八木海莉がテレビアニメ「アンデッドアンラック」とWurtSとのタッグで見つけた新しい自分

2022年春、ほのかな緊張感を立ち上らせながらカメラの前に立ち、まだあどけなさを残した表情で取材を受けていた19歳の八木海莉。あれから1年半──音楽ナタリーでは、彼女のニューシングル「know me...」のリリースに合わせて再びインタビューの機会を得た。

今年に入ってから、日本橋三井ホールでのワンマンライブ2DAYS、「TOKYO CALLING」「SAKAE SP-RING」「MINAMI WHEEL」といったサーキットイベントや「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演などで経験を重ねた彼女。今年9月に21歳の誕生日を迎え、アーティストとして着実にステップアップを続ける八木は、カメラの前で凛とした表情を浮かべ、インタビューではフランクな口調でライターと言葉を交わすなど、大きな変化を見せていた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 笹原清明

最高の夏と、成長を実感したバースデーライブ

──9月5日に21歳の誕生日を迎えたことを記念してワンマンライブ「八木海莉 Birthday Live -21-」を開催されました(参照:21歳になった八木海莉、1年前と同じステージでアーティストとしての成長を証明)。昨年に続き、2年連続のバースデーライブとなりましたが、手応えはどうでした?

成長を実感できるライブになりましたね。この1年でいろんなフェスやイベントに出させていただき、去年のライブから少し成長した姿を観ていただけたかなと。まず、周りの音が聴けるようになってきたんですよ。去年はあまりにも緊張しすぎて、まったく余裕がなくて。「練習してきたことをそのまま出す」という感じだったんですけど、今回はバンドの音もしっかり聴けたし、ピッチも正確に取れるようになった気がします。メンバーの皆さんとも会話をして、自分から「ここをこうしたいんですけど」と話したり、逆に「じゃあ、こうしてみたらどう?」と意見をもらって。そのおかげでライブの流れもしっかり作れたと思います。そういう会話もほぼ初めてだったんですよ、実は。今まで当たり前のことができなかったんだなって思いました。

八木海莉

──オーディエンスの皆さんともしっかりコミュニケーションを取ってましたよね。

そうですね。今まではライブ中にどこを見ていいかわからなくて、落ち着きもなかったんですけど(笑)、ちゃんとお客さんの様子も見られるようになったんです。じっくり聴いてくださる人もいれば、ノリながら観てる人、歌ってくれる人もいて。ライブでしかファンの方とは会えないので直接そういう姿をみれてやっぱりうれしいです。

──21歳の誕生日を迎えて、大人になったという感覚はありますか?

まだ大人になった感覚はないんですけど、いろいろ変化は起きているので、少しずつ大人になっているんだろうなとは思います。自分で作る曲や歌詞の内容も変わってきていて。あとは観たいと思う映画が変わったり、季節の変化に敏感になってきたり。

──季節に敏感なのは少し大人っぽいかもしれませんね。ちなみに今年の夏の感想は?

もともと夏は楽しい思い出があまりなく、苦手なほうでした(笑)。でも、今年は楽しかったです。一番はフジロック(「FUJI ROCK FESTIVAL」)ですね(八木は7月29日公演に出演)。Foo Fightersのライブも観れたし、自分のライブは深夜だったので、気候的にも快適な空間でライブをすることができました。あとプライベートで「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」にも行って、RADWIMPSを観たんですよ。中学生のときに地元の広島で観て以来だから、だいぶひさしぶりで。最近は「いろいろ勉強しなくちゃ」と思いながらライブを観ることが多かったんだけど、そのときは純粋にファンとして、涙を流しながら観ました。昔の曲もやってくれたし、本当に最高でしたね。

八木海莉
八木海莉

「know me...」を作る中で考えた愛と居場所

──では、ニューシングル「know me...」について聞かせてください。表題曲はアニメ「アンデッドアンラック」のエンディングテーマですが、楽曲作りのスタートは?

原作のマンガを読むところからスタートしました。主人公の出雲風子とアンディがジーナというキャラクターと戦う場面があるんですけど、このシーンをもとに歌詞を書こうと思って。主人公たちの“愛”を歌った曲ですね。風子は誰にも触れられないんですよ。

──風子は触れた相手に不運をもたらしてしまうキャラクターなんですよね。

そうです。物語は彼女がアンディと出会うところから始まるんですけど、ストーリーの中ではどのキャラクターも誰かのために行動しているんですよね。主人公の2人もそうだし、ジーナもそうなんですけど、全員が自分以外の人のために動くという。その信頼感はすごいなと思ったし、その要素を歌詞にも入れたいなと。あと、原作のマンガにもアニメにも月が印象的なシーンが多いので、月という言葉も絶対に入れたくて。

──なるほど。自分以外の人のために動くという“愛の在り方”は、八木さん自身も共感できる?

はい。自分は今まで、あまり人を信頼できないところがあって。逆に「どうしたら信頼できるようになるんだろう?」と考えたときに、「まずは相手を知るということかな」と。100%知ることはできなくても、知ったつもりでいるのも愛じゃないかなって。

──それが「分かり切れぬ淋しさと つもりでいる愛しさよ」という歌詞につながったんですか?

そうですね。すべてをわかり合えないとしても、あなただけは私のことを知っていてほしいという。

八木海莉

──「know me...」には、「描いたような人間じゃないけど 靠れるように居場所がほしいの」というフレーズもあります。八木さんは思い描いた自分に近付けている実感はありますか?

いや、ないですね。1回もそう思ったことはないです。完璧主義者なんですよ、たぶん。自分に対して100%満足できることは一生ないんじゃないかな。

──理想が高いということ?

理想も高いですし、プライドが高いんだと思います。「理想の自分に近付くためには、こうしたほうがいいな」と考えることもあるんですけど、プライドが邪魔してできなかったり。そこもちょっとずつ変えていきたんですけどね。

──では、ご自身の“居場所”に関しては?

居場所は作れている気がします。地元に居場所がなくて、上京して音楽活動を始めてからちょっとずつ自分の空間が作れるようになってきましたね。同時に帰省したときには地元を「いい場所だな」って思えるようになってきたんですよ。それもたぶん、心に余裕ができてきたからなのかなって。

──そのあたりも変化しているんですね。「know me...」の曲調やメロディについて何か意識したことはありますか?

アニメサイドから男性が歌うような低いキーで歌ってほしいという話があって。Aメロとかはかなり低めだし、ちょっとしゃべってるように歌ってる感じもありますね。これまでそういうオーダーをもらう機会もなかったので、作っていて面白かったです。アレンジに関しては、デモ音源を自分で作って、それを益田TOSHさんにブラッシュアップしてもらいました。私のアレンジも上達していると思うし、「うまくなってきた」と言ってもらえることが増えてきたんです。デビューしてからいろんなアーティストの方と関わらせてもらって、自分なりに「こうしたほうがいいかな」と考えたり、調べたりして。ちょっとずつイメージが形にできてきているのかなと。

──初めてアニメのエンディング映像を観たときの印象はどうでした?

とても素晴らしくて、本当にうれしかったです。「know me...」の歌詞はネガティブに感じられるところもありますが、込めている感情はそうではなくて。アニメの映像も、ちょっと暗めな雰囲気で始まって、最後は桜が満開になるんです。曲ともすごくマッチしてるなと思いました。アニメの楽曲を担当させてもらうと、自分のことを知らない人が「八木海莉の曲を聴いてみよう」とチェックしてくれることがあって。それが本当にうれしいし、この曲も早く皆さんに聴いてもらいたいです。

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WurtSに影響されて