TAEYO|“日本の音楽を背負う”新鋭ラッパーがメジャーへ行く意味

新鋭ラッパー・TAEYOが新曲「Let me down」を配信リリースした。

Taeyoung Boyから名義を改め、5月20日にアニメ「ケンガンアシュラ」のエンディングテーマ「ASHURA」でポニーキャニオンからメジャーデビューしたTAEYO。新作「ORANGE」の発売を7月15日に控え、本格的にメジャーアーティストとして活動をリスタートする彼に、音楽ナタリーでは2カ月連続でインタビューを実施。前編では「ORANGE」からの先行配信曲「Let me down」の話題を中心に、改名の理由やインディーズ時代の活動について聞いた。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 入江達也

自分を光だと思ってる

──まず、メジャーデビューにあたってステージネームを変えた理由から教えていただけますか?

Taeyoung Boyという名前は前から変えたいと思ってたんです。本名なんですよね、“タイヨウ”は。それを韓国人の友達に韓国語読みで“テヤン(Taeyang)”と呼ばれたのを気に入って、つづりをもじってTaeyoungにして、ノリでBoyを付けたんです。実際、BoyなしでTaeyoungと呼ばれることのほうが多いし、自分でも「Taeyoungです」って自己紹介してたんで、どこかのタイミングでBoyは取るつもりでした。ちょうどメジャーデビューの話が来たときに「これはいいきっかけになる」と思ったんですけど、スタッフが調べてくれたら、Taeyoungだと登録できないらしくて(笑)。Taeyoungにする気満々だったんで「うわー、どうしよう」と思ってめっちゃ悩んでいたところ、チームの1人が「TAEYOはどうかな?」と提案してくれたんです。Taeyoungから最初の5文字を抜き出して、本来のローマ字のつづりは違いますけどタイヨウとも読めるし、「それだ!」と思いました。

TAEYO

──本名により近付けつつ、Taeyoung Boyの名残もあっていい感じですね。

だいぶしっくりきました。結果オーライです(笑)。

──Taeyoung Boyという名前はどうするんですか?

未来のことはわからない(笑)。けど、今までの楽曲は残るし、存在は消さなくてもいいかなと思ってます。もしかしたらいつかまたその名義を使えるタイミングがあるかもしれないし、そうなったら面白いですよね。

──Taeyoung Boyとしてすでに人気アーティストだったTAEYOさんが、メジャーレーベルを選んだ理由は?

自分の中では自然と言えば自然な流れでした。目指していたわけではないけど、1つの通過点というか、「メジャーでやる」という思いはあって、ずっと意識はしていたと思います。メジャーとインディーズの境界線がだんだんなくなってきてるってよく言いますよね。それは俺もわかるんですけど、なくなったわけでもないし、意味みたいなものは絶対にあると思います。このタイミングで、ほかの誰かじゃなくて俺がメジャーに行く意味が。当初からいろいろ思ってたんですけど……。

──当初からというのは?

本格的にラップを始めたときからです。俺、「人それぞれ」みたいな言い方があんまり好きじゃないんですよ。便利な言葉ですけど、それを口にすることでいろいろ逃げられちゃうというか、適材適所の中にもイケてるかダサいかは絶対にあると思うんです。で、適材適所という意味で言えば、日本のアンダーグラウンドなヒップホップのシーンでずっとやってきて、ここに来て、まさに「今、俺のいる場所ではない」と思ったというか、ここで自分にできることは一旦もう終わったかなと。すげえ抽象的ですけど、俺はずっと光だと思ってたんです。

──自分のことを?

そうです。だから、俺がメジャーに行くことに意味はあるなって。アンダーグラウンドのシーンから突き抜けていった人って、日本にそんなにいないと思うんですよね。メジャーに行って活動した人も、メジャーに行って売れた人もいるけど、そこから突き抜けた人がいない。それが俺にはできるっていう、変な自信みたいなものはありました。

──前から「自分は日本の音楽を背負うアーティストだと思う」と公言していますものね。

はははは(笑)……でも全然本気ですね。終着点も正解もないですけど、やっと1つ始まったような感覚はあります。

TAEYO

だいぶ自信過剰です

──どういう経験を経てそのような考えに至ったんでしょう?

なんだろうな……どのハコに何人集客したとか、“どのアルバムが何枚売れた”とか、“どの曲が何百万回バズった”みたいなインパクトのある具体的な数字って俺にはぶっちゃけないんですけど、作品を1つ作るごとに自分で自信をどんどん確信に変えていってるというか。それが一番でかいかもしれないですね。誰に褒められたとかでもなくて、本当に自分の感覚なんですけど。

TAEYO

──その都度「いいものを作れた」と自信を深めてきたと。

一番大きなきっかけになったのは、去年の2月に出した「HOWL OF YOUNGTIMZ」というアルバムです。あれは俺、今聴いてもマジで傑作だと思うくらい自信があるんです。それこそさっき言ったように超売れたわけでもないし、めちゃめちゃ褒められたわけでもないんですけど、あのときできる最高のもの、ほかの誰にも絶対にできないものを作れたなとめっちゃ思います。

──他人じゃなくて自分の評価ですね。

だいぶ自信過剰です(笑)。ただ、一昨年の9月に出した「Ain't nothing(feat. Friday Night Plans)」という曲がSpotifyでバズったんですよ。いまだにあちこちで聴いたり踊ったりしてくれてる動画を見かけるんですけど、あれは「夏の終わりの曲を作ろう」みたいな感じで、軽いノリで作った曲で。言い方は悪いですけど、ある種、適当に作ったっていうか……そんな曲がバズったのが意外というか不思議というか、驚きましたね。

──「この程度でこれだけいけるんだったら、本気出したらすごいぞ」みたいな?

ぶっちゃけ、そういう感覚もちょっとあったかも(笑)。でも今回実感したんですけど、一所懸命やると、かえって全然できなかったりするんですよね。

──今回というのは「Let me down」のことですか?

その次の新作の「ORANGE」のことです。すっっっげえ時間かかりました。

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