SWIM SWEET UNDER SHALLOW|歌ものと“らしさ”、2つを追求してつかんだ手応え

SWIM SWEET UNDER SHALLOWのニューアルバム「oderon」が2月26日に配信リリースされた。

2016年に4thアルバム「dubbing」を発表したあと、2018年まで表立った活動をストップしていたSWIM SWEET UNDER SHALLOW。2019年から今年にかけては一気に活動を活発化させ、「wéar dówn」「picture e.p.」「water e.p.」と立て続けに新作を発表し、このたび3年半ぶりとなるアルバム「oderon」を完成させた。

音楽ナタリーでは「oderon」の発売を記念し、Hiroki tanaQaとMidori Yoshidaへのインタビューを実施。「dubbing」リリース以降の活動を振り返りつつ、ニューアルバム「oderon」のコンセプトや制作背景を話してもらった。

取材・文 / 天野史彬

無理やりテンションを上げるのは合わなくて

──「oderon」は3年半ぶりのフルアルバムとなりますが、ご自身としてはどんな作品にしたいと思って制作を始めましたか?

Hiroki tanaQa そもそも、前作のアルバム「dubbing」は無理やり勢いを出そうとしたアルバムだったんですよね。でも結局、そういうのは自分たちには合わなくて、もうちょっとまったりしたものを作ろうと思ったのが、2018年の「Leisure」、2019年の「wéar dówn」という2つの作品だったんです。そこで自分たちなりの“歌もの”をやってみたんですけど、今回はSWIM SWEET UNDER SHALLOWがこれまで表現してきたポップな曲調と、この2年間制作してきた“歌もの”を組み合わせてみたんです。そのうえで、最初から最後まで一連の流れがあるようなアルバムにしようと思い、この10曲になりました。

SWIM SWEET UNDER SHALLOW

──なぜ「dubbing」では勢いのある音楽をやろうと思ったんですか?

tanaQa 「dubbing」は4thアルバムに当たるんですけど、それ以前に発表した作品は、1stアルバム用に録り貯めていたストックを中心にまとめていたというのもあって、1stアルバムから3rdアルバムまではワンセットみたいな感覚があったんです。でも「dubbing」を作る頃にはストックもほとんど出しきっていて、「じゃあ、次は何をやろう?」という感じだったんですよね。「今までやっていないことをやろう」ということになったとき、「SSUSの楽曲はテンションが低い」とよく言われてきたなと思い出して。

──なるほど。

tanaQa 「じゃあ、無理やりテンションを上げてみよう」と思ったんです(笑)。それが「dubbing」の作風につながっていったという感じでしたね。

──「テンションが低い」というのは、お二人にとって不本意な言われ方だったのでしょうか?

tanaQa 不本意ではないんですけど……僕たちはこのテンションが普通だと思っていたので。ね?

Midori Yoshida うん。自分たちにとっての普通が、世間の普通ではないんだなって。確かに私たちの音楽は、歌から熱は届きにくいかもしれないですけど、演奏面のテンションは高いつもりだったんですけどね。

tanaQa 歌い方に対する印象は、自分たちが感じていることとみんなが感じることにギャップがあったんだと思います。

Yoshida、名曲を作ってよ

──それくらい歌というものが聴き手に与えるイメージは大きかったんだろうと思うんですけど、「Leisure」と「wéar dówn」が“歌もの”に向かっていったのはどういった経緯があったんですか?

Yoshida 「dubbing」が出た頃、tanaQaさんから「名曲を作ってよ」と言われて。そこでできたのが「wéar dówn」に入っている「ただの未来」という曲だったんです。「ただの未来」は歌から完成して、Aメロからサビまでは15分くらいでできたんですよね。意図せずにそういう曲が生まれたんです。作品を作るときは軸となる1曲を用意して、それに沿って新しい曲を作っていくんですけど、「wéar dówn」は「ただの未来」が軸になって、“歌もの”というコンセプトに向かっていったような気がします。

──tanaQaさんが「名曲を作ってよ」と言ったのは?

tanaQa ふざけて言ったんです(笑)。

──(笑)。

Yoshida 冗談で言われたんですけど、そのままやってみようかなって。

──それまでお二人は、歌とどのように向き合ってきたのでしょう?

Hiroki tanaQa

tanaQa もともと歌は楽器の一部として扱っていました。歌とギターはあまり変わらない存在でしたね。だからガチャガチャしていて、どっちつかずだった。そこから「Leisure」と「wéar dówn」では、歌の比重を高めてみようとしたんですよね。

Yoshida でも、やってみると難しかったよね?

tanaQa そうだね。自分たちなりのオリジナリティを保ちつつ、“歌もの”を作るのは難しかった。そこに向かっていくのは楽しかったんですけどね。

──あえて聞きたいのですが、お二人が歌にフォーカスを当てたとき、好きだと思えるミュージシャンはどういった人たちですか?

Yoshida うーん……思い浮かばないです(笑)。音楽は聴けば聴くほど、音の重なりとか、サウンドの重要性を感じるんですよね。

tanaQa 僕はGRAPEVINEやWilcoのような人たちが好きですね。あまりマニアックになりすぎず、ポップに聴こえる手触りを残しつつ、バンド演奏の醍醐味も捨てていない。そういう意味では、彼らのような存在はお手本にしていると思います。

世間に合わせても、勝負できないんじゃないか

──最初に「oderon」は「流れがあるアルバム」とおっしゃっていましたけど、具体的にどのような流れを考えていたんですか?

tanaQa 朝から夜までの1日を描くアルバムにしようと思っていました。本当にたまたまなんですけど、収録しようと思っていた曲に「morning」と「Lunch」という2曲があって、「これはつながっているな」と気付いたんです。そこで「Dinner」というタイトルの曲も作ろうとしたんですけど、タイトルとしてイマイチだなと思ってうまくハマらなくて。その代わり、アルバムの最後の曲「small hours」には“丑三つ時”という意味があるらしいんです。そうやってつなげていくことで、朝に始まって、深夜になって、また朝になる、というふうに時間が流れていくようなアルバムにできたかなと思います。

──壮大な物語を紡ぐというよりは、朝から夜までの1日のバイオリズムというミクロな場所に視点を持っていくのが、SSUSらしい部分なのかなと思います。今回のアルバムはYoshidaさんが作った曲とtanaQaさんの作った曲が交互に配置されていますよね。これは意図的なことだったんですか?

tanaQa いや、たまたまですね。いつもそうというわけじゃないんですけど、大体の作品で、お互いの作る曲が交互に並んでいると思うんです。どうしてもそうなっていくんですよね。

──tanaQaさんとYoshidaさんは10年以上お二人で活動してきましたが、お互いの作家性をどのように見ているのか気になるところで。それぞれ音楽家としての魅力はどのような部分にあると思いますか?

tanaQa Yoshidaは楽曲全体の展開を手がけることはあまりないんですけど、メロディを作るのは上手だなと思います。

Yoshida ……それだけ?

──(笑)。

tanaQa あと、曲の制作を頼むとどんどん作ってきますし、変わった曲が多いですね。Yoshidaの作る曲は、コード進行が気持ちよくないほうに行くんですよ。ポップスっぽいほうにはあまり行かないんです。

Midori Yoshida

Yoshida 自分の好きなほう、気持ちいいほうに寄せると、おのずとそうなるんですよね。意識して変な方向に行こうとはしていないんです。ただ、世間でよく聴く音楽とは違ったタッチにしたいとは思っています。誰も聴いたことのない音楽を作りたいという気持ちはずっとありますね。

──Yoshidaさんから見て、音楽家としてのtanaQaさんの魅力はどこですか?

Yoshida tanaQaさんは私が持っていない要素をすべて持っています。それから私が普通ではないと思っていることを、普通だと思っていて。さっき「Yoshidaのほうが曲をどんどん作れる」と言ってましたけど、私は1つの曲を最後まで完成させることができなくて。なので1人だけでは曲を作ることができないし、tanaQaさん以外の人と一緒に制作できないんです。

tanaQa 僕は僕で、1人でやることには興味がないんですよね。一定の枠内に収まってしまいそうで。やっぱり、自分にとって予想外の曲があったほうが楽しいじゃないですか。最初の頃はバランスを取ろうと思って、あえてYoshidaとは違うスタンスに調節していた部分もあったんですけど、最近はおのずと違うものが出てくるようになった気もするんです。今、僕が作る曲とYoshidaが作る曲は、大まかに捉えると似ているんだけど、よくよく聴いてみると似ていない、みたいな感じなんです。そこがいいところかなと思いますね。

──Yoshidaさんがおっしゃった「世間でよく聴く音楽とは違ったタッチにしたい」という気持ちは、tanaQaさんの中にもありますか?

tanaQa あります。そういう作風に合わせても、勝負できないんじゃないかっていう気持ちがあるのかもしれないです。僕らが声を張り上げるような音楽をやるのも違う気がするし。

Yoshida うん。今回のアルバムは私たちなりに声を張り上げている曲は多いんですけど、世間にはそんなふうに伝わらないんじゃないかなと思う。