鈴木雅之デビュー45周年|今語る大瀧詠一とのREC、デビュー曲「ランナウェイ」、そしてドゥーワップ愛 (3/3)

トリビュート盤のDISC 2「Rats Mania」は自分にとってご褒美

──鈴木さんがシャネルズ時代から数々の先輩ミュージシャンに目をかけてもらった経験が、トリビュートサイドであるDISC 2「Rats Mania」に継承されているように感じました。参加アーティストは幾田りら、岡崎体育、川畑要(CHEMISTRY)、GRe4N BOYZ、黒沢薫(ゴスペラーズ)、倖田來未、こっちのけんと、GOSPE☆RATS、SHOW-WA、ハナレグミ、BENI、MATSURI、吉岡聖恵(いきものがかり)と、世代もジャンルも超えた豪華な顔ぶれですね。

いろんな世代のアーティストの作品に触れるようになったのは、コロナ禍でライブ活動が規制された時期、配信でいろんなものを耳にできる時間があったことが大きいね。そのときにYOASOBIの「怪物」を聴いて、自分の中で「ちょっとテンポ落として歌ったら鈴木雅之流の『怪物』になるかも」と思ってカバーしたことをきっかけにAyaseとつながって。Ayaseと一緒に「道導」(2023年にリリースされた鈴木雅之のアルバム「SOUL NAVIGATION」収録)を作ったり、YOASOBIのラジオ番組にゲストでお邪魔したりする中で、ikuraちゃんともいつか一緒にできたらいいなって。いろいろと音源を聴くことで若い世代とつながっていくことってあるんだなと思えた時期だったんだ。今回、りらちゃんに歌ってもらった「夢見る16歳」は、僕からのリクエスト。オリジナルバージョン(1981年リリースのシャネルズ 2ndアルバム「Heart & Soul」収録)は佐藤善雄・桑野信義のデュエットなんだよ。それぞれ男性目線と女性目線で歌う曲だけど、これをりらちゃんが1人で歌ったら太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」的アプローチができるんじゃないかと思って選んだんだ。「木綿の~」は都会へ行った男性と、故郷に残った女性、両方の目線の歌だから。

──そんな選曲理由があったんですね。

こっちのけんとは作品を聴いたときに、いまどきのラップをやったりトラックを作ったりするアーティストに比べるとコーラスワークがものすごくしっかりしてるなと思ったら、大学時代にアカペラサークルだったと言うから納得したよ。お父さんの影響でシャネルズの曲を聴いてたっていうのも、バトンを渡せてるようでとてもうれしかった。それで今度は僕自身とつながることができれば、これって音楽のものすごい魅力的なところだなと思ったね。

──2019年から鈴木さんがテレビアニメ「かぐや様は告らせたい」の歴代オープニングテーマを手がけていることは、1981年に井上忠夫(大輔)さんが映画「機動戦士ガンダム」の主題歌(「哀 戦士」「めぐりあい」)を担当されたことと、実はつながっているように感じます。

そうなんだよ。だから殻に閉じこもらずに自分から外に出て行ってアニメソングを歌ったり、いろんな人とコラボレーションしたりしていこうと思い始めた。僕、たぶん世の中で一番コラボレーションしてると思うよ(笑)。去年B'zの松本孝弘とコラボしたのは彼のメロディラインが好きで、いつか一緒にやりたい1人だったから。「Snazzy」(2024年発表のアルバム)で鈴木雅之流のR&Bをやるなら彼のギターは絶対欲しいなって。そんな中、松本からの推薦でGRe4N BOYZのHIDEと出会ったんだ。もちろんGReeeeNのことは知ってたけど、これまでは接点がなかったからね。会ったらすごく誠実なヤツで、一緒に「Ultra Snazzy Blues」(「Snazzy」収録曲)の詞を書いてやりとりをしてる中で、ちょうどGRe4N BOYZと改名したときのライブに誘われたんだ。それで観に行ったら、アトラクションのようなライブをやってて。彼らは素顔を出さないからどうやるのかな?と思っていたら、映像を使いながら一瞬も飽きさせないようにパフォーマンスして、みんなを笑わせたり感動させたりしてる瞬間を見て、GRe4N BOYZはすごいボーカルグループだなと思った。4人のボーカルもコーラスがちゃんと2つに分かれて、声質が合ってる。それってユニゾンで歌えば1人でダブルで歌うのと同じように聴こえるわけだから、ボーカルグループとしてはものすごい強みだぞって伝えたよ。

鈴木雅之

──GRe4N BOYZはDISC 2「Rats Mania」に「星くずのダンス・ホール」カバーで参加しています。これは1982年リリースのシャネルズ5thアルバム「ダンス!ダンス!ダンス!」収録曲です。

HIDEに参加してみない?って声をかけたとき、彼が選んできた曲が、僕が書いたバラード「星くずのダンス・ホール」だったんだ。当時コピーライターだった売野雅勇さんが麻生麗二のペンネームで最初に僕たちに詞を提供してくれた曲で、「これをGRe4N BOYZらしい感じでやりたいです」って。うれしかったね。その後、ラッツ&スター「め組のひと」など深い付き合いになる売野さんとの最初の接点だし、売野さんも「あの曲があったから自分の作詞の活動が始まった」とよく言ってくれるし。みんなつながっていくんだなと思うね。僕は周年という主役の立場で、いろんなジャンルの人たちがそれぞれ好きにやったものをご褒美としてプレゼントしてくれる。そういう意味でDISC 2は1枚の独立したアルバムとしても成立する作品になってると思う。GOSPE☆RATS(鈴木雅之、佐藤善雄、桑野信義、ゴスペラーズの村上てつや、酒井雄二によるユニット)の楽曲も入っているけど、「僕自身も含めてみんな誰もが“Rats Mania”なんだ」という捉え方をしてるんだ。

──2020年に「街角トワイライト」をカバーされた岡崎体育さんを取材した際、「鈴木さんに声をかけていただいたからには全力を尽くしました」という話の流れで「僕はちょっと顔が似てるので、令和の大瀧詠一さんを目指したい。それもノベルティソングに力を入れる理由です」とおっしゃっていました。

あいつのそういうところが好きだし、リリックも好きだね。僕は彼のことを日本版エド・シーランだって言ってるの(笑)。「街角トワイライト」のカバーも体育ならではのものだし。トラックを作れる人、歌で勝負する人、今回参加してくれた人たちはみんな、それぞれ自分なりの味で勝負してくれたと思う。

──45年間ずっと所属されているエピックレコードジャパンについてもお聞かせください。

最初の出会いは1978年。当時はエピックソニーという名前で立ち上げたばかりの頃で、スタッフから名刺をもらうんだけど、CBSソニーは知っててもエピックソニーは知らないわけ。ただ、向こうには当時、信濃町に新しいスタジオ(CBS・ソニー信濃町スタジオ)を作ったという強みがあった。そこに僕たちを案内して「うちに来たらここでレコーディングできますよ」って。僕たちとしては物珍しいから探検するわけ。で、山口百恵さんがレコーディングしてるスタジオに入って怒られたり(笑)。そのときに彼女が歌ってたのは最後のシングル「さよならの向こう側」だね。信濃町スタジオの1階に「ベガ」っていうカレーやコーヒーがおいしい喫茶店があって、おいしいものが食べられるし、ロビーではゲームができるし。僕が真剣に歌入れをやってる間、メンバーはみんなそこらでたむろってる(笑)。半分遊び場のようなスタジオワークをさせてもらったね。ソロになってもずっとワンレーベルでやってこれてるのは歴代スタッフのおかげだよ。携わってくれた人たちはみんな、僕のことを気にかけてくれて本当にありがたいと思ってる。僕が「ラブソングの王様」なんて自分から言い出したのは、鼓舞する気持ちをみんなに持ってもらいたかったから。みんなが僕のいろんな部分を知ってくれてるから、前に進んでいくときもひとつになれるんです。

鈴木雅之

ほかの車に乗り換えるのではなく、同じ車の最新バージョンに乗る

──4月19日には今作を携えた全国ツアー「masayuki suzuki taste of martini tour 2025 ~Step123 Season2 "All Time Doo Wop"~」がスタートします。

これまでのツアーでもロックンロールやドゥーワップはやってきたけど、今年は45周年ということで自分の好きにやっていい時間だから、本当に楽しみ。僕は子供の頃から扁桃腺が弱くて、よく風邪をひいてたんだけど、ここ何年かものすごく体調を管理してるおかげで風邪も引かずにクリアしてるわけ。これはコロナでみんながマスクと手洗いをやるようになったことも大きいね。思い返せば、レコーディングの前日に風邪を引いて鼻声でも、納期があるから絶対にやらなきゃいけないタイミングが何度かあって。それが心残りで今回、GOSPE☆RATSの「星空のサーカス」は僕のボーカルを録り直してるんだ。当時はこれが自分の一番いい状態なんだと納得していたものの、今回はそれを直していいと思えるタイミングだった。オリジナルを作らない分、新たにコーティングすることでみんなに楽しんでもらいたくてね。あとはDISC 1「Original Mania」はマスタリングにものすごく力を入れたから、オリジナル盤を持ってる人はぜひ聴き比べてほしい。大瀧さんもよく福生から乃木坂のマスタリングルームに来てずっとやってたくらいマスタリングに命を懸けていたんだ。今回いわゆるリミックスじゃなくマスタリングで色を変えることで、車に例えると、ほかの車に乗り換えるんじゃなく、同じ車の最新バージョンに乗るんだってところに到達できたわけ。そういう細かい部分は抜きにしても、今回のアルバムは「みんなでドゥーワップしようぜ」ってところまで到達できたと思います。

──入門編として最適ですし、これまで鈴木さんの音楽をずっと聴いてきた人にも最高の贈り物になるベストアルバムですね。

そう言ってもらえるとうれしいね。来年、僕は古希を迎えるから“古希ソウル”をちゃんと提示したいし、ソロになって40周年でもあるから、そこに向けてまた動き出すつもりだよ。

──たくさんお話いただいて、ありがとうございました。それにしても当時の記憶の解像度がとても高いことにびっくりました。

僕はラジオ世代だからね。アメリカンポップスにしてもドゥーワップにしても目で見えない分「この人の歌い方はどんな感じだろう」とずいぶん想像力を働かせてきたから、記憶力に関してはちょっとすごいよ(笑)。

鈴木雅之

公演情報

masayuki suzuki taste of martini tour 2025 ~Step123 season2 "All Time Doo Wop"~

  • 2025年4月19日(土)神奈川県 相模女子大学グリーンホール
  • 2025年4月24日(木)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2025年4月27日(日)静岡県 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
  • 2025年5月10日(土)千葉県 森のホール21
  • 2025年5月16日(金)東京都 NHKホール
  • 2025年5月23日(金)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2025年5月24日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2025年5月30日(金)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2025年6月1日(日)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
  • 2025年6月7日(土)千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2025年6月14日(土)神奈川県 カルッツかわさき
  • 2025年6月15日(日)神奈川県 カルッツかわさき
  • 2025年6月20日(金)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2025年6月21日(土)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2025年6月26日(木)京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2025年6月28日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2025年6月29日(日)岡山県 倉敷市民会館
  • 2025年7月5日(土)熊本県 熊本城ホール メインホール
  • 2025年7月6日(日)福岡県 福岡サンパレス
  • 2025年7月12日(土)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2025年7月13日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2025年7月16日(水)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年7月17日(木)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年7月21日(月・祝)神奈川県 鎌倉芸術館
  • 2025年7月26日(土)富山県 オーバード・ホール
  • 2025年7月27日(日)石川県 本多の森 北電ホール
  • 2025年8月2日(土)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)大ホール
  • 2025年8月11日(月・祝)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)

プロフィール

鈴木雅之(スズキマサユキ)

1956年東京生まれ。1975年にシャネルズ(のちのラッツ&スター)を結成し、1980年にシングル「ランナウェイ」でデビュー。1986年にシングル「ガラス越しに消えた夏」でソロデビューを果たす。現在までに「もう涙はいらない」「恋人」「違う、そうじゃない」「渋谷で5時」など数々の名曲を発表。「ラヴソングの王様」の異名を持つ。2011年にカバーアルバム「DISCOVER JAPAN」で「日本レコード大賞」優秀アルバム賞、2016年に最優秀歌唱賞を受賞した。2019年より放送されているテレビアニメ「かぐや様は告らせたい」シリーズのテーマソングを担当し、さまざまなアーティストとコラボを展開。2020~2023年に4年連続で「NHK紅白歌合戦」に出場した。2025年2月にデビュー45周年を迎え、4月にアニバーサリーアルバム「All Time Doo Wop ! !」とライブ映像作品「masayuki suzuki taste of martini tour 2024 ~Step123 season2 "Snazzy"~」を同時リリース。同月から8月まで全国ツアーを実施する。