沖縄出身5人組ヒップホップクルーSugLawd Familiar、メジャーデビューで立ち返った「音を楽しむ」という原点 (2/2)

1年前はどこに向かっているのかわからない状態だった

──先日、ワーナーミュージック・ジャパンからメジャーデビューすることが発表になり、メジャー第1弾シングルとして「HOPE」がリリースされました。メジャーデビューの経緯を伺ってもいいですか?

Oichi レーベルとつながっている僕の先輩から連絡が来て、そこから話を進めていったらデビューにつながった感じです。それが去年の年末くらいで。

XF MENEW 正直、メジャーに対してネガティブな偏見もあって。これまで何度か「メジャーレーベルに所属できるかもしれない」という話もあったんですけど、そこに関してはみんなのプライドも高くて「まずは自分たちで土台を固めないと」と思っていたんです。しかも、お話をいただいたときは、けっこう低迷していた時期でもあって。ここからの方向性をどうしようかとか、何より自分たちが作っているリアルな音が全然広まらないという気持ちがあった。そこを打破するには、1つデカいことに挑戦しないと、と思ってました。なので、みんなでけっこう話し合って決断しましたね。

XF MENEW

XF MENEW

OHZKEY 去年は特に「これからいったいどうなっていくんだろう」という不安な気持ちが生まれた年でもあったんです。ライブにはめっちゃ呼ばれて、県外のいろんなところに行くんだけど、なんか先が見えないっていうか。どこに向かっているのか、全員が本当にわからない状態で。曲も作らないといけないし、常に急かされている感じでした。正直、あんまり楽しくないなーと思っていた時期で。そんなタイミングで声がかかったんです。

Vanity.K すごい巡り合わせだったなと。

OHZKEY メジャーからの話をOichiから伝えてくれたっていうのもポイントでした。Oichiはメジャーの話が来ても「それ、あんまりよくないんじゃね?」って言うタイプだと思っていたんですけど、そのOichiが「めっちゃいい話」とデビューの話を持ってきてくれた。Oichiの姿から、俺らの風向きが変わっている感じが伝わってきたんです。

──そうだったんですね。「HOPE」がリリースされる前から、2025年は各々のソロシングルも相次ぎましたよね。あまりにも矢継ぎ早にリリースされていくから、むしろ悪い予感がしたくらい(笑)。

Vanity.K メジャーデビューの話をもらって、「実際にリリースが始まるまでの期間はソロ曲も出したいね」という話もしていたんです。3カ月連続で合計12曲を出しました。デビュー前の助走じゃないですけど、これまでに溜まっていた曲も一気に出して。

Vanity.K

Vanity.K

OHZKEY 「あいつ、こういう感じもできるんだ」ってそれぞれ発見があって、俺たちも楽しかったですね。

Vanity.K これまでOHZKEYのソロなんてほぼ聴いたことなかったし、仲間の間でも新鮮でした。

新曲の制作で噛み締めた原点

──「HOPE」はいつ頃から制作に取りかかっていたのでしょうか? ロックテイストの楽曲で、これまでの雰囲気とはまた違った魅力があるシングルですよね。フックのメロディも耳に残りやすくて。

Vanity.K 夏頃ですかね。1回作ったビートを作り直したんです。で、サビを100回くらい作り直しました。

XF MENEW 結局、Oichiがヌルッと出して「お! それそれ!」みたいな。

OHZKEY これまでやったことない感じのビートだったんですけど、メジャーデビューということで、新しいことに挑戦しつつクオリティも高く、というところは意識しました。

Vanity.K フロウが全然出てこなくて、とにかく大変でしたね。

──2ndシングルの「DAMN」は、さらに印象がガラリと変わる曲に仕上がっていますよね。楽曲のテーマや方向性は普段どうやって決めていますか?

XF MENEW それぞれ「これカッコいい」と思うものやニュアンスがあって、1人ひとり違うんですよ。次に作っている曲は、VanityとOHZKEYの間で「これ、やりたい」というアイデアがベースになっています。

──「DAMN」ではOHZEYさんのヴァースで「振り返るは原点」とラップしていますが、皆さんにとっての原点はなんですか?

Vanity.K やっぱり、球技大会後の制作じゃないですか? あのときは自分の表現を100%できることが、ただただ楽しかったんですよ。でも、最近は心が枯れちゃったりして、あのときの気持ちを忘れちゃってました。音を楽しむこともできなくなっていたけど、そもそもそれこそが原点であるべきですよね。最近は「HOPE」や「DAMN」の制作を通して作ることの楽しさ、という原点を噛み締めています。

ヘイターすらいない状況が苦しかった

──今の制作ペースはどんな感じですか?

OHZKEY この次のシングルもできていて、あとはプロデューサーのArt'Teckyxさんとスタジオに入りながら作っていってます。

──今は曲を作るのが楽しい?

XF MENEW 俺はめっちゃ楽しさが戻ってきてますね。

Oichi 作るのは、楽しいです。

Oichi

Oichi

──先ほど、去年は行き詰まっていたとお話ししていましたが、それは全員が共通して感じていたことですか?

Vanity.K 去年は落ちすぎていて、たぶん顔にもけっこう出ていたと思います。

XF MENEW でもみんな、感じていても口には出さないんですよ。

OHZKEY 昨年は、成長を特に感じないタイミングでもありました。前だったら、誰かが落ちてもほかの誰かが引っ張り上げるみたいな感じで、穴埋めしている雰囲気があったんです。でも、去年に至っては全員落ちてしまって、そのまま「あれ、俺らどこ行っちゃうんだよ?」みたいな感じでした。

──クルーとして名前が売れていくと同時に、心ないコメントやヘイトと向き合わねばならない時間も増えましたか?

