ナタリー PowerPush - 露崎春女
元祖R&Bクイーンイズバック! 新作「Now Playing」は攻めの姿勢全開
マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンにも通じる「バラードを超絶歌唱するアーティスト」というパブリックイメージが今も強いであろう、露崎春女。2000年代に突入してからは“Lyrico”へのアーティスト名義変更、ほかのアーティストへの作品提供などを経て、前述のイメージでは括ることのできない音楽性を築き上げてきた。
だが、今回レコード会社を移籍してリリースするニューアルバム「Now Playing」こそが、真のリスタートになるのは間違いない。アメリカンR&Bのトップトレンドと肩を並べる'80sやニューウェイブ感覚漂うトラックメイキングの的を射た新しさ、“アラサー”世代ならではのリアルなリリックが刺さるラブソング。これまでのイメージを痛快にブッ壊して前進する露崎春女。アルバムリリースは少し先だが、そのキャラクターも含め、いち早く彼女の今を届けたいと思う。
取材・文/石角友香
もっとブチ壊していかなきゃいけない
──今回のタイミングではなく、2008年の時点ですでに“露崎春女”名義に戻してらしたんですね。
そうですね。そのときはベスト盤をリリースするタイミングだったので、改めて露崎春女とLyricoが同一人物だと知ってもらえたらいいなぁ、と思って戻したんですけど、いまだにそんなにうまく結びついていない人が多いかもしれないです。
──ベスト盤のタイミングでご自身のキャリアを一度総括したんですね。
まさにそのためのアルバムでしたね。
──そこから、今回のニューアルバムはいわばリスタートの作品になると思うんですが、聴かせていただいて、すごく攻めの姿勢を感じました。
ありがとうございます。“攻め”って言われると「そうなのかな」と思うんですけど、それは私がすごく天邪鬼で、みんなが「いいね、これいいね」とか言ってると「じゃあやめよう」と思っちゃってた姿勢が出てるだけかもしれない(笑)。性格悪い感じなんですけど。でも、みんなが「いい」っていうと、「そうじゃない、違う、もっとブチ壊していかなきゃいけない」みたいなことをずっと思っていたような気がします。
──ずっと「こうじゃない、こうじゃない」と?
そう。別に最初からテーマを「攻めで」とか思ってなかったんですよ。ただ、資料にも書いてあるように'80sの感じは出そうと考えてたかな。音楽やファッションの流れで、'80sがすごく来てたので。でも天邪鬼なので、「そういうのが来てる」って言われると違うことをやりたくなるんですけど(笑)。'80sは私が聴いてきた音楽の中でもど真ん中ストライクのものなんですね。年の離れた兄と姉の影響もあって、今回のアルバムに限らず以前から私の書く曲には、そういうフレーバーがあったんですよ。で、今回はよりそこに集約して「やっちゃえー!」って(笑)。
──'80sのR&Bやソウルといえば、ポップス全般ではホイットニー・ヒューストンの楽曲や、ナイル・ロジャースのプロデュース作品というイメージがありますよね。でも、今回のアルバムには今の時代に活躍しているクリエイターが持つ'80sの世界観も入ってますね。
あー、そうかもしれないですね。そのまんま'80sテイストにしちゃうと、ただ昔っぽい感じになっちゃうので、“今”の時代から見た'80sをエゲツないぐらい取り入れてる……例えばほかのアーティストが「フラッシュ・ダンス」のフレーズをまんまサンプリングしてるのとかを聴いたことがありますが……そういう、'80sから新たに影響を受けたもののニュアンスも確かにありますね。
今までのパブリックイメージに対して反抗して作った
──従来の露崎さんには、それこそ'80sのR&Bをすごくうまく歌うシンガーというイメージや、「絶対音感を持ってる声域4オクターブの脅威の歌声!」なんてイメージがありましたよね。
ありましたね。懐かしい(笑)。
──テクニカルなことがフィーチャーされてたというか。
そうですね。でもそういう曲は今でも大好きですし、今回のアルバムに入れても良かったんですけど、なぜか入ってないんですよね。アルバムの曲が全部あがってみて、そういう曲が入ってなかったから「あれ? 大丈夫ですかこれ、ヤマハさん?」みたいな気持ちもあり(笑)。そんなに意識的にバラードを排除したわけではないんですけどね。自分の書く曲がグルーヴィなダンスミュージックが多いというだけで。
──なるほど。歌がうまい人はいっぱいいるけど、同じ歌をみんなが歌ってると、プロなのに「のど自慢」みたいになっちゃうような気がするんですね。
それも嫌いじゃないんですけどね、全然(笑)。
──でも、それだけだと今この時代に作ったオリジナル曲の「ここがカッコいい」っていうのは伝わらないといいますか。
うーん、私自身は、今回のアルバムを作るにあたって、やはり今までのパブリックイメージに対して反抗して作った気はしますね。あと、前作から今作に至るまでの間、ほかのアーティストに曲を提供していたんですよ。それでプロデュースというか、人の歌を録ってまとめたことで、もっといろんな種類の曲を書きたい、と思って、曲の種類が増えてきたのかもしれませんね。
CD収録曲
- Sacrifice
- Bye Bye Gloom
- Love Flame
- Real Love
- A New Day
- Emergency
- Let Go
- Alright
- Still Of The Night
- You Lied
- さよならの誓い
- Time Is Jewelry
EP収録曲
- Sacrifice
- Believe Yourself(Live ver.)
- Saving All My Love For You(Live ver.)
- Love Takes Time(Live ver.)
- Through The Fire(Live ver.)
露崎春女(つゆざきはるみ)
神奈川県出身の女性ボーカリスト。1995年10月にシングル「TIME」でメジャーデビュー。パワフルで情感豊かな歌声を持つR&Bシンガーとして人気を博す。2001年11月にアーティスト名義をLyricoに変更。曲調もオリエンタルな雰囲気の漂うポップスとなり、ファン層を広げる。2008年10月にはアーティスト名義を露崎春女に戻し、キャリアを総括する2枚組アルバム「13years」をリリースした。2011年2月、所属レーベルをヤマハミュージックコミュニケーションズに移籍。4月20日に待望のニューアルバム「Now Playing」を発表する。