野性爆弾くっきー×斎藤工×永野|俳優が手に入れた“芸人としての心意気”

2017年秋に突如として現れた新人芸人、人印(ピットイン)。彼の成長を追うドキュメンタリードラマ「MASKMEN」(テレビ東京)が今年1月クールに放送された。覆面で活動する人印をプロデュースするのは、野性爆弾くっきー。そしてその正体が俳優の斎藤工だったことは大きな話題を呼んだ。

「MASKMEN」では斎藤が勇気を持ってお笑いにチャレンジし、挫折やくっきーとの衝突を経験しながら前に進んでいく姿を描いている。お笑いナタリーは本作のDVDボックスが7月4日に発売されることを記念し、くっきー、斎藤、そしてグレープカンパニーに所属する人印の“先輩”永野による鼎談の場を用意。「共通点」「ポリシー」「満足」など5つのテーマで語り合ってもらうと、誰とも被らない3人に通ずる、哲学のようなものが見えてきた。

取材・文 / 狩野有理 撮影 / 佐藤友昭

「MASKMEN」DVD BOX
2018年7月4日発売 / バップ
「MASKMEN」DVD BOX

[DVD]
12312円 / VPBX-15727

Amazon.co.jp

収録内容

4枚組(本編ディスク3枚+特典ディスク1枚)

  • 本編 全11話
  • 特典映像
    斎藤工の挑戦の裏側、お笑い芸人を目指す人必見の講義の様子など、たっぷりと収録!
    • 斎藤工の勇姿を収めた未公開映像集
    • オープニングタイトルバック
    • 斎藤工が挑む!NSC講義完全版
    • サンキュータツオが説く大喜利必勝法
    • X JAPAN「Toshl」の「マスカレイド」レコーディング映像
    • 斎藤工の「マスカレイド」レコーディング映像
    • 爆笑番宣スポット集
    • MASKMEN VS 人印

斎藤工&くっきー 挑戦の記録

「MASKMEN」より、斎藤工(左)と野性爆弾くっきー(右)。

「本気で芸人になる」。飲み仲間である曇天三男坊やニッチェ、ミラクルひかるにそう宣言した斎藤工は、野性爆弾くっきーにプロデュースを依頼した。匿名、覆面で0からお笑いに挑戦する俳優・斎藤工にくっきーが用意したのは、独自の笑いを詰め込んだくっきーワールド全開の衣装とネタ。これらを受け取った斎藤はさっそく渋谷スクランブル交差点前で路上ライブを決行する。その後、劇場でのライブを重ねるも、なかなかウケないことに葛藤する斎藤は、一度くっきーと距離を置くことを決断した。しかし交流のあったバイきんぐ小峠やToshl(X JAPAN)の助言を受け、くっきーと向き合い、今度は一緒にネタを練り直すことに。NON STYLE石田の助けも借りて、最終目標に設定した「R-1ぐらんぷり」に挑む。

DVDには特典映像として、2020年オリンピックを間近に控える東京を舞台にしたショートムービー「MASKMEN VS 人印」も収録! マスクの持つ不思議な力を与えられた5人の各国代表選手は、人印の陰謀を阻止することができるのか。

人印プロフィール

人印
  • 芸名:人印(ピットイン)
  • 出身地:高野山
  • 性別:歴とした人間の男子
  • 生年月日:2011年1月1日
  • 血液型:不詳
  • サイズ:不詳
  • 趣味:押し花
  • 特技:パッチワーク
  • 資格:原動機付自転車免許
  • 所属:グレープカンパニー

くっきー×斎藤工×永野 特別鼎談

個性の見つけ方を芸人から学んだ

テーマ1「共通点」

永野 今日はお集まりいただきありがとうございます。私、永野が進行役を務めます!

左から野性爆弾くっきー、斎藤工、永野。

斎藤工 え、永野さんが?

