音楽ナタリー PowerPush - 山猿

帰ってきた山猿 再スタート誓うあいことば

原点回帰

──そういった面で言うと、作品の後半に山猿さんの実体験というかパーソナルな部分が特に色濃く感じられるナンバーがそろってますよね。8曲目の「LGMから山猿」はLGMonkeesの“解散”ライブで初披露された曲で、タイトルが示す通り改名について歌われてます。

「LGMから山猿」は改名するって決めたあと、最初に作った曲なんですよ。今、ライブでは必ず1曲目にプレイしてますね。「改めましてよろしくお願いします」といった気持ちを込めて。

──ライブで披露したときのお客さんのリアクションって、いかがですか?

山猿

ファンの子もこの曲聴くと「応援するぞ!」っていう感じのバイブスで俺を見てくれますね。けっこうブチ上がってくれます。みんな絶対イントロで「山猿!」って言ってくれるんですよ。今までそういうことがなかったからそれもうれしくて(笑)。

──歌詞には「月明かりのした 泣いていた夜」とありますけど、涙を流してしまうほど落ち込んだときもあったんですか?

そう、最初に話したような「みんなLGMonkeesって呼んでくれねえし、俺の存在ってなんなのかな?」って悩みがあったときですよね。「どうしよう、どうしよう」って考えてましたから。そんなときにファンの子から「山猿、今日も会いにきたよ」「山猿の曲に勇気もらってるよ」と言われて救われたことがあって、それが「ファンからもらったLOVE」っていう歌詞になってますね。

──トラックはけっこうヘビーなヒップホップサウンドですよね。

俺の音楽的ルーツの1つは、ヒップホップなんですよね。

──では原点回帰の意味を込めて?

そうですね。トラックメーカーも昔からの友達なので、俺的には懐かしい感じの曲です。若い頃のトゲトゲした感じ。

──ほかにはどんな音楽を聴いていたんですか?

ヒップホップで言うとSHAKKAZOMBIEとか。あと俺「AIR JAM」世代なんで、BACK DROP BOMBとかミクスチャー系のバンドに影響受けてますね。

焦らなくていいよ

──「LGMから山猿」の次の曲「4Life」に、「AIR JAM」のエピソードが出てきますね。「はじまりは98 AIR JAM」という部分。この曲にも山猿さんのパーソナルな経験が反映されていて。

そうなんです、若い頃に「AIR JAM」というフェスに触れられたことが、俺にとっては運命だったなと思っていて。俺、それまではめちゃくちゃ内気だったんですけど、「AIR JAM」に触れて音楽に出会って、すごい笑うようになったし人と会話できるようになったんですよ。そうやって音楽の力を実感しましたね。

──「4Life」ではそうやって音楽と出会った山猿さんがミュージシャンになるまでのストーリーが、ノスタルジックなメロディに乗せて歌われてます。

山猿

ライブが終わったあとに若いファンの子としゃべると「俺、夢ないんですけど大丈夫ですかね」って相談を受けることがよくあって。そんな彼らに向けて、俺からのメッセージとして作ったのがこの曲ですね。「焦らずに生きていけばいつか大切なものに出会えることに気付いてほしい」って伝えたい。大切なものは探すものじゃなくて、生きていれば絶対出会えるものだから、焦らなくていいよっていう思いをこめて歌ってます。

──そして続く「カジカ」では、故郷の会津の雪景色を歌っていて。

昔は自分の故郷がすげえ嫌いだったんです。田舎町で、田んぼと川くらいしかなくて。おしゃれな洋服屋さんもなければ、おしゃれなカフェも1軒もないし。だけど大人になったとき、道ですれ違った観光客の人が「会津の雪ってすごいきれいだよね」って言っているのが聞こえて。あと県外の友達も、同じことを言ってくれるんですよね。それを聞いたときに「あ、自分は素晴らしい場所に住んでるんだ」って気付いて、何気なく見てた景色が変わったんです。例えば田舎から上京したときだって、故郷の景色が胸の中にあるからがんばれるんだと思うんですよね。この曲は自分の田舎へのリスペクトを込めて書きました。

待ってくれている人がいるなら

──山猿さんは今、会津に住んでるんですよね?

ええ、住んでます。周りの人たちはみんな「東京に来い」って言うんですけどね。東北が好きだから離れられないですね。

──4年前の東日本大震災ではその東北に大きな被害があって、山猿さんも仙台で被災されたと伺いました。

そうですね。そのときは仙台に住み始めて2年目とかだったかな。住んでた家が津波の被害を受けて、帰れなくなっちゃって……。

──被災してすぐは避難所で生活を?

