ZAZEN BOYS「らんど」インタビュー|なぜ新作完成に約12年の年月がかかったのか?向井秀徳が明かす“地獄の自我” (2/2)

現実世界で巻き起こっているいろんなことを見なければいけないし、実際に見られないのであれば想像しなければならない

「らんど」に収録されている13曲は、制作時期がさまざまだ。2023年初頭にアルバム制作が始まってから生まれた楽曲ももちろんあるが、すでにライブで数年間にわたり披露され、音源化が待望されていた曲も多い。アルバムの中盤には、MIYA加入直後に生まれた楽曲が並んでいる。

「杉並の少年」「黄泉の国」は、MIYAが加入してきてさっそく生まれ出た曲。そして、そのときレコーディングしたものが「らんど」に収録されています。今思えば、なぜ録ったときにすぐ出さなかったのか。MATSURI STUDIOのハードディスク倉庫から出てきたときは、「なんで俺は出さなかったんだよ。下手こいたな」と思ったね。できたものをボンボン聴かせていったほうがファンの人もうれしいはずだと思うんだけど、いかんせん額縁がどうのとか、練馬の区民館のロビーに飾ろうとか言っとるもんだから、たいそうなことになるわけだ。そのときは、曲ができてライブで演奏することで、届けたいという気持ちが完了してたんだろうね。

向井秀徳

リード曲「永遠少女」では、ZAZEN BOYSにとって「Weekend」以来15年ぶりとなるミュージックビデオが制作された。この曲の歌詞には「1945年焼け死んだあの娘は15才だった」「あなたの思い出はガレキの中に埋まっている あなたの恋人はこの世の果てで笑っている」と、戦争を想起させるフレーズが盛り込まれている。これまでのZAZEN BOYSの楽曲では見られなかった、ストレートでメッセージ性の強い内容であり、12月にMVが公開されると、多くのリスナーから驚きの声が上がった。

この曲はまあ、話題になるだろうと思ってましたよ。今は世界中が戦争中ですよね。その真っ只中でこの曲を発表する意図を聞かれるとも思っていましたけど、この状況だからこそ、この曲を歌う意味合いがある。ただしこの曲を作ったのは、ロシアのウクライナ侵攻が始まる前なんです。

自分でもこれを歌うのは、つらいです。それぐらいヘビーな音です。もともとこの曲は、ツーコードから生まれたんですよ。(実際にギターで弾きながら)Em7とFM7……これしかないんですね。これをジャーッと鳴らして、ギターリフが生まれ出て。その瞬間、私は、自分の鳴らしたサウンドに陶酔しましてですね。私は自己陶酔が得意で、それをロックンロールだと思ってますけど、バンドをやるというのはナルシスティックな行為。自我の地獄ですよ。そうして自己陶酔の沼にハマっていって、自分の弾いた音がMATSURI STUDIOの地下室に響いて、音像がハートに突き刺さった瞬間、「これは俺、しっかりせないかんな」と思ったんです。このツーコードのリフに乗っけて、自分が感じた強度を持った歌を歌わなければいけないし、そういう言葉を放たなければいけない。そう強く思いました。

それでパッと出てきた言葉は、「この世の中はすべて嘘である」でした。なんだかんだ言って、全部嘘やん、と。現実世界ではいろんなことが巻き起こっていて、それを見なければいけないし、感じなければいけない。実際に見られないのであれば想像しなければならない。そういう歌にしようと思ったんですね。このギターリフに対抗するためには、これくらいヘビーな言葉が必要だったんです。とにかく聴いてもらって、感じてほしいですね。

向井秀徳
向井秀徳

嫌悪感でもいいんだけど、1mmでもあんたのハートを揺らすために俺はやってんだ

アルバムタイトル「らんど」は、12曲目の楽曲のタイトルと同じ響きだが、曲名は「乱土」と表記されている。アルバムタイトルにもこの混乱の世を見つめる思いを込めたのかと聞くと、そこにはあまり意味を持たせていないそうで、「おおらかに、覚えやすい感じにしたかった」と説明してくれた。

このアルバムに対しては、もう「この通りよ」って言うしかない。私の好きなものを皆さんに押し付けるつもりもないですし。ただ、抵抗感……あるいは「向井の顔が気色悪いから見たくない」という嫌悪感でもいいんだけど、1mmでもあんたのハートを揺らすために俺はやってんだ、と思う。「俺にはこの世がこう見えてるけど、どうっすかね?」ということを、自我の権化野郎は歌いたいし、問いかけたい。音楽を、テレキャスターを通してコミュニケーションを取りたいし、それによって目に見えない触れ合いが生まれたらうれしい。これは私がバンドをやっている大きな理由の1つですね。

向井秀徳

ZAZEN BOYSが1stアルバム「ZAZEN BOYS」を発表してから、「らんど」のリリースまでちょうど20年。その間、向井は変わらぬスタンスで音楽に向き合い続けてきたように思うが、一方で「永遠少女」などからは、新たな表現の萌芽も感じられる。本人は自身の変化をどう捉えているのだろうか。

皆さんも恐らくそうだと思いますけど、「20年間でこういうふうに変わったな」と、自分ではっきりと認識することはないですよね。そりゃもちろん、私にも変化がいっぱいあったと思います。でも1つ言えるのは、「私の歌いたいことや鳴らしたい音の周波数は、ここにしかたどり着かないんだな」ということ。長くやっていれば「結局こうなる」っていうのはわかる。それをよしとするか、「これじゃいかん」と変えていこうとするか。私はもう、変えようとは思わない。ずっと「諸行は無常である」としか言ってないからね。私の自我はここにあって、もうこういう形にしかならないから、勘弁してくれやと。……勘弁って、誰にお伺いを立てているのか、自分でもちょっとよくわからないけど(笑)。ただ「もうこれしかない」ということはわかります。

向井秀徳

公演情報

ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2024

  • 2024年1月20日(土)岡山県 YEBISU YA PRO
  • 2024年2月3日(土)熊本県 熊本B.9 V1
  • 2024年2月4日(日)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2024年2月28日(水)東京都 TOKYO DOME CITY HALL
  • 2024年3月10日(日)大阪府 なんばHatch
  • 2024年3月20日(水・祝)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2024年4月5日(金)新潟県 CLUB RIVERST
  • 2024年4月6日(土)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
  • 2024年4月12日(金)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2024年4月14日(日)岩手県 Club Change WAVE
  • 2024年4月20日(土)沖縄県 桜坂セントラル
  • 2024年5月9日(木)京都府 磔磔
  • 2024年5月10日(金)福井県 福井CHOP
  • 2024年5月18日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2024年6月8日(土)北海道 札幌PENNY LANE24

プロフィール

ZAZEN BOYS(ザゼンボーイズ)

向井秀徳(Vo, G)を中心に活動するニューウェイブ / ギターロックバンド。向井が所属していたNUMBER GIRL解散後の2003年から本格的に始動し、同年8月に行われた夏フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL」で初ライブを行う。2004年1月には1stアルバム「ZAZEN BOYS」を発表。向井を中心にアバンギャルドかつ即興性の強い、複雑なバンドアンサンブルで大きな注目を浴びる。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は向井、吉兼聡(G)、MIYA(B)、松下敦(Dr)の4人編成で活動。2024年1月に約12年ぶりのアルバム「らんど」をリリースした。

※記事初出時、本文中の「永遠少女」のコードに誤りがありました。お詫びして訂正します。

2024年1月24日更新