ヒップホップクルーTHE SAMURAI SQUADが、最新EP「BACK TO HOME」をリリースした。
THE SAMURAI SQUADは、「ラップスタア誕生2023」で注目されたラッパー・Whoopee Bombと高校の同級生であるMAX!!!、雀悟、Seeker4Lの4人が所属するクルー。ナタリー初登場の今回は、「BACK TO HOME」の話題を中心に、クルー結成の経緯やメンバーの音楽観などについて聞いた。
取材・文 / 宮崎敬太撮影 / 西村満
表参道、品川、蒲田、駒込から集まった4人
──THE SAMURAI SQUADはどのように結成されたんですか?
Whoopee Bomb 僕らは高校の同級生で。当時「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」がめちゃくちゃ流行っていて、僕らもよく集まってサイファーしていたんです。
雀悟 自分たちでラップバトルの大会もやってたよね。
Seeker4L カラオケボックスで(笑)。動画を撮ってYouTubeに上げたりして遊んでいました。
MAX!!! 高2のときはただ集まってただラップしてたんですけど、高3の1年間は受験があったので「終わったらまた集まろう」ということになって。それで受験が終わったタイミングで友達の1人が突然LINEグループを立ち上げて、そこからみんなで集まって曲を作るようになったのがTHE SAMURAI SQUADの始まりですね。
Whoopee Bomb 最初は6人だったんですけど、留学とか身内の不幸とかいろいろあって今はこの4人で活動しています。
──Whoopee Bombさんは表参道が地元らしいですね。皆さんも?
Seeker4L みんな違くて。自分は品川。
雀悟 僕は蒲田のほう。
MAX!!! 僕は駒込。
──学区が広い高校なんですね。
雀悟 都立なので東京都在住なら誰でも受験できる高校だったんです。あとすごく自由な校風だからけっこう人気があっていろんなところから集まってきたんです。
Seeker4L ひろゆきの出身校です(笑)。
Whoopee Bomb 髪を染めていいからその学校を選んだのに、僕らが入った瞬間に校則が厳しくなって染められなくなった(笑)。
それぞれの影響元
──皆さんが影響を受けたアーティストを教えてください。
Seeker4L 僕はPUNPEEさん。中学からヒップホップを聴き始めたんですが、最初は悪い人たちの音楽だと思っていました。でも高校でPUNPEEさんを知って、普通の人でも芯のあるヒップホップができるということにものすごい衝撃を受けました。
MAX!!! それで言うと僕はSUSHIBOYSです。僕もラップは悪い人の音楽というイメージだったから、自分の身の回りの他愛のないトピックを等身大で歌っていいことを教えてくれたという意味でものすごく大きな影響を受けました。
雀悟 僕はLEXさんですね。すごいと思っていたら同世代でさらに驚く、みたいな。
──Whoopee Bombさんも「ラップスタア」でLEXさんを崇拝していると発言されていました。
Whoopee Bomb はい。音としてとんでもなくカッコいいと思います。あらゆる枠にはまらないというか。日本語の発音にとらわれないような表現も多くてめっちゃすごい方だと思います。けど僕ら同い年なので、影響を受けちゃいそうで最近は聴かないようにしてます(笑)。自分はye(カニエ・ウェスト)に衝撃を受けました。ビートチョイスが変わるくらい。
──yeのどの作品ですか?
Whoopee Bomb 「Donda」です。彼も枠にはまらない人ですよね。世界観ありきでサウンドを作っていくというか。プレイボーイ・カーティとか、トラヴィス・スコットとか、自分の世界観を音で表現する人たちに影響を受けます。
──yeの作る音楽は素晴らしいのですが、思想や発言、行動に関しては理解に苦しむ面もあるのでなかなか判断が難しい人です。
Whoopee Bomb わかります。でも僕は今のyeが作っている最先端に価値があると思うんです。確かに今けっこうヤバい感じになっているけど、僕は究極の天才が究極の精神状態で作った音楽をリアルタイムで聴けているということに意味を見出していますね。
「BACK TO HOME」のテーマはアーバンカントリー
──EP「BACK TO HOME」を制作するうえでどのようなことを意識しましたか?
Seeker4L EPのテーマはアーバンカントリーです。これは最初にできた「Homie Like」がデカくて。みんな「めっちゃいいね」となって、この方向性でやっていこうという話になりました。実はコンセプトを意識して作ったのは今回が初めてで。これまではとりあえず作って、いい曲だけをまとめてアルバムにしていました。
──ミックステープ的な。
Whoopee Bomb うん、今回はちゃんとテーマを設定して、等身大の自分たちを表現できる作品にしたかったんです。好きだからと言って、全然悪くない僕らがごりごりのいかついトラップをやるのも違うと思ったし。
──EPのテーマであるアーバンカントリーのニュアンスをもう少し噛み砕いて教えてほしいです。
Whoopee Bomb これは今作の「DON'T TRUST ME NOW」にも通じるんですが、Concrete Boysとかタイラー・ザ・クリエイターがやっている、カントリーを取り入れた都会的なヒップホップですね。これをやっている日本人はまだあまりいないし、東京出身である自分たちにもフィットしていると思う。あと音楽的な可能性も感じていて。
──「Urban Freestyle」では都会のネガティヴな面を歌っていましたが、皆さんにとって東京はどんな街ですか?
雀悟 それこそリリックで全部言っちゃった感じですね。
MAX!!! 余裕がないっていうか、忙しない。
Whoopee Bomb みんな自分の世界に入り込んじゃって、そこまでイラつかなくてもいいことでイラついている。「疲れないの?」って感じることが多いですね。
Seeker4L 僕らが東京に対してこういう目線なのは、2月の終わりにみんなでタイに行ったからです。日本とギャップがありすぎて(笑)。
Whoopee Bomb ホントにタイはいい意味の異世界でした。東京で普通に暮らしていると、人との触れ合いってないじゃないですか。コンビニの店員さんと他愛もない長話をするとか。でもタイだと僕のこういう髪を見て、全然知らないおばちゃんが指でハートマークを作ってくれたりするんですよ。必要以上に他人を怖がらないし、警戒もしてなくて、自分を変に強く見せようともしてない。みんな等身大でその日を生きようとしているなって感じたんです。
──タイのバイブスがアーバンカントリーというテーマにもあった?
Seeker4L そうですね。
──東京出身の皆さんにとって、EPのタイトルでもある「BACK TO HOME」はどういうニュアンスなのでしょうか?
Whoopee Bomb フッドじゃなく、ホームっていうのがポイントかもです。アメリカでいうフッドのような、集まらざるを得なくて集まった人たちのコミュニティって日本、特に東京だとあまりないと思うんです。隣人との関わり合いも薄いし。僕らが出会った高校は地域に根付いた学校ではない。だからメンバーも近所に住んでいるわけじゃなくて、聴いている音楽も違っていて、1人ひとり考えていることが違う。
──4人がHoodというコミュニティではなく、Homeという個人的なスペースに帰属するイメージですかね?
MAX!!! そういうイメージです。
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