MVをシリーズで作ってみたかった
──今回のMVが「錠剤」の前日譚を描く内容になったのはどういう経緯からだったんですか?
しまぐち MVをシリーズで作ってみたい気持ちがずっとあって。シリーズで毎回面白いものを作っていけば、過去の映像も定期的に話題になりやすい、思い出してもらいやすいんじゃないかなと。そういう相乗効果は絶対にあると思っていたものの、それをやるなら長いお付き合いのあるアーティストさんとじゃないとできない。なので今回、この内容を提案させてもらいました。
TOOBOE 現時点でギタメタと一番長く関わっているのはウチだし、そんなふうに歴史を背負った作品を出すとしたら、やれるのはウチぐらいだからね。しかも、MVの世界観はつながっていたとしても「前のMVを観ないとわからない内容には絶対にしない」という共通認識も持てていたんで。
しまぐち そこは絶対でしたね。1本1本のMVを単体で面白いものにする、というのが前提でした。
──それに加えて、画面の左右で異なる世界線が同時進行する仕掛けになっていますよね。アイデア的には、ストーリーとギミックのどちらが先だったんですか?
Bivi ギミックが先ですね。
しまぐち ホントですか? 俺、逆の認識だ。
Bivi えっ! マジで?
TOOBOE じゃあ同時ってことじゃん(笑)。
しまぐち いや、僕の記憶だとストーリーが初めだった気がしていて。最初の会議で「子供」「さらう」というワードが出ていて……。
Bivi はいはいはい。
しまぐち さらわれる子供が出てくる話になるとしたら、まったく新しいキャラクターをそれに合わせて作るのもいいけど、以前出したキャラクターとつながりがある感じにしたら相乗効果も生まれそうだし、かつ楽曲にも合うんじゃないかと思ったんですよね。そのアイデアがまずあって、それをどう表現するかはそのあとの話だった気がする。
Bivi 確か最初の話し合いの中で両方の要素がふわっとあって、一旦各々持ち帰ったんですよ。たぶん、そこでアイデアの軸にしたポイントが2人の間で違ったということなんじゃないかなと思います。僕はギミック側だった。
しまぐち ああ、なるほど。確かにそうだったかも。
TOOBOE 今の2人の話を聞いていて急に思い出したんですけど、歌詞にある「痛いの痛いの飛んでいけ 幸福な貴方に」というのが、要は「残酷な現実の痛みを理想の世界のほうへ飛ばしたい」という意思で。そういうところから取っかかりを探していったのを今思い出しました。
しまぐち・Bivi ああー。
TOOBOE その感じを見事に表している映像なんで、アイデアの時点で俺は「もうイケるぞ」と思ってましたね。ただ、「MVを2本分作るようなもんだけど、いいのか?」とは考えましたけど。
しまぐち そこは自分たちがというよりも、アニメーターさんに負担をかけてしまいました。シンプルに「1個作ると聞いてたのに2個作らされたんやけど」みたいな話なんで。でもアニメーターさんのがんばりのおかげでいいものになったと思います。
──しかもただ2つ作るだけじゃなくて、タイム感を合わせつつ似て非なる世界を描くわけですから余計に大変そうです。
Bivi そうですね。構造上、作画作業を同時進行できないんですよ。どちらかの画ができたあとで、それに合わせてもう片方を作らなきゃいけないから。
1つの武器で戦い続けるほうが怖い
──映像が完成しての手応えはいかがですか?
TOOBOE 言い方はアレですけど、シリーズものって数字的には右肩下がりになるものだと僕は思ってるんですよ。ゲームでも映画でも基本そう。でも思った以上に反響があってうれしいですね。正直、想像以上でした。
──それはやはり、シリーズとは言ってもただの焼き直しではなかったからだと思います。
Bivi そうですね。同じことは極力したくないですから。僕は毎回作品が完成するたびに「最高のものができた」と思うんですけど、だからこそ作り始めるときは毎回、前の作品を超えられない気がしてしまって。その恐怖心があるから、毎回全然違う戦い方をしているところがありますね。
しまぐち それはあるね。
TOOBOE そういう意識こそがギタメタのめっちゃ好きなところですね。普通は1回ウケたものをこすりたくなっちゃうじゃないですか。そこで「絶対に同じ戦い方はしないぞ」という強い意志を持って仕事をするのはすごいし、僕もそうありたいと思っているので。たぶんクリエイターとしての仁義が同じなんでしょうね。
しまぐち 「仁義」と言うとカッコいいですけど、単にひねくれてるだけのような気もします(笑)。両組ともに。
TOOBOE ひねくれてはいるよね。「同じものなんて作ってやんねえよバーカ」みたいな(笑)。世の中には同じようなものを作り続けるタイプの人もいっぱいいるじゃないですか。ふざけんなよと思ってます。
しまぐち はははは! 俺は思ってないですけどね(笑)。
Bivi ホントですか?(笑)
しまぐち まあでも、基本そういう人のほうが多いのは確かではあるというか……。
TOOBOE それが“正解”ではある。
しまぐち そう。そのルートが“正しい”のは理解しつつも、そこに抗っているというよりは「そこで勝負していく自信がない」という感覚のほうが俺は強いんですよ。
TOOBOE なるほどねえ。
──でも、毎回新しいアイデアを出し続けるのは簡単なことではないですよね。そのやり方を続けていくことに不安などはないですか?
