今年7月、“架空の茶屋”をコンセプトにした音楽プロジェクト・TAMAMOが始動した。このプロジェクトでは「をかし」や「あはれ」をテーマに、さまざまなコンポーザー / ボーカリストを迎えた楽曲を発信。現時点では「濡れ衣(feat. 是 & Eye)」「罪の華(feat. 木下龍平, 是 & yoei.)」の2曲が各音楽配信サービスで配信され、YouTubeでミュージックビデオも公開されている。
まだベールに包まれているが、気鋭のコンポーザーとボーカリストが次々と参加していく本プロジェクトは果たしてどのような経緯で生まれたのか? 狐が住まう茶屋を舞台とした、怪しくもモダンな楽曲の数々を放つ謎のプロジェクトの真相について、TAMAMOの“店主”、「濡れ衣」に参加したEye、「罪の華」のボーカリスト・yoei.の3人に話を聞いた。
また特集の後半には、「濡れ衣」「罪の華」の制作に携わったボカロP・是、音楽会社SUPA LOVE所属の作家である高橋涼と木下龍平のコメントを掲載する。
取材・文 / 太田祥暉
コンセプトは“架空の茶屋”、TAMAMOはどのように生まれた?
──まずは店主さんに伺いたいのですが、そもそもTAMAMOというプロジェクトはどのように始まったのでしょうか?
店主 私は普段、音楽やエンタメとは関わりのない業界で働いているのですが、学生時代にバンドを組んでいたんです。いちリスナーとしてもいろんなジャンルの音楽をチェックしていて、特に東京事変さんの作品は好きでよく聴いていました。それがバンドを辞めてしばらく経った今、ふとまた音楽活動をしたくなったんですね。そんなときにMAISONdesさんの活動に感銘を受けたんです。何か世界観を構築したうえでいろんな方に参加していただくプロジェクトにできたらな、というアイデアがTAMAMOの始まりでした。
──なるほど。ゲストボーカルのお二人は、店主さんからオファーを受けたときにどう思いましたか?
Eye 私は4年くらい前からボーカロイド楽曲の歌ってみた動画をメインにYouTube上で活動していて、最近はすいそうぐらしというユニットでボーカルを担当しているんです。ソロの活動としてはボカロPさんやトラックメーカーさんの楽曲にも参加させていただいていて。ご依頼いただいた楽曲の世界観や雰囲気に合わせて歌うことが好きなので、TAMAMOにも楽しく参加させていただきました。
yoei. 私も普段、YouTube上に歌ってみた動画やオリジナル楽曲をアップロードしています。今回は店主さんからお声がけいただいて、TAMAMOに携わらせていただくこととなりました。
店主 と言っても、Eyeさんやyoei.さんにお声がけしたタイミングでは、好きなクリエイターさんとボーカリストさんをお呼びして、自分が好きな楽曲を集めたアルバムを作ろうと考えていたくらいで。TAMAMOとしての構想はなかったんです。
Eye そうでしたね(笑)。私がお話をいただいたときは、いろんな方が参加されるプロジェクトだということは伺っていましたけど、「をかし」や「あはれ」といったキーワードは出ていなくて。先ほど話に挙がった東京事変さんのようにカッコいい楽曲をやりたいね、というお話だったと記憶しています。
yoei. 私は「をかし」とか「あはれ」がキーワードというのは聞いたかも。でも、狐とか茶屋という設定はまだなかったですよね。
──では、どうして和風な世界観で茶屋が楽曲を提供する、という設定になったのでしょうか?
店主 ちょうどプロジェクトの構想を考えているときに、「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」という新書を手にしたんです。その本によると1965年を境に日本で狐にだまされるお話が生まれなくなっていったらしいんですが、そこからインスピレーションを受けまして。狐に化かされる、じゃないですけど、どこか世界観やストーリーに引き込まれるような。1曲1曲が1話完結の物語じゃないですけど、そういう楽曲になるといいなと思ったんです。それで狐が住まう茶屋で楽曲を提供している、という設定を考えました。ただ、“架空の茶屋”という和風の世界観ではありますが、楽曲自体は必ずしもそのイメージに囚われず、いろんなジャンルに挑戦できればと考えています。
──設定が決まってから、ビジュアル面に関してはクリエイティブハウスポケットの方々と打ち合わせを重ねられたと。
店主 はい。ボーカリストさんが1曲ごとに変わる企画ですので、せめてビジュアルに登場する狐の店員については固定したいと思いまして。キャラクターデザインやロゴ、イラストについて打ち合わせをさせていただきました。まだ私の頭の中でも全然構想が固まっていない段階でのご相談だったので、クリエイティブハウスポケットの方々にはかなりご無理を強いてしまったように感じています。リテイクが多くて、本当にごめんなさい! でも、その結果素晴らしいデザインが完成してとてもうれしかったです。
是のクリエイティブに触れて
──店主さんは先ほど音楽やエンタメに近い業界の人間ではないとおっしゃっていましたが、プロジェクトを動かすにあたって、どのようにコンポーザーやボーカリストにコンタクトをとられたのですか?
店主 純粋に正面からご連絡を差し上げました(笑)。1曲目の「濡れ衣」に関しては、作詞作曲を是さんに手がけていただいたのですが、これは是さんの「美人局」という曲が大好きだったからです。「美人局」を最初に聴いたとき、月並みな感想ですが、とにかく素晴らしいと感じたんですよね。なので、まだ設定が固まっていないときにとにかく好きな方にいい曲を作っていただこうと思い、是さんにコンタクトを取りました。
──是さんにはどのような発注をされたのでしょうか?
店主 是さんに初めて連絡をとった頃はまだコンセプトが固まっていなかったので、「美人局」の雰囲気が好きだということだけお伝えして。コンセプトがある程度決まったあとは「楽曲は必ずしも和にこだわっているわけではなく、物語性を感じられるようなものにしたい」と、TAMAMOの楽曲イメージを共有させていただきました。初めて是さんに連絡をとったタイミングでEyeさんにもコンタクトを取っていて。Eyeさんは是さんが手がけられた「新興宗教」という楽曲の歌ってみた動画をYouTubeにアップロードされていたんです。その歌声がとても大好きで、もし是さんが引き受けてくださるのであればボーカルはEyeさんがいいなと勝手に考えていました。
Eye もともと是さんの楽曲が好きだったので、オファーはとてもうれしかったです! 「新興宗教」は特に大好きな楽曲だったので歌ってみた動画を投稿していたんですけど、それを機に是さんとも親交ができたんですよ。「美人局」が「The VOCALOID Collection」(クリエイター、ユーザーの垣根を越えたネット最大級の“ボカロ楽曲投稿祭”)に投稿されていたのもすぐにチェックしていましたし、楽曲自体にもとても衝撃を受けていて。そんな中で店主さんから是さんに作詞作曲をお願いしていること、その楽曲を私に歌ってほしいという話を伺ったときには、本当にうれしかったです。
店主 親交があるというお話を伺って、是さんに「Eyeさんのボーカルでやりたい」とお伝えしたら、「それならばぜひ」と返答してくださったんです。
Eye 感謝しかありません!
──仮歌が届いたときは、どのように感じましたか?
店主 とにかく素晴らしかったです! TAMAMOの1曲目ではありますが、コンセプトを抜きにして、是さんの音楽センスがきちんと映えているものをお出しできるなと感じました。つまりは、私が好きな音楽をリスナーさんに届けることができるわけで、最初の「好きなクリエイターさんとボーカリストさんをお呼びして、自分が好きな楽曲を集めたアルバムを作ろう」というコンセプトにも合致していたといいますか。
Eye 本当に素晴らしい楽曲ですよね! 是さんはボーカロイドを使用して仮歌を制作するんですけど、その調教がとても独特で。本当に人間が歌うような癖まで再現して、仮歌を作られるんですね。なので、その仮歌の雰囲気を再現しつつ、人間が歌うからこその抑揚などを入れていくことにしました。このあたりの塩梅に関しては、是さんとごはんに行ったときにお話をして、擦り合わせていきました。
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Eyeが意識した妖艶なボーカル