夜韻-Yoin-が8月5日に配信シングル「Seafloor」でメジャーデビューを果たした。
ユニットの中心人物であるあれくんは、楽曲「ばーか。」でTikTokを中心に話題を集め、ミュージックビデオのYouTube再生回数が450万回を超える23歳のシンガーソングライター。夜韻-Yoin-は、彼がオルタナティブロックバンド・MAKE OWN LIFEのギタリストである涼真(G, Composer)、クラシック畑出身のピアニスト・岩村美咲(Piano)という音楽性の異なるアーティスト2名に声をかけて結成された。音楽ナタリーでは、ユニット結成の経緯やメジャーデビューシングル「Seafloor」の制作エピソード、インターネットを中心に活動する彼らが見据える今後の展望について話を聞いた。
取材・文 / 北野創 撮影 / 斎藤大嗣
感動しちゃうくらい、完璧な化学反応
──まずはこの3人で夜韻-Yoin-を結成した経緯を教えてください。
あれくん(Vo) 僕は今年3月にソロ名義で「白紙」というバンド編成のアルバムを発表したのですが、2人とはその制作で初めて会ったんです。なので付き合いとしては短いのですが、2人とも腕がよかったんですよ。それに涼真くんはオルタナティブロック、美咲さんはクラシック、僕はポップスやロックという、やってきた音楽がみんなバラバラだったので、そんな3人が一緒に活動したら、面白いものが作れるんじゃないかと思って僕から声をかけました。
──涼真さんはオルタナティブロックバンド・MAKE OWN LIFEでギタリストとしても活動しています。あれくんから話を聞いたときはどう思われましたか?
涼真(G, Composer) あれくんから「いろんなものをミックスしたユニットを作りたい」と誘ってもらったときは、まず絶対に面白いものが作れると思いました。僕はロックに限らずいろんなジャンルの音楽が好きですし、メンツ的にも最強だと思った。この3人の世界観が合わさったときにどんな化学反応が起こるのかというワクワクが大きかったですね。
──岩村さんはクラシック畑出身で、こういったユニットでの活動が初めてだとか。
岩村美咲(Piano) 今までソロ活動とサポートミュージシャンの仕事はしてきましたけど、ユニットでのアーティスト活動は経験がなかったので、すごく興味があったんです。ただ私がこれまでやってきた活動とは異なる音楽性なので、正直最初は「勉強しなくちゃ」という気持ちもあって不安でした。でも話をしていくうちに「それぞれ違う道を歩んできたからこそ、あえてそれを合わせたら面白いものになるんじゃないか」という考えで声をかけてくれたことがわかって。それからは私もワクワクでした(笑)。
──あれくんはソロでアルバムを発表したばかりで、考えようによっては今はソロ活動に集中すべきタイミングでもあります。そこであえてユニット活動を始めたのには何か理由があるのでしょうか?
あれくん シンガーソングライターとしての活動はもちろんですが、それと同時にバンド、トラック系のユニットという3本の軸を持ちたいなという思いがあったんです。それぞれのジャンルごとにリスナーの層は異なるので、それらが合わさることでさらに盛り上がるような流れを作りたいなって。
──なるほど。夜韻-Yoin-では、どのように役割分担して楽曲制作を進めているのでしょうか。
あれくん 曲全体のコンセプトみたいなものは僕が作ります。もちろん2人にも意見を聞きますけどね。で、僕が大元の曲を作詞作曲して美咲さんに渡すという。
岩村 私はそれを楽譜に起こしたり、トラックの骨組みや基盤になる部分を作って、編曲は涼真くんにお任せするという流れですね。すごくバランスいいよね?
