TOOBOE×擬態するメタ|「痛いの痛いの飛んでいけ」に込めたクリエイターの仁義

TOOBOEの楽曲「痛いの痛いの飛んでいけ」のミュージックビデオが自身最速でYouTubeで500万回再生を突破し、話題を呼んでいる。

TOOBOEは音楽クリエイター・johnによるソロプロジェクト。作詞、作曲、編曲、歌唱はもちろん、イラストや映像をはじめとしたクリエイティブも手がけている。彼が6月5日に配信リリースした「痛いの痛いの飛んでいけ」は、ダークなサウンドに物語調の歌詞が乗る楽曲。映像制作ユニット・擬態するメタが制作したMVでは、同ユニットが手がけた、TOOBOE「錠剤」のMVの前日譚が描かれている。中央で仕切られた2画面のアニメーションで構成されたこのMVは、左右で異なるストーリーが同時進行する特殊な作品だ。

音楽ナタリーでは、メジャーデビュー曲「心臓」、テレビアニメ「チェンソーマン」第4話エンディングテーマ「錠剤」のMVに続いて3度目のタッグを組んだTOOBOEと擬態するメタにインタビューし、「痛いの痛いの飛んでいけ」の音楽や映像のこだわりについて聞いた。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 斎藤大嗣

ミュージシャンはカッコよくあろうとしすぎる

──TOOBOEさんの楽曲で擬態するメタのお二人がミュージックビデオを手がけるのは、「心臓」「錠剤」に続いて今回の「痛いの痛いの飛んでいけ」が3曲目になります。2組は「心臓」以前から親交があったそうですね。

TOOBOE そうですね。僕がjohn名義でボカロPをやっていたときに、しまぐち(ニケ)くんもその界隈でいろんな人の曲のためにイラストをガンガン描いてたんで、それで面識があって。あと「心臓」の前にも一度、「ブルーマンデー」という曲でイラストを描いてもらったことが……あれ、これは言っちゃいけないんだっけ?

Bivi(擬態するメタ) そっか、あのときは別名義だったから。

しまぐちニケ(擬態するメタ) あ、いや。いいっすよ。たぶん。

TOOBOE いいの?(笑) まあその頃から交流があって、一緒に喫茶店でiPadを開いて絵を描いて遊んだりしてたんですよ。そのときから「一緒にちゃんと作品作りたいよね」という話はしていて。

しまぐち そうそう。

TOOBOE ギタメタ(擬態するメタ)の面白いところはとにかくアイデアが豊富なところで、ギミック先行で映像を考えるんですよね。アニメーションでMVを作ること自体は珍しいことじゃないけど、彼らは常に「ただのアニメMVでは終わらせないぞ」という尖った姿勢を持っていて、そこにめっちゃ共感する。

しまぐち johnさんも尖りまくってる人ですからね(笑)。ただ、人としては尖ってるんだけど、作品では意外と自分の弱い部分をさらけ出すんですよ。もし自分がjohnさんだったら絶対に作品も尖らせるだろうなと思うけど、「情けない部分やカッコ悪い部分を切り売りしたほうがいいものができる」という感覚を持ってるのがすごいなと。そこらへんの尖ってる人とは違う。

──「そこらへんの尖ってる人」(笑)。

しまぐち ははは。今、ちょっと俺のほうが尖っちゃったかもしれない(笑)。

Bivi johnさんのそういうところ、マジで尊敬してます。自分がもの作りをするときは作品を通して虚勢を張るというか、なりたい自分を投影するような考え方で作るんですよ。そういうクリエイターは多いと思うけど、johnさんはその逆のことをやっている。絶対に自分にはできないと思います。

TOOBOE 逆をやろうという意識は確かにあります。やっぱミュージシャンって……カッコいいじゃないですか。

しまぐちBivi うんうん。

TOOBOE みんな「カッコよくあろう」としすぎるじゃん。僕は曲を書く以外にイラストも自分で描くけど、イラストって自分の恥ずかしい部分を出さないと絶対によさが伝わらないんですよ。もちろん「ここをあんまり生々しく描いちゃうと恥ずかしいな」とは思うんですけど、そういうところこそ力を入れて描かないと届かない。それは曲も一緒ですね。整った言葉でカッコいいことを言ってもしゃあないんですよ。だからホントに、「包み隠さずハズいとこ出す」っていうのは意識してやってます。

TOOBOE

TOOBOE

しまぐち アー写とかにもその意識が表れてるんだろうなと感じます。

TOOBOE そうそう。意識してますね。

Bivi それってボカロP時代からなんですか? それとも自分の姿を表に出すにあたってその考えに変わったとか?

TOOBOE ボカロPとして活動する中で、だんだん「ハズい部分を出すことが大事」と気付いていった感じですね。実際、そのほうがウケもいいんですよ。

Bivi なるほど……!

