TK from 凛として時雨「egomaniac feedback」特集|TK from 凛として時雨×谷口悟朗(アニメ「コードギアス」シリーズ監督)|常に自分を疑い続け、自分の作品に興奮し続ける妥協なき表現者2人の対話

もしも「キャンプをテーマに作ってくれ」と言われたら

──TKさんのソロ活動が10周年、「コードギアス」が15周年。どちらも常に自分を疑いながら、こだわりを持って作り続けてきたからこそ、熱狂的なファンを獲得してきたのだと思います。

谷口 前に大先輩から「同世代に向けた作品は絶対に作るな」と言われて、自分より下の世代に向けて作ろうというのは、常に意識しています。同世代に対して作るのは楽で、お客さんのことを分析しなくてもできてしまう部分があるから、それをやるのはもっと歳食ってからでもいいかなって(笑)。

TK 自分が純粋にやりたいことと、完成したものが違うときもあったりするんですか? 自分が作るとこうだけど、時代やターゲットに合わせてこうなった、みたいな。それを妥協と呼ぶのかは難しいですけど……。

左から谷口悟朗、TK。

谷口 柱の部分を変えなければ、妥協にはならないと思います。自分の中のエモーショナルな部分を大事にしながら、そのときの時代やお客さんにも合わせつつ、柱自体は変えずに少しズラすくらいの感覚というか。

TK それは楽しんでやられてるんですか?

谷口 面白いですよ。スタッフから「そこを狙うんだったら、こういう表現のほうが伝わりますよ」と言われて1回やってみたら、なるほどと思うことがあったり。それがないと知ってることのルーティンになっちゃって、面白みを感じられなくなると思うんです。面白みを感じられないと、こういう仕事はつらいですよ。

TK 例えば、「今キャンプが流行ってるから、キャンプのアニメを作ってください」と言われたら作れそうですか?(笑)

谷口 やれと言われたらやると思いますよ。ただ、その中で起こる人の心の動きや人間関係がまったく理解できないものだったら、設定はキャンプでいいけど、内容は変えさせてくれって言うと思います。先程TKさんが「もともと自分の中にある感情と通じる部分を探す」とおっしゃってましたけど、それと同じことでしょうね。TKさんはキャンプをテーマにした曲を作ってくれと言われたらどうしますか?

TK 同じですね(笑)。その中に自分が魅力を感じる要素が一切なかったら作れないですけど、そうでなければ、むしろ自分の中にはない、初めての題材であることを逆手に取ってチャレンジできることもあるかなと思うので。昔、ボイスパーカッションを曲に入れ込みたいと思ったことがあるんですよ。僕はボイパできないですけど、歌で使うアクセントの応用で声を切り取ってサンプリングして、ボイパみたいに並べて、そのリズムから「シャンディ」という楽曲が生まれました。そういう突拍子もないところからスタートしたほうが面白くなることもあるんですよね。例えば、「演歌を作ってくれませんか?」と言われたとしても「作れないよ」って言うのは簡単ですけど、1回自分のフィルターを通して潜り込める場所なのか、やってみる価値はあると思います(笑)。

──TKさんにとって、アニメーションももともとはそういうものだったのかもしれないですよね。普段から観ているものではなかったけど、だからこその刺激があって、この10年の中でたくさんの素晴らしい楽曲が生まれてきたわけで。

谷口 いろんなアニメを観ていないのが逆によかったんだと思いますよ。途中で話したオープニグとエンディングのパターンの話のように、下手にいっぱい観てしまうと、「アニメのテーマ曲はこう」っていう、強固なイメージができてしまう可能性もあると思うんです。TKさんの場合はそれがなかったのがよかったんじゃないですかね。

TK 僕はそのシーンに対して「これが一番いい」という正解をすぐに出せるタイプではないんです。毎回ゼロから、むしろマイナスからのスタートだったりするので、その分物語をしっかり叩き込んでスタートする。その結果として、作品にちゃんと寄り添った楽曲ができて、受け入れてもらえたのかもしれないです。

TK from 凛として時雨「egomaniac feedback」レビュー

文 / 金子厚武

TK from 凛として時雨の10年の歩みは、コラボレーションの歴史と言っても過言ではない。凛として時雨という唯一無二のトライアングルから抜け出し、外部との交流を通じて表現の幅を広げると同時に、他者を通じてより深く自己と対峙することで、egomaniac=自己中心的な表現を掘り下げてきたのが、この10年におけるTKのソロワークスであった。

そのコラボレーション相手は、「egomaniac feedback」のDISC 1に収録された楽曲における、「東京喰種」から「スパイダーマン」「コードギアス」に至るアニメーション・映画作品であり、DISC 2に収録された楽曲における、TK同様に強い芯を感じさせる音楽家(ときには、他ジャンルの表現者も)たちであったわけだが、さらに本作には最新の報告として新たなコラボ音源3曲が収められている。

タイトル通り、トーンベンダー系のファズサウンドによるオルタナ感と、アッパーなビートが融合した「Future Tone Bender」では、miletが存在感のある歌声でテンション高くTKと拮抗し、壮麗なストリングスが生命の躍動を伝える「Super bloom」では、阿部芙蓉美が包み込むような歌声に加え、作詞でも楽曲のムードに大きく貢献。そして、さらに注目すべきが、ボーナストラックとして収録されているセルフカバー「掌の世界」への斎藤宏介の参加だ。これまでTKの楽曲のゲストボーカルは女性が通例だったが、近い世代で凛として時雨と双璧を成す、やはり唯一無二の3ピースであるUNISON SQUARE GARDENから斎藤が参加するというのはそれだけでも感慨深い。しかも、楽曲の中ではボーカルだけでなくギターでも2人がせめぎ合い、その様は非常にスリリング。これらの新曲を含む全27曲からは、TKがこの10年で得た濃密なfeedbackが確かに伝わってくる。

TK

ツアー情報

「TK from 凛として時雨 egomaniac feedback tour 2021」
  • 2021年10月3日(日)大阪府 Zepp Namba
  • 2021年10月9日(土)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2021年10月23日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールA
TK(ティーケー)
TK from 凛として時雨
3ピースバンド・凛として時雨のフロントマン。ボーカルとギターのほか、全楽曲で作曲と作詞、エンジニアを担当している。ソロプロジェクトであるTK from 凛として時雨では、ピアノやバイオリンを取り入れたバンドスタイルから、単身でのアコースティックまで幅広い表現形態をとっている。2014年リリースのシングル「unravel」は、アニメ「東京喰種トーキョーグール」のオープニングテーマとして大ヒットを記録。Spotifyでは累計再生数2億回を突破し、海外で再生された日本の楽曲第2位に選出された。そのほかに、安藤裕子やAimerといったアーティストへの楽曲提供や、エンジニアリングを含めたサウンドプロデュースなども精力的に行っている。
谷口悟朗(タニグチゴロウ)
1966年生まれのアニメ監督・演出家。日本映画学校を卒業後、J.C.STAFF入社を経て、現在はフリーで活動している。1989年発表のOVA「アーシアン」よりアニメ制作に携わり、1991年に「絶対無敵 ライジンオー」で演出家デビュー。以後「無限のリヴァイアス」「プラネテス」「ガン×ソード」「コードギアス 反逆のルルーシュ」など数々のアニメ作品を、監督および演出家として手がけてきた。