夜韻-Yoin-|ネット発SSWがユニット結成、メジャーシーンで起こす化学反応

TikTokでバズった「ばーか。」で変わった人生

──ちなみに、あれくんの代表曲「ばーか。」は、TikTok経由で広がったんですよね?

あれくん はい。もとは昔から仲良くさせていただいているアーティストの堂村璃羽くんが、TikTokに自分のオリジナル曲を上げたらバズったことがあって。その彼に勧められて、試しに「ばーか。」を上げてみたらバズっちゃって、そこから人生が変わりました(笑)。

──バズった要因はどんなところにあると考えていますか?

あれくん 僕の曲自体、歌詞というよりも語り口調で作っているんですよ。TikTokの場合、その一部分が切り取られることになるので、歌詞の「なんでかまってくれないの」の部分だけ送られてくると、受け手は曲と思わないところが大きいのかなと思うんですよね。あと、曲自体がシンプルで、コードも4つしか使っていないので、初心者でもカバーしやすいっていう。当時は本当に何も考えず作った曲なんですけど(笑)。

──歌詞も1番が女性目線、2番が男性目線なので、いろんな人が共感しやすいところもポイントかもしれないですね。

あれくん そうなんですよ。あと、歌詞に携帯が出てくるのも、共感してもらえたポイントだと思います。それとああいうカップルの日常を切り取ったラブソングって結構バッドエンドで終わることが多いんですよね。でも僕はこの曲を作ったとき、ハッピーエンドにしてやろうと思って。そこも共感を得た要因かもしれません。

──TikTokのユーザー層を考えると、あれくんのリスナー層は若い方が多いと思うのですが、夜韻-Yoin-においてはどんな人たちに楽曲を届けていきたいですか?

あれくん それはもう幅広くですね。僕のファン層で言うと、「ばーか。」を上げたときは13〜17歳の子が70%ぐらいを占めていたんですけど、最近は大人っぽい曲を作っていることもあって、18〜24歳やその上の層の比率が増えてきていて。今は男性と女性の比率も4:6ぐらいなんです。夜韻-Yoin-も、歌詞は比喩的だけどわかりやすい表現をしているので、広く伝えられたらと思いますね。

夜韻-Yoin-

自分が主人公になれる曲

──ここからはメジャーデビューシングル「Seafloor」について聞いていきたいと思います。この作品はどのようなテーマを設けて作っていったのでしょうか。

あれくん この楽曲は自殺をテーマにしていて、主人公の男の子がとある悲しみに捉われてしまうというストーリー仕立てになっています。自殺を“海に落ちる”という表現に置き換えていて、そういう極限の精神状態にある人たちに寄り添える音楽を作りたかったんです。

──確かに歌詞からは閉塞感や不安といった感情が伝わってきます。そういった感情を繊細かつ詩的な表現で描いているのが、この曲の特徴だと感じました。

あれくん そこは意識したところで、心に闇を抱えている人の心情を比喩になりすぎない程度のバランスで表現することにこだわりました。僕は比喩的な表現が苦手で、シンガーソングライターとしての活動では直接的な歌詞しか書いてこなかったのですが、ユニットでは今までと違う味を出せればと思って。

──お二人はこの楽曲からどんな印象を受けましたか?

涼真 実は彼が「Seafloor」を作っていたとき、僕も一緒にいたんですよ。僕の家で制作していて、突然「降りてきた!」と言って歌詞を書き始めて、あっという間にできあがったんです。彼がこだわったという歌詞が個人的にとても好きな世界観で、単純に感動しました。

岩村 私はその場にいなかったんですけど、あれくんの歌とベーシックの音が入っている状態の音源データを送ってきてくれて。聴いてみたらメロディも言葉もスッと入ってきて、まるで小説を読んでいるような感覚があったんです。直接的なことは書いてないけど、物語の風景が思い浮かぶ、その世界観に自分が引き込まれるような感覚がありました。

──この楽曲、1番の歌詞は比喩表現を使った抽象的なフレーズが多いですが、2番では歌というよりもセリフをつぶやくようなパートになります。歌詞もモノローグ的な内容で、そこでこの曲の主人公がどんな心情なのかがはっきりと見えてくるという構造になっていますよね。

あれくん 「ばーか。」もそうですけど、僕の作る曲はセリフが入っているものが多いんですよ。というのも、僕は感情を込めるのが人より得意だと思っていて、その部分をセリフとして作品に取り入れた結果このスタイルにたどり着いたんです。それにセリフのパートがあると、聴き手も楽曲の世界に入りやすいんじゃないかと思うんですよね。自分がまるで主人公になったような気分になれる曲にしたい、というのは常に考えています。

“音の3D感”にこだわったアレンジ

──キャッチーなメロディだったりセリフパートがあったりと構造的にもフックの多い楽曲ですが、それを涼真さんはどのようなイメージで肉付けしてアレンジしたのでしょうか?