──これは僕が個人的に感じているだけのことなんですが、この2組の作るものに共通する要素は“毒とユーモア”なのかなと思っていまして。片方だけでなく、必ず両方入っている印象があります。

しまぐち ああ、それはうれしい。両方とも持ち続けたいと思っているものですね。

Bivi 一番大事にしてる部分かも。

TOOBOE 「ただカッコいい」「ただ怖い」だけじゃない、ちょっとダサいというか……どこか抜けたところがないと、っていう意識はありますね。

Bivi なんなら「ふざけているヤツが一番カッコいい」と思ってやってるから。

TOOBOE あ、わかります。

しまぐち ははは。

TOOBOE 以前どこかで「不穏ポップ」という言葉を耳にしたことがあって、ずっといいなと思ってるんですよ。やっぱり不穏な中にもポップさがないと、という思いがあるので。まあ、それが最近の流行りと言ってしまえばそうなんだけど。

しまぐち 「チェンソーマン」以来、世の中はハッキリとそれがトレンドになっている感覚がありますね。

Bivi 確かに確かに。

TOOBOE そういうバランスが今のトレンドでもあるし、僕らの好みでもあるのかなと。

「痛いの痛いの飛んでいけ」は「新解釈・赤い靴」

──新曲「痛いの痛いの飛んでいけ」も、タイトルはかわいいですが、内容的にはけっこうドス黒い感情を歌っている曲ですよね。

TOOBOE そうですね。これは「教育テレビで流れる童謡のような曲を作りたい」と思ったところから始まった曲なんです。それでまず、子供に対してよく使われる言葉の代表として「痛いの痛いの飛んでいけ」みたいなおまじないの言葉を軸に作り始めました。たぶんみんなあると思うんですけど、子供の頃にテレビから流れてくる童謡がすげえ怖かった経験ありません?

しまぐちBivi ありますあります。

TOOBOE 僕の場合、「赤い靴」がめっちゃ怖かった記憶があるんですよ。

──赤い靴を履いていた女の子が異人に連れられていってしまう歌ですね。

TOOBOE 「赤い靴」のような少し怖さのある感じの曲にしたいなと思って。だから、「痛いの痛いの飛んでいけ」はある意味「新解釈・赤い靴」として作ったものですね。

Bivi 童謡を目指したというのはわかります。童謡らしさもあるのに編曲が尖ってるところがjohnさんらしくていいなって。僕、johnさんの編曲めっちゃ好きなんですよ。

しまぐち 最初に聴かせてもらったときは、「痛いの痛いの飛んでいけ」のあとに「幸福な貴方に」と続くところでまずグッと引き込まれました。すごいフレーズだなと。これぞTOOBOEというか、「うわ、これまたエグいMVができちゃうな」と思いましたね(笑)。

擬態するメタ

擬態するメタ

TOOBOE ということは、「心臓」「錠剤」のMVがエグかったのも曲のせいですか?

しまぐち いや、もう……曲のせいでしょう(笑)。

Bivi ははは。さっきjohnさんから「子供向けだけど怖いもの」というキーワードが出ましたけど、MVを作るにあたってのミーティングでも同じ話が出たんですよ。「自分も子供向けだけど怖いものをずっと作りたかった!」と思ったので、「MVでも表現したいね」という話になって。

TOOBOE MVに関しては「心臓」からずっとそうなんですけど、まずスタッフ抜きで僕ら3人だけで打ち合わせをするところから始まるんです。まあ、その日は基本なんの結論も出ないんだけど(笑)、3人でアイデアの取っかかりみたいなものを探す作業をずっとする感じですね。

しまぐち johnさんは常々、曲の解釈も含めて「ギタメタにすべて任せてもいい」と言ってくれてはいるんですけど、やっぱり取っかかりになる何かはあったほうが作りやすくはあるんですよね。なのでjohnさんが曲に込めたイメージみたいなものは打ち合わせで全部聞く感じです。

Bivi johnさんがさっきみたいな意図を話してくれて、「自分が曲を聴いて感じていたこととまったく同じだ!」と思えたことで、打ち合わせ以降は作業に迷いがなくなりました。確か「心臓」「錠剤」のときも似たようなやりとりがあった気がするんですけど、そのワンラリーがあるかないかでその後の進めやすさが全然違う。

TOOBOE うんうん。まずその意識共有をして、その次にギミック探しをして……本当にいろんな案が出ましたよ。最初は「ドット絵とかいいんじゃない?」という話もしてたし。

Bivi そうそう! 「ゲームっぽいものにしようか」みたいな。

TOOBOE 「ドット絵でグロい世界を表現するのもバランスが破綻してていいよね」と。でも結局、その日は結論が出なかったよね。

TOOBOE

TOOBOE

しまぐち 「これでいいのだろうか……」と思いながら帰るっていう。

TOOBOE それぞれ持ち帰って改めて考えるんですけど、僕はギタメタが作るものは絶対に間違いないと確信しているので、それ以降は基本的にノータッチです。もちろん作業が進んでいく中で「この表現だとちょっとグロすぎますかね?」というような確認は随時求められるんですけど、二つ返事で「オッケーオッケー、大丈夫大丈夫」としか答えない。

しまぐち むしろ作った俺らのほうが心配してますね。

Bivi ホントそう。こっちは直しが入る前提で突き抜けたものを作ってるんで、あっさりOKが出ると「大丈夫か? 本当に確認してる?」となります(笑)。

──ブレーキ役のほうがブレーキが壊れていると。

TOOBOE そうですね(笑)、うん。