Bivi 逆かもしれないですね。1つの武器だけで戦い続けるほうが怖いというか……その武器が通用しなくなったら終わりじゃないですか。そうじゃなくて“手札を広げる”を個性にしちゃえば最強だと思うので、同じことをやり続けないのは逆に安心感を得たいからなのかもしれないです。
TOOBOE 確かに、同じことをやり続けるほうがよっぽど怖いかもね。例えば僕はボカロP時代に「春嵐」という曲がハネたんですけど、そこで「春嵐2」「春嵐3」を作り続ける選択肢もあったわけですよ。でもそれをしなかったからこそ「ヒガン」を作れたし、そのやり方を貫いた結果として「心臓」や「錠剤」が生まれ、今回の「痛いの痛いの飛んでいけ」にもつながった。もちろん決まった型を持たないことはギャンブルではあるんですけど、似たような曲を作り続けて安定した数字を取るよりは、どうせなら1位か“ゲロスベリ”の最下位かの2択で僕はやっていきたい。せっかくクリエイティブの世界にいるんだから、中途半端な順位を狙うようなことはしたくないですね。
Bivi 確かに。むしろそっちのほうが王道だと思います。
TOOBOE 自分たちにとっての真っ当なやり方をしてるだけだからね。でも「俺ら、メインストリームじゃねえよな」という話はマジでずっとしてます(笑)。銭湯とかで。
しまぐち そういうふうに思っている者同士で作った「心臓」という曲とMVがハネたのも、そのやり方をまだお互いに続けられているのも、すごく奇跡的なことだとは思いますね。
今の若い子たちに“B面”を体験してほしい
──ちょっとふわっとした話なんですが、MVという文化全般に対して何か思うことはありますか?
TOOBOE いや、なんでアニメだと伸びるんですかね? 僕の曲だと、実写MVよりもアニメMVのほうが伸びるんですよ。だからギタメタとやるときは絶対に伸びるんで……。
しまぐち・Bivi (笑)。
TOOBOE それに負けない、ちゃんと強い曲を投げてるんです。それこそ「心臓」のときなんて、マジでみんなMVの話しかしてなかったですから。「今度こそ曲もちゃんと聴いてくれよな!」と思いながら作ってます。
しまぐち でも俺の感覚では、最初はみんな映像の話をするけど、だんだん音楽の話にシフトしていくんですよ。結局はそこに落ち着くイメージがありますね。
Bivi わかるわかる。
TOOBOE 確かに、どっかにクロスポイントはあるかもね。
しまぐち そこまでいってやっと「映像の使命を果たせたかな」とホッとしますね。あと、これはちょっとMVの話からは逸れちゃうんですけど、「曲もちゃんと聴いてくれ」でいうと、今回のカップリング曲「命日」が個人的にめっちゃ好きなんですよ。ぜひこれはみんなに聴いてもらいたいなと思っていて。
TOOBOE ああ、「命日」はすげえラフに書いた曲で……僕、基本的にB面は実験の場として捉えてるんですよ。「命日」でいうと、右チャンネルのアコギにエフェクターをいっぱいかけて音をぶっ壊したりしてます。
しまぐち・Bivi へええー!
TOOBOE そうすることでちょっと気持ち悪い感じになればいいなと。そういう実験をB面でやって、うまくいったらそのアイデアをA面に持っていったりすることもあります。
しまぐち なるほどねえ。
TOOBOE A面 / B面という言葉は今はほとんど聞かなくなりましたけど、「アルバムにもベスト盤にも収録されてない、シングルのB面でしか聴けない曲が実はめっちゃいい」というのがすごく好きなので……。
しまぐち・Bivi わかるー!
TOOBOE そういうのを今の若い子たちにも体験してもらいたいんで、僕は“B面”を作り続けます。
プロフィール
TOOBOE(トオボエ)
音楽クリエイター・johnによるソロプロジェクト。作詞、作曲、編曲、歌唱はもちろん、イラストや映像をはじめとしたクリエイティブも手がけている。2022年4月に配信リリースした1stシングル「心臓」でメジャーデビュー。2024年1月にはメジャー1stアルバム「Stupid dog」を発表。同年6月にシングル「痛いの痛いの飛んでいけ/命日」を配信リリースした。
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擬態するメタ(ギタイスルメタ)
アニメ作家、イラストレーターのしまぐちニケと映像作家のBiviによる映像制作ユニット。「企む(たくらむ)アニメーション」をテーマに、技法や常識に縛られない実験的、挑戦的な作品を制作しており、TOOBOE、獅子志司、ずっと真夜中でいいのに。、Eve、星街すいせいなど、数多くのアーティストのミュージックビデオを手がけている。