あれくん うん、やりやすい。
涼真 メロディと伴奏のデータが届いたら、それをカッコよくすることだけ考えています(笑)。メロを聴いたら直感でビートが浮かぶので、それを打ち込みで組んで、曲のノリを決めて、ウワモノは2人の意見を取り入れながら、僕なりに作っていく流れですね。で、完成したらすぐに2人に聴かせるという。
岩村 涼真くんから届いた音源を聴くと、だいたいめちゃくちゃ進化してます(笑)。
あれくん 本当に感動しちゃうくらい、完璧に化学反応が起こってます。
“夜好性”からの影響
──夜韻-Yoin-というユニット名はどのように付けたのでしょう。
あれくん 夜に聴いて浸りたいと思わせるようなメロディと、「韻」は「韻を踏む」ということでリズム的な部分を意識した音楽という意味を込めて、このユニット名にしました。それと今は夜系の名前のユニットが話題じゃないですか。そこを意識した部分も多少はあります。
──ヨルシカ、YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに。といったいわゆる“夜好性”と呼ばれている方たちですね。あれくんはこの3組の楽曲の弾き語りカバー動画をYouTubeにアップしていますし、ほかのお二人も演奏カバーをSNSにアップしているので、いち音楽家として共感する部分があるのかなと。
涼真 普通に大好きです(笑)。
岩村 私は特にヨルシカさんの楽曲の世界観や各楽器のサウンドに魅力を感じています。楽曲を聴くと「こういう曲に対して、こうアプローチするんだ!」という今までにない感動があって、ヨルシカさんからは新しいものを勉強させてもらっています。
涼真 僕はYOASOBIさんの「夜に駆ける」に衝撃を受けたんです。聴いた瞬間「こんなの絶対みんな好きやん!」って(笑)。それにどの楽曲のアレンジにもYOASOBIらしさがあって、絶対にYOASOBIの曲だとわかるところがすごいし、その世界観を歌い上げるikuraさんも素晴らしい。Ayaseさんは同じアレンジャーとして尊敬しています。
あれくん 僕はヨルシカのn-bunaさんの書く詞に影響を受けていますね。ストーリー性があって詩的で繊細、しかもその世界に入れるような楽曲になっていて、そういうところに惹かれます。デビューシングルの「Seafloor」は、そういう世界観を描いてみたいと思ってできた曲でもあるんです。トラック系のサウンドって、バンドに比べて人間っぽさがあまり感じられないですけど、そこでどう人間っぽさを出していくか。夜韻-Yoin-では、そういう部分でヨルシカとは違う方向を攻めていきたいと思っています。
ネットやSNSでピンチをチャンスに変える
──あれくんのソロ名義の楽曲は、TikTokやYouTubeをきっかけに話題を集めました。夜韻-Yoin-もインターネットやSNSを中心とした活動を考えているのでしょうか?
あれくん そうですね。今は新型コロナウイルスの影響で生のライブを行うのが難しい状況なので、SNSを通してどのように発信していくかが重要だと考えています。ピンチをチャンスに変えるじゃないですけど、ネットやスマホで音楽を聴く子が増えている中で、自分たちの音楽をもっと広めていければと思います。
──皆さんは普段どのSNSをよく活用されているのですか? またその中でユーザーの傾向などはある程度分析しているのでしょうか。
岩村 私の場合は女性だからなのか、Instagramのフォロワーが増えやすくて。ファッションとか癒し系のピアノ動画を観たい方が多いみたいで、そういう層はTwitterでもTikTokでもなく、やっぱりインスタみたいなんですよ。ファンも70%が女性で、男性は少ないですね。
涼真 僕の場合は、ギターの演奏動画などある種専門的なものをインスタでやっても全然反応がないので、だいたいTwitterに上げています。でも普段使いはインスタが多いですね。美容師とか服屋の店員、地元のラッパーとか、リアルな友達はみんなインスタがメインで、Twitterはやってないんですよ。で、TikTokは趣味みたいな感じになっています。
岩村 確かに涼真くんのTwitter動画は再生数がすごく伸びていて。でも、私はTwitterよりもインスタのほうが伸びるので、そこもコンテンツによって違うんだなと分析しています。
あれくん 僕は完全にYouTubeを主体に活動していて、そこからうまく拡散するように、Twitterとインスタも活用しながらアプローチしています。YouTubeのチャンネルを登録してくれている方と、インスタをフォローしてくれている方って、やっぱり違うんですよね。片方しか登録していない方もいるので。
涼真 今はSNSごとにTwitterウケする曲とか、TikTokウケする曲というのがあると思うんです。そこを理解しているかどうかが今後アーティストにとって重要になってくるのかなと。例えばInstagramをやってるおしゃれな男の子や女の子と、TikTokをやっている中高生とではそれぞれ聴く音楽が違う気がしていて、僕ら3人はそういった傾向をやんわりと理解してるつもりです。ただそこに引っ張られすぎてもよくないので、自分たちが好きないい音楽を作ろうというスタンスでいます。
次のページ »
TikTokでバズった「ばーか。」で変わった人生