最高の理解者、中川パラダイス
村本 僕は浮き沈みが激しくて、すごくいいときは、ほんとにスキップしてるんですよ。たとえば漫才で新しいこと思い付いたときとか、目に見えてピョンピョン跳ねてますから。椎木くんはどういうときに、テンションが上がるの?
椎木 いいライブをしたときよりも、村本さんと同じように、いい歌詞とかいいメロディができたときですかね。逆にうまくいかないときは、メンバーを前にしても黙り込んじゃいます。でもメンバーの2人(山本大樹 / ベース・コーラス、山田淳 / ドラムス)は、そこでの僕に対する扱いが絶妙なんです。そのままそっとしておいてくれたり、逆にめちゃくちゃかまってくれたり。僕がスキップしてるときは一緒にしてくれるし。
村本 なるほど。My Hair is Badの音楽を聴いていると、特に椎木くんの書く歌詞に思うんだけど、すごくピュアで純度が高い。だから、めちゃくちゃ浮き沈みもあるんじゃないかと思ってたんだよね。そこでいいメンバーに恵まれてるのは、幸せなこと。俺も、落ちてるときは本当にダメで、人に当たったり、誰も寄せ付けなかったりする。そんな感じだから誰も近寄ってこない。そこで、最高の理解者が相方のパラダイス(=中川パラダイス)だから。全部わかってくれてる女房みたいな存在で、ちょうどいい距離感を保ちながらいいタイミングで接してきてくれる。もし、あいつも俺と同じ感じだったら、常に喧嘩だよね。めちゃくちゃ助けられてる。
椎木 パラダイスさんのことをそう思ってるのは意外でした。お二人それぞれが1人で話す独演会でも、パラダイスさんが出番のときは、添削してるじゃないですか。「それは違う」とか、「今のいらん」とか。そういう厳しいイメージが強かったから、女房役という言葉が聞けて、すごくうれしいですし素敵ですね。
村本 パラダイスを突き放してコケにする自分も、パラダイスに感謝してる自分も、どっちも本当なんだよね。言葉で一括りに説明はできない、不思議な関係。
椎木 パラダイスさんとの付き合いは何年ですか?
村本 10年になるかな。最近まで海外に行ってたから、コンビ活動は2カ月休んでたの。そのあいだ、パラダイスはファンから依頼者の言い値(3000円以上)でなんでもやる企画をやってた。家屋の解体とか、ゴスペルを歌うとか、スキューバーダイビングとか。俺はお笑いしかやりたくないから、絶対にそんなことできない。「何してんねんこいつ」って思ってたよね。でも、パラダイスがそんな感じでなんでもやるタイプだからこそ、俺みたいな、こんなややこしい人間と組めてるんだとも思う。椎木くんはそういう関係性でいうと、メンバーとはどんな感じ?
椎木 僕が作ったものに対して1回は信用してくれて、僕の思ったようにやってくれます。で、僕がちょっと心配になって2人の本当の気持ち聞いていくと、違和感があったときは率直な意見を言ってくれます。
無関心すぎるやろって怒ることも
村本 コンビだと、ネタを書いた生みの親とそれを一緒にアップデートしてくれる伴侶みたいな存在がいるから、そこのバランス関係でよく喧嘩になる。俺のネタはパラダイスという相方がいて成り立つことはわかってるんだけど、たまに「金もらってるくせに無関心すぎるやろ」って怒ることもあって。
椎木 わかりますよ。でも、そこで僕も最近気付いたんです。高校の頃からずっと一緒にやってて、みんな特別上手じゃないんですけど、3人集まるとMy Hair is Badなるものになるらしいって。最初は僕が曲を作って歌ってるし、バンドの顔としてやってるみたいな感じだったんですけど、やっぱり3人でMy Hair is Badなんですよ。だから今はバンドとして一番いい状態です。そもそも、生みの親ということでいうなら、2人はサウンドに対しては、自分もやるからいろいろ思うことはあるんでしょうけど、僕が書いた歌詞にはまったく興味がないんですよ。でも、そういうことも「まあいいや」って、むしろ干渉してこないぶん楽だって思えるようになりました。
村本 本当にそれでいいの?
椎木 最初は寂しくて、共感してほしいとか、口ずさんでほしいって思ってましたけど。今は別にいいですね。
──前に私がMy Hair is Badの椎木さん以外のメンバーお2人に歌詞のことを質問したら、山本さんは「信頼しきってます」という答えで、山田さんは「ピンポイントで言い回しとか好き」とおっしゃるので、「どこが?」と返したら「今は出てこない」って(笑)。
村本 それ、パラダイスと一緒ですね。パラダイスに漫才の内容について聞いたときもそんな感じなんです。このあいだなんて、「ぶっちゃけ面白いと思わないって」言われましたからね。無関心なんですよ。“飯の種”くらいにしか思ってない。
椎木 そうです、ほんとそう! 別に金もらえたらそれでいい、って思われてるような瞬間、あります(笑)。
村本 海外に行ってるときに、パラダイスが1人で舞台に立って、めちゃくちゃスベってる動画がマネージャーから送られてきて、本人にも「今までのツケやぞ」って言ってやったよね。でも振り返ってみると、パラダイスが病気で俺が1人でやったとき、あいつが隣にいないってだけで震えちゃってさ。椎木くんと同じで、未完成の2人が集まってウーマンラッシュアワーっぽくなるんだなって思った。だから椎木くん言ってること、すごくわかるなあ。
常にワクワクすることに対して夢を見てる
──村本さんが海外に出たように、My Hair is Badは世界に興味はないんですか?
椎木 僕らはまだサブスクリプションとかもやってないし、YouTubeはありますけど、基本的にCDでしか音源が聴けないんです。レーベルの人からもいろんなことを言っていただいたりするんですけど、まだアジアですらピンときてません。あまり想像したことがないですね。
──村本さんは、海外を回ってどう感じましたか?
村本 言葉も価値観も違うってことがまずありますね。バイトリーダーだって、そもそもバイトというものに対する考え方が違うからウケないだろうし、あるあるネタとかも通用しない部分が多い。逆に、ニューヨークで人種の違いとかネタにしたんですけど、そういうのって日本じゃ難しい。
──それは、ある程度わかっていたことでもあると思うんです。それでも挑戦した理由は?
村本 いくつか自分の考える道があって、どこを進んだらいちばんワクワクするか。それだけですね。そもそも子供の頃は「芸人なんて無理だろ」って言われたけど、芸人にはなれた。今は「村本、外国でやってるぜ、無理だろ」って感じだと思うんです。でも、そんなことは関係ない。常にワクワクすることに対して、夢を見てる感じですね。
──今日はMy Hair is Badの「hadaka e.p.」のリリースがあっての対談。普段お2人でいるときとはまた違った雰囲気だったと思うのですが、いかがででしたか?
椎木 こうして、村本さんといろいろ話すのは、すごく照れました(笑)。
村本 俺があれこれ言うことよりも、椎木くんのことを知りたかったら歌を聴くことじゃないですかね。理由を付けるのも面白いけど、これがおいしいかどうか、そこに理由はないってこともあるわけで。あとは、あまりいろいろ話して皮が剥がれて椎木くんに嫌われたくない、と思いながらやってました(笑)。
椎木 村本さん、この前「俺らあまり会わないほうがいい」っておっしゃってましたよね(笑)。
村本 ほんと、バレたくないんだよね。だから、たまに会って飲もう(笑)。