ナタリー PowerPush - 砂守岳央(沙P)
異色ボカロP“沙P”の本当に異色なキャリアとサウンド
砂守岳央(沙P)がメジャー1stアルバム「覚醒ラブサバイバー」をリリースした。
砂守岳央(すなもりたけてる)はボイスドラマ「僕と少女と宇宙船」の制作チーム「ProjectTRI」の主宰にしてボカロP「沙P」(すなぴー)として知られる人物。武蔵高校から京都大学を経て、東京藝術大学大学院に進学する傍ら「僕と少女と宇宙船」の監督と脚本とイメージソングの作曲を手がけ、さらには人気歌い手への楽曲提供やアニメのキャラクターソング制作、映画「HK 変態仮面」への音楽協力なども行っている。そんな彼が放つ「覚醒ラブサバイバー」には2013年春より自身が制作を開始したボーカロイドナンバー9曲が収録されている。
異色すぎる経歴と、あまりにも多彩な才能を誇る砂守とは何者なのか? 「覚醒ラブサバイバー」の聴きどころを探るとともに、その正体に迫った。
取材・文 / 成松哲 撮影 / 小坂茂雄
レコードプレーヤー1台あればメッチャ聴けるじゃん
──ナタリーの「覚醒ラブサバイバー」発売のニュース(参照:マルチクリエイター沙P、砂守岳央名義の1stアルバム発表)に対する砂守さんのツイートを見て驚いたんですよ。記事の見出しを受けて「マルチクリエイターもいいな……」ってつぶやいていたから「えっ!? この人自覚なかったの?」って(笑)。
あはははは。その自覚はまったくなかったです(笑)。
──でもボイスドラマ制作チーム「ProjectTRI」の監督兼脚本家兼イメージソングのコンポーザーで、ボカロPで、小説家でもある。これを“マルチ”と呼ばずしてなんと呼ぼうと。
ありがとうございます(笑)。
──そこでまずは“マルチクリエイター・砂守岳央(沙P)”はいかにして生まれたのか。バイオグラフィを追わせてください。プレイヤーや作家としての音楽的原体験って?
子供の頃から一応ピアノをやっていましたが不真面目だったので、中学のときにギターを買ったのが初めての本格的な音楽体験ですね。
──誰か憧れのミュージシャンがいた?
ギターを始めるときには特にいませんでしたね。「モテそうだな」と思ったのがきっかけです(笑)。ただギターを買って、ギター雑誌も買い始めたら「1970年代ロックとかが最高だぜ」って書いてあるから、なんとなくツェッペリン(Led Zeppelin)とかを聴くようになって。当時はCDバブルというか、一番レコードが投げ売りされてた時代で、中学校の目の前の中古レコード屋で、その雑誌に「これがすごいんだ!」って書かれていた名盤が100円とかで売られていて。中学生だったしお小遣いは少なかったんですけど「レコードプレーヤー1台あればこの値段でメッチャ聴けるじゃん」って、そんなレコードを集めるようになりました。
創作活動に走らせた武蔵の校風とOBの存在
──ギタリストとしてはどんな活動を?
実はギターを買ったあと、指に良性の腫瘍ができて。手術をしたら、それ以来左手の薬指の感覚がほとんどなくなっちゃったんです。日常生活で困ることはないし、今はギターも平気で弾けるんですけど、当時はその麻痺してる感覚に慣れずにフレットを強く押さえすぎて指先から血がバーッて出てくることがよくあって。もともとマジメに練習するタイプでもなかったので、こんなに痛い思いをしてまで弾くもんでもないかなあ、と(笑)。
──いったんギターはお休みして(笑)。
ええ。で、高校時代、Macintoshを持っていたんですけど「どうもこれで曲が作れるらしい」ということを知り。周りでDTMをやっているヤツなんかもいて教えてもらったり、あとはフリーウェアのソフトを使ったりして曲を作ってはMDに録ってCD-Rを学園祭で売ったりしてました。
──その高校っていうのが都内私立御三家の一角、武蔵高校。これもこれでインパクトのあるキャリアですよね。創作活動と勉強を両立していたわけですから。
でも武蔵ってちょっと変わってて。音楽活動に力を入れていたというか「やりたければやっていいよ」みたいな空気があったんです。そういう授業もありましたし。それとあの学校って10年に1回くらいなぜかミュージシャンやクリエイターが豊作の年があって。有名なところでいうと、ささきいさおさんとか亀田誠治さんなんですけど。そういう学校だったっていうのも音楽をやってた理由かもしれないですね。
- ニューアルバム「覚醒ラブサバイバー」2013年12月11日発売 / FlyingDog
- 「覚醒ラブサバイバー」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 2625円 / VTZL-70
- 通常盤 [CD] 2100円 / VTCL-60356
CD収録曲
- ハッピーエンドジェネレイタ
- 覚醒ラブサバイバー
- オトギノート
- 致死性恋愛症候群
- 初恋暴走アノマロカリス
- ジェリーフィッシュ・ネオン
- サイキックガール・ア・ゴーゴー
- 全力疾走ボーイミーツガール
- 夕闇リフレイン
初回限定盤DVD収録内容
- 覚醒ラブサバイバー(MUSIC VIDEO)
- 全力疾走ボーイミーツガール(MUSIC VIDEO)
- 初恋暴走アノマロカリス(MUSIC VIDEO)
- ハッピーエンドジェネレイタ(MUSIC VIDEO)
- サイキックガール・ア・ゴーゴー(MUSIC VIDEO)
砂守岳央(沙P)(すなもりたけてる(すなぴー))
1983年生まれの作詞家、作曲家、作家、シナリオライター、プロデューサー。私立武蔵高校から京都大学を経て進学した東京藝術大学大学院在学時となる2009年、沙P名義で同じく藝大の学生らとともに制作集団「ProjectTRI」を立ち上げ、自ら監督・脚本、イメージソングの作詞作曲を手がけたボイスドラマシリーズ「僕と少女と宇宙船」をニコニコ動画で発表。瞬く間にアクセス数を集め、2010年1月には同作の上映イベントが東京・アップルストア銀座で開催される。以降、ニコ動で人気の歌い手への楽曲提供やドラマCDの監督や脚本、アニメのキャラクターソングの制作、映画音楽など、幅広いジャンルで活躍。2013年3月には自身初となるボカロナンバー「覚醒ラブサバイバー」がボカロ再生数ランキング上位に輝く。そして以降「全力疾走ボーイミーツガール」「ハッピーエンドジェネレイタ」などさまざまな楽曲を立て続けに公開し、同12月には本名名義のメジャー1stアルバム「覚醒ラブサバイバー」をリリースした。メジャーデビューと同時に、同タイトルの電撃文庫「覚醒ラブサバイバー」にて作家デビューも果たす。