高田夏帆×阿部真央 対談|憧れの存在から受けた楽曲提供、「風の唄」に込めたお互いへの信頼とリスペクト

NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」でブレイク中の俳優・高田夏帆が3年ぶりとなるシングル「風の唄」をリリースした。表題曲は、彼女が大ファンだったという阿部真央の書き下ろしである。高田がMCを務める音楽トークバラエティ「音ボケPOPS」(TOKYO MX)の企画をきっかけに生まれた楽曲で、「追い風に背中を押されて夜を超えてきた“私”がいよいよ走り出し、今度はどこかで泣いている誰かに自らの唄を届けようと決心する」というストーリーは、お互いの心に触れる対話を経て書かれた。メロディもサウンドも高田の歌声も、とても力強くエネルギッシュだ。

この「風の唄」をめぐり、音楽ナタリーは高田と阿部の対談をセッティング。愛情とリスペクトあふれるやりとりを、2人のフォトセッションで撮影された写真とともに楽しんでほしい。

取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 藤田二朗(photopicnic)

人生で一番のサプライズ

──「風の唄」は高田さんが出演されている「音ボケPOPS」のサプライズ企画から生まれた曲だそうですね。

高田夏帆 「音プロ」というコーナーでボイストレーニングを受けさせてもらっていて、「次はギターのレッスンを受けるよ」と言われてポニーキャニオンに行ったんです。「いつもと違う場所だな」とは思いつつも、深く考えないでドアを開けたら、そこに真央さんが立っていたという。

高田夏帆

高田夏帆

──おー! その瞬間まで一切気付かなかったんですか?

高田 一切気付かず、「なんかいつもと違うな、スタッフさんの数も若干多いな」ぐらいの感じでした。もともとロケが多い番組だし、「大航海2020 ~恋より好きじゃ、ダメですか?ver.~」(2019年)で初めてCDを出させてもらったときにギターを弾きながら歌っていたので、「ギターのレッスンを受ける」というのもあまり違和感がなくて。もうびっくりしてしまって、真央さんを見た瞬間に涙が止まらなくなりました。

阿部真央 「あ、泣いてる」と思いました(笑)。

高田 だって「はじめまして」だったんですから! ずーっと私が聴いていた人と!

──それは驚くし感激もしますよね。阿部さんは高田さんのことはご存じでしたか?

阿部 私はテレビをあんまり観ないから、実はちゃんとはわかっていなかったんです。でも夏帆ちゃんに会う1年ぐらい前、2021年の春前ぐらいに「音ボケPOPS」さんから「サプライズ企画で、曲の書き下ろしをお願いしたい」というお話をいただいてたんですよ。

高田 そうだったんですか!

阿部 水面下で進んでたんですよ。すごいよね。

高田 人生で一番のサプライズです!

阿部 そんなふうに言ってくれるのがうれしい。

──阿部さんがこの企画に乗った理由は?

阿部 一番の理由は、これまで曲を提供してきた方たちもそうなんですけど、「阿部真央に書いてほしい」というオファーだったことです。気持ちを入れないと書けないので、そこは常に大事にしています。だから夏帆ちゃんが私をすごく好きでいてくれていることがもちろん前提でしたけど、プラス「見てみたい」というのもありました。ミュージシャンや歌手に曲を書いた経験はありましたけど、俳優さんに自分の書いた歌を歌ってもらったら、どういうふうになるんだろう?って。あとは、音楽活動に関してはほぼまっさらに近い夏帆ちゃんに、私だったらどんな曲が提供できて、応援してくれる人がどんなパワーを受け取ってくれるかな、ということにも興味がありました。既存のファンの方ももちろんいらっしゃるけど、音楽から入ってこられるファンの方も少なからずいると思うんです。その出会いの場を設ける役を担うのは、やりがいがありそうだなって。

高田夏帆にはウソがない

──いざ会ってみて、お互いどう思われましたか?

高田 ポニーキャニオンの会議室で号泣した日のことですよね(笑)。真央さん、最初から私の心がすべて見えているかのように話してくださるんですよ。

阿部 へへへへへ。

高田 びっくりしたんですけど「あ、信頼できる人だ」という印象がありました。LINEも交換させてもらったんですけど、今も打つたびに緊張します(笑)。

阿部 最初はシンプルに「驚いてくれるといいな」と思ってました。あんまりサプライズにならなかったら恥ずかしいじゃないですか(笑)。そこはちょっと不安だったんですけど、会った瞬間にすごく喜んでくれたし、今言ってくれたように、私も夏帆ちゃんに対して「あ、この人は信頼の置ける人だな」と思いました。ウソがない。がんばって場に合わせて振る舞うことはあっても、ウソがない人だなって。

高田 ウソがない?

阿部 そう。役割をまっとうすることとウソをつくこと、人を欺くことは違うから。より正確に言うと、ウソをつけてない(笑)。いい意味でね。

高田 ここ最近、「まっすぐだね」って以前にも増して言ってもらえるようになったんです。やっぱり自分はイノシシなんだなって。

阿部 実際に亥年なの?

高田 子年です(笑)。

阿部 (笑)。

高田 なんだかんだすごく素直なんですよね。イヤなことは本当にすぐ「イヤだ」と思ってしまうから、そういうところも真央さんに全部見られていたんだなと思いますね。

左から高田夏帆、阿部真央。
左から高田夏帆、阿部真央。

──素直ということは、泣いてしまったのは本当に感激したからですね。

高田 大感激でした! 涙が止まらなかったです。話してるときは最初から最後まで泣いてましたよね。

阿部 うん、その日は。

──2人で話して、阿部さんが高田さんからいろいろなことを聞き出して、それをもとに曲を作っていったんですか?

阿部 私が聞き出したというか、夏帆ちゃんが自ら開示してくれた感じですね。もう一度改めて打ち合わせの場を設けてもらって。いろんな話をしたよね。

高田 しましたね!

阿部 それでわかったのが、これは夏帆ちゃんにも言ったんですけど、私がこれまで曲を提供してきた人の中で一番「こうしたい」「こうしたくない」が強いんです。それはいいことだと思うんですよ。私もそういうタイプだし。夏帆ちゃんには「こういう曲にも興味があるし、こういう感情も表現してみたい」というのがいっぱいあって。ウソはつけないし似合わないので、そのへんも考えつつなんですけど、ちょっと難しかったのが、“高田夏帆”のパブリックイメージもあるじゃないですか。そこを崩しすぎるのは違うな、と思う部分もあって。

──高田さんの俳優としてのイメージとのすり合わせですね。

阿部 最初は違うアプローチも試してみたんですよ。夏帆ちゃんの人間臭い部分を私のダークな面で装飾して、“ダーク夏帆”を曝け出してみるという案もあって。実際そういう曲もワンコーラスぐらい書いてみたんですけど、夏帆ちゃんの歌声や容姿で歌っているところを想像したときに「今ではないかな」と思ったんですよね。「何曲か出してから、こういう一面を見せたほうがいいのかもしれないな」と。そういうことを考えながら話してたんですけど、実際は雑談に近い感じでした。

高田 そうなんですよ。打ち合わせと聞いていたから、「こういう歌詞がいい」「こういうテーマにしよう」みたいなことを話し合うのかと思ってたんですけど、実際に会ってみたら全然違って。「音ボケ」のスタッフさんも密着してくださってたんですけど、真央さんが「2人のほうがやりやすいかな」と言ってくださって、2人きりで3、4時間お話ししたんです。その内容も、曲についての具体的な話じゃなくて、「私、こういうときにこう思ったんですよ」とか、大きく言うと自分の性格などについて話したんですね。私が3年か4年くらい書き溜めてきた、デスノートみたいなものがあるんですけど……。

阿部 (笑)。デスノートじゃなくて、内面のことを書いてる心のノートね。

高田 「これはちょっとどうなんだろう」と思ったこととか、モヤモヤしたことを書いたノートで。そこに書いてあることをたくさん話して、それを全部受け入れてくださいました。私、ガキなんですよね。だから尖ってる部分もきっとあるんですけど、そういうところも全部包み込んでくださって。すごく話しやすかったです。

──素敵ですねえ。

高田 うん、本当に素敵なんです!

阿部 (自分を指して)素敵なんです(笑)。

白いワンピースで走ってるイメージ

──今のお話は「風の唄」を聴いても納得のいくところです。歌詞に出てくる“追い風”が高田さんにとっての阿部さんのような存在を示していて、今度は自分がみんなの背中を押す「風の唄」を歌うよ、という継承のイメージでした。

阿部 まさにその通りです。私が夏帆ちゃんと話していてすごく共感したのは、「自分が楽しむことももちろん大事だけど、自分が今この瞬間に時間をともにしている周りの人が楽しいと思ってくれないとイヤだ」という話でした。それこそ夏帆ちゃんの一番キラキラ輝いて見える部分だから、そこを今回の曲では打ち出すべきかも、と思ったんです。もう少しドライな視点から言うと、そこに関しては夏帆ちゃんのイメージと本質にあまり差がない。そういうところをフィーチャーしたいなと思ったときに、この曲のストーリーが浮かびました。夏帆ちゃんにもやっぱりつらい時期がいろいろあって、ちょっとあきらめかけていたけどやっと光が見えて、今はそこに向かって走り出していると。走りながらこの歌を奏でることで、今度は自分が追い風になって、みんなを導く人になる、みたいな。光を目指しながら走って、やがて自分が光になって誰かを先導する。そういう世界観が似合うと思ったんです。もちろん人間なんだけども、ちょっと人間を超越しているような清らかさもあるから。それは彼女の才能だし、それを生かすためにも「風」というイメージがいいなと思って。

阿部真央

阿部真央

高田 うれしいです。……いや、あの、言葉がすごいですね。語彙力に本当に驚いている。

阿部 「驚いている」(笑)。

高田 すごいです、本当に。私は「風の唄」の「唄」という表記がまず「阿部真央節だ!」と思って。これまでも真央さんの楽曲に「君の唄(キミノウタ)」や「17歳の唄」があったので。

阿部 「唄」という字の見た目が好きなんですよ。「歌」とか「詩」とかいろんな「うた」があるけど、単純にルックスが一番好き。簡単なことは簡単に決めるんです。

──「風の唄」は曲調が阿部さんの曲にしては珍しいですよね。リズムもスケールもケルトっぽくて。

阿部 夏帆ちゃんに書いた曲の中で最後にできたのがこれで、さっき話した「風」とか「夏帆ちゃんがみんなを導いていく」というイメージがやっと浮かんでから書いた曲なんです。イントロのリフが浮かんで「この音階はもうケルトしかない」と思って、そのまま書いていきました。なんでこのリフが思い浮かんだのかはまったくわからないんですけど、雑談の中で、この曲をどんな格好で歌いたいか聞いたときに「白か黒のワンピースで、裸足で歌いたい」と言われたんですよ。

高田 あー! 言いました。

阿部 それを聞いたときに「白だな」と思ったんですよね。白い服を着て裸足というと、なんとなく“自然”とか“大地”を連想するじゃないですか。それも、どっしり根を張る木というよりは、もうちょっと軽やかに動いているイメージというか。そういうイメージも「風」の連想のもとになったことの1つなんですけど、ケルトのあの軽さと“大地感”がすごく合っているなと思って。ただ、これは今考えるとそういうふうに連想したんだなと思うだけで、そのときはそういうことを全部すっ飛ばして、「白いワンピースで夏帆ちゃんが走ってるイメージ」からフッと思い浮かびました。