アニメ「ユーレイデコ」除村武志(YMCK)×MCU×佐藤大(原案・脚本) 鼎談|攻めのコラボソング「笑い合う時」を紐解く (2/2)

「前代未聞の企画なんだよ」と話した記憶があります

──このコラボソングという企画自体についてはどう感じました? だいぶ攻めた企画ですよね。

除村 まず、ぜいたくですよね。アニメの1話ごとに曲とビデオがあるという、そんな話はあまり聞いたことがない。まず、アーティストを集めるのがすごく大変そうだなと(笑)。

佐藤 音楽プロデューサーの佐藤純之介さんたちの中に野望があったんじゃないかと思いますね。最初にこの話を聞いたときは、企画内容そのものをあまり理解できてなかったんですよ。もう劇伴の作業が全部終わった段階なのに「新しく参加アーティストが決まりました」みたいに言われるもんで、「え、まだ作ってるの?」「挿入歌を入れるとこなんて、もうないよ?」とか思ってて。

除村 僕も最初にお話が来たときは「何それ?」と思いました(笑)。ちょっと斬新すぎて……。

──ジャンルとして名前の付いていないあり方ですもんね。主題歌でもなければ挿入歌でもなく、“第何話の特別エンディング”みたいなものとも違う。

佐藤 第9話のDÉ DÉ MOUSEさんと釘宮理恵さんの曲とかに関しては“キャラソン”と捉えることができるんで、理解しやすいんですけどね。

除村 言うなれば、これは“話ソン”ですよね。この言い方、流行らせたい(笑)。最初は理解が追いつかなかったんですけど、Uちゃんと飲み屋で打ち合わせるときに僕のほうからある程度説明する必要があったので、その段階ではだいたいわかった状態でした。「けっこう前代未聞の企画なんだよ」と話した記憶がありますね。

──そこで仮に除村さんがまだハテナの状態だったとしたら、2人して途方に暮れていた可能性もあった?

MCU そうっすね。飲みすぎていたでしょうね。

除村 ベロベロに酔っ払うだけで終わってた可能性がある(笑)。

──そういう難しい立ち位置の楽曲ではありつつ、「ほかの話数ではなく、第6話のイメージソングなんだ」という意識は強かったわけですか?

除村 そこは100%ですね。

MCU アニメ全体を考えるとすごいボリュームだし、的を絞らないと散らばっちゃうと思ったんで。

除村 飲み屋で話してる段階で、すでにちょっと絞ったような覚えはあるよね。「やっぱりマダムのセリフだよね」みたいに。

MCU そうそう。

佐藤 実は、あのセリフって元ネタがあるんですよ。

除村 あ、そうなんですか?

佐藤 マーク・トウェインの言葉なんです。インタビューなどでの作家としての発言を引用してまして……実はおばあちゃんのセリフはほぼほぼマーク・トウェインの言葉から構築しているんですよ。

除村 サンプリングしてるんですね。

佐藤 そうなんです。同じように怪人0のセリフは江戸川乱歩のフレーズをサンプリングしていて、第6話はその2つが一番ぶつかる話数にしようと考えて作りました。あまり気付かれないようにやらないといけないなと思ってたんですけど、ここまで来たら言ってもいいかなと。むしろここで言っておかないと、あのセリフが僕の言葉ということになってしまうといけないんで(笑)。

怪人0

怪人0

──そういう意味では、「ユーレイデコ」はけっこうヒップホップなアニメでもあるんですね。

佐藤 そうですね(笑)。僕はそれこそサンプリングミュージックがすごく好きなんですけど、ブレイクビーツとかにしても元の元をたどったら「これ、ジェームス・ブラウンか」みたいなことがよくあるじゃないですか。そういうものが時代時代で形を変えながら脈々と受け継がれていくのは面白いなあと思いますね。

除村 僕もジャズの曲からフレーズを引用して、「明らかにそれだろ!」という使い方をしたりしますし。そもそも8bitサウンドにしても、技術的な意味では違うんですけど、精神性としてはサンプリングみたいなものですからね。

MCU ヒップホップはもともとサンプリング文化で育ってきたものだし、ファミリーコンティニュー(MCUが「MC8bit」として結成したヒップホップユニット。DJ SHOGOによるチップチューンのトラックに乗せてラップをするスタイル)ではそれこそレトロゲームからの引用をやっていて。「グラディウス」だったら「グラディウス」の世界観をサンプリングするような意識で自分の言葉にするというのを最近ずっとやってるんで、そういう意味ではずーっとサンプリングし続けてる人生ですね。

佐藤 「ユーレイデコ」でやっていることも、その発想に近いです。今回お二人に作っていただいた曲は、言うなればマーク・トウェインの発した100年前の言葉が今ラップになっているわけです(笑)。そう考えると面白いですよね。

どんなところに並べられても、俺らがそこで一番光ってると思ってやってる

除村 今のお話を聞いて、マーク・トウェインをぜひ読んでみたいなという気持ちになっているんですけど……もう読みたいものが多すぎて(笑)。今って過去のものにも無限にアクセスできる時代だし、新作は新作でどんどん出てくるし、収拾がつかなくなっていますよね。本当に「どうしよう?」という気持ちでいっぱいです。

佐藤 逆に、原典に当たろうとしないで今あるものを受け取るのが現代のやり方としてはいいと思うんですよね。お二人がやられている音楽にしてもそうですし、「ユーレイデコ」もそうなんですけど。そこから原典を紐解いていくのは好き者たちがやることであって、作品を楽しむこととはまた別の話という気がします。

除村 なるほど、それはいい考え方ですね。でもこの状態って、受け手としてだけじゃなくて作り手としてもけっこうつらいなと感じることがよくあって……例えば自分たちの出した作品が、SpotifyとかApple Musicなどの中ではジェームス・ブラウンとかEarth, Wind & Fire、マイケル・ジャクソンなんかと同列に並んじゃうわけです。「これと戦うんですか……?」みたいな気持ちになっちゃうんですよね。

佐藤 それで言うと、アニメの作り手としては“深夜アニメ”という枠でくくられちゃうのがつらいです(笑)。同ジャンルとして語るには無理があるくらい多種多様な作品があるのに、一緒くたにして「今期の覇権アニメは」みたいに比べられたりしますから。「いやいやいや、もうちょっとフラットに観てほしいな」と。

除村 YMCKをやり始めたときも、電子音楽だからということで大雑把に“打ち込み系”のカテゴリーに入れられたりしていました。そういうイベントに呼ばれて「場違い感がヤバいな……」みたいな。

佐藤 手法に過ぎないものを、ジャンルと捉えられちゃうとキツいですね。

除村 それで言うと、ラップの世界ではどうなの?

MCU 俺はヨケちゃんとは逆で、あんまり気にしないかな。確かにフェスとかが始まってからは一緒くたにされることも増えたけど、たとえマイケル・ジャクソンが相手であろうとも勝つ勢いで。どんなところに並べられても、俺らがそこで一番光ってると思ってやってるから。

除村 つえー!

MCU 例えば「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」だと、今でこそそうでもなくなったけど、初期の頃は本当にロックバンドばかりで、ラップ勢なんて1組とか2組くらいだったから。その中へ出て行かなきゃならなかったんで、全員に勝つつもりで行かないとあんな場には立てない。一番キツかったのが、CHAGE and ASKAの前っていう出順。

除村 それはヤバい(笑)。勝てる気がしない。

MCU でも、勝つんだよ。

除村 勝つ気で行くんだ?

MCU 勝つ気で行くね。

──僕らのような無責任な受け手からすると、アーティストには全員MCUさんのような気持ちでいてほしいなと思いますけど(笑)。

MCU そうっすよね。

除村 最近はがんばってますよ(笑)。

──YMCKにしたって、“似た音楽をやっている人がいない”というのは強力なアドバンテージでもあるわけですし。

除村 そうなんですよね。どこへ出て行っても浮いてしまうのが悩みだったんですけど、「浮く=目立つ」だから、まあいいのかと。最近になってやっとそういう思考にシフトしてきました。

プロフィール

YMCK(ワイエムシーケー)

除村武志(作詞・作曲・編曲・プログラム・映像)、栗原みどり(ボーカル・作曲)、中村智之(作曲・映像)の3人からなる8bitミュージックユニット。2004年にリリースした1stアルバム「ファミリーミュージック」がヴィレッジヴァンガードを中心にヒットを記録。レトロゲームさながらの8bitサウンドで、幅広い世代の支持を受ける。2008年1月に3rdアルバム「ファミリージェネシス」でメジャーデビュー。国内のみならず、スウェーデン、オランダ、米国、台湾、タイ、韓国など多数の国で国際的なフェスやイベントに出演。映像とリンクしたユニークなパフォーマンスは、世界的にも高い評価を得ている。9月に9thアルバム「FAMILY INNOVATION」をリリース。10月に東京・UNITでワンマンライブ「INNOVATION CONFERENCE 2022」を開催する。

MCU(エムシーユー)

KICK THE CAN CREW、ULのメンバー。1997年にKICK THE CAN CREWを結成。2001年5月にシングル「スーパーオリジナル」でメジャーデビューした。人気絶頂の2004年にユニットは活動休止を発表するも、2014年にKICK THE CAN CREW名義で「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」に出演する。2017年8月に14年ぶりのオリジナルアルバム「KICK!」を発表し、2018年9月に東京・日本武道館でワンマンライブ「現地集合~武道館ワンマンライブ~」を開催。2022年3月に通算5作目のアルバム「THE CAN」を発表し、7月より東名阪ツアーを行った。MCUは無類のゲーム好きで知られ、2021年4月にはSEGAとコラボしたソロミニアルバム「MCU x SEGA Sound Collection」をリリース。同年12月には田中卓志(アンガールズ)、石田ニコルによるユニット・ピコビットブラザーズ with 石田ちゃんとしてゲーム愛の詰まった楽曲「IIコンの一撃」を配信した。

佐藤大(サトウダイ)

19歳の頃、放送構成・作詞の分野でキャリアをスタート。その後、ゲーム業界、音楽業界での活動を経て、現在はアニメの脚本執筆を中心に、さまざまなメディアでの企画、脚本などを手がけている。2007年、ストーリーライダーズ株式会社を代表取締役として設立。代表作に「カウボーイビバップ」「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「サムライチャンプルー」「交響詩篇エウレカセブン」「サイダーのように言葉が湧き上がる」「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」、2022年10月公開の「ぼくらのよあけ」などがある。