TK from 凛として時雨「egomaniac feedback」特集|TK from 凛として時雨×谷口悟朗(アニメ「コードギアス」シリーズ監督)|常に自分を疑い続け、自分の作品に興奮し続ける妥協なき表現者2人の対話

TKの楽曲と「コードギアス」の共通点

──実際の曲作りは、どのように進められたのでしょうか?

TK 最初に監督からざっくりしたオーダーをいただいたときに、「愛に満ちた音楽や包み込むような音楽にはしないでほしい」と言われて。でもさっきの“情感”のお話のように、一般的にはエンディングはむしろそういう楽曲の印象が強いと思うんです。オープニングはさわやかで疾走感がある曲が多いのに対して、エンディングはバラードが多かったり。

谷口 ロボットものは特にそのパターンが多いです。なぜかというと、ロボットものの本編は殺戮のシーンが多かったりして殺伐としているので、エンディングで“許し”のようなものが入ってこないと、観ていてきつくなっちゃうんですよね。

TK

TK 僕は今回、結果的にはいろんな意味での“愛”を中心に描いたんですけど、監督からのメッセージは「優しく包み込むような愛ではない」ということだったと思うんです。なので、そこを踏まえつつ、ものすごく広い世界で孤独を感じていて、そこに1本の糸がつながれている……「愛」でつながれているようなイメージを土台に曲を書いてみました。あとは、「今この瞬間にどういう音が流れたらそのエンディングの先を描けるのか」をイメージしながら、各話の終わりを観ていったんです。そもそも前のエンディングの「勇侠青春謳」(ALI PROJECT)と「モザイクカケラ」(SunSet Swish)がインパクト強かったじゃないですか。

谷口 それぞれ自分たちの世界観で突っ走ってましたからね(笑)。

TK 夢の中に出てきそうな音楽と言葉で、あのあとだからハードルが高いなというのもあったんですよね。インパクトが強くて印象に残るので、違う切り口でいかないとなって。それで音の入口を探していく中で、ティンパニを使い、コーラスを重ねて、無国籍な感じからスタートしてみることにしたんです。人を従えたり、恐怖や命令といったニュアンスを感じられるように。

谷口 「コードギアス」の世界観にすごく合っていて、間口も広い曲になっていると思います。そこは本当に感謝してますね。

TK いろんな要素がちりばめられていて、それがどこかの瞬間で1つになる、組曲のようなイメージもあって。それは「コードギアス」という作品自体にそういう印象があったからなんです。ストーリーを展開させるときの広げ方が、ものすごいところまで飛んでいくなと思って。でもそれを回収しないまま終わるアニメも多いじゃないですか。

谷口 多いですね(笑)。

TK 「コードギアス」はそれをことごとく回収していると思うんですけど、そこが自分の普段作っている曲とも似ている気がして。僕の曲はAメロ、Bメロ、サビの繰り返しではなくて、CメロやDメロ、なんならEメロまで行っちゃうようなことが往々にしてあるんです。でもそれがバラバラに崩壊するんじゃなくて、どこかでつながっている。フルサイズを聴いてもらえると、そういう組曲的な感じも伝わるんじゃないかなと思います。

谷口 今の話を聞いて思い出したのが、「コードギアス」はそもそもそういう発想で作っていたんですよ。スタッフを集めるときに、ロボットを描くのが得意なスタッフや、女の子を描くのが得意なスタッフなど、各ジャンルの専門家を集めていて。劇伴担当もわざと2人にしたり、要素を増やすだけ増やして、それをなんとか編集でまとめて形にするという作り方をしていたので。まさに今TKさんが言われたことと同じなんじゃないかと思います。

自分の作ってるものに興奮してないと

──歌詞に関しては、どのようにアプローチしていったのでしょうか?

TK 歌詞を書くときは、最初のとっかかりを見つけるまでにすごく時間がかかります。1回ステージができあがると、その舞台上に何を乗せるかという考え方になるんですけど、「ラララ」の状態に一言目を乗せるのが難しくて。それはその作品のクオリティを左右する、ものすごく重要な一言だと思うんです。そこで適当に何かを生み出してしまうと、それが正解だと思い込んでしまうので、それはしたくないんですよね。「思い付いたから、これでいこう」って、そこですぐに走れる人は速いと思うんですけど、僕は自分自身を常に疑っているタイプで、「本当にこれが一言目にふさわしいのか」をずっと考えながら、歌って、書いて、歌って、書いてを繰り返すので、どうしても時間がかかっちゃうんですよ。

谷口 確かに、出だしで「このワードはなんだ?」という言葉が来ると、気になって最後まで聴いたり読んだりしちゃいますよね。今回の曲もまさにそうだなと思いました。さっきのTKさんの話とつながるかはわからないけど、例えば醤油ラーメンはフォーマットがある程度固まってるから、食べていて安心感があるし周りもあんまりどうこう言わないんですよ。でも、「その醤油ラーメンは自分が本当に作りたいラーメンなのか?」ということは疑わないといけないと思います。きっと常に自分を疑って、自分の中にある言葉を探している人じゃないと、「will-ill」の冒頭の「七つの光 碌でもない独りよがり」という言葉は出てこないと思うんです。普通であればもっと無難な、万人受けするワードを選ぶと思うけど、TKさんはちゃんとコアを持って作っていらっしゃると思うので、そこもすごく感謝しています。

TK

──その「七つの光 碌でもない独りよがり」というワードはどうやって出てきたものなのでしょうか?

TK 作中のテーマのようなものを楽曲の中にうまく言葉として入れたいと思ったときに、主人公・ゼロが作ろうとしている世界に無限の可能性を感じつつ、物語のエッセンスや人物を、Aメロに数字を当てはめて書いていったんです。1番は“7”から始まって“0”になっていき、2番は“8”から始まって、インフィニティを“15”と捉えて“15=無限”まで行く。その中で、劇中のさまざまなシーンを思い出せるような作りにしました。

──確かに「天才は猛毒 11って冒涜かい?」「位置についてごらんよ 意味の不明な暴挙」という歌詞に「10、11、12、13」という数字が隠されているんですね……すごい。

TK 数字を細かく配置するのに、ものすごく時間がかかっちゃったんですけどね(笑)。言葉だけじゃなく、アレンジにしても何にしても、本当にそれが最上の選択なのかをどのセクションにおいても考えすぎてしまうんですけど、その結果こういう大作になるんですよね。

谷口 この曲はほかの人が歌うのは相当大変でしょうね(笑)。

TK そうですね(笑)。それこそ万人受けじゃないけど、「今どういうものが受け入れられてるのか?」みたいなことも当然頭の片隅にはあるんです。ただ、自分が自分の作ってるものに興奮してないと、最後まで作り終えることができないんですよね。結局自分は、自分が何を作りたいかしか考えていない、至極ワガママな作り方をしてるなと思います。