Vocaloidにまつわるさまざまな企画が繰り広げられるイベント「The VOCALOID Collection ~2020 Winter~」が、12月11日から13日にかけて開催される。
「The VOCALOID Collection」の開催を記念して、音楽ナタリーではイベントに賛同するクリエイターにスポットを当てた特集を複数回にわたって展開する。その第1弾は、デビューから現在にかけて約10年にわたってボカロ曲を発表し続けているDECO*27とかいりきベアの対談。キャリアの中で幅広いフィールドに活動を繰り広げながらも、ボーカロイドを用いた音楽を表現の核としてきた両者に、ボカロカルチャーへの思いを語り合ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 須田卓馬
かいりきさんのイメージはすごく尖った方
──お二人が初めて出会ったのはいつですか?
かいりきベア 2016年の「ニコニコ超会議」に出演させていただいた際にご挨拶させていただいたのが最初ですね。そのイベントでDECO*27さんの曲をカバーすることになっていて、楽屋にご本人がいらっしゃるならご挨拶せねば!と思い、スマホで画像検索をして人違いにならないように声をかけに行ったのを覚えています。
DECO*27 わかりますよ(笑)。ボカロPって顔出ししていないから、楽屋で誰が誰か本当にわからないときありますからね。かいりきさんの曲はお会いする前からずっと聴いていて、僕のイメージではすごく尖った方だったんですよ。楽屋で挨拶したときに、確か「飲みに行きましょう」という約束をしたんですよね。「パンク精神あふれる荒々しい方だったらどうしよう」と心配していたんですが、実際に行ってみたらめちゃくちゃ物腰の柔らかい方なので安心しました(笑)。
──ボカロP同士が飲みに行くと、どういう話をするんですか?
DECO*27 だいたい機材の話が多いですね。かいりきさんとはギターの話をしたと思います。
かいりきベア 僕がギター大好き人間なので、けっこう一方的に「DECO*27さんはどういうギターを使って名曲を生み出してるんですか」と聞きまくりました。
DECO*27 実際にお会いして話す機会はそこまで多くないんですが、お仕事をお願いしたり、お願いされたりすることはボカロP同士ではよくあって。ついこの間も、僕のアルバム「アンデッドアリス」で「二息歩行(Reloaded)」のリミックスをかいりきさんにお願いしたんですよ。「二息歩行」はギターが効いたゴリゴリのロックナンバーで、それをさらに昇華させることができる人は、かいりきさんしかいないなと。
かいりきベア こんなにうれしいことをDECO*27さんに言ってもらったら、もうやるしかないですよ(笑)。実を言うと、最近いろんな依頼をいただいておりまして、納期的にはちょっと厳しかったんです。でもこの案件はスケジュールに割り込ませてでも好き放題やってやろうという感じで……。
DECO*27 リミックスをお願いするとき、僕は「原曲をぶっ壊してくれ!」というつもりで投げるんです。かいりきさんはね、本当にいい意味でぶっ壊して、別の曲になって帰ってきました(笑)。ポエトリーが入ってるし、メロディも変わってるし、なんならミクは打ち直してるよね?
かいりきベア 打ち直しました。ただ、完全に僕が作ったミクだけじゃないんですよ。DECO*27さんが作ったボカロトラックを使いつつ、自分が調声したミクの声と混ぜています。
DECO*27 融合しているんだ。それはすごくうれしい!
かいりきベア リミックスを任されたからにはガラッと変えようと思って、コードも変えているんですよ。でも最後の最後に改めて「二息歩行」を聴いたら「やっぱり原曲のコードのほうがカッコいいな」と思ってしまいまして(笑)。そりゃあ、原曲が一番の正解ですからね。
DECO*27 いやいや、かいりきさんのリミックスも最高でした。作り手としては「好きにやってください」とお願いして、本当に好きにやってもらうのがめちゃくちゃうれしいんですよ。
最強の2曲と最新の1曲を配布
──「The VOCALOID Collection」の特設サイトでは、イベント期間中に行われるリミックスコンテストのためにそうそうたるボカロPたちのステムデータが配布されています。DECO*27さんは「ヒバナ」と「乙女解剖」、かいりきベアさんは「ダーリンダンス」のデータを公開していますが、なぜこの選曲に?
DECO*27 え、「ダーリンダンス」のデータを配布してるんですか?
かいりきベア はい。最近書き下ろし曲が多くて、僕が公開できる権利を持っているものプラス近々の曲で勢いがあったということで「ダーリンダンス」を選びました。
DECO*27 公開されてから3カ月くらいしか経ってないですよね? 最新のかいりきさんの手法を明かしちゃうんだ。
かいりきベア そういうことになりますね。でもちゃんと耳がいい方でないとわからないところもあるんですよ。ステムデータが公開されてからちょっとエゴサをしていたんですが、具体的にどこがすごいかちゃんと言葉にできている人はあまりいなかった(笑)。手の内を明かしたとしても簡単には真似できないぞ、という自信もあるんですよね。DECO*27さんはなぜその2曲を?
DECO*27 僕は単純に一番聴かれている2曲を選びました。「DECO*27といえばこの曲でしょ! 聴いてくれてありがとう!」という感謝の気持ちをステムデータで返そうと思って。
かいりきベア DECO*27さんが“最強の2曲”を公開してるから、僕はすぐダウンロードしました(笑)。
DECO*27 僕も「ダーリンダンス」がどう作られているかめちゃくちゃ気になるので、帰ったらすぐダウンロードします。
──自分の曲がリミックスされることはどちらも大歓迎なんでしょうか?
DECO*27 僕はうれしいですね。曲が“転生”する感じが面白いんですよ。僕が完成させた曲は、あくまで僕の中でのベストでしかない。例えばリアレンジとかで自分の手で曲を触ることもあるんですけど、それは結局自分の中のイメージの範疇を超えられないんですよ。でもほかの人に曲をリミックスしてもらうと、まったく違う考え方を持ってエディットしてもらえるので、別の曲として客観的に自分の曲と向き合うことができる。「この人はこうするんだ。メモしておこう」みたいに勉強になることも多いです。
かいりきベア リミックスに限らず、例えば“演奏してみた”のギターやベースのアレンジを知るだけでも参考になりますよね。それを見ることで自分の表現の幅が広がるし、単純にその方のファンに曲が広まるので、リミックスや二次創作が作られることはすごくうれしいです。ステムデータをこういう形で公開することってこれまであまりなかったんですが、クリエイターのエゴで自分の手の内を隠し続けるような時代でもないのかなって(笑)。ボカロ文化が盛り上がるなら、出せるものは出さないと。
DECO*27 そうそう。界隈を盛り上げたいですよね!
かいりきベア 僕も投稿し続けたいし、新しい人にも伸びてほしい。だったらステムを配布するくらいどうってことないと思うんです。
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DECO*27のミクは「ザ・歌姫」
2020年12月9日更新