ナタリー PowerPush - suzumoku

力強いメッセージを込めたアコギ1本勝負作

理不尽さって必要なものかもしれない

──今回のアルバムには新曲が3曲収録されていますよね。まず「コワイクライ」は、どういうことがきっかけで生まれた曲ですか?

これは自分の中では目指している理想があるんだけれど、現実問題としてうまくいくのかさっぱりわからないという主人公を思い浮かべたことからできた曲ですね。不安なんですよ。目標はあるんだけど、そのためにイヤな思いはしたくないという感覚がある。

──がむしゃらに何かをするのではなく、保身に走ってしまうという。

はい。安心したいけど、そのために苦労するのはイヤだとか。恋人は欲しいけど、裏切られるのはイヤだとか。だけど、本音では、恐れていながらも、やっぱり強く欲しているんですよね。だからこそ最後には「怖いぐらいに愛したい」と歌っている。

──「ノイズ」はどうでしょう?

これも主人公が自分から行動してない曲ですね。理想はあって、欲しいものもあるけれど、ひたすら受け身で、ずっと待っているだけ。そうしていても、思い描くものは全然やってこない。そこで最終的に欲しいものは何なんだろうって思ったときに、自分らしさや、動き出す力が欲しくなるという。

──そしてアルバムの最後に入ってる「愛しの理不尽」。これはアルバムの中では唯一優しい感じの曲調ですけれども。

でも、歌ってることはかなり反抗的なことなんですよね(笑)。

──確かに。これはどういうところから?

インタビュー写真

今って、理不尽な世の中だとよく言われますよね。僕もそう思うんですけど、もしそういうものが社会からなくなるのはどうなのかな?って。逆に、理不尽さって、イヤなものだけれど、必要なものでもあるかもしれない。どうしても越えられないような壁とか、納得できないこととか、そういうことに直面したときに、人は試行錯誤するし、たくさん考えると思うんです。そうやって理不尽なことを乗り越えた経験がないと、マニュアルどおりになってしまう。想定外のことに対処できなくなってしまうんですよね。

──失敗を許さないムード、一度レールから外れたら終わりという風潮って、日本の社会にはどこかありますよね。そこに対して、それはちょっと違うんじゃないかという思いが、この曲にはあると思うんです。

もちろんみんな失敗したくはないと思うんですよね。後悔もしたくないし、連戦連勝できるものならしたい。だけどそんなゲームみたいなことは無理だと思うんで。だから失敗から経験を積み重ねていく先に、ひとつの成功があるのかなって思ったりします。

ギターを弾いて歌いたいだけ

──今の時代の音楽シーンにおけるsuzumokuさんの立ち位置についてお訊きしたいんですが、ロックバンドやアイドル、ボーカロイドやK-POPなど多彩な音楽がある中で、suzumokuさんのやっていることって、最も徒手空拳な音楽だと思うんです。それこそギター1本だけあればいい、という。

そうですね。自分でも機動力は素晴らしく高いんじゃないかなと思います(笑)。

──しかも、バンドスタイルでもできるし、エレキの弾き語りもアコギの弾き語りもできる。いろんな形でやれる強みがあるんですよね。ジャンルもスタイルも、いい意味でこだわりがない。

確かに自分の音楽を「こういうじゃなきゃダメ」とは固めてないですね。フォークじゃなきゃイヤだなんて思ってないし、実際、やりたいスタイルがいろいろある。スリーピースで激しくかき鳴らすような曲もやってみたいし、ジャジーな大人っぽい感じでも弾いてみたいし、スパニッシュっぽいのもやってみたい。リスナーとしても、気付いたらフォーク、ブルース、ジャズ、スパニッシュ、ロックと、いろいろなものを聴いていて。自分の作る音楽に関して思うのは、ギターを弾いて歌いたいということだけですね。ギターが好きだという、それだけです。

──そしてもう1つ大きいのは、人との距離が近い音楽だと思うんです。

それはまさにそうですね。アンプラグドなんて、本当にそのままですし、なんのごまかしもできないですから。

──そういう強みって、suzumokuさんのライブのやり方だけでなく、音楽自体の魅力にもつながっているように思います。

そういうのが好きなんですよね。どうせ弾いて歌うんだったら酒飲みながらやりたいでしょ、みたいな(笑)。だから一番好きなのは、気の合う仲間とウイスキーひっかけながらブルースのセッションをずーっとやってるようなスタイルで。ライブっていうより、どんちゃん騒ぎみたいなものなんですけど(笑)。でも、そういうのが実は純粋な音楽なのかもしれないって思ったりします。

──だからこそ「モダンタイムス」とか「真面目な人」みたいな社会について歌った曲も、大上段から問題提起をしているというより、居酒屋で「いや、ほんとに最近の政治はなっとらん」とか酔って話すオヤジに似た距離感の近さがある(笑)。

あははは! そうかも。特に弾き語りでやると、そういう部分が出るんですよね。

──ちなみに、この先もいろんなスタイルでライブをやっていく予定でしょうか?

そうですね。夏のフェスやイベントも、バンドもあり、弾き語りもありでやろうと思ってます。アンプラグドのライブも、もっと定期的にやりたいですね。軽装備で行けますし。最近は、それこそ毎日どこかで歌ってるくらいのほうが、健康でいられるんじゃないかっていうくらいなんです(笑)。

インタビュー写真

ニューアルバム「80/20 -Bronze-」/ 2012年7月11日発売 / 2500円 / apart.RECORDS / APPR-2506/7

CD収録曲
  1. コワイクライ
  2. 退屈な映画
  3. 鴉が鳴くから
  4. プラグ
  5. モダンタイムス
  6. 身から出せ錆
  7. 蛹 -サナギ-
  8. ノイズ
  9. 盲者の旅路
  10. 真面目な人
  11. 週末
  12. 愛しの理不尽
80/20 -Bronze- - suzumoku

iTunes Storeにて楽曲配信中!

suzumoku(すずもく)

1984年生まれ、静岡出身のシンガーソングライター。名古屋の楽器制作の専門学校で、ギターやベースの製作を行いつつ、自身もロックやカントリーに影響を受けた音楽を制作するようになる。駅前のストリートやライブハウスでの活動を始めるものの、就職と同時に音楽活動を休止する。その後再び音楽の道を志し、2007年1月に上京。同年10月にアルバム「コンセント」でデビューを果たす。その後、精力的なリリースとともに、弾き語りやバンドスタイルでのライブを展開する。2011年7月にエレキギターによる弾き語りアルバム「Ni」を発表。「真面目な人」「蛹 -サナギ-」というメッセージ性の強い2作のシングルを経て、2012年7月にアコースティックギターによる弾き語りアルバム「80/20 -Bronze-」をリリースした。