永野 昨日マネージャーに聞いてガチガチなんですけど(笑)。最初のテーマは「共通点」ということで。くっきーさんと僕は斎藤さんが監督した映画「blank13」に出させてもらっていて、そこは3人が共通するところですよね。

斎藤 お二人のことは、世間が注目するよりも前から応援させていただいていたので、「blank13」への出演をオファーさせていただきました。実は、永野さんに関して“お笑いナタリーさん事件”っていうのがあったんです。「永野、長編映画デビュー」って大きく取り上げていただいたんですけど(参照:永野、齊藤工の長編デビュー作「blank13」で高橋一生演じる主人公の同僚)、その後、編集でバッサリ切ってしまって。結局永野さんは6、7秒しか出ていないんです。

永野 キレてたんですよ、うちの親が。出てこねえじゃねえかって(笑)。情けなかったなあ。いいんですよ、そんなことは! 斎藤さんが思う僕らの共通点ってありますか?

斎藤 お二人の共通点は、長くお笑いを続けられているということ以上に、やり続けてきたことにメディアが追いついてきたけれど、ご自身がやられていることはまったく変わらない、ということだと思います。ずっと一貫されているじゃないですか。「それ、テレビでやって大丈夫?」と思うようなことをやり続けてきて、コンプライアンスがうるさいこの時代にお二人へのニーズがすごく高まっているっていう構図がとても面白い。鍾乳洞的な人たちだなと。

野性爆弾くっきー うわ、うれしい。でも鍾乳洞ってどういうことですか?

永野 あんまりいいイメージないですけどね、鍾乳洞って。

くっきー 汚え穴ってことですか?

斎藤 汚い穴じゃないです(笑)。

永野 汚い穴? 肛門? 俺たち肛門系男子?

斎藤 違います(笑)。ポタポタとしずくが垂れて、長い時間をかけて形作られているというか。

永野 僕は斎藤さんとくっきーさんに共通点があると思います。斎藤さんは「blank13」のときもそうで、役者さんだけど監督という仕事もすごく楽しそうにやられていて。くっきーさんも音楽とか絵とか、いろいろやっているじゃないですか。本業以外のことも同じくらい楽しんでやっている人たちっていうふうに見えるんですよね。くっきーさんはどうですか?

くっきー 共通点、ピクリとも見つからんのですよ。だから、逆に言えば誰とも被らない人たちっていうのが共通点なんじゃないですか?

永野 そうかもしれない。「人と被りたくない」って思います?

斎藤 20代前半の頃、オーディションに行くと同じようなタイプの俳優がズラッと並ぶんです。“イケメンヒーロー系”みたいな。みんな自己紹介でバク転とか特技をアピールするんですが、僕は何もできなくて。こういう中で、やっぱりほかの人にはないものを出さなきゃいけない。そう思ったあたりから芸人さんたちの個性の見つけ方みたいなものを意識的に見ていた気がします。

くっきー 芸人から個性を学んだってことですか?

斎藤 素晴らしい役者さんの元を辿っていくと、お笑いを経験されてきた方が多いんです。チャップリンをはじめ、いかりや長介さん、笑福亭鶴瓶さんといった方々がお芝居をすると、俳優が敵わないような輝き方をする。それは芸人だけに与えられる特別なものを得ているからじゃないかと昔から考えていて、それが「MASKMEN」でのチャレンジにつながったんです。

斎藤工 斎藤工

斎藤工、乳首相撲のチャンピオンに

テーマ2「役者が芸人をやること、芸人が役者をやること」

永野 「MASKMEN」は役者が芸人に挑戦する番組でしたけど、芸人がドラマや映画に出演することも多くなってきていますよね。僕らも斎藤さんの映画に出てますし。

斎藤 くっきーさん、連ドラ(日本テレビ系「崖っぷちホテル!」)に出られていたじゃないですか。

野性爆弾くっきー

くっきー そうっすね。自分、役者やってます。

永野 うわ! 受け入れた!(笑) セリフを覚えて何回も同じことをやるのって、芸人は苦手じゃないですか。くっきーさんはどうやってます?