山猿

体育館ですね。そのあとにばあちゃんの家だったり妹や姉の家だったりを転々としてました。で、震災から1カ月くらい経った4月の下旬に、もともと出ることが決まってたイベントがあって。でも衣装もなんもないし「帰る場所もないのに歌ってる場合じゃねえな」なんて思ってたから、出演を断ろうと思ってたんですよ。結局スタッフさんに服借りて出ることにしたんですけど、本当にステージに出る直前までは正直「音楽辞めちゃおうかな」と思ってた。けど、ステージに出た瞬間に……これは本当にファンの方に助けられたんですけど、いろんな場所からいろんな人が会いにきてくれているのがわかったんですよ。「山猿が被災した」っていうことでみんな来てくれた。で、思い返すとそのときもファンの子が「おかえり」って言ってくれてたんですよね。そこで自分の考えが変わって、「音楽続けよう」と決めましたね。

──そうだったんですね。

出るのを断らなくて本当によかったと思ってます。あのとき歌ってなかったら、確実に今歌ってないですね。ステージに立ったからこそ「自分を待ってくれている人がいるなら、俺は歌おう」って思えた。

──東北で生活をする中で、震災の前後で山猿さんが「変わったな」と感じることってありますか?

震災が起きてからみんなよく笑うようになりましたね。人と人とのつながりをより大事にするようになったというか。前に住んでたアパートの隣の人とか、それまではどこの誰かも知らなかったけど、震災が起きてからは挨拶をするようになったし。大切なことを当たり前のようにするようになったのかな。田植えをしてるばーちゃんに「ばーちゃんがんばれよ」って声かけたりね。

──自分の中で変わったことってありましたか?

自分自身も笑うようになりましたね。小さな出来事を敏感に感じられるようになったと思います。それこそ痛みだったり、悲しみだったり、愛だったり。だから、挨拶もそうだけど人とよく話すようになりましたね。

ニューアルバム「あいことば2」2015年4月15日発売 / EPICレコードジャパン
「あいことば2」
初回生産限定盤 [CD+DVD] 3900円 / ESCL-4419~20 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3200円 / ESCL-4421 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 桜色の記憶…
  2. Maji SK
  3. 正直者はバカをみる!
  4. 夏の日
  5. いったいぜんたいなにがしたいかもわからない…
  6. アルコール
  7. LOVE me LOVE you
  8. LGMから山猿
  9. 4Life
  10. カジカ
  11. 相棒
  12. 3090 ~愛のうた~(Orchestra Version)
初回限定盤DVD収録内容
  • a MUSIC FILM「あいことば」
  • 「LGMonkees解散LIVEみんなありがとう!!~でもサヨナラは言わないよ~」ダイジェスト映像
「あいことばは生猿です!! Tour2015~夏の陣~」
  • 2015年7月24日(金)広島県 ナミキジャンクション
  • 2015年7月26日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2015年8月1日(土)岩手県 Club Change WAVE
  • 2015年8月8日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2015年8月9日(日)福井県 響のホール
  • 2015年8月14日(金)宮城県 darwin
  • 2015年8月16日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • 2015年8月21日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2015年8月28日(金)福岡県 DRUM Be-1
  • 2015年8月29日(土)長崎県 DRUM Be-7
  • 2015年9月4日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2015年9月11日(金)福島県 郡山市民文化センター 中ホール
山猿(ヤマザル)

山猿2005年に山猿として音楽活動をスタートさせる。2010年10月に覆面アーティスト・LGMonkeesとしてミニアルバム「LGMonkees」でメジャーデビュー。このデビュー盤に収録されたDragon Ash「Grateful Days」のカバー曲「Grateful Days feat. Noa」が注目を集める。2011年3月に自身の正体を明かした2ndミニアルバム「前回のLGMonkeesこと山猿です。」を発表。この作品の発売直前に東日本大震災で被災して自宅が津波の被害を受け、リリースタイミングは避難所生活を送っていた。同年10月にリリースした1stシングル「3090~愛のうた~」が話題を呼び、配信で累計100万ダウンロードを突破する。2012年11月には1stアルバム「あいことば」をリリース。その後も積極的なライブ活動を続ける中、2014年8月にLGMonkeesの解散を発表する。同年10月に行われたライブでは、名前を山猿に戻し今後の活動を行っていくことをファンの前で宣言した。2015年4月に山猿として2ndアルバム「あいことば2」を発表。