王道のロックバンドとは?
──お二人はなぜ王道や主流とは違うものを好み、求めるのだと思いますか?
tanaQa なぜだろう……僕らはマイノリティの中の王道、みたいな感じだからかな。
──前提として、マイノリティという意識はあるということですか。
tanaQa あります。僕らは中途半端だと思うんですよ。200人規模のライブハウスに出ると王道すぎて、「すごくポップだね」と言われる。でもナタリーのようなメディアに出るとマイナーだったり、インディーズっぽい音楽をやっている人間だと捉えられる。すごく中途半端な場所にいるんですよね。激しくてわかりやすいノリにも、メジャーシーンのような大きなフィールドにも当てはまらなくて。以前ドレスコーズの志磨(遼平)さんがナタリーのインタビューで同じようなことを言っていたんですよね。「ライブではメロディが評価されない」という話をしていて、「わかるなあ」と思いながら読みました。
──なるほど。
tanaQa GRAPEVINEもインタビューでよくそういうことを言っていますよね。彼らもテレビに出るとマイナーな音楽だと思われるけど、ライブでは聴きやすい音楽として捉えられる。僕らもドレスコーズやGRAPEVINEより規模は小さいですけど、同じような場所でどんどんニッチな方向に向かっている感じはあるんですよね。周りを見ても、僕らが含まれるようなシーンがないし、似たようなことをやっている人たちが見当たらない。ちょっと前だと、ふくろうずが近い存在だと思っていたんですけど。ふくろうずは“歌もの”を届けるバンドでありつつ、シーンの最先端にいて、なおかつ一般の人も聴けるようなポップさも持っていたので。
手応えがやっと芽生えた
──SSUSは2011年に1stアルバム「elephantic」をリリースしていますけど、その頃はふくろうずや毛皮のマリーズが注目されていた時期でもありましたよね。そういう意味で、狭間にいることに意味を見出していたバンドたちが多く出てきた時期だったのかなと思うんです。
tanaQa 今度SSUSのイベント「遠泳会 vol.1」に出てもらう集団行動も、シーンの立ち位置も音楽性も違うけど、やっていることのニッチさにおいては近しい感じがするんです。真部(脩一)さんがこれまでやったことに対するフォロワーはたくさんいると思うけど、集団行動の周辺にそういったシーンがあるわけではないですし。
──そうですよね。いなくなってしまったり、やり方を変えていくバンドがたくさんいる中で、SSUSは根強く独自のスタイルでやり続けています。そこまでSSUSとしての活動を駆り立てているのは、なんだと思いますか。
tanaQa かたくなに「音楽を作り続けるぞ」と思っているわけでもないです。ただ曲ができていくんですよね。
Yoshida マイペースにやっていたら曲が貯まっていくし、そうしたら作品を出そうと思うし。
tanaQa それに結成当初よりも最近のほうが、自分たちのやっている音楽に手応えを感じているんですよ。それが面白いんです。2018年くらいからつかんだ感じがあったんですよね……えらく遅いんですけど(笑)。でも「もうちょっと音楽ができるな」「あと何枚かアルバムが作れるな」という感覚が最近やっと芽生えてきたんです。
──その手応えとは、具体的にどういうものですか?
tanaQa 単純にサウンドが変わってきたし、作り方が変わってきたんですよ。昔はパズルっぽく、どんどんいろんなものをプラスして、ダビングしまくりながら曲を作っていたんです。スーパーカーがそういう作り方をしていたから、それを参考にしていたこともあるけど。
Yoshida あと、私たちの場合は演奏が下手だったから、とにかく録音していくしかなかったんだよね。当時は1曲中の抑揚も重要視していなかったから。
tanaQa むしろ抑揚を付けず、淡々とさせたいと思っていたし。でも今は抑揚もあったほうが面白いし、そのためには音を足していく方法は避けたほうがいいんです。今は左右に1本ずつ、さらに真ん中にギターが1本あるという音の配置のフォーマットは守るようにしていて。そこにドラムとベースがあり、歌が入る。それこそ王道のスタイルですよね。昔ながらのバンドサウンドを、自分たちでも作れるようになってきた。みんながやっていたことにやっと追いついただけなんですけど(笑)、そのうえで自分たちの個性が出せたら、まだまだ行けるなと思います。
──その手応えが形になった曲は?
tanaQa 「Leisure」の「てんびん」とか、「wéar dówn」の「gruff?」「ただの未来」「fardigan」ですね。特に「fardigan」は音数が少なくてなおかつポップという、ずっと思い描いていたギターサウンドが作れたんです。
Yoshida 「Leisure」からアコギをよく使うようになったよね。
tanaQa アコギを聴かせようと思うとだんだん音数も減っていくし、隙間も生まれてくる。昔は隙間をとにかく埋めようとしていたんですけどね。これはどのミュージシャンにも、おのずと生まれてくる変化なのかなと思います。年齢を重ねていくごとに音数が減っていって、1つひとつの楽器の音が洗練されていくものなのかなって。
──音楽性の変化と人間的な年輪が呼応していくわけですよね。お二人が音楽を作りながら生きていくことを覚悟した瞬間はあったんですか?
Yoshida 私は1枚目のアルバムを出す前から、「自分は音楽を続けていくもんだ」と思っていました(笑)。
tanaQa 僕はそこまで強く思っていないです。曲が作れる限りは続けていきたいですけど、それがいつまで保てるかはわからないので。自分たちの中で楽しく、鮮度を保ちながら曲を作れている限り、やり続けられるんだろうなと思います。
誰かに向けた歌詞は書けない
──歌詞についても伺いたいんですけど、お二人の書く歌詞はだいぶ印象が違いますよね。Yoshidaさんの歌詞はシュールな質感があって、それゆえに現実のほの暗さも切りとって描いているように思いました。
Yoshida 基本的に歌詞は音ありきで、リズムに合う言葉を探して、最初に出てきたワードをもとに広げていくんですけど、“現実的”というのは無意識でした。ただ、歌詞で人を励ますとか、そういうことはしたくないんですよね。
tanaQa 誰かに向けた歌詞は書けないよね。
Yoshida うん。あくまでも自分に向けて、というか。書いたものを読み返すと「自分ってこういうことを考えていたんだな」と思うことはあります。
──例えば5曲目「picture」の「走れば集団に飲まれ 誰の優劣とも呼応」という部分はすごい切れ味の言葉で、ドキッとするんですよね。
Yoshida 分析されると恥ずかしいです(笑)。「人って結局そういうものだよなあ」というあきらめも、私の歌詞には描かれていると思います。あきらめも肯定したうえで前に進むような性格なのかもしれないです。
──あきらめというのは、誰かに対するものですか?
Yoshida 自分に対するあきらめですね。他人と接するとき、相手の考え方を変えることはできないじゃないですか。それなら相手の意見も尊重しつつ、自分は自分で違う意見を持ち続けて、そのうえでどうしようか?と考えるような感覚です。
──なるほど。対してtanaQaさんが書く歌詞には、あきらめはあまり感じられないですよね。
tanaQa 僕は何かをあきらめている感じの人間ではないと思います。目の前に違う意見の人がいたら、寄り添うより「ええー、違うでしょ!?」って言うタイプの人間なので(笑)。そこが歌詞にも出ているのかもしれないですね。僕もYoshidaと同じように、音のハマり方から歌詞を考えるし、言葉のノリがメロディにうまく合うかどうかが一番重要だと思うんです。正直音楽を聴いたとき、言葉の意味が伝わらなくてもいいんですよ。それよりもあとで歌詞カードを見たとき、「あ、こんなことを言っていたんだ」と気付いてもらえるのが一番いいです。
──なるほど。
tanaQa 例えばGRAPEVINEの田中(和将)さんの歌詞がすごく好きなんですけど、田中さんも歌詞カードを見ないと何を歌っているのかよくわからないし、普段の会話では使わないような発音で歌っていることもあって。そういう遊びも好きですね。田中さんのように、どこか空耳をするような音楽を目指している部分はあります。
Yoshida 確かにtanaQaさんの書いた歌詞は、歌うときに違う単語に置き変わっているときがあるし、文節じゃない部分で言葉を区切ったりするから、まったく違う言葉に聴こえるときがあるんですよね。
──僕はtanaQaさんの書いた歌詞に対して、ロマンチックな印象を受けたんです。
tanaQa え、どの曲ですか(笑)。
──例えば4曲目の「water」は、変化することへの強い意志を感じさせたんですよね。
tanaQa 僕は瀬戸内海の離島出身なんですけど、「water」はそこからイメージして作詞した歌なんです。地元が田舎だから「どこかに行かなきゃ」という歌詞が出てくるのかもしれないです。子供の頃から「大人になったらこの場所にはいないだろう」と思っていたので。
──なるほど。tanaQaさんの音楽にあるロマンチシズムの由縁が、少しわかったような気がします。最後に、アルバムタイトルの「oderon」とはどういう意味なんですか?
tanaQa 「オールデイロング」って“1日中”という意味じゃないですか。アルバムのコンセプトが“1日の流れ”だったので、「オールデイロング」を略して「オデロン」にしました。すごくしょうもない意味なんです(笑)。
Yoshida 確かにそうかもね(笑)。
イベント情報
- SWIM SWEET UNDER SHALLOW presents 遠泳会 vol.1
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- 2020年3月20日(金・祝) 東京都 青山 月見ル君想フ <出演者> SWIM SWEET UNDER SHALLOW / 集団行動 / 君島大空