TENDRE「PRISMATICS」特集|死生観がにじむ2ndアルバム「PRISMATICS」で描いた10篇のドラマ (2/3)

泣かされそうなくらい熱い情熱を感じた友の姿

──今の話を踏まえて「隠してもないさ 込み上げる怒りは 守るものの為 持ち合わせていたんだ」というフレーズを歌っている「MISTY」が思い浮かびました。陰影の濃い表現性やビートアプローチが印象的な1曲です。

「MISTY」のビートを叩いてくれたのは、saccharinというアーティスト名でも活動している松浦大樹です。彼は最近になって自身の活動をすごく活発化していて、この曲は完全に彼から影響を受けて作りました。彼は音楽の中ですごく感情をあらわにするんですね。それをドラマーとしてむき出しにしていたところもあったけど、最近はソロアーティストとして曲を作ることによって、ライブではドラムを叩かずその身ひとつで歌を伝えている。その姿に泣かされそうなくらい熱い情熱を感じて。僕がTENDREを始めた初期の頃から関わってくれた彼が自分自身の音楽を伝えようとする姿や、歌詞に刺さりまくった時期があった。それはちょうど自分の精神に霧がかかっているような時期だったんです。そこから「MISTY」という曲ができて、スタッフをはじめみんなに聴かせたときに「面白いね。意外とこういう曲はなかったよね」という話になって。自分のいろんな表情をアルバムで見せたいとなったときに、小さなトリガーになってくれた曲でもあるかもしれないです。そういう意味では4曲目の「CLOUD」もそういう存在かもしれない。

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──「CLOUD」はドリーミーな曲で、世界を俯瞰して見ているような印象を受けました。

「CLOUD」は「世の中、しょうもないことばっかだな」と思っていたときに作ったんです。どこかで自分を落ち着かせるために作ったというか。結局、いろんなニュースも自分の手元で見ることが多いじゃないですか。それに疲れることが多くて。1回、深呼吸したいと思ったときに音楽に落とし込むのが一番早かったんですよね。あと、宮崎駿監督のドキュメンタリーを観るのにハマった時期があって。宮崎監督が引退会見をするときに楽屋の窓から外を眺めて「あの屋根の上に人がバーッと走っていて、こうやって飛んだら面白いと思わない?」みたいなことを話していたんですよ。そのイマジネーションの尽きない無邪気さがすごく素敵だなと。そういう角度から世界を見てみることって大事だなと気付かされたというか。

田島貴男にもらった言葉「優しさを掲げられるほどカッコいい人はいないでしょ」

──5曲目「OXY feat. AAAMYYY」も深淵な筆致で死生観が歌われていますね。

この曲の原形は2年くらい前に作っていました。僕もAAAMYYYもこの数年でお互いアーティストとしても、人間としてもいろんな経験値を培って、それぞれの道を歩んでいる中でたまたまクロスするタイミングが今年だったというか。だんだん呼吸しづらくなっている世の中で、どのように“OXY=酸素”を見出していくかを音楽で探るような1曲になったと思います。

──アルバムのラストを飾るバラード曲「PRISM」は、アルバムの顔となる曲だなと思いました。

アルバムの1つの答えになったんじゃないかなと思います。この数年、自分があとから歌詞を読み返したときに、ちゃんと理解できる言葉を残しておきたいという気持ちが高まってきていて。なるべくシンプルな言葉を書いていこうと思ったんです。この曲は未来の自分に向けた手紙を書くような感覚で作りました。

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──「PRISM」が静の顔だとしたら、グルーヴィな「FANTASY」は動の顔なのかなと思いました。

今回の制作で最後にできたのが「FANTASY」でした。

──最後にできたからこそ、「ALL WE NEED IS FANTASY」というワードを導き出せたんですかね?

「FANTASY」は、自分の中ではある種の開き直りの歌みたいなところがあって。この2年半の中で、いよいよ現実と空想世界の境界線が曖昧になっているなと感じることがあったんです。それに対して考えすぎてしまう自分が救われたのは、逆に現実と空想を行き来するような物語だったんですね。だから目の前にある今の世界に対して、「ALL WE NEED IS FANTASY」と開き直れている自分をこのアルバムで出したいと思った。100%は開き直れていなくても、そこに挑むことに意味があると思ったんです。

──それは前作「IMAGINE」を経ての着眼点ですよね。想像力なしにファンタジーは描けないわけで。

そうですね。それを見失ったら終わりだなという気がしてます。人間は誰もがポジティブな部分とネガティブな部分を持っているから、自分は音楽で両方を行き来できる存在でありたいと思っていて。それが音楽としての強さにもなると思うんです。7月にリリースしたOriginal Love & TENDRE名義の「優しい手 ~ Gentle Hands」を作るにあたって、田島貴男さんの事務所に行ったんですね。でもそれはミーティングというより、“貴男の部屋”みたいな人生相談の場になって(笑)。そのときに田島さんがうれしいことを言ってくれたんです。「TENDREというアーティスト名に優しいとか柔らかいという意味が込められてるのはめちゃくちゃカッコいいじゃん。優しさを掲げられるほどカッコいい人はいないでしょ」って。そこでハッとしたんですよね。TENDREというアーティスト名で自分が次のフェーズに行くためには、そういった優しさがあるからこそ抱ける強さを見出していけばいいんだということに気付けたんです。

楽しみながら音楽と向き合っていく

──今後の音楽人生の指針が改めて見えてきた?

そうですね。今は1年に1枚のペースでアルバムを作っているので、ここまできたらそのペースをずっと続けていきたいという気持ちもあって。音楽を作っている以上、どんどん進化し続けたいし、時には足し算ではなく、究極の引き算が進化になるときもあると思うんです。それはそのときになってみないとわからない。だから、作り続けることに意味があると思うんですよね。曲を作る手を止めるのが怖いというところもあるけど、結局やるしかないんだろうなって。今も来年どういう曲を作るかということばかり考えている。体力と気力があるうちは曲を作り続けることが自分の音楽人生の意義だと思っているし、音楽はそのときの世の中に対しての自分のアンサーでもあるので。

──例えば現時点では来年はどういう音楽的なアプローチをしたいと思ってますか?

来年はバンドサウンドで曲を作りたいですね。もちろん、個人で作るプロダクトも好きなんですけど、よりバンドっぽいアプローチをしてみたいとぼんやり考えています。

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──その前に今作はソングライティングのみならずなるべく1人でいろんな楽器と向き合う必要があったのかなと。

そうですね。自分の多面性や柔軟性を提示するアルバムでもあったし、人生の経験値としても大きなアルバムになったと思うので。次は今のライブのメンバーだけではなく、新しい仲間も巻き込むことによって見つかる自分の表情もあるんじゃないかと思います。水曜日のカンパネラじゃないけど、ゆくゆくはTENDREというアーティスト名を誰かに継いでほしいという気持ちでやってるところもあるんですよ(笑)。名前は1つの概念でもあると思うので。まずは40歳になったときに自分がどんな存在になっているかを楽しみながら音楽と向き合っていきたいですね。