涼真

涼真 僕の中で「海に落ちていく」というテーマは絶対だったので、その世界観をいかに音で表現するかが今回一番悩んだところであり、楽しかった部分でもありました。イントロとアウトロではわかりやすく波や水音のSEを入れつつ、曲中ではそれを別の形で表現したくて。例え歌と歌詞がない状態でも、海に深く沈んでいく曲だということが伝わるものにしたかったんです。そこで今回は特に“音の3D感”にこだわりました。僕はミックスも作曲の一部だと思っていて、それぞれの楽器や音の位相が重要だと思うんです。今回で言うと、リバーブはすごく意識していて、最近のヒップホップを聴いたりしながら、どうすれば今の人たちの耳に刺さるかを考えてアレンジしました。

──確かにボーカルやピアノにリバーブがかかっていたり、音響的にもサラウンド的な効果を生むアイデアが取り入れられています。

涼真 聴いていて情景が浮かぶようなミックスを意識しました。ミックスは外部のエンジニアさんに依頼するのですが、メンバーも立ち会ってアイデアを出し合うんです。この曲に関しては楽器が多いので、アコギとピアノが同じ帯域にあっても音が濁らないようにバランスを考えたり、キックのチューニングやスネアをどれぐらい軽くしたら映えるかなど、アレンジの段階でミックスのことも考えていましたね。

岩村 ピアノの音響に関しては私もこだわっていて、自分からイメージを提案したり、ミックスの段階で細かくディレクションしたりして作ってもらいました。

──先ほど最近のヒップホップを参考にしたとおっしゃってましたが、この曲はいわゆるローファイヒップホップ的なニュアンスを感じさせるトラックですね。

涼真 確かにローファイ感は意識しました。ただ難しかったのは、海ってクリアな印象ですけどローファイはホワイトノイズが入ったり、焚き火が似合う感じだったりするので、音質的には逆のイメージだなと思って(笑)。この曲に関してはスネアの音作りにローファイ感を出していて、裏のゴーストノートに当たる位置にスネアとは別の音を入れたりして、自分なりのビートを構築できたんじゃないかと思っています。

200点、300点を目指して日本を越える

──全編アニメーションによるミュージックビデオも公開されていますが、こちらはどんなコンセプトで作られたのですか?

あれくん 僕の中にあるイメージをイラストレーターさんに伝えて、曲の世界観を反映させた4枚のイラストを描いていただいたんです。その絵をもとに影の変化など細部までこだわってアニメーションに仕上げてもらいました。

岩村 イラストの時点で素晴らしかったんですけど、アニメになったものが届いた瞬間に、2人に「早く見て!」って連絡したぐらい。楽曲のストーリーがそのまま絵になって、もう……感動しかなかったです。

──ラストには意味深なカットも挿入されていますよね。

あれくん あの部分は次回作につながる伏線になっているので、楽しみにしていてください。

──最後に、今後の活動予定と展望についてお聞かせください。

涼真 うーん、全国統一? 世界制覇とか?(笑)

あれくん いいね(笑)。日本に留まらず世界的なアーティストになりたいとは考えています。やっぱり大きいところを見ていかないとダメだと思いますし、100点じゃなくて、200点、300点を目指していけば、日本を越えていけると思うので。

岩村 今はライブが難しい状況なので、ネットが主体になると思いますけど、私は「ライブがしたい!」ってことばかり言ってます(笑)。

涼真 ライブはしたいですよね。

あれくん 僕はずっと画面越しで活動してきたけど、2人ともライブ好きだもんね(笑)。

涼真 ライブ、超気持ちいいですよ。幕が開いたらお客さんがいっぱいいて、スポットライト浴びながら「俺のギターソロを見ろ!」みたいな(笑)。

岩村 1発目のライブはすごく大事だと思うので、もし来年やれる機会があれば大きい会場で実現したいです!