くっきー 僕セリフ覚えないです。

斎藤 橋爪功さんと一緒だ(笑)。

くっきー ほんまですか?(笑) 宿題が苦手なんです。でも芸人なんで、役者さんとは求められてるものが違うじゃないですか。だから現場に行ってやってみてっていう感じです。

永野 斎藤さんはお笑いに挑戦するってやっぱり恐縮しました? 「僕がやっていいのかな?」みたいな。

斎藤 それはもちろんありました。でも単純に僕、カッコつけているだけの俳優が苦手なんです。自分のポーズを意識しすぎている俳優よりも、芸人さんのあり方のほうが120万倍カッコいいと僕は思っていて。その場のニーズに合わせて自分を捨てられるというか。俳優って、何かを守る瞬間がどうしてもあると思うんです。

永野 なるほど。

斎藤 そこが圧倒的に芸人さんに敵わないところで。「どう見られるんだろう」っていうことを考えすぎている自分を取っ払わなきゃいけないと前からずっと考えていたんです。そんなときに「MASKMEN」という機会をいただいたので、やるしかないなと。

永野 「MASKMEN」をやって取っ払えた感じはありました?

斎藤 先日、泉谷しげるさん主催の音楽フェス「阿蘇ロックフェスティバル2018」に出させてもらったんです。そのワンコーナーで、「ワイドナショー」(フジテレビ系)の企画として松本人志さん、東野幸治さんが熊本県民の方たちと乳首相撲対決をされていて、松本さんたちを倒した熊本在住の無職の方がチャンピオンになったんですが、袖で見ていた僕は「これは行かなきゃいけない」と思って。

永野 ええ!?

斎藤 ステージ上にいる松本さんたちには許可を得られないので、舞台監督と「ワイドナショー」のディレクターと自分のマネージャーに聞いたんですけど、マネージャーが絶対ダメだと。

左から野性爆弾くっきー、斎藤工、永野。

くっきー そりゃあそうでしょう(笑)。

斎藤 でも、松本さんとお会いするのは2年前に「絶対に笑ってはいけない科学博士24時!」(日本テレビ系)で僕がサンシャイン池崎さんのモノマネを披露して以来だったので、言葉じゃなくて心意気を見ていただきたいと思って出ていったんです。

永野 止められたのに?

斎藤 はい。で、乳首相撲して、優勝したんです。

くっきー 勝ってんかい!(笑)

斎藤 松本さんにも同じことを言われました(笑)。「無職のあいつから乳首取ったら何も残らん」って。出ていくときはめちゃくちゃ緊張したんですけど、「MASKMEN」で経験した「R-1ぐらんぷり」1回戦の待合室の通路で並んでいるときの心境に比べたら、怖いものはないです。

「MASKMEN」より、野性爆弾くっきー(左)と斎藤工(右)。 「MASKMEN」より、東京・ヨシモト∞ホールで人印としてネタを披露する斎藤工。

永野 「MASKMEN」での経験がそこまでさせたんですか。

斎藤 させましたね。いつもは俳優としてのキャリアがあるうえで人前に立っていますけど、覆面を被って人印として渋谷のスクランブル交差点前に立ったとき、僕に興味のない人たちをどう振り向かせるかっていう問題に直面した。そういう、大事だけど忘れがちなことを今改めて経験させてもらえたので、乳首相撲に挑戦できました。

くっきー 「MASKMEN」の力でめちゃめちゃ根性ついたんちゃいます?

斎藤 番組の序盤に「見えない筋肉を鍛えたい」みたいなことを言っていたんですけど、実際に筋肉ついたと思います。あと、やっぱり芸人さんを尊敬しているので、あの瞬間「くっきーさんなら行くな、永野さんなら行くな」って思ったんですよね。

くっきー 知らんところで僕らが背中押してたんですね(笑)。