映画「ウエスト・サイド・ストーリー」ブルーレイ+DVDセット発売記念特集|“スピルバーグの教え子”森崎ウィンが魅力を掘り下げる (2/2)

トニーとマリアは2人の未来に気付いている気がするんです

──ウィンさんが思う「ウエスト・サイド・ストーリー」の楽曲やサウンドの魅力についても伺えればと思います。

今もなお色褪せないと言いますか、昔の曲という感じがしないですよね。ミュージカル作品ですから楽曲で感情表現をしますし、この作品がどうやって結末に進んでいくかっていうことを、知らないうちに楽曲に誘導されているという部分を踏まえつつ、この「ウエスト・サイド・ストーリー」を深く“聴いて”みると「うわ、ここでめちゃくちゃ不穏な音を入れているな」とか、気になるシーンがたくさんありました。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

森崎ウィン

──気になったポイントについて、具体的に聞かせてもらえますか?

これは僕の考えすぎかもしれないんですけど、「すごくいいな、狙った表現であってほしいな」と思ったのが、デートに出かけたトニーとマリアが駅のホームに降りてくるシーン。2人が電車に乗り込む瞬間に、すごく不穏な警笛が鳴るんですよ。なんだか、これから2人が進む道が険しいことを知らない間に植え付けられているような感じがして。劇中歌ではないんですけど、効果音1つを取ってもすごく計算されているのかなと思えたんです。

──なるほど……今の見解を聞いて、観直さなきゃと思いました。

いや、僕の考えすぎかもしれないんですけどね(笑)。

──ちなみに、「ウエスト・サイド・ストーリー」の中でウィンさんが特に思い入れのある楽曲は?

「ひとつの心(One Hand, One Heart)」ですね。この曲のメロディのすべてが、僕のツボを刺激してくるんです。後半、マリアのパートがどんどん高音に上がっていき、トニーが下でハモりながら付いていくところとか、秀逸だと思います。すべての曲がよくできていると思いますけど、この曲は本当に大好きですね。

──舞台上でウィンさんがこの曲を歌っているときには、どんな感覚があったでしょうか。

この曲は2人が結婚を夢見ながら歌う曲で、一見幸せな気持ちになれるような場面だけど、僕、この曲を歌うと泣きたくなるんです。なんというか、トニーとマリアは「絶対にうまくいかないだろう」って、気付いている気がするんですよ。自分は実際に歌いながら、そんなことを感じていたんですよね。だから、僕の中では悲しい思いに襲われる曲でもあります。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

これからを生きる世代にも投げかけていくべきテーマが「ウエスト・サイド・ストーリー」にはある

──スティーブン・スピルバーグの「ウエスト・サイド・ストーリー」を鑑賞して、新しい発見や気付きはありましたか?

「ウエスト・サイド物語」を観たときは泣くほど感情的にはならなかったんですけど、スピルバーグ版はホントに泣けたんですよね。その「泣けた」という部分に新たな発見があるんだと思うんですけど、どう言葉で説明したらいいんだろうな……。「ウエスト・サイド・ストーリー」で描かれているのは1つの街の小さな地域での縄張り争いだけど、国同士の戦いでも同じことが言えるというか。それこそ僕の出身国であるミャンマーでは今、政治的な問題が起きている。そして、ミャンマーに限らず世界中でいろんなことが起きているのを、自分はこの1、2年リアルタイムで目の当たりにしていて。そういったことを受けてこの作品を観ると、また受け取り方がひとつ変わってくる気がするんですよね。役者である前に自分は1人の人間なんだということを強く思わされますし……表現がしづらいんですけど、きっと争いや差別への向き合い方が、自分の中で変わったんだと思います。そういった変化を、この「ウエスト・サイド・ストーリー」が気付かせてくれたということかもしれないです。

森崎ウィン

──今この作品を見るべき理由は確かにあると、私も感じます。では、「ウエスト・サイド・ストーリー」が時代を超えて普遍的に愛されている理由を、ウィンさんはどのように見るでしょう。

まず大前提として音楽がいいし、ダンスが本当に素晴らしいです。それを踏まえたうえで、服のデザインや街並みは昔と今で変わっていたりするけれど、人間同士の争いやそこにある問題は、昔と比べて大きく変わっていないという。「今もこういうことってあるよね」と感じられる部分があるからこそ……だから愛されるっていうのはおかしな言い方になってしまいますけど、今観ても「ああ、僕らはこういうことにしっかりと向き合っていかなきゃいけないんだな」と思い知らされるのかなと感じます。これからを生きる世代にも投げかけていくべきテーマが「ウエスト・サイド・ストーリー」にあるからこそ、今回このように映画が作られたのかなとも思えますね。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」より。

──ありがとうございます。では最後に、この作品をこれから観る人へ向けてのメッセージをお願いします。

重たい話はひとまず置いておいて、まず、スピルバーグ監督がこだわり抜いた画がすごくいいです。音楽もダンスも最高だし、とにかく1つひとつの要素から「これがエンタテインメントだ!」という興奮を感じられると思います。もし「『ウエスト・サイド・ストーリー』って遠い昔の話なんでしょ?」と思っている方がいたら、まずはとにかく再生ボタンを押してみてほしい。「ダンスカッコいい、あ、歌もいいな!」というような感覚で第一歩を踏み出してもらえたらうれしいですね。

森崎ウィン

プロフィール

森崎ウィン(モリサキウィン)

1990年8月20日生まれ、ミャンマー出身の俳優・アーティスト。中学2年生のときにスカウトされ、芸能活動を開始する。2008年にダンスボーカルユニット・PRIZMAX(現解散)に加入しメインボーカルを担当。俳優としても活躍する中で、2018年公開のスティーブン・スピルバーグ監督作「レディ・プレイヤー1」で主要キャストに抜擢され、ハリウッドデビューを果たした。2020年にはブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season2でトニー役を演じたほか、映画「蜜蜂と遠雷」では第43回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。主演を務めた連続ドラマ「本気のしるし」(2019年放送)では釜山国際映画祭2021のASIA CONTENTS AWARDSにてBest Newcomer-Actor賞を受賞した。2022年8月に上演されるブロードウェイ・ミュージカル「ピピン」日本公演では単独主演を務める。アーティストとしては、2020年7月にMORISAKI WIN名義でメジャーデビュー。デビュー曲「パレード - PARADE」はスズキソリオバンディットのCMソングとして話題を集めた。5月には1stアルバム「Flight」をリリース。9月には初の有観客ワンマンライブを成功させた。