遊助「僕らの時代」インタビュー|音楽の楽しさを感じながら“今の思い”と“新たな挑戦”詰め込んだ新作完成

遊助が9月21日にニューシングル「僕らの時代」をリリースした。

昨年9月リリースの「こむぎ」以来、約1年ぶりのリリースとなる今回のシングルの表題曲は、遊助が“時代”をテーマに書き下ろしたメッセージソング。ほか、カップリングには遊助がサンプリングカバーに初挑戦した「浪漫飛行~君と逢えたら~」「さすらい~旅路~」が収められるなど、彼の創作意欲を力強く感じられる作品となっている。

リリースを記念して音楽ナタリーが行ったインタビューで遊助の口から語られたのは「音楽って楽しいじゃん!」という、今のポジティブなマインド。「たぶん今が一番脂乗ってる気がするんです」と語る、その理由はどこにあるのか。思いをじっくりと話してもらった。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 山崎玲士

いつまでも閉じこもってばかりじゃいけないな、そろそろ前に進んでいかないと

(作品資料の表紙を見て)えっ、これいいじゃん。スタッフが作ってくれたんだ? 相田みつをさんのカレンダーみたい。トイレに貼っておきたい(と、スマホで写真撮影)。

──こちらの宣材、初めてご覧になったんですか?

そうなんです。これが「僕らの時代」最初の取材なので。

──ではフレッシュなお話が伺えそうですね。表題曲の「僕らの時代」は、「あの頃はよかった」で済ますのではなく、「僕らの未来はどんな試練も乗り越える」という強い意志を感じるストレートなメッセージソングです。

そうですね。

──シングル「僕らの時代」にはカップリング曲も含めて共通したテーマがあり、収録曲の発表の仕方もユニークでした。まず、シングル収録の「浪漫飛行~君と逢えたら~」が、8月12日に予告なしにデジタルリリースされました。ファンの皆さんは突然の配信と曲の内容に驚かれたと思います。

2022年、まだまだコロナ禍の最中ではありますけど、感染対策をしながら3年ぶりに有観客のライブができて、いつまでも閉じこもってばかりじゃいけないな、そろそろ前に進んでいかないといけないなっていう思いがあって。同時に2022年は自分がこれまでやってこなかったことをどうやって発信できるか、もう一度自分の活動を見つめ直そうと思った年でもあるんです。サンプリングっていうのも今までやったことがなかったことで。どんどん時代が変わっていく中、遊助らしさをしっかり残しながら、こういう時代だからこそ僕の言葉を待ってる人がいるんじゃないかなと思って、こういう出し方をさせてもらいました。

遊助

──カバーではなくサンプリングカバー。オリジナルの米米CLUB「浪漫飛行」は1987年に発表されたアルバム「KOMEGUNY」の収録曲で、1990年にJALの沖縄キャンペーンソングとしてシングルカットされてミリオンヒットとなりました。遊助さんもこの曲には思い出があるそうですね。

母親が航空会社で働いていたんですよ。僕が小さい頃CMソングになっていたのが「浪漫飛行」で、母の車で習い事や少年野球の試合の送り迎えをしてもらうとき、この曲がよくかかっていたんです。だからひさしぶりに聴いて改めて「素敵な曲だな」という思いがありましたし、扉を開いて一歩踏み出そうよっていう歌詞が夏にぴったりだなと思って。今年コロナに感染して、自宅療養の間に考えたこととも重なったんです。会いたいときに会えない人がたくさん増えてしまった中、この曲が“会える喜び”を生むためのきっかけになってくれたらいいなと思って、自分の歌詞をちょっと紡いでみた感じです。

──「浪漫飛行」の歌い出しも「逢いたいと思うことが何よりも大切だよ」でした。そこに遊助さんが新たに「もういいかい? もういいかい? 会ったら泣き出しそう」という今ならではの思いをつづって。アレンジもオリジナルのサビはそのままに、ラップパートを加えたヒップホップ風味に仕上がっています。

2年前、音楽番組(NHK BSプレミアム「歌える!J-POP 黄金のヒットパレード決定版!」)でMCをさせていただいたときに、石井竜也さんにお会いしたんです。楽屋にご挨拶に行ったとき「『浪漫飛行』ずっと聴いてました」と伝えたところ、すごく喜んでくださって。そのときはまさか自分が「浪漫飛行」をカバーすることになるとは思ってなかったんですけど、勝手ながらご縁を感じています。もともと米米CLUBさんのことが大好きな方、この曲に思い入れがある方もいっぱいいらっしゃると思うので、違う角度からの解釈で楽しんでいただけたらという気持ちがあって。けど、まずはやっぱり米米CLUBさん、石井竜也さんが「これだったらいいね」と納得いただける曲にしなきゃいけないという思いがあったので、ここまでやって許可が下りるかな?というドキドキ感が強かったです。

──リスペクトがあるからこそ緊張しますよね。

ヒット曲はアーティストさんにとって宝物だし、自分が産んだ子供みたいなものなので、僕としても簡単に手を出すつもりはなかったんです。ちゃんと敬意を持って向き合い、いろんな世代の方たちに改めて「浪漫飛行」の素晴らしいメロディや歌詞を知ってもらえたらうれしいなと思って、自分なりにリスペクトを込めて作ったものなので、ご本人に認めていただけたときはホッとしました。今だからこそまた違う受け止め方もできると思うので、若い子も僕の「浪漫飛行~君に逢えたなら~」だけでなく、米米CLUBさんの「浪漫飛行」も聴いて、何かを感じていただけたらうれしいです。

──当時、米米CLUBのメンバーが沖縄の海で撮影したCMが話題になりました。遊助さんもルーツが沖縄の宮古島ということもあって、目の前に広がる景色もイメージしやすかったんじゃないでしょうか?

そうですね。父方の祖父が宮古島出身なので、そのCMのことも覚えています。大ヒット曲だし、小さい頃から身近に感じていたので、あまり構えなかったというか、自然と自分の心が寄り添っていく感覚で作れましたね。僕、小さい頃の記憶が鮮明にあるんですよ。この前実家に帰ったときもひさしぶりに小学校の友達に声をかけられたので話していたら、当時の野球の試合の点数を全部覚えていたんです。家にお邪魔してビデオを見ながら「ここでセンターフライ打つよね」とか試合の展開も覚えてて(笑)。「浪漫飛行」はそういう、自分の記憶が鮮明な子供時代の曲なので、当時何を思って何を感じていたか。当時の空気感も含めて自分の中にしっかりとあるので、新しいことをやっているんだけど、新しいことではないような感覚で作りました。

──サンプリングカバーは初挑戦でしたが、楽しみながら作業できたようですね。

今までは“ゼロイチ”……ゼロからモノを作っていたけど、今回はものすごく強いフックとメロディがあって、“イチまでどうやって膨らませていくか大会”だったので楽しめましたね。ゼロイチって、ものすごくエネルギーがいるじゃないですか? 例えばラブソングを作るとしても、いろんな形の恋愛があって……それは片思いなのか、遠距離なのか、別れた人なのか、付き合う前なのか、年齢差があるのか。「好き」って言うのか「愛してる」って言うのか。いろんな情景をゼロイチで書き出すのはなかなか大変なんですけど、これだけの“モンスター曲”だと、イチどころかいろんな世界観が一気に見えてくる。海の中を水中メガネで覗いたように、一気に視界が開けて制作に向かえた感じでしたね。

どんな世界観になるんだろうって想像しながら作ったんです

──続いて8月27日に先行配信された「さすらい~旅路~」は、1998年リリースの奥田民生さんのシングル「さすらい」のサンプリングカバーです。旅をテーマに「さすらいもしないで死なねえぞ」というメッセージが込められていて。

「さすらい」も僕の青春ソングなんです。昔の感情を今の時代感に重ね合わせたらどういう景色を作れるんだろう?という思いから、「さすらい~旅路~」は生まれました。

遊助

──こちらも「さすらい」のサビはそのままに「きっと昔のことだと思って 聞いてた事が 現実そして真実として 問いかけてた なんだか世の中不安定になってた 雲を眺め間に受けた」という歌詞で新たな命を吹き込んでいます。共同で編曲を手がけたのは、遊助さんの楽曲ではおなじみのクリエイター・N.O.B.Bさんです。

「アコギでジャカジャカやるのかな?」「バンドサウンドかな?」なんて予想していた方は「えっ、こうなったの!?」と驚いたと思います。「さすらい」は、どちらかというとローカルな匂いを感じる曲だと思うんですけど、オートチューンであえて“シティ感”を注入することで、どんな世界観になるんだろうって想像しながら作ったんです。歌詞は意外とすぐ書けました。不安定な状況が続くけど、「だからこそさすらっていこうよ」というメッセージを、自分らしくどう落とし込んでいこうか?みたいな感じで。教科書の中の話だと思っていたような信じられないような事件や事故がいっぱい起きている今の世の中だけど、自分の人生という旅を謳歌しようという思いを、歌詞に込められたらいいなと思って。

──作詞するうえで、特にどんなことを意識されましたか?

リアリティですね。バスに乗って海へ行き、浜辺をぶらっと歩いてみた……みたいな感じで、具体的な言葉をちゃんと入れないと、みんなの中で景色が具体化されないなと思ったので。「浪漫飛行~君と逢えたら~」にも「ハンガー」とか「風呂場」といった言葉を入れましたけど、「さすらい~旅路~」はさらにそういうことを意識しながら作りました。