「魔術士オーフェンはぐれ旅」特集 buzz★Vibes「Calling U」インタビュー|主題歌に込めた「オーフェン」への強い思い

“熱意”で実現したアニメ化

──約20年ぶりに新しく生まれ変わったテレビアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」という作品自体には、どんな魅力を感じていますか?

森久保 20年前に最初のテレビアニメシリーズが放送された頃の「魔術士オーフェン」は、現在のライトノベルの走りのような存在で、間違いなくその時期を代表する作品の1つでした。そのときは原作から「オーフェン」の世界観を持ってきて、テレビアニメとして再構築した作品だったので、物語の展開も原作とはだいぶ違う部分がありましたよね。でも今回のテレビアニメ化は、原作ファンの人たちがずっと秋田先生の作品を愛し続けて、秋田先生も作品を書き続けてきたからこそ実現したアニメ化で。25年ずっと小説を書き続けて、あのとき20代だった人は、今40代になっているし、10代だった人は30代になっています。そのうちの何人かは、今回のテレビアニメに声優として関わるようにもなっていて。

──クリーオウ役の大久保瑠美さんなどは、作品の熱心なファンだったそうですね。

森久保 大久保瑠美ちゃんは、小学校の頃に原作を読んで以来、作品のファンだったんです。そんなふうに、キャストにもスタッフにも原作に熱い思いを持つ方が多いので、今回のアニメ化は、先生が作品を書き続けてきた熱意と、原作を応援し続けてきたファンの皆さんの熱意と、それを感じ取ったスタッフの熱意で実現したものなんだと思います。今回は原作に忠実な物語になっているので前回とは物語の展開が大きく違いますし、「オーフェン」自体が、四半世紀前の作品だとは感じさせない魅力を持っているので、今年生まれた作品と言ってもいいんじゃないかというくらい、今の時代にもマッチした作品になっていると思います。魔術のエフェクトなどを筆頭に、今のアニメーションの演出が取り入れられているのも印象的で。原作の強さと、現代のアニメならではの魅力が1つになっていて、この作品で初めて「オーフェン」に触れる方もきっと楽しめると思います。

──そして今回は、Shinnosukeさんがアニメの劇伴も担当されています。

Shinnosuke 僕も関わらせていただく中で、アニメチームの本気度を感じました。僕はもともと、“剣と魔法の世界”というか、「ロード・オブ・ザ・リング」のようなファンタジーが好きなんですよ。そんな作品の劇伴ができたことがまずは光栄だったし、今回は森久保くんが主役をやっているので、そこに運命のようなものを感じました。

森久保 劇伴では、生のストリングスを録ったんだよね? すごく大変そうだったんですよ。

Shinnosuke 全部で50曲ぐらい作りました。世界観を大切にするために、その半分ぐらいは生のストリングスや木管楽器を使っていて。打ち込みで作ったものを演奏者の方々に譜面として渡すときに、ものすごい分厚さになったりもしましたね(笑)。ハリウッド映画の劇伴のようなものに、本気で取り組んでいこうと思って進めていきました。

──主題歌だけではなく、劇伴もかなりこだわって用意したんですね。

buzz★Vibes

森久保 音楽だけでなく、テレビアニメのスタッフさんも、監督さんをはじめとした絵のチームも……作品に関わったすべての方の熱量がすごかったです。最終回のアフレコが終わったあとに打ち上げをしたんですけど、そのときも、みんなずっと「オーフェン」の話をしていたんですよ。泣き出すんじゃないかというぐらい、熱く語り合っていて。「この熱意があるからこその、今回のアニメ化なんだな」と感慨深くなりました。先行試写会でお客さんに20年ぶりのテレビアニメをお届けできたときも、「やっと皆さんに観てもらえた」という、これまで感じたことがないような感慨深い気持ちになりました。これはほかの演者のみんなもそうだったと思います。例えば、大久保瑠美ちゃんも「自分がアニメを好きになったきっかけの作品」と言っていて、黄ばんだ原作を持ってきていましたしね。

Shinnosuke そんな作品に関われるのって、きっと幸せなことでしょうね。

森久保 今回の「魔術士オーフェンはぐれ旅」は、そんなふうに、いろんな方々の半端ない熱量で制作された作品なんです。1998年に放送されたテレビアニメ「魔術士オーフェン」は、僕が24、25歳の頃……声優を始めて3年くらい、「声優として飯を食っていこう」と声優事務所に移って1年半ぐらいの頃に出会った作品で。声優として活動するからには主人公をやってみたいと思っていた矢先に出会えた作品でした。当時は初めてのことばかりだったし、当時クリーオウ役を演じていた飯塚雅弓ちゃんや、ドーチン役を演じていた椎名へきるちゃんは年齢的には僕より若かったり、同世代だったりしましたけど、キャリアとしては僕が唯一のド新人で。それもあって現場でも余裕がなかったし、当時お世話になった事務所の先輩の玉川紗己子さんから言われたひと言が、今でも自分の役者人生において大事な言葉になったりもしていて、本当にいろんなものをもらった作品でした。

──その当時、玉川さんに「的に当てていくような芝居をしてはいけない」と言われたことが、その後の森久保さんの声優としての演技に大きな影響を与えたそうですね。

森久保 そうなんです。「NGを出さなかったからといって、それが『いい芝居をした』ということではないんだよ」と。そんなふうに、役者として今につながる大切なものをもらった作品だし、初めて主人公をやらさせていただいた作品だし、今では当たり前になったメディアミックス的な展開が始まったのもこの頃でした。「オーフェン」でラジオのパーソナリティをやらせてもらいましたし(1998~2000年までラジオ「魔術士オーフェン」が放送されていた)、キャラクターソングもゲームの音声も録らせてもらって。いろんなことを経験させてもらいましたね。しかも、「オーフェン」という作品は、僕の中でもずっと止まっていなかったんですよね。アニメは20余年ぶりですけど、原作小説に付くドラマCDでキャスト陣が集まったり、オーフェンがクリーオウと結婚して以降のドラマCDも録ったりして、要所要所でオーフェンとの関わりがあったので。でも、もう一度テレビアニメができるとは、本当に夢にも思っていなかったです。

Shinnosuke テレビアニメ化されたとして、主役が変わる可能性だってあるわけだもんね。

森久保 そう、全然ある。それなのに、今回もオーフェン役を演じさせていただけて、今ではレギュラーチームで言えば、僕が一番上の世代になっていて。だからこそ、今回はその恩返しとして、「僕がもらったものを返せたらいいな」と思っていました。僕は主役だとしても自然にやりたいタイプなので、普段はあまり「座長だから」などあえて思ったりはしないんですけど、今回の「オーフェン」は、スタッフさんも含めて当時のことを知っているのは僕しかいないので、橋渡しのつもりで「気合いを持ってやろう」と思っていました。

──そう考えると、今回そのオープニングテーマについても、Shinnosukeさんと共にbuzz★Vibesとして担当できるというのは、やはり特別な体験になったということですね。

Shinnosuke だからこそ、森久保くんからしたら、きっと不安もあったと思うんですよ。

森久保 でも、僕は劇伴も含めて見事だと思いましたよ。聴いた瞬間に、「『オーフェン』の世界観の魅力を押さえているな」と感じました。

思いを歌詞でぶつけられた

──今回「魔術士オーフェンはぐれ旅」に関わった期間は、お二人にとってどんな時間になったと思っていますか?

Shinnosuke 僕にとっては、これまでの自分の音楽人生で見つけてきたいろんな引き出しを、ガッと出していくような感覚でしたね。「オーフェン」の世界観を、僕らなりにどう表現していくかを考えたし、オーフェン役を長年担当してきた森久保くんとbuzz★Vibesとして一緒に主題歌を作るのは、僕が違う方に楽曲提供するのとは違う重みがあって、とても濃密な時間でした。僕もライブで演奏したときに、すごく来るものがありましたね。

森久保 声優として関わるだけではなく、主題歌も担当させていただいて、普段とは違う作品との関わり方ができたと思います。そういえば、夏から始まっていた「オーフェン」の舞台に出ている役者さんたちに、椎名へきるちゃんや飯塚雅弓ちゃんの知り合いがいらっしゃったそうで、たまたま2人から別々に、「『オーフェン』の舞台を観に行かない?」と連絡があったんですよ。

──そうだったんですか。

森久保 結局僕は行けなかったんですけど、そのとき、2人と改めて「オーフェン」の話をして、彼女たちに「がんばってね」と言ってもらいました。そういう意味では、今回のアニメで新たに参加したキャストのみんなは、(大久保)瑠美ちゃんにしろ、(小林)裕介にしろ、作品を観ていた世代が先輩たちの役を引き継いで演じるという意味で、いろいろなプレッシャーがあったと思います。水野まりえちゃん、渕上舞ちゃん、浪川大輔くん、日笠陽子ちゃん、伊藤静ちゃんもきっとそう。プレッシャーがないわけがないはずで。でも、みんな見事に演じてましたし、“令和の時代のオーフェン”として、とてもいい復活の仕方ができるんじゃないかな、と思っています。でも同時に、自分でも不思議に思うんですよ。「この関わり方は一体何なんだろう……」って。

──ここまで長い年月を通じて作品に関わる経験は、そうできるものではないですよね。

森久保 そうですね。しかも今回は声優としてだけではなく、音楽面でも関わらせていただいたので。

──主題歌の歌詞を、長年「オーフェン」に関わってきた森久保さんが書かれているというのは、ファンの方にとってもかなりうれしいポイントになっていると思います。

森久保 そうやって歌でも関われたことで、僕なりの「オーフェン」への思いを歌詞の面でもぶつけられた感じがしますし、より特別な作品になったように思います。ひさしぶりに秋田先生とお会いしていろいろと話すこともできて、お互い当時は20代だったのに、2人とも40歳を過ぎて、話す内容が深くなってきているのもうれしかったですね。僕としては、今回のアニメだけではなく、今後もいろんな形で旅をしていける作品なんじゃないかなと思っています。