東京スカパラダイスオーケストラ|Jean-Ken Johnny (MAN WITH A MISSION)、ムロツヨシと語り尽くす最新作「S.O.S. [Share One Sorrow]」

コラボはお互いの秘伝のタレの見せ合い

──お話を伺っていると、制作はずいぶんスムーズだったようですね。

Jean-Ken すごいスピード感でした。

加藤 リハのときにけっこう難易度高いリクエストをするんですけど、Johnnyくんは「わかりました」とクールに応えて、すぐに「じゃあこういうことですかね?」と正解が返ってくるんですよ。

谷中 “究極の生命体”は音楽IQが高いんだよね。

Jean-Ken いやいや。

加藤 ただ、8月8日だけ“交信”が途絶えたんだよね(笑)。

Jean-Ken 前日、LINEでやりとりをしている最中に谷中さんが「明日すごい大事な用事あるから先に寝るわ」って言うから「お子さんの授業参観かな?」なんて思ってたんですけど、翌日テレビでオリンピックの閉会式を観ていたらスカパラさんが出てきて。「大事な用事ってこれかい!」と(笑)。

──それは大事ですね(笑)。

加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ / G)

加藤 楽しい思い出でしたね。その翌日が「S.O.S. [Share One Sorrow]」のリズム録りだったから、スタジオに入って早々Johnnyくんに「ちょっと兄さん方!」とツッコまれたんだけど「ごめんね、誰にも言えなかったんだよ」と(笑)。

Jean-Ken でもレコーディングはしびれましたよ。「こういう感じで録るんだ? すげえな!」って(笑)。皆さん別々のブースに入って、ほぼ一発録りですからね。

加藤 普通のバンドはまずドラムから順番に録っていくと思うんだけど、僕らはそれができなくて。いつも一緒に「せーの!」で演奏するんです。

──ボーカルは別録りですよね?

加藤 歌は別録りだけど僕らみんな歌を聴きながら演奏したいんで、JohnnyくんとTanakaくん(Tokyo Tanaka)にはオケ録りのときもスタジオに来て一緒に歌ってもらいました。

Jean-Ken 変な言い方ですけど感動しました(笑)。昨今はトラックごとに録っていくのが合理的かもしれないけど、スカパラさんのグルーヴ感はやっぱりああいう形で生まれてるんだなって。

加藤 特にドラムの欣ちゃん(茂木欣一)は歌に対してタイム感を合わせて叩くタイプだから、歌の存在がすごく大事で。クリックも聴くんですけど「歌がどう行きたいか」ってところに対して欣ちゃんが描き出すビートがやっぱり全体の土台になるんです。

──Johnnyさんはスカパラの演奏で歌ってみていかがでしたか?

Jean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION / G, Vo, Raps)

Jean-Ken これがマジでめちゃめちゃ気持ちいいんですよ(笑)。緊張しましたけど、リハの時点からずっと気持ちよく歌えましたね。

谷中 緊張してたの? 全然わかんなかった。冒頭の歌い方がすごく好きなんだよな。

加藤 今回レコーディングしてみて「マンウィズの歌の作り方ってこうなんだ?」と勉強になることもたくさんありましたね。コラボはお互いの秘伝のタレの見せ合いみたいなところがあるので「こうするとマンウィズっぽくなるんだな」とか「2人の声が混ざるとこうなるのか」とか。同じBメロでも1番と2番で歌っている人が違ったりしてますからね。

──2人の声が混ざる効果は意識的に狙っているんですか?

Jean-Ken そうですね。サビのパートなどで僕が高いほうを歌って下のハモをメインボーカルが歌うみたいな形の混ぜ方は、手法の1つとしてやらせてもらってます。

加藤 不思議と1人で歌っているみたいに聞こえたりもするんですよね。明確なハモを付けたところは2人の声が分かれて聞こえるけど、合流して同じラインを歌ったときに1人の声みたいな混ざり方をするときがあって。普通はボーカリストがいてギタリストが上のハモを付けるじゃない? でもマンウィズはお互いがメインだから自由自在にボーカルラインを行き来しているような感覚で、そんなバンドはほかにあんまりないですよね。

Jean-Ken 後輩としては、今、先輩に引き出しをめっちゃ荒らされている感が……(笑)。

加藤 あはは(笑)。でも引き出しの中を見ても僕らが同じことをできるわけじゃないからね。

東京スカパラダイスオーケストラ(谷中敦、加藤隆志)とJean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION)。

「1つの哀しみを共有する」ことの意味

──それにしても「Share One Sorrow」略して「S.O.S.」というタイトルは秀逸ですね。まさにこの時代のムードを言い当てている気がします。

谷中 長引く自粛期間中にいろいろ考えていたんです。それで「Share One Sorrow」っていうサビの歌詞を思い付いて、それを題名にしようと思って見ていたら「頭文字がS.O.S.になってる!」「これは言霊来てるわ!」って(笑)。

──特に伝えたい歌詞のフレーズはありますか?

谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ / Baritone Sax)

谷中 まさに「Share One Sorrow」=1つの哀しみを共有しようということをとにかく言いたくて。「汚らしい事実がもっともらしく聞こえる世の中だ(It's a world where dirty facts sound plausible)」とも書いたけど、まさに今の世の中はいろんな正義が乱立しすぎてバラバラじゃないですか。意見が1つになることなんてもうないなと思ってしまう。そんな中での最後の頼みの綱が「1つの哀しみを共有する」ことなのかなって、それくらいの願いを込めて書きました。人類がみんな手をつないでこの哀しみを乗り越えたときに、地球が1つになることを夢見ているんです。

加藤 ホントそうですよね。お互いの立場が違ったらそりゃ正義も違うだろうし、同じ国内、同じミュージシャン同士でもいろんな意見が飛び交っているわけで、だからこそ谷中さんのこの歌詞ができたときに自分も少し気持ちがラクになりました。みんな今は違う場所にいるかもしれないけど、結局1つの場所に戻っていけるんだぞと。

Jean-Ken この状況下での「哀しみを共有してこそ1つになれるんだ」というメッセージには僕もものすごく感銘を受けまして、本当に素晴らしい視点だなと力が入りましたね。歌詞を英訳する際にも安っぽくならないように、テーマに沿って重たいけど説教臭くなく、真理を突く言葉を選ばなきゃいけないなという思いで書かせていただきました。

ごった煮進化形の“トーキョーミクスチャー”

──ところで今回のサウンドからはどこか1990年代っぽい手触りを感じたんですが、そこは意識してのことですか?

加藤 ああ、特にオープニングとかは90年代に聴いていたバンドの音をイメージしたかもしれないですね。自分のフィルターを通すんで、最終的には自分らしい形になるんですけど。

Jean-Ken 僕と加藤さんは聴いてきた音楽がだいぶかぶっているので、ギターについても自分が普段使っている音色を「それめちゃくちゃいいじゃん」と言ってもらえてありがたかったです。

──普段のスカパラの曲にはあまり登場しないタイプの音ですよね。

加藤 自分のギターよりジョニーくんの音のほうがこの曲に合ってるみたいなところが多くて。ディレイのかかり方とか好きな感じだし、普通にアルペジオ弾いてるだけでめちゃくちゃよくて、2人ともギター少年に戻ったみたいで楽しかったです。

Jean-Ken 逆に「これをスカパラの曲でやっていいんだ?」という驚きがありましたよね。僕はズブズブの90年代っ子だからこのスタイルがいいと思って弾いてるんですけど、それをまさかスカパラでもやらせていただけるとは(笑)。

加藤 今回僕もスカをあまり意識しないでプレイしたんです。スカのリズムは沖(祐市 / Key)さんのピアノに任せて、あとはホーンが入ればスカパラらしさは出ると思っていたんで、僕は自分のルーツを思い切りぶつけてみました。普通ミクスチャーロックって西海岸のカラッとしたイメージが強いかもしれないけど、マンウィズからはイギリスの曇り空を感じるんですよね。そういう音のほうが僕は好きなので、いい仕上がりになったなと思います。

谷中 ホーンセクションとギターの音の共存具合がカッコいいんだよね。NARGO(Tp)も最近の曲の中で一番うまくいったって。

加藤 そう、いつもは北原(雅彦 / Tb)さんがホーンセクションの構成を考えるんですけど、今回はNARGOさんも加わって。NARGOさんはミクスチャーとかも好きな人だから、ギターのアプローチに対して「こんなフレーズはどうだ」みたいなアイデアをいろいろ出してくれています。

──この曲のおかげでスカパラにとっても新たな境地が開けましたね。

加藤 うん、メキシコのスカフェスとかで演奏したいよね。クルマでも携帯電話でも、日本人ってほかの国で発明されたものを独自の形で進化させていくのが得意じゃないですか。だから僕らもいろんなものをごった煮にしたトーキョースカの進化形、“トーキョーミクスチャー”で世界中の人たちを驚かせたいなと思っています。

東京スカパラダイスオーケストラ(谷中敦、加藤隆志)とJean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION)。
MAN WITH A MISSION(マンウィズアミッション)
MAN WITH A MISSION
頭がオオカミで身体が人間という“5匹組”ロックバンド。2010年に本格始動し、2011年6月にアルバム「MAN WITH A MISSION」でメジャーデビュー。2013年12月にアメリカのメジャーレーベル・Epic Recordsとの契約を発表し、全米、ヨーロッパツアーを積極的に行うなど、活動のフィールドを拡大させる。その後も映画「いぬやしき」やフジテレビ系月9ドラマ「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」、映画「3人の信長」の主題歌といった数々のタイアップソングを担当し、お茶の間にその音楽を広げた。結成10周年を迎えた2020年4月に「MAN WITH A "B-SIDES & COVERS" MISSION」、5月に「MAN WITH A "REMIX" MISSION」、7月に「MAN WITH A "BEST" MISSION」と、アルバム3作品をリリース。さらに10月より「Telescope」「All You Need」「evergreen」とデジタルシングルを3カ月連続で発表した。2021年6月に映画「ゴジラvsコング」日本版主題歌「INTO THE DEEP」を表題曲としたシングルを発表。9月にテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」第5期第2クールのオープニングテーマ「Merry-Go-Round」をシングルリリースし、11月にはアルバム「Break and Cross the Walls I」を発表する。

2021年11月10日更新