(夜と)SAMPOメジャー1stアルバム発売記念|吉野エクスプロージョン×トンツカタン櫻田佑対談 (2/2)

自分の魂を喜ばせるためだけに

──先行シングルを配信してニュースを作りながらアルバムにつなげていく、というのはプロモーション戦略の一環ですよね。メジャーデビューしたからこその動きでもあるのかなと。

吉野 そうですね。でも、そこは利害が一致しているというか。アルバムが完成したときにちょうど30歳になったんですけど、僕自身も作り手としてしっかりストーリーがあるものを作りたかった。単純にレコーディングしてリリースするだけじゃなく、デザインやプロモーションも含めて一貫したものをやりたかったので、レーベルのスタッフとも喧喧諤諤話し合いました。友達からは「なんかどの曲も濃厚すぎて、メジャー1stアルバム感ないで」って言われましたけど(笑)。曲の世界観が地に足着きすぎているのかもしれないです。

櫻田 (笑)。

吉野 自分たちはなんのためにバンドをやってるのかと言ったら、自分の魂を喜ばせるためだけなんですよ。みんなわざわざ仕事終わりの時間を割いたり、休日を削ったりしながらスタジオに集まっているのは、喜びたいからで。それを抜きにして、自分たちの存在が世間に広がるということは考えられないんですよね。そもそも、どう考えてもバンド活動はコスパが悪いですからね。

櫻田 そうなんですか?(笑)

吉野 コスパ、めちゃくちゃ悪いですよ!(笑) メンバーのスケジュールを合わせてスタジオを予約したり、重い機材を運んでレコーディングしたり……。

櫻田 確かに芸人のほうがマシかもしれないですね。

吉野 いや、でも3、4分という短い時間のために何十時間も費やしてネタの練習をされたりするじゃないですか……すごいなあといつも思っています。

櫻田 それはそうですけど、芸人はライブがあると言っても3、4分のネタを1回やるだけですからね。それで「あー疲れた」って打ち上げに行くんですよ?

吉野 いやいや(笑)、芸人さんは人間としてお客さんに対峙しないといけないじゃないですか。僕らは曲の力を借りられるけど、ステージ上でしゃべってるときはその人自身の戦いになる気がしていて、それは耐えられへんなと思うんです。そういう点で、芸人さんはすごいなと思っています。

左から櫻田佑(トンツカタン)、吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)。

左から櫻田佑(トンツカタン)、吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)。

“いいMC”とは?

櫻田 それで言うと、音楽のライブでもMCは本当に大事ですよね。そういう意味で大阪のバンドは強いですよ。どのバンドも1エピソードは持ってくる。

吉野 いいMCと悪いMCは、どこに違いがあると思いますか?

櫻田 ステージとフロアの位置関係になってはいけない、ということだと思うんですよね。上から目線でお客さんに話したらダメ。「観に来てくれてありがとう」よりは「観に来てくれてありがとうございます」のほうがいいだろうし。あとは、自分たちのことを初めて観るお客さんがいるということを絶対に忘れちゃいけない。いつも来てくれるお客さんは前のほうにいるから、むしろ初見の方が多い後ろに向かって話したほうがいい。あとは、何よりメンバーの“ニン”を知りたいですよね。メンバーの関係性も見えたら、さらにいいと思います。そのほうが記憶に残るし、「次もライブに行こう」と思えるんですよね。曲の世界観とメンバーのキャラクターがつながってるバンドもいるから、その場合は覚悟を決めるしかないと思いますけど。いかなるときでもそのキャラクターを守る。それを長く貫き通した結果、だんだんキャラが剥がれていくのもファンとしてはうれしいと思いますし。

櫻田佑(トンツカタン)

櫻田佑(トンツカタン)

吉野 個人的には世界観があるステージングが好きなんですけど、自分自身は特にそんなキャラじゃないし、「自分たちのバンドをどんな方向で見せたいか?」は難しい問題だと思っています。

櫻田 こないだSubway Daydreamのライブを観に行ったときにも、まさお(藤島雅斗 / G, Vo)から「今日のMCどうでした?」って聞かれて。なんか、その日はすごいモゴモゴしゃべってたんですけど。

吉野 かわいいな(笑)。

櫻田 僕が思うサブウェイのイメージは、ボーカルのたまみさんとドラムのKANAさんが思ったことをベラベラしゃべる感じ。まさおとひろし(藤島裕斗 / G)の双子には、引き立て役であってほしいんですよね。あの日のまさおは、前に出て笑いを取ってやろうって感じが出てたんですよ。

吉野 あはははは! これは耳が痛すぎる(笑)。

櫻田 (夜と)SAMPOは、いくみさんには奔放でいてほしいし、吉野さんにはいじられ役でいてほしいです。“孤高の存在”というスタンスは似合わないというか。ほかのメンバーから強めにツッコまれたりすると面白いと思うんですよね。

吉野 なるほど。そういうキャラクターってどこから感じ取るんですか?

櫻田 曲の印象ですかね。吉野さんはおしゃべり好きな根っからの関西人だって、曲から勝手に感じてます。それをMCでももっと出してほしいなと。

吉野 やっぱり観ている人は、人となりやキャラみたいなものが無意識にわかるんですね。

吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)

吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)

魂を喜ばせるためには売れないといけないし続けないといけない

──こうやって素直にアドバイスを求められるのも大人の強みのように思います。20代前半だといろいろと頑なでしょうし。

吉野 挫折しまくっているんで。負けを知ると自分の限界がわかるし、他人から学ばなければという気持ちになります。自分としては作品に自信があるから、聴かれないとやっぱり悔しいんですよ。ライブもよくなってきてると思うから、もっとお客さんをつかみたいんですよね。

櫻田 僕も若い頃は舞台上でも裏でも同じように過ごしていたんですけど、今はむしろ「裏でこそちゃんとしなくちゃ」と思うようになりました。先輩芸人の皆さんは、舞台上でどれだけ破天荒な芸をやっていても、裏では本当に優しいんですよ。真空ジェシカの川北(茂澄)さんとかも、自分の話を聞いてめっちゃ笑ってくれたりするし。ネタでは自分たちのやりたい世界観をいくらやってもいいけど、“ちゃんと挨拶する”とか“時間を守る”とか、そういう部分を疎かにしていたら話にならないですよね。ただ、いまだに相方はスタッフさんから「櫻田さん怒ってます?」と聞かれることがあるみたいです(笑)。それでも昔よりはマシになったかなと。

左から櫻田佑(トンツカタン)、吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)。

左から櫻田佑(トンツカタン)、吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)。

──(夜と)SAMPOはメンバー全員が会社員であることをアピールポイントのように紹介されることが多いですが、実は珍しいことじゃないと思うんです。特にハードコアやノイズのようなアンダーグラウンドのミュージシャンはほとんどの方がほかの仕事を持っていますし、音楽のジャンル的な多様性は兼業ミュージシャンが支えてきたという側面があるんじゃないかと。その点について吉野さんはどう考えているのかお伺いできますか?

吉野 本音を言うと、確かにそれは唯一のセールスポイントにはならないよなと思っています。自分が表現したいことと会社員をやっていることが直接つながっているわけじゃないですし。でも大学生の頃は、社会に出るのは死ぬのと一緒だと思っていたんですよ。そのときに櫻田さんもご存知の、ナードマグネットの須田(亮太 / Vo, G)さんが会社員をやりながら最前線でカッコいいライブをやって、いい曲を作っているのを見て、「もしかしたら自分にもこういう活路があるかもしれない」と思えたんです。

櫻田 須田さんは会社員をやっていることを公言したほうがいいパターンですよね。曲の中で不満をぶちまけてるから(笑)。それが魅力にもなっている。

吉野 そうなんですよね。須田さんというロールモデルがいたから、自分の可能性が広がったというか。社会人と音楽活動の両立は、そこから始まったんです。あのときの僕みたいに、社会に出るのはつらいことなんだと思っている人はいると思うので、僕が「会社員もやっている」と言うことで「こんなやり方もあるのか」と思ってほしくて。それであえて言っているところはあります。須田さんからもらったバトンをなんらかの形で渡していきたいなと。本当は、不安で震えてる大学生全員と面談したいくらいですよ(笑)。「年間休日が多い会社を狙え!」とか、いろいろ教えたい(笑)。

──このアルバムの中だと、特に「idea」にそのスタンスが色濃く現れていますよね。「きっとここは天国じゃない でも地獄よりは一番遠い」という歌詞にハッとする人は少なくないと思います。退路を絶って自ら地獄に飛び込んでこそロックバンド、といった類型的イメージの問い直しにもなっていると思います。しかも、バックボーンには吉野さんが郊外に移住して一軒家をローンで買ったという、大人すぎるストーリーがあるという(参照:吉野エクスプロージョン|note)。

吉野 僕はこの曲がアルバムで一番好きなんです。若い人に刺さるのか、ちょっと不安ではありますけど(笑)。

櫻田 芸人が一番欲しいのは安定なんですよ。仕事とお金が欲しい。だから、吉野さんの生活はうらやましいです(笑)。でもリスナーとしては、究極的には関係ない話なんですよね。会社員だとかそういうことは関係なくなって、「いい曲だ」というだけになってほしい。街を歩いていて当たり前に聞こえてくるくらい、みんなの生活に馴染んだバンドになってほしいし、コーチェラにも出てほしい。そのためにも、やっぱり売れてほしいんですよね。

吉野 さっきも言った通り、バンドをやってるのは究極的には自分の魂を喜ばせるためで、そのためには目的と手段が逆にならないようにする必要があると思うんです。追い詰められながら仮面を着けて活動するよりも、好きなことをやっているほうが聴いてくれる人にも伝わるはずだから。でも、そうするには櫻田さんがおっしゃったように売れないといけないし、続けないといけない。率直に、無理ない範囲で広がっていきたいです。そのためのメジャーデビューだし、僕らがやっていくことはそれだけなんだと思います。

左から櫻田佑(トンツカタン)、吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)。

左から櫻田佑(トンツカタン)、吉野エクスプロージョン(G / (夜と)SAMPO)。

(夜と)SAMPO 公演情報

1st ALBUM「モンスター」Release Tour

  • 2024年9月21日(土)大阪府 Live House Anima
    <出演者>
    (夜と)SAMPO / フリージアン / CAT ATE HOTDOGS
  • 2024年9月28日(土)東京都 Spotify O-nest
    <出演者>
    (夜と)SAMPO / インナージャーニー / peanut butters

プロフィール

(夜と)SAMPO(ヨルトサンポ)

関西で話題を集めていたバンドの元メンバーを中心に2019年結成された、5人組バンド。「何かを選ぶために、何かを捨てなくてもいい」という意思のもと、メンバー全員が会社員として働きながら活動している。2020年7月に1st EP「夜と散歩」をリリースし、リード曲「革命前夜」が話題を呼ぶ。2023年11月にシングル「変身」でワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビューを果たし、2024年1月にリリースされた「プラズマクラシックミュージック」がMBS / TBS系ドラマ「#居酒屋新幹線2」のオープニングテーマに採用された。2024年8月にメジャー1stアルバム「モンスター」をリリース。9月に東京と大阪にてリリース記念ライブを行う。

トンツカタン

プロダクション人力舎が運営する養成所・スクールJCAの21期生の森本晋太郎、お抹茶、櫻田佑によって2012年に結成されたお笑いトリオ。2016年に「第7回 お笑いハーベスト大賞」で優勝し、2019年に「ABCお笑いグランプリ」決勝、2021年と2022年に「NHK新人お笑い大賞」の決勝に進出している。2024年には、お抹茶が「R-1グランプリ」の決勝に勝ち進んだ。