アニメ「ユーレイデコ」×kim taehoon|気鋭のトラックメイカーが作り上げた“100年後のヒットソング”とは (2/2)

等身大こそが正義

──ここまでのお話からすると、キムさんはおそらく「カッコつけることはカッコ悪い」という価値観の持ち主でいらっしゃいますよね。

それはおっしゃる通りで、もう等身大こそが正義だと思っています。結局、音楽をやる理由って「楽しいから」じゃないですか。そこで変に背伸びをしてしまうとすぐに限界が来るから、きっと楽しくないですよね。音楽に限らず絵とかもそうですけど、「内から外に出したい」という純粋な欲に従ってこそ初めて意味を持つものだと思うんです。それはつまり、ありのままであるべきだということで。

──よくわかります。

そもそも、何か着飾ったものって僕は美しくないと思っているんです。僕は昔から嵐がめちゃくちゃ好きなんですけど、彼らはもちろん国民的アイドルグループなのでカッコよくもあるんですが、あくまでありのままなんですよね。カッコつけてるんですけど、ダサいんですよ(笑)。

──言いたいことはわかります(笑)。

それがめちゃめちゃ刺さるんです。心のすごく近くにいてくれる感じがする。例えば櫻井(翔)くんはすごくカッコつけてラップをしますが、ダサいんです(笑)。だからこそ「自分もラップをやりたい」と思った直接のきっかけになった。自分のルーツが嵐にあるということが、こういう価値基準を持つうえで影響としては大きかったんじゃないかと思いますね。

kim taehoon

──音楽をやる人って、ややもすると“世間的にカッコいいとされているもの”を模倣する方向に行きがちじゃないですか。特に電子音楽を作る人は“手法”に頼ってしまう方向に行きやすいイメージがあります。でも、キムさんはその真逆ですよね。

けっこうそれは最近ずっと考えていて。今はすごくスキルフルなアーティストがたくさん出てきていますけど、「スキルはあっても面白くない」と感じることもときどきあって。僕はアーティストとして、「すごい」と言われることよりも「いいな」と言われることのほうが価値が高いと考えているんですよ。もちろん最低限のスキルは必要なんですけど、スキルを発揮することが目的なんじゃなくて、いい音楽を作ることが目的なので。それが原点にあるからだと思いますね。

──それを見失わずにいられることがすごいなと感じます。

そういう意味で言うと……ちょっと話はズレるんですけど、音楽が好きだったり機材が好きだったりすると、何かしらの沼にハマるものなんですよ。佐藤さんならシンセの沼だったり、僕はギターエフェクターの沼にハマってるんですけど、逆にその沼にハマらずにいられる人の気持ちがよくわからなくて。だって、新しい機材が増えるのって普通に超楽しいじゃないですか。お金はかかるけども、ほかの何かを犠牲にしてでも買いたくなるくらい、代えがたい魅力があるわけです。やっぱりそういうことが好きなんですよ、根本的に。

──「こんな音が出て、楽しい!」というプリミティブな喜びを常に大事にし続けているから、ブレずにいられる?

まさに。さっき嵐の話をしましたが、自分のもう1個の重要なルーツが“子供心”だと思っているんです。誰しもかつては子供だったはずなのに、どこかのタイミングで「子供っぽい=ダメなもの」という評価になっちゃう。それってすごくもったいないなって。好奇心の源ってバカみたいな子供心だと思うので、それがあって初めて面白いものを見つけられたり作り出せたりするんじゃないかと思うんです。僕には1つ大きなトラウマがあって……中3のとき、好きだった女の子に「ガキっぽい」ってフラれたことがあるんですよ。そこから「子供で何が悪いんだ!」という思いを強く抱くようになりまして。

──そっちに行ったんですね。普通は「もっと大人になって彼女を振り返らせるんだ」という方向へ行きそうなものですけど。

ですよね(笑)。それからずっと今の歳になるまで子供心を大事にしてきましたけど、やっぱりそのことによって生まれる興奮とかって確実にありますし、今でも「ずっと子供でいたい」という思いは軸としてありますね。たぶん死ぬまで変わらない。人間としてのこだわりが、ちょっと人より強いのかもしれないです。

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自分のライブでやりたいと思える曲

──少し大づかみな話になりますが、アニメの曲を作るのと純粋な自分の作品を作るのって、何か違いを感じますか?

それは、今日一番話したかったテーマかもしれないです。今回のお話で一番うれしかったのが、依頼の際に「キムさんが自分の曲だと思えるものを作ってください」と言ってもらえたことなんですよ。楽曲提供という形だと、けっこう作り手は「お仕事として作って終わり」みたいになるケースも多いと思うんですけど、「自分のライブでやりたいと思える曲を作ってください」と言われて、めちゃめちゃ食らったんです。「そんなことを言う人がいるんだ?」と思って。

──めちゃくちゃいい話ですね。

いい話なんです(笑)。おかげですごく作りやすかったですし、やってることとしては普段の曲作りとほとんど変わらなかった。もちろんテーマをいただいたりはしましたけど、本当にお題を与えてもらったくらいの感覚で、あくまで自分の曲として作ることができたんです。

──ほかのお仕事では、もっと自分と距離を置いた作り方をする場合もある?

もちろん僕は楽曲提供を専門にしている作家ではないので、慣れないせいもあってどうしても魂を込める密度に差ができがちな部分は否定できないんですけども……。

──逆に言うと、職人的に作ることへの憧れはそんなにない感じですか?

なくはないですけど、あくまでも「人の前に立ちたい」という欲のほうが強いので。とりあえずおじいちゃんになるまでは、自分が表に立つ側でいたいなと思っています。

──純粋に自分の作りたいものを作る人間でありたい?

それが結局、一番楽しいですから。自分の分身を生み出している感覚というか、子供をどんどん産んでいるような感じなんですよね。音楽に限らずですけど、クリエイティブの何がいいって作ったものが後世に残ることなんですよ。まあ、データだけだったらもしかしたら潰えるかもしれないですけど、CDとかを出せば何かしら残る。それが生きた証でもある気がするし、そこに意味があるように感じていますね。

kim taehoon

──音楽の場合は、必ずしもメディアで残らずとも「歌い継がれる」「弾き継がれる」という残り方もあり得ますしね。

ああ、そうですね。確かにそうだ。

──ちなみに、これは個人的に聞いてみたかっただけの話なんですが、他人との化学反応で作品を作ることに興味はあったりしますか? 例えばバンドで作るみたいなこととか。

バンドは本当に、ずっと組みたい思いは持ち続けているんですけど……いかんせんこだわりたい部分が多く(笑)、なかなか他人と相容れないところはあるんですよね。性格的にはわりと社交的とは言われるんですが、こと作品作りとなると「ここは譲れない」というのが強く出すぎてしまう。なので、自分だけでは表現しきれない部分で気心の知れた誰かに協力してもらう……例えばピアノだけ弾いてもらう、ベースだけ弾いてもらうみたいな、プチバンドみたいな形から徐々に慣れていって、いずれバンドを組んで化学反応を起こしながら曲作りをしてみたいなと思ってはいます。

──なるほど。それは天才ならではの悩みですね。

いやいや、天才じゃないですよ。全然、凡です。凡。

──凡は1人でここまでのものを作り出せないと思いますけどね。寄り集まってやっと一人前、というのが本当の凡だと思います。

どうなんですかねえ……まあでも、反骨心じゃないけど「バンドには負けたくない」という思いは持っていますよ。「それ、5人で作ったんでしょ? 僕、1人で作ったから」みたいな。もちろん、そんなことを直接言ったりはしないですよ? 対バン相手にいきなりケンカ腰で話しかけるようなことは絶対ないですけど(笑)。

──でも心のどこかに、プライドとして明確に持っていると。

そうですね。「負けないよ」っていう。

kim taehoon

kim taehoon ライブ情報

kim taehoon presents "BOY AND GIRL 2"

2022年12月23日(金)東京都 SHIBUYA RING
OPEN 18:00 / START 19:00
前売:3000円(税込)
当日:3500円(税込)

<出演者>
kim taehoon / ぜったくん / Shin Sakiura

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プロフィール

kim taehoon(キムテフン)

韓国産まれ、東京育ちのシンガー / トラックメイカー。日本語、英語、韓国語を織り交ぜながらファンク、R&B、ネオソウル、シティポップなどを基調としたジャンルレスな音楽を紡ぐ。2019年に活動を開始し、2020年12月に1st EP「BOY」を発表した。2022年は「YOU GIMME SOMETHING★KANJIN」「Dreamland」「DANCE IN THE MAGIC」といった楽曲を配信リリース。12月に東京・SHIBUYA RINGで自主企画「kim taehoon presents "BOY AND GIRL 2"」を開催する。