名企業ですね。
ジャルジャル福徳 断って、会社に怒られへんかった?
兼光 怒られたよ。「はあ?」って言われた。
後藤 そらそうや!(笑)
岩橋 こいつ内定式も出てますからね。
兼光 (内定式会場の)東京までの交通費も出してもらったのに。申し訳ないです。
後藤 それまでめっちゃ真面目な奴やったんやろ? 面接でも。
兼光 そうそう。あ、でも面接ではモノマネやったりもしましたね。
福徳 NSCの面接でもモノマネした?
兼光 んー、やったかなあ?
後藤 なんでNSC覚えてなくてバーミヤンだけ鮮明に覚えてんねん(笑)。
──そんな兼光さんを誘った張本人の岩橋さんはなぜNSCに行こうと思ったんですか?
岩橋 大学を卒業できなかったからです。全然単位が足りなくて、このままやと卒業するのに8年くらいかかるって途中でわかって諦めました。サークルで年下の会長に偉そうにされるのが嫌やったんで。素人時代から兼光とお笑いのオーディションを受けていたから、NSCに入るのも軽い気持ちでしたね。
後藤 岩橋はそれでもええけど、兼光はとばっちりやなあ(笑)。そこまで順調に来てたのに。
岩橋 ほんまに(笑)。でも判断は委ねようと思って、強引に誘ってはないよ。
兼光 お笑いをやってみたい気持ちもあったので、誘いに乗っちゃいました。
──ジャルジャルのお二人も高校の同級生で、揃ってNSCに入学したんですよね。
後藤 僕らは高校の頃、誰に見せるでもなく2人だけでネタ合わせみたいなことをやっていたんです。それがあって自然と卒業したらお笑いやろうかっていう雰囲気になりました。
福徳 授業中にメールを送って笑かし合いをしてたんですよ。で、休み時間になったら「あのメールでわろた?」って聞きに行っていました。
岩橋 うわーそんなことしてたんや。俺らのときはポケベルやったから。
福徳 同期やのに時代がちゃう(笑)。で、だんだん「紙に一言だけ書いて、11時になったら見る」っていう遊びになり、いつしかそれが漫才の台本になって、「試しにやってみる?」みたいな始まりでしたね。
──「お笑いをやろう!」という大きい決断というわけではなかった?
後藤 でも大きかったと思います。「やりたいこと見つかった!」っていう感覚はありました。
兼光 2人は大学行きながらNSCに通ってたんやな?
後藤 そうそう。僕ら大学の付属高校で、親からしたら「なんのために付属高校に行ったんや!」ってなる。だから大学だけは卒業しようと思って。
──福徳さんは親に反対されませんでしたか?
福徳 まったく。「大学行ってくれたら全然いいよ」って。NSCの入学金と自動車教習所のお金をいっぺんに借りました。
──けっこうな大金になりますね。
福徳 「売れたらすぐ返すわ」ってビッグマウスで借りました(笑)。
──大学にも行きながらNSCに通うのは大変ではなかったですか?
後藤 全然大丈夫でしたね。兼光ももしかしたら就職しながら行けたんちゃう?
福徳 それは無理やろ(笑)。
マイナスポイントが武器になる
──みなさんの代は「M-1グランプリ」第1回大会の翌年だったということもあって700人近い入学者がいたそうですね。
岩橋 (入学式の会場の)なんばグランド花月がいっぱいやったもんね。
福徳 「ここにおる全員おもろいんや」ってちょっとビビりました。あ、そういえば1人変な奴がおったの覚えてる? 急に手挙げて、ゲストで来ていたキングコングさんに「絶対売れるんで俺のこと覚えといてください」って言うた奴。新喜劇コースの。
兼光 そんな輪を乱す奴が新喜劇コースかい!(笑)
後藤 時代的にけっこう威勢のいい奴が多かった気がしますけど、そういう人たちはほんまにすぐおらんようになるので、入学を考えている人は安心してください(笑)。
──ジャルジャルとプラス・マイナスはいつ出会ったんですか?
後藤 入学してすぐは適当なクラス分けで、夏頃に実力順のクラスになってそこからですね。
福徳 プラマイはもう衝撃でした。最初のネタ見せの瞬間はいまだに忘れられないです。
後藤 結婚式のネタな。
福徳 神父さんが「あなたたち2人は、ショボーイ」って。あれは衝撃!
岩橋 あっはっはっは!(笑) よう覚えてるなあ。
福徳 「こんな奴らおるんや!」って驚いて、家帰ってすぐオカンに報告しましたもん。入学してからずっと「おもんない奴ばっかりやから俺らすぐ売れるわ!」って大口叩いていたんですよ。でもプラマイのネタを見たら「ちょっとヤバイ奴おったわ。もしかしたら(売れるまで)時間かかるかも」って本音出ましたね。
──プラス・マイナスはすでに完成されていた?
福徳 今のプラマイです、ほんまに。
兼光 成長してないってこと?(笑)
後藤 基礎ができてるというか、当時から素人感がなかったよ。
岩橋 僕はジャルジャルが衝撃でしたけどね。やっぱりほかの人のネタには笑うもんかっていう雰囲気が少なからずあるんですけど、ジャルジャルのネタだけは絶対わろてまうんです。型にはまっていないし、しつこいし、自分たちの道を行っていて。
福徳 でもめちゃめちゃ先生の言うこと聞いてネタ直してたよ。
兼光 オチも変えてたよな。「あ、言う通りにやってる!」と思ってた(笑)。
福徳 我がないやろ?
──以前、銀シャリのお二人にお話を聞いたところ「当時はジャルジャルとプラマイの2強だった」とおっしゃっていました(参照:NSC特集「M-1」王者・銀シャリインタビュー)。
福徳 まあまあ、確かにその節はありましたかね(笑)。
後藤 卒業公演ではプラマイと僕らがMCしてました。でもやっぱり僕らの代はプラマイでしたよ。
福徳 コントブロックのトリはジャルジャル、イベント全体のトリはプラマイ、みたいな。
──お二組のようにNSC入学前からお笑いに取り組んでいる人は少ないと思います。0から始めるという人たちもNSCに通うことで面白くなれるのでしょうか?
兼光 真面目にちゃんと向き合っていれば面白くなりますよ。NSCで教えてくれる全部が売れる要素につながっているなって、15年やった今だからこそ感じますね。
福徳 義務教育みたいに厳しくないから、自分次第なところは大きいです。正直、最初は全員おもんないんですよ。でもそれはいわゆるテクニック的な、ちゃんと“お笑い”ができていないというだけで。本当は全員おもろい素質があるのに、サボり癖がある人はそれに気づかないまま辞めてしまう。
岩橋 デブ、ハゲ、チビ、僕で言うとクセとか、自分のマイナスポイントが武器になるっていうのを教えてくれる場所なので、芸人にならなかったとしてもそれからの人生に生かせると思いますし。“面白い人”にレベルアップできるんちゃいますか?
福徳 僕らの高校の同級生でもう1人NSCに入った奴がいたんですけど、そいつ今、学校の先生やってます。先生もそうやし、会社のプレゼンとか、人前に立つ仕事ではNSCに行ってたことがアドバンテージになりそう。
岩橋 辞めて社長になったとか、芸人以外で成功している人も多いです。
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プラス・マイナスは一度解散していた
2019年2月19日更新