スマイリーのことは何もわからなかった
──「話数ごとのイメージソングを作る」という企画趣旨については、すんなり理解できました?
DÉ DÉ MOUSE 僕、実は事前に資料映像を一切観なかったんですよ。何かコンテンツに関わる仕事をするときは、それを純粋にファンとして楽しみたい人間なので。だからシナリオも見てないし、いただいた本編動画も観てないんです。スマイリーのキャラクター設定資料だけしか見ていなくて。
西山 へええー!
DÉ DÉ MOUSE でも、8話は一瞬観ました。
柴田 一瞬(笑)。
DÉ DÉ MOUSE 一瞬観たけど、観てもわからなかった(笑)。
西山 8話だけだと、何もわからないかもしれないですね。
DÉ DÉ MOUSE そんなにスマイリーが活躍する回でもないし、むしろおばあちゃん(マダム44)のほうが活躍してるっていうね(笑)。スマイリーのことは何もわからなかった。
西山 僕は逆に、めっちゃ観たんですよ。デデさんが書いてくれた詞を引き継いで書かなきゃいけなかったから、齟齬があってはいけないと思って。それで「スマイリーってどんな子なんだろう?」と思いながら全話しっかり観たんですけど、デデさんの詞以上のことはそんなにわからなかったです(笑)。
DÉ DÉ MOUSE ははは。
西山 だから「デデさんはしっかり特徴を拾い上げていて、しっかり読み込んでるんだなあ、すごいなあ」と思ってたんですけど、実は観ていなかったという(笑)。
DÉ DÉ MOUSE 資料でもらった数行の説明文しか見ていないという。
西山 なんかでも、すごくミステリアスなキャラクターですよね。「ユーレイデコ」の登場人物はわりと全員そうですけど。
柴田 スマイリーは特にね。ずっとガスマスク着けてるし。
DÉ DÉ MOUSE 僕はけっこう、わかりやすいツンデレキャラみたいなイメージで書いたけどね。事前に本編を観なかった分、自分でいろいろ勝手に解釈したんだけど……「あの姿自体も実はアバターで、本体は暗い部屋でB級ホラー映画ばっかり観ている女の子」とか「ユーレイデコの世界にいるときはああいう強気なキャラだけど、そういう自分でいたい願望の表れ」とかね。なので、放送が開始されてからやっと本編を観たんだけど、ものすごく新鮮な気持ちで楽しめました。
西山 僕も、本編ではあまり説明がされないから、詞を書くにあたって自分で勝手な妄想を膨らませてみたんです。デデさんと同じように「実はアバターなんじゃないか」とか、「その本体は男かもしれないな」とか。あるいは、アバターとかではないけど「小さい頃に何か暗い出来事があったのかな?」とか。何も抱えていない子はたぶんガスマスク着けないですし。あと、このアニメは全体的に“本当の自分”とか“目に見えない本当のこと”みたいなテーマ性も含んでいる作品だと思ったので、そういう部分はスマイリーにもあるだろうと考えて作りましたね。「好きな人の前では本当の自分を見せたい気持ちがあるんじゃないかな」みたいな。
ボーカリスト・釘宮理恵の魅力
──ボーカルを担当した釘宮さんについても聞かせてください。皆さんはボーカリスト・釘宮理恵の魅力ってどこにあると見ていますか?
西山 今回のデデさんの曲、音が多いじゃないですか。中域とかもかなり詰まっていて。それを考えると、釘宮さんの声って相当抜けがいいですよね。もちろんミックスの具合もあるんでしょうけど、それだけではどうにもならない声本来が持つ“埋もれないパワー”がある感じがします。
DÉ DÉ MOUSE 本当に、オケに負けない声ですよ。「そこ出る?」という周波数がグンと出ているというか。だから極端な話、EDMとかエレクトロとかのガツガツ鳴ってるオケの中でもたぶん釘宮さんの声はすごく抜ける。
柴田 オケに負けちゃう人もいますもんね、やっぱり。どうEQ処理しても奥まって聞こえちゃうみたいな。
DÉ DÉ MOUSE いますね。
──ということは、歌うのが釘宮さんだから安心して好き勝手に作れた部分もありますか?
西山 僕はそう思ったんですよ、あのオケを聴いて。
DÉ DÉ MOUSE どうなんでしょうね。メロディは釘宮さんの声をイメージして作ったけど、オケに関してはどちらかというとスマイリーが前提だったからああいうスラップスティックな音になったんで。釘宮さん単体で考えたら、ああいう曲にはならなかったかもしれない。
──なるほど。では、ボーカルレコーディングはどうでした?
DÉ DÉ MOUSE いやあ、もうプロでしかないですよね。まずキャラクターの声を演じながら歌って、それで成立させてしまう技術が本当にすごい。もちろん、それは釘宮さんに限らず多くの声優さんに言えることですけど。あとレコーディングは純之介さんがディレクションしてくれたんですけど、あっという間に“スマイリーの歌”ができあがっていくんですよ。歌入れ自体はものの40分くらいしかやってなくて、ものすごいスピードで完成しちゃって。僕はボーッと見ているだけで終わっちゃいました。
──まさに「プロの仕事を見た」という感じ?
DÉ DÉ MOUSE 僕的には、「昔から好きで」ということを伝えられたことが一番うれしかったです。以前、Eテレの「見えるぞ!ニッポン」という教育番組のオープニングテーマを作ったんですけど、その番組のキャラクターのチーズちゃんに釘宮さんが声を当ててたんですよ。それを僕は勝手に「共演した」と見なしていたんですけど(笑)、その話も直接できたのはよかったなって。
柴田 僕もまさに「プロの仕事を見た」話なんですけど、第12話のコラボソングのほうで釘宮さんの歌入れに立ち会ったんですね。そのとき、本人の声で歌うバージョンとスマイリーの声で歌うバージョンを交互に試している現場を目撃してしまって。
──おおおー。
柴田 「今、すごい瞬間を見てしまっている」と思って。「プロってすげえ!」「本当にキャラクターの声で歌うんだ?」みたいな、バカな感想しか出てこないんですけど(笑)。
DÉ DÉ MOUSE 僕ら素人は同じことしか言わないっていう(笑)。
西山 僕も釘宮さんの出演されたアニメを観て育っているので……それこそ青春時代に「とらドラ!」を観て泣いてましたから。今回、デデさんが声をかけてくださったおかげで、自分の書いた詞を釘宮さんが歌ってくださるという経験ができたのは、本当に……やれてよかった。ありがとうございます本当に。
DÉ DÉ MOUSE “作ること”をやっているからこそ味わえる喜びだよね。自分の作ったものを自分の好きな人にパフォーマンスしてもらえるというのは。一般の人にももっと「作ることって楽しいんだよ」ということをわかってもらえたらいいなと思いますね。
──「とらドラ!」で泣いていた人が釘宮さんの歌う曲を作ることになるなんて、一般の人たちに夢しか与えないお話ですよね。
西山 僕、高校生とか大学生の頃にニコニコ動画で「くぎゅううう」って弾幕が流れていた全盛期を見ている世代ですから(笑)。それを思い出しちゃって、ヤバかったですね。いや、がんばってきてよかったと思いました。
柴田 しかも、そこにデデさんまで入ってきているわけですから、僕ら的にはかなりヤバい話なんですよ。デデさんと一緒に曲を作って、それを釘宮さんが歌うなんて、「そんな人生あります?」って話じゃないですか。「誰が仕組んだシナリオなんだ?」みたいな。
DÉ DÉ MOUSE でもね、あと10年くらいやっていったら、パ音もそういうふうに言われるようになるから。
柴田・西山 ああー。
DÉ DÉ MOUSE 僕からするとパ音は尊敬する同業者でしかないからさ、キャリアも年齢も関係ないわけ。「同じ立場なのに何言ってんの?」みたいな、不思議な感覚になるんだよ。もちろん、そう言ってもらえるのはめちゃくちゃうれしいんだけど。
西山 なるほど、わかる気がします。でも、言うてもデデさんは柴田くんが郵便局員になる未来を奪った人ですから。
DÉ DÉ MOUSE はははは。
プロフィール
DÉ DÉ MOUSE(デデマウス)
遠藤大介によるソロユニット。緻密に重ねられたオリエンタルなメロディとドリーミーなサウンドで、幅広い層から人気を獲得している。自主制作で発売したCD-R「baby's star jam」が各方面で話題になり、2007年1月にExt Recordingから1stアルバム「tide of stars」を発表し、好セールスを記録。2008年3月にavex traxへのメジャー移籍を発表し、5月にメジャー第1弾となるアルバム「sunset girls」を発売した。その後自主レーベル「not records」を設立。DE DE MOUSE + Drumrollsとしてツインドラムと2人のVJを加えた編成でのパフォーマンスやプラネタリウムを舞台にした公演など、趣向を凝らしたライブで観客を引き付け、海外公演も成功させる。2019年12月に8thフルアルバム「Nulife」、2020年4月にEP「Hello My Friend」を発表。2022年にはYonYonとのシングル「Step in Step in」、SASUKEとのシングル「プレ・ロマンス」などコラボ配信シングルを多くリリースした。
DÉ DÉ MOUSE (@DEDEMOUSE) | Twitter
パソコン音楽クラブ(パソコンオンガククラブ)
柴田と西山によって2015年に関西で結成されたユニット。Roland・SCシリーズやヤマハ・MUシリーズなどの1990年代のハードウェア音源モジュールを用いたサウンドを特徴とし、2017年にMaltine Recordsから無料配信したミニアルバム「PARK CITY」で話題を集める。2018年6月に初の全国流通盤となるフルアルバム「DREAM WALK」、2019年9月に2ndアルバム「Night Flow」をリリース。2021年10月には3rdアルバム「See-Voice」を発表した。2022年7月にシングル「KICK&GO(feat. 林青空)」、11月にシングル「SIGN(feat. 藤井隆)」を配信リリース。外部アーティストへの楽曲提供やリミックスでも個性を発揮している。