Vanity.K めちゃくちゃ増えました。でも、自分は「俺らの曲はカッコいい」ってわかってるんで、最初の数日だけはコメントを見るんですけど、あとはもう見ない。そっちにエネルギーを使うのが面倒くさいなと思うし、曲を出したら「次、次!」って感じなので。むしろ、曲が広まらなさすぎてヘイターも別に生まれないみたいな、そっちの状況のほうが苦しかったかもしれないですね。議論の対象にすらされてない、みたいな。

SugLawd Familiar

SugLawd Familiar

──そうした状況の中でも、止まらずリリックを書き続けていましたか?

Vanity.K 書いてましたね、ずっと。そこが逃げ道というか、自分のスキルを再確認して、「あ、俺やっぱイケてるな」と再確認する。そこで自分を保っていた、というところはありました。

SugLawd Familiarだけの強みは?

──「HOPE」が配信されて、リスナーの皆さんからの反応はどのように届いていますか?

XF MENEW めっちゃいい感じに、伝えたいことを受け取ってくれていてうれしいです。新たな挑戦でもあるし、俺らの楽曲史上、一番リスナーさんに伝わりやすいダイレクトな歌詞でもある。なので、その分伝わっているのかなと感じます。

OHZKEY 普段ヒップホップを聴かない人からの反応もすごくいいですね。今、日本語ラップで流行ってるノリともだいぶ違うし。

Vanity.K 最近気付いたんですけど、そこが俺たちの役割かなと思います。ヒップホップをガンガンやっていくとかじゃなく、俺たちのオリジナルなものを作れるので、そこにアプローチしていきたいですね。

──今の日本のヒップホップシーンにおいて、4MC+1DJという構成も珍しいですよね。SugLawd Familiarにしかない強みってどこにあると思いますか?

XF MENEW 枠組みにとらわれず、1人ひとり、かけがえのない音楽をやっているというところですかね。みんな、音でつながっているというか。俺らの音楽はマジで唯一無二だと思っているし、それだけは自信があります。

Oichi あと、メンバーそれぞれ違うジャンルの音楽が好きなんですよ。なので「このインディーポップいいよ」とか、知らない曲を共有できるところも一番の強みかな。俺はハウスやベッドルームポップ、サイトランスとかも好きです。

Caster Mild 俺とはDJメインの沖縄のハウスイベントなんかにもよく遊びに行きますね。Little ROCKERSとかRed Roomとか。

XF MENEW あとは中国のヒップホップなんかもいいなと思って、よく聴いています。

SugLawd Familiar

SugLawd Familiar

5年前からの変化

──今後の予定はもう決まっているんですか?

OHZKEY このままシングルを連続配信して、来年の夏頃には念願のアルバムを出したいなと思っています。アルバムは5年間くらいずっと「出します」って言ってるんですけど(笑)。

Vanity.K 作りかけの曲もあるんですが、どんどんやりたいことが変わっていくし(笑)。それに、これまではアルバムの作り方すらわかっていなかったんです。今は向かうべき方向がわかっているので、完璧な状態でアルバムを出せると思います。

──5年前と比べて、ラップとの向き合い方や表現に変化はありましたか?

Vanity.K “人に向けて何かを言う”ことがなくなりましたね。「Longiness」は誰かに向けてバーッと意見を言っているようなリリックですけど、そういう表現は少なくなりました。ああいうリリックってすごくスタミナを使うし、いろんな音楽を聴いていくうちに作り方が変わっていったなと感じます。

OHZKEY 僕も、その点はめっちゃ変わりましたね。前はラップのうまさを見せるためにラップする、みたいな感じだったから。トピックはなんでもよくて。正直、ラッパーたるものラップがうまいなんて当然で、その先に何かがないといけないな、と思うようになりました。

──最近のSugLawd Familiarの楽曲を聴くと、いい意味で肩の力が抜けたようにも感じました。

XF MENEW ラップのスキルに固執する、という意味では俺が一番そこにこだわっていたかもしれないです。でも、やっぱりみんなと5年間を過ごしていくうちに「いや、そうじゃない」って気付いたんですよね。言葉の大切さということも、ほかの4人から教わった。自分だけの正義を突き詰めても、聴く人にとっては無価値だったりする。それを、誰が聴いても価値あるものにしたいと思って、曲を書くようになりました。だから視野が広がったと思いますね。あとは恐れることをやめました。歌詞が降りてこないときはちょっといちびっちゃうんですけど、それをやめようと。「どうせ俺が一番ヤバいし」って思えるようになったんですよ。

Oichi マジで世界を獲りたいから、俺はジャンルになるっていうことをイメージしてますね。それからラッパーというより、アーティストになりたい。その方向で、今は制作をがんばっています。

Caster Mild メンバーを見ていると、曲の作り方とかも変わってきているし、それこそヒップホップだけじゃなくて、すべての層のリスナーに向けて届けるような制作の姿勢になってきていて、いいなと思ってます。これからライブも今以上に増えていくだろうし、楽しみにしていてほしいです。

SugLawd Familiar

SugLawd Familiar

プロフィール

SugLawd Familiar(サグラダファミリア)

沖縄を拠点にオリジナリティあふれる独自のスタイルで活動する5人組ヒップホップクルー。 クルー名はスペイン・バルセロナの世界遺産「サグラダファミリア(Sagrada Família)」に由来し、未完の建造物であるサグラダファミリアのように“自分たちも発展途上で常に進化し続ける”という意味が込められている。2020年に発表した「Longiness」は、ストリーミング総再生数が2億回を超える大ヒットを記録。2025年にワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビューを果たした。

衣装協力 / INTODUSK、JERZEES、BRÚ NA BÓINNE、LABORATORY®、Ray-Ban、AVALANCHE GOLD&JEWELRY 渋谷